2021年12月10日
RCEP 発効を受けて、FTA のメリットを享受するために必 要な対策とは

RCEP発効を受けて、FTAのメリットを享受するために必要な対策とは

執筆者 大平 洋一

EY Japan インダイレクトタックス部リーダー EY税理士法人 パートナー

企業がすぐに実行でき得る、実用的な結果志向のソリューションを提供。

2021年12月10日

2020年11月に署名された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が2022年1月に発効される見通しとなりました。ASEAN加盟国に日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを加えたこのRCEPは、世界のGDPの約30%、世界人口の30%を占め、発効されれば世界最大の自由貿易協定(FTA)となります。

要点
  • アジア太平洋地域に多くのFTAが存在するということは、メリットがある反面、その運営については、新たな課題もある。
  • FTAからメリットを享受するためには、各FTAの規則の要件を満たす必要がある。
  • FTA運⽤にあたっては、テクノロジーとアウトソーシングの活用が重要なカギとなる。

アジア太平洋で急増するFTAで何が変わるのか

2020年11月に署名された東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が、2022年1月に発効される見通しとなりました。ASEAN加盟国に日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを加えたこのRCEPは、世界のGDPの約30%、世界人口の30%を占め、発効されれば世界最大の自由貿易協定(FTA)となります。

その一方、アジア太平洋各国は世界中の主要貿易相手国とも精力的にFTAを締結しています。環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)もその1つで、2018年12月に発効された結果、98%以上の品目について関税が撤廃となりました。CPTPPはオープンアクセス型のFTAであり、2021年6月には英国も加入申請をしているほか、中国や台湾も加入に関心を示しています。このほか、アジア太平洋地域ではさまざまなFTAが誕生しています。

アジア太平洋地域に多くのFTAが存在するということは、サプライチェーンのコスト削減と透明性を確保できるという意味でも、多くの企業にとって歓迎すべきニュースでしょう。しかしその一方で、多くのFTAをどのように扱い、いかにコンプライアンスを意識した運用ができるのか、新たな課題も生まれています。

FTAによって違う規則の解釈

企業がFTAからメリットを享受するためには、まずは各FTAの規則の要件を満たす必要があります。原則として、特定の物品が原産品とみなされるためには、次の3大基本要件のうち、いずれか1つを満たさなければなりません。

1. 締約国にて完全に取得され、または生産されている

2. 1つ以上の締約国を原産とする材料のみを用いて締約国にて生産されている

3. 非原産材料を用いて締約国にて生産されている。ただし、当該物品が品目別規則(PSR)を満たさないときは、この限りではない

品目別規則としては、以下の種類が挙げられます。

i)付加価値基準(当該物品の域内原産割合が一定割合(40%など)を超えている必要がある)

ii)関税分類変更基準(非原産材料のHSコード(関税分類番号)が関税分類番号2桁(類)、関税分類番号4桁(項)、または関税分類番号6桁(号)のレベルにて完成品の新たなHSコードに変更される必要がある)

iii)加工工程基準(当該物品は特定の製造工程を経る必要がある。大半が化学製品および繊維製品に適用される)

これらの規則は、多くの企業でもすでに対応されているでしょう。しかし、FTAによっては規則とその解釈に違いがあり、運用の際に混同されるケースが生じています。

FTAはまったくの「自由な」貿易ではなく、「条件付きの貿易」を定めた協定である

では、ここで失敗しがちなケースをいくつか紹介しましょう。例えば、輸出国内のサプライヤーから購入した部品の価額を合算する際、許認可製造業者によって生産された場合は原則として、それらの部品の原産資格を確認する必要はありません。しかし、FTAによっては該当する部品の原産地規則を参照して、原産資格の確認を求められることがあります。

また、年度末の移転価格調整が、輸出品の移転価格を遡及的に引き下げるために輸出業者がクレジットノートを支給し、付加価値基準を原産の計算に用いていた場合は、輸出品の原産価額に影響が生じるときがあります。移転価格調整を行うときは、自己の物品の原産資格を再評価する必要があります。

さらに、特定のFTAの下で原産地規則を確認する、あるいは関税分類変更を確認する際は、現在使用しているHSコードを当該のFTAが署名されたときに使用したHSコードに変換する必要があります。HSコードを変換しないと、誤った規則が適用され、関税分類変更確認手順でも間違いを犯す結果になりかねません。

このように、FTAはまったくの「自由な」貿易ではなく、むしろ、規則の理解とコンプライアンスに伴うコストを求める「条件付きの」貿易でもあります。そのコストは多額にのぼる場合もあります。もし輸出業者が規則に違反したときは、輸入業者も過少納付の関税の追加納付や罰則が科される場合があり、大きな影響を受けることになりかねません。RCEPにも統一された原産地規則はなく、企業は今後もFTAごとに対応しなければならず、業務にかかる負担は一層増えていくでしょう。

FTAの不当活用に対する取り締まりの強化

多くのFTAを運用する難しさは、政府当局に対しても同じことが言えるでしょう。ほとんどのFTAでは、輸出業者は資格を証明する原産地証明の発給を輸出国当局に申請しなければならず、今よりFTAが少なかった時代では輸出国当局が各申請を細かく審査し、物品の原産資格を確認するために追加書類の提出を求めることが多々ありました。

しかし、FTAの適用申請件数が急増するのに伴い、輸出国当局の多くは原産地証明を相応の期間内に発給する業務に追われるようになりました。

その結果、大半の輸出国当局が、一定の「高リスク」申請は細かく審査し、他の申請はより形式的な審査を行うというリスクベースのアプローチをとるようになっています。そのため、企業が間違った手続きをしているにもかかわらず、原産地証明が発給され、輸入時に優遇措置を受けるという事態が生じています。

そうした不適切な原産地証明の発給を取り締まるために、大半のFTAでは「原産地検証要求」と呼ばれる仕組みが盛り込まれています。これによって、輸入国の税関当局は、輸入品の原産資格を再確認するよう輸出国当局に要求することができます。

しかし、大半の協定では、輸入国当局は自己の裁量でFTA上の優遇を否定してはならないとする規定があるため、「検認」の頻度は限られており、FTAを不当に活用して統制の枠組みをかいくぐることが可能となっています。

もっとも、一部の税関当局では、そうした不適切なFTAの活用を食い止めるために、より直接的なアプローチをとり始めています。例えば、インドでは、自国の税関規則を修正し、輸入業者による輸入品の原産資格の確認責任を強化しました。2020年9月に発令された「CAROTAR(カロタール)2020」によって、輸入業者が輸入申告を提出する際に特恵関税率を主張するときは、一定の原産地情報の収集に協力する責任を負うようになっています。

日本でも、税関当局が原産地に関してさらなる情報を提出するよう輸入業者に要求し、輸入品の原産資格についての質問項目を増やしています。こうした輸入業者の責任を強化する傾向は強まっており、多くの企業では原産地判定手続きを強化し、税関当局による取り締まりに対応する必要性が生じています。

新たなテクノロジーとアウトソーシングを活用する

多くの企業にとっては、自己のサプライチェーンから最大限の節税機会を引き出すと同時に、今後予想される当局の取り締まりに対応できるよう、既存のFTA運用体制を強化することがこれからの課題となるでしょう。

ただ、今やテクノロジーの進化によって、貿易機能を強化できるツールが次々と生まれています。新たなテクノロジーを活用すれば、貿易データを内外のシステムから自動的に取り出し、原産地や関税の計算を行うことができるようになります。一方で、テクノロジーではカバーしきれない業務も多くあります。例えば、HSコードの特定や原産資格の再計算、サプライヤー調査の実施といった多くの時間を要する取引レベルでの反復業務です。これらの業務を正確かつ迅速に行うためには、テクノロジーの活用のみでは不十分であり、業務のアウトソーシングを検討することが賢明な対策となります。すなわち、テクノロジーとアウトソーシングの両輪を回すことが、FTA運用の成否を分けるカギとなるのです。

EYにはFTA原産性計算ツールを実装した関税管理ソフト「EY Trade Connect」があり、クライアントが本プログラムを活用しながら、HS付番から原産性確認までFTA業務全般を網羅したアウトソーシングを受けられる態勢を整えています。EYは、テクノロジーとアウトソーシングのコンビネーションで、クライアント企業の競争優位性を高めるためのサポートを提供します。

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サマリー

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が、2022年1月に発効される見通しとなりました。アジア太平洋地域に多くのFTAが存在するということは、サプライチェーンのコスト削減と透明性を確保できるという意味でも、多くの企業にとってメリットがある一方で、FTAをどのように扱い、いかにコンプライアンスを意識した運用ができるのか、新たな課題も生じます。

この記事について

執筆者 大平 洋一

EY Japan インダイレクトタックス部リーダー EY税理士法人 パートナー

企業がすぐに実行でき得る、実用的な結果志向のソリューションを提供。