2022年 地政学戦略から見た10大リスク:政治的混乱の渦中で打つべき次なる布石とは

執筆者
Courtney Rickert McCaffrey

EY Global Geostrategic Business Group Insights Leader

Geopolitical analyst and strategist. Creative methodologist. Proud feminist. Passionate about generating insights to help executives make better-informed decisions.

Oliver Jones

EY Global Business Development, Markets and Insights Leader; EY-Parthenon Global Government & Public Sector Leader

Passionate about providing outstanding support to governments and businesses. Deeply committed to excellence in public policy. Team builder. Mentor. Flexible worker. Loving husband. Father of three.

6 分 2022年1月31日

2022年、企業は地政学的な緊張と政策転換に相対せざるを得ないことになるでしょう。対象を定めて地政学的戦略を講じることにより、転じて成長に向けた準備が可能となります。

要点
  • 気候変動による影響と気候変動への政策は、多くの企業が直面している政治的環境を左右する要因となるが、同時に課題と機会の両方が突き付けられる。
  • 主要なサプライチェーンでの自給化に主眼を置きつつ、テクノロジーセクターを中心に据えた、政府の規制と介入は一層強まるものとみられる。
  • 対象を定めて地政学的戦略を講じることにより、経営幹部はこうしたトランスフォーメーションの波を乗り越え、成長機会を捉えられると予想される。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックがもたらした、サプライチェーンの混乱や人材不足が続く状況下では、政治的動向の変化により、セクターや地域を問わず、企業をとりまくグローバルな経営環境が再構築されつつあります。2022年においても不安定な状況が続く中、グローバル企業は成功への課題と機会の双方を突き付けられることでしょう。成長を遂げるのは、先を見越し、かつ戦略的に地政学的リスクなどの政治リスクに対応してゆける企業です。

2022年は、新型コロナウイルスのワクチンへのアクセス格差による社会の二極化が定着し、それにより地政学的ダイナミクスが形成され、国内の政治、政策も大きな影響を受けるでしょう。地政学的な勢力が引き続き変化し多極体制が生まれつつあるため、地域をまたいだ流れやステークホルダー管理がより複雑化していくものとみられます。気候変動とサステナビリティの問題は政策課題として浸透し、政治的発展を伴うとみられ、ビジネスモデルや製品のあり方を転換させてゆくでしょう。また、産業政策を通じて経済活動を推進し、方向付けていく上で今後政府の果たす役割が高まり、国家戦略上、重要性が高いセクターの企業は成長機会を海外にではなく、再び国内に求めるようになるとみられます。

本稿では、2022 Geostrategic Outlook(2022年:地政学的戦略から見た10大リスクとは)(PDF、英語版のみ)からの見解に焦点を当てています。これは、2022年に予想される地政学的動向の影響のうち、最も起こりうるもの、あるいは影響の大きいものについて、EYの観点からまとめたものです。また、このような動向がもたらすプラスの機会を企業が活かす上で役立つ、最も妥当な地政学的戦略の対応法についても紹介します。

2022年に予想される地政学的動向トップ10

2022年のグローバルな経営環境形成に関与する地政学的動向トップ10を、EYの地政学戦略グループ(Geostrategic Business Group)が予想しました。地政学的環境は複雑で流動的です。本資料では、経営幹部が状況を把握しやすくすることを目的とし、2022年を通してこれらの推移をモニターし、自身の戦略に組み入れやすいよう、地政学的動向を3つのテーマに分類しています。

こうした政治的動向のそれぞれがもたらすプラスの機会を活かしつつ、同時にもたらされる課題にも対処が必要です。そのためには、特定の地政学的戦略をとる必要があるでしょう。

二極化した社会で成長を遂げるために必要な5つの地政学的戦略

2022年には、グローバルな経営環境に影響を与える地政学的な動向の変化が予想されます。このような中で企業が成長を遂げるために地政学的戦略上の優先課題を大きく分類すると、以下の5つが挙げられます。

1. 地政学的現状に即してサプライチェーンを変革する

地政学的ダイナミクスと、各国政府が推し進める戦略的商品の自給化により、従来型の国境をまたいだサプライチェーンはより複雑化することでしょう。こうした政策ダイナミクスの影響を受ける可能性が最も高いと考えられるのは、テクノロジー企業、製造業者、自動車メーカー、再生可能エネルギー企業です。グローバルなサプライチェーンをさらに複雑化する要因はこれだけにとどまらず、パンデミック、社会不安、サイバー攻撃、異常気象により、事業運営と物流の混乱が続くものと考えられます。

これを機に自社のサプライチェーンを見直し、ニアショア、オンショア、または「フレンドショア」戦略への転換を検討し、組織のレジリエンスを高めることが経宮幹部には求められます。サプライチェーン法(サプライチェーンにおける企業のデューデリジェンスに関する法律)の導入にあっても、サプライヤーの再評価が促されるものの、良い面であれ悪い面であれレピュテーションリスクを生みかねません。そのため、多面的なリスク評価の一環として、サプライチェーンパートナーの評価と同時に、そのサプライチェーンパートナーが内包する潜在的リスクを精査する必要があります。

2. 政治リスクを中心に据えて買収・事業売却の戦略を練る

2021年はほぼ1年間にわたって世界全体のM&A活動が活況を呈しました。2022年には世界経済が堅調に成長し、セクターを問わずどの企業にも戦略的M&Aを実施する機会が巡ってくるものと予想されます。ただし、戦略的とみなされるセクターは、クロスボーダー投資であるために制限を受けたり、案件が拒否されたりする可能性も高く、そのため、M&Aを通じ、高い国際競争力を有するグローバル企業を生み出すことが可能な国内案件が推進されるものとみられます。さまざまな市場の独占禁止法により、特にテクノロジーセクターを中心に、特定のM&Aにおいて、承認の見込みの減退が予想されます。

このようなダイナミクスを初期段階で把握するために、経営幹部は買収・事業売却の戦略に政治リスク評価を組み込むことが求められます。また、現在の経済やディール環境によりもたらされるプラスの機会を活かして、自社の戦略的拠点を再評価することにより、地政学的動向の現状を踏まえて組織のレジリエンスを高めておく必要もあります。

3. データ管理とデジタルセキュリティの取り組みを強化する

主要な市場でのデータセキュリティとプライバシーに関わる規制が急増し、国境をまたいだデータ共有のコストは引き続き上昇するでしょう。経営幹部は現状を見据え、今後どのように変化していく可能性があるかを見極める必要があります。さらには、個々の国固有の規制に即して戦略とビジネスモデルを整え、コンプライアンス問題を回避するとともに、競争上の優位性を獲得しなければなりません。

テクノロジー企業は、サイバー攻撃のリスクが高まる可能性があります。特にソフトウェアプロバイダーは、ハッカーに対し、膨大な数の組織に影響を与えうるマルウェアを配布する手段を提供しているとも言えるため、リスクに対する備えが肝要です。どのセクターの経営幹部も、顧客や従業員をはじめとするステークホルダーの信頼を得るために、強力なサイバー防御体制とデータ保護システムを確実に実施できるようしなければなりません。

4. 人材を確保して育成する

「大退職時代」の到来と、パンデミックに伴う労働力の国際的な移動制限が続くという現実から、企業が人材を呼び込み、つなぎ止める新しい方法を導入する必要のあることが示唆されます。例えば、サステナビリティや人権のデューデリジェンスは、これらの問題を巡って、従業員との間に企業が信頼関係を構築するのに良い機会となります。さらに、ヘルスケアセクターと教育セクターに対する国の政策がより手厚いものになれば、長期的には企業にとっても人的資本の強化とコスト削減につながる可能性があります。

経営幹部に求められているのは、政策当局と連携して所得の不平等を削減し、インクルーシブな成長を推進することです。そのための具体的な対策として挙げられるのは、長期失業者を対象とした雇用創出プログラムの推進、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)プログラムの強化、スキルアップの機会の提供などです。

5. 全てのステークホルダーに持続可能な価値をもたらす

各国の政策当局が広範囲なグループを組み、意見を対立させることがうかがえることから、大国の力関係の変化と中堅国の果たす役割の拡大は、ステークホルダーの管理をより複雑化させると考えられます。とはいえ、ステークホルダーが増えることで、企業がステークホルダーと向き合う機会も増えます。また、社会の二極化や、ステークホルダーのサステナビリティや広義のESG(環境・社会・ガバナンス)の問題に対する期待の高まりは、ビジネスモデルを戦略的に転換させるチャンスです。

政策当局、投資家、従業員、顧客などを含む全てのステークホルダーと信頼関係を築き、また、それを活かして、二極化した社会の格差を縮め、サステナビリティと長期的価値の重視を世界的に推進する政策を後押しすることが経営幹部には求められます。事業を展開する全ての市場で競争優位性を獲得するには、ステークホルダーとの関係管理を現地で実施することが鍵となるでしょう。

政治リスクの管理には戦略的アプローチが必要

2022年は、地政学的緊張の高まり、不安定な国内の政治情勢、規制環境の劇的な変化が経営幹部に大きな課題を突き付けることになるでしょう。グローバルな事業運営とサプライチェーンでの混乱は続き、人的資本の問題も解消されそうにありません。しかし、下振れリスクの軽減にのみ焦点を当てた場合、政治的動向がもたらすプラスの機会を活かせなくなる恐れも生じます。2022年に予想される政治的混乱の中を成長し続けるためには、対象を定めて地政学的戦略を講じる必要があります。

サマリー

2022年の政治的動向を左右する主な要因は、地政学的情勢の変化、エネルギー転換に伴う政策、政府が経済で果たす役割の拡大です。このような動向はリスクをもたらしますが、対象を定めた地政学的戦略を講じることは、同時に伴うプラスの機会を見極め、活かす上で役立つ可能性があります。

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Courtney Rickert McCaffrey

EY Global Geostrategic Business Group Insights Leader

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