
第1章
カスタマーエクスペリエンス
行政サービスを使いやすくする
市民は公共サービスに対して、民間セクターから得られるサービスのように、個人的で即応性の高いものに変わることを期待しています。行政は、市民の公共サービスに対するエンド・ツー・エンドの経験を向上させるために、デジタルをどのように利用できるかについて再考する必要があります。このためには、政策の設計やサービスの提供において「市民ファースト」というカルチャーや考え方が求められます。最終的な目標は、サービス品質の向上、透明性があり効率的な関係性の促進、行政に対する信頼レベルの向上、市民の期待に沿うより良い成果の創出です。
行政に働きかけたり、問題を報告したり、フィードバックを提供したりする手段は、従来の方法から、ソーシャルメディアやモバイルプラットフォームへと置き換えられています。アプリやSMSのようなモバイル・サービスによって、人々は必要とするサービスに、より便利で目的にかなったやり方でアクセスできるようになります。こうしたツールによって、意思決定、政策設定、予算配分、問題解決、サービスの共同作成などに対する、市民の参加が可能になります。これにより、行政と市民の活発なコラボレーションを促します。
先進的な分析手法を使用することで、行政は人やデバイスから継続的に収集したデータを有効に活用できます。これにより、サービス設計も充実して、より個人に合ったサービスの供給が行えるようになります。例えば、医療機関にオンラインで予約を行った患者に対して、近隣の支援グループや体操教室など、健康促進のための追加サービスへ誘導することができます。
すでに、人工知能(AI)が行政のウェブサイト内での取引を完了させるチャットボットを利用して、市民向けのサービスを支援できる状況にあります。AIは運送業者のルートを最適化したり、通勤時間を減らすなど、都市計画の改善にも役立ちます。さらに、学生たちに彼らの学習ニーズに応じた教育サポートを提供するとか、オンラインでの任意照会や審査を可能にすることによって、市民たちが自分たちのニーズや適格性に基づいた社会サービスを提供できるように仕向けるようにします。

第2章
公共の価値
公共投資のリターンを最大化する
成長が不確実でありながら、需要は高まるといった環境にあって、政府は公共の金融サービス、インフラへの持続可能な方法を見つける必要に迫られています。デジタル技術はサービスを提供する新たなモデルを開拓し、よりスマートな消費を通じて、リソースの管理を改善します。そして、プログラムやサービスの中に投資された資金を、デジタル技術が市民のために生み出した成果に結び付け、そのことによって説明責任や信頼性を高めることになります。
ブロックチェーン技術は、資金がシステムを通じてどのように支出されるかを追跡する手助けができます。例えば、財務省から支出部署へ、さらには送金業者へといった具合です。支出の視覚化が進んだことで、政府は公共資源をどのように配分するかについて、より良い意思決定が行えます。
ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)は、よりスピーディーで効率的なサービス、ピーク時の需要や売れ残りにも対応できる柔軟性を提供します。さらに、手動操作では発生しがちなエラーも無くすことができます。行政の中には、すでにバーチャルな労働力を利用して、自動で定常業務プロセスを実施しているところもあります。そうしたところでは、大量の反復業務という負荷を減らし、時間や人材を解放して最前線でのサービスに注力させることもできます。
予測的分析、テキストマイニングは、さまざまな問題を予測し、予防的措置を可能にします。これによって公共リソースのスマートな管理面で重要な成果を上げることが考えられます。例えば、支払いを行わない可能性のある納税者を特定するようなケースで有効です。
3Dプリントは処理時間の短縮、インフラや公共交通機関のプロジェクトに対する建設コストの削減、防衛機関にとって、より効率的で低コストなサプライチェーンを構築します。新たな製造能力の導入によって、遠隔地の雇用創出や経済的変革を推進します。
行政は、このようなテクノロジーを利用して公共の価値を押し上げると同時に、自らの役割についても異なる見方をする必要があります。そうすることによって、行政機関、民間企業、非営利団体、社会的企業、市民などを含むパートナーが構成するエコシステムのためのプラットフォームになります。そのパートナーはこぞって革新的サービスやビジネスモデルを開発することができます。

第3章
市民の安全
人々、情報、さらに戦略的な利益を安全に保つこと
私たちは不確実な時代に生きています。テロリスト集団など、非国家主体からの脅威が増し、デジタル技術を通じて複雑性が高まっており、予測不可能な状態です。今日、抗争は戦地のみならず、公共の交通機関でもソーシャルメディアやサイバースペースでも仕掛けられています。
行政は自らの市民を全ての脅威から守り、彼らが恐怖を感じることなく生活し働くことができるようにする責任があります。デジタル化はこうした行政の闘いにおける障害でもあり、支援でもあります。
行政はデジタル技術を擁護し、パートナー組織やスマートデバイスとの相互の結び付きをより強化していますが、その一方でサイバー攻撃者に付け込まれる新たな脆弱性も生まれてきています。テロリストや詐欺師、ハッカーの集団は、基本的な公共サービスの配信や、選挙手続きなどの市民社会の円滑な運営を脅かす恐れがあります。
他方、デジタル技術やデータの共有化が進むことは、脅威に対抗する優れた手段を得ることにもつながります。防御組織は、AIやマシンラーニング、サイバーウェポンや脅威検出プログラム、サイバーセキュリティ装置、ロボティクスやデジタルツールなどに投資をし、それらをより迅速で効率的にしようとしています。警察部隊も、モバイルテクノロジーを利用して、事件発生時の対応時間を減らし、データ分析で予測的な治安維持モデルを確立します。それに伴って、より優れた脅威分析についての計画を実行できるようになっています。
市民はますます、自らのデータがどのように使用されるのかについて、関心を高めています。従って、依存度がさらに高まっている保管データを保護するために、行政は情報セキュリティ管理システムを導入しています。
行政はまた、クラウド・コンピューティングの力を利用して、自らの計算能力を高め、安全なバイオメトリック認証プログラムを支援します。そして、市民取引に向けた安全な決済プラットフォームを提供するのもまた、行政の責務です。

第4章
未来の労働力
公共セクターにおける能力を改善し、仕事を考え直す
経済成長、社会的一体感、均等な機会などの実現には、訓練を受けて21世紀の雇用者ニーズに対応した労働力があるかどうかに懸かっています。
行政は効率を高め、利用者からの注目度を上げて、ダイバーシティやインクルージョンを強化するため、従業員のスキルや能力を築き上げる必要があります。競争の激しい労働市場において、公共向けのセクターはこれまで、必ずしも最高の人材が選ぶ職場ではありませんでした。行政は、必要とされるスキルや能力を持つ人材を引き付け、定着させ、育成するために、さらに努力する必要があります。より動的で対応度の高い環境を、徐々に構築していくことができた時点で、行政は社会に影響を及ぼすような、目的志向の役割を探している若年労働者を手繰り寄せることができるようになるでしょう。
こうしたカルチャーを形成するには、行政は、従業員の時間を解放し、より刺激的で付加価値の高いタスクに集中できるようにすることが不可欠です。これは、インテリジェント・オートメーション・ツールを利用し、人間の労働者を補完することで実現します。手作業や反復作業の量を減らすことによってが、より高いレベルの生産性や従業員の充実感が得られます。その見返りとして、高い素質を持つ志願者を引き付け、定着させる助けにもなります。その結果として、市民の公共サービスに対する利用体験を向上させることができるのです。
モバイルテクノロジーは、公共機関が労働力を強化し、より効率的な形で業務を行えるよう支援することができます。公共セクターの従業員の多くは、規則的にオフィス外で勤務する必要があります。そのような状況の中で、彼らはスマートフォンやタブレット、ラップトップといったデバイスを身に付けたり、そばに置いたりして、どこにいても職務を遂行することができます。
行政は、そうした労働力をデジタル時代に向けて準備しています。オートメーションやAIなどの技術的な変化は、一般的な仕事や経済、社会の未来に対して、広範囲にわたる影響を及ぼします。今後、行政が採用し、更新し、強化すべき政策は、より低いスキルの仕事に就いている労働者の解雇や、社会的格差の拡大のような社会や経済にとって、望ましくない結果をもたらさないようにすることです。

第5章
スマートインフラ
社会や経済がより良く機能するのを支援する
都市化、グローバリゼーション、公害、水不足、気候変動など、今日の根本的な問題の多くは、コネクテッド・カー、電気自動車、スマート・パワー・グリッド、エネルギー効率の高いビル、モノのインターネット(IoT)ネットワーク、オープン・データ・ポータルといった、スマートインフラの発展で乗り越えることが可能です。
行政は、インフラの建設や改築、人口増加などにより、老朽化した設備へのプレッシャーが増す一方の都市中心部などのインフラ問題に直面しています。新興国の多くは、増え続ける人口、増大する経済活動を支援する新たなインフラを必要としています。その一方で、成熟した市場では、劣化し効果が薄くなってしまったインフラの再建が必要とされています。しかし、長年インフラへの投資が少なかった新興国も、今や世界の多くの国に追い付こうとしています。概算では、今後20年間に、世界中でインフラに対して必要とされる資金は、およそ100兆米ドルと見込まれています。
スマートインフラは、最新テクノロジーを利用して、最大の価値や効率を上げ、弾力性や持続可能性を創出するための方法を提供します。例えば、スマートデバイス、センサー、ソフトウエアなどのデジタル技術を、発電所や橋といった物理的な構造物に適用させるのです。エネルギーや水システム、交通ネットワーク、人的サービス、公共の安全に関わる業務など、行政のあらゆるコア機能に対して、インテリジェントデバイスは、より効率的で効果的なモニタリングや管理を可能にします。
また、行政は、繁栄していくデジタル経済を強化させるための施策を推し進めていかなくてはなりません。この活動には、民間企業と協力して4Gや次の5Gネットワーク、データセンターを普及させたり、市民の高いデジタルリテラシーを育てたり、デジタル・インクルージョンを推進したり、デジタル特定システムを通じてサービスへの安全なアクセスを可能にするなどの内容が含まれています。
各インフラプロジェクトに対し、公共セクターが自ら資金提供することはできません。そこで、他の投資家と協働するための革新的な方法を探す必要があるのです。
サマリー
デジタル変革を効率的に管理する行政は、市民にとって世界標準のクオリティー・オブ・ライフを提供します。また、公共の信頼を取り戻し、グローバル経済における国の競争力を高めます。彼らはまた、ディスラプションの次の高まりがどのような形でやってきても、それに耐えられるよう、今回よりもさらに良い形を築き上げることでしょう。