6 分 2020年10月15日
彩虹橋(青島市)でポーズをとる家族

長期的価値を重視する投資家の姿勢がどのように企業のESGへの取り組みを推進させているか

執筆者 Paul Go

Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

Leads Chinese and multinational companies in client servicing domain. Heads Hong Kong real estate, hospitality and construction sector audit group.

6 分 2020年10月15日

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2020年第3四半期の世界のIPO市場動向レポートで、EYはESG(環境・社会・ガバナンス)戦略に対する投資家の関心の高まりに着目しました。

Local Perspective IconEY Japanの視点

2020年の日本IPO市場は、93社の新規上場となっており(11月30日承認ベース、TOKYO PRO Marketを除く)、コロナ禍においても昨年の86社を上回る力強い回復が見られました。EY新日本有限責任監査法人は27社の会計監査を担当し、3年連続IPO実績ナンバーワンであり、ビッグ4の中で輝かしい結果を残しています。

不確実な環境変化が続いていますが、このような時代だからこそEYでは長期的価値(Long-term value:LTV)を推奨しています。クライアント、そして社会のために長期的価値を創造することが、より良い社会の構築につながると考えています。このような長期的価値の考えをベースにして、EYはスタートアップの分野でEY Startup Innovation - Building a better startup ecosystem - を提唱しました。EY Startup Innovationは、スタートアップのみならず、事業会社、ファンド、官公庁など、スタートアップ・エコシステムの発展に寄与することを目指しています。EYだからこそ可能となるダイナミックな活動を実施していきます。

EY Japan の窓口

齊藤 直人
EY Japan IPOリーダー/EY Startup Innovation共同リーダー EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター長
要点
  • 投資家の姿勢に大きな変化が生じ、企業の非財務パフォーマンスの評価において、規律がより重視されるようになってきました。
  • 新規借り入れを行う企業は、自社にサステナブルファイナンスを活用する能力があるかどうかを認識しておく必要があります。
  • 確固としたESG(環境・社会・ガバナンス)戦略は、今やあらゆる企業にとって不可欠なものとなっています。

ビジネスのサステナビリティをめぐって広がりつつある力強いトレンド、そして国内外の企業が地球環境にどのような影響を与えるかについての論争は、誰もが認識することになるでしょう。ESG(環境・社会・ガバナンス)戦略は、これまで多くの企業や投資家から「あったらよい」ものとみなされてきましたが、今では全ての組織にとって「なくてはならない」必須の戦略として急速に台頭しつつあります。

取引という観点から見ると、ESGには明確なトレンドがあり、経営者や企業はこの点を認識しておく必要があります。ESGをエクイティストーリーに織り込むことが理想であり、これにより長期的成長に配慮したビジョンを明確に示すことができるというメリットもあります。

最新のIPO市場動向についての詳細は、こちらから2020年第3四半期世界のIPO市場動向レポートでご覧ください。

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第1章

投資家の間で高まるESGへの期待

企業のサステナビリティアジェンダは、どうすれば長期的価値を生み出せるのかという課題に照準を合わせつつあります。

機関投資家を対象としたEYの調査、2020年気候変動とサステナビリティサービス(CCaSS)(PDF)の結果から、98%が企業の非財務パフォーマンスを評価する際、今まで以上に規律を重視した厳格なアプローチを採用していることが分かりました。また、順序立てて体系的に評価を行っているとした回答者も、2018年の32%から72%に大幅に増加しています。

意義のある目的に本気で取り組む戦略を掲げ、持続可能な長期的価値をあらゆるステークホルダーにもたらすことを重視する企業こそ、自社が生み出す価値を享受し、実証し、測定するのに最もふさわしいといえます。
Monica Dimitracopoulos
EY Global Purpose, Digital and Knowledge Transformation Leader

ESGを体系的に評価する投資家が増加

72%

の投資家が⾮財務パフォーマンスを体系的に評価しています(2018年は32%)。

EYの調査により、投資判断で非財務指標を「頻繁に」利用している投資家は2016年の27%から2019年には43%に増加しており、ESGの情報開示がますます重要な関心事項になっていることが分かりました。投資判断で非財務パフォーマンスを参考にしないとした投資家は9%にすぎず、無形価値を測定して明らかにする正式な枠組みは必要ないと考える投資家も2%にとどまっています。

つまり、IPOでの上場を図るにしろ、エグジットの手段としてIPOを検討するにしろ、企業は現実味のある有意義なESGパフォーマンス指標を測定し、公表するための強固なルーティンを確立する必要があります。

ESG情報開示基準についての合意がまだ存在しないという事実が、企業トップの課題をより困難なものにしています。Embankment Project for Inclusive Capitalismの一環でEYが独自に精査したところ、長期的価値の測定に役立つ可能性のある63の指標候補が特定されました。

問題は、その企業のステークホルダーと投資家候補にとって最も有意義な指標はどれかという点です。

上場時に投資銀行や投資家から大きな注目を集めるには、企業はますますESG戦略・能力を明確に示さなければならなくなっています。
Rafael A. Alves dos Santos
EY Financial Accounting Advisory Services(ブラジル)

資本市場では、環境破壊がもたらす恐るべき長期的な影響について十分に考える必要があるとの認識もまた高まっています。その結果、投資家が評価の参考にするようになったのが、気候関連財務情報開示タスクフォースの提言です。

例えば会社売却による投資エグジットを目指す経営者の場合、IPOに伴うデュアルトラックプロセスとして、ESG関連でバイヤー候補が問題視する可能性のある弱みの洗い出しにも力を入れる必要があります。

サステナブルファイナンスのメリット

借り換えや新規借り入れを行おうとしている企業は、サステナブルファイナンスやESG連動型融資を利用できるかどうかも確認しておく必要があります。これらのファイナンスや融資は大きな注目を集めており、規制当局や銀行業界がこうしたトレンドを推し進めています。銀行業界については、責任銀行原則(PRB:Principles for Responsible Banking)を受けての動きです。

 

ビジネスのサステナビリティが重視されるようになる中、融資契約の条件に明快なESG指標を盛り込むことで、融資金利の割引を受けて、資金調達コストを下げられる可能性があります。今では、銀行が信用リスク評価に気候リスクを加えることも増えています。

ESG連動型融資の交渉の申し入れにあたっては、企業は上場の有無にかかわらず、ESG指標の目標値を達成するための明確なロードマップを事前に作成しておかなければなりません。ESG指標について質問されることがますます増えているためです。

地球の資源をより持続可能な形で利用する必要性については、顧客から投資家に至るまで誰もが認識するところです。そのため、資本市場取引におけるESG面への対応をめぐって力強いトレンドが定着してきたといって差し支えないでしょう。

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第2章

世界のIPO市場動向の主な内容

世界のIPO活動は急速な回復を見せ、2020年第3四半期には史上最高水準を記録しました。

市場心理は弱いといえるかもしれませんが、⼀部IPO銘柄のパフォーマンスは好調で、第4四半期にはIPOが活発になり、激動の2020年を無事に締めくくる舞台は整いました。
Paul Go
Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

2020年第3四半期は、IPOが低調な時期というこれまでの常識を覆し、外出⾃粛や在宅ワークを強いられ、市場で流動性があり余っていたことから、第3四半期としては取引⾦額が過去20年間で最⾼、取引件数も第2位を記録しました。

世界的に⾒ても、年初来のIPO活動は加速しており、総件数は14%増の872件に上り、調達⾦額も実に43%増の1,653億⽶ドルに達しました。

今年はまさに予測不能な年です。最終四半期を迎えた今、投資家は市場不安の兆しがあれば直ちに利益確定を図るかもしれません。全世界で見られる経済の繁栄とGDPの乖離、そして株式市場のバリュエーションも投資家の間では多少の懸念材料となっています。

IPOを成功に導く可能性を最大限に高めるために企業が取るべき対策に関して、より詳細な洞察を参照するにはEYの株式公開の手引き(PDF)をダウンロードしてください。

  • 全グラフのデータ定義

    本ウェブページと世界のIPO市場動向:2020年第3四半期レポートで公表されているデータの出典はDealogicとEYです。2020年初来(1月1日~9月30日)のデータは、2020年9月30日時点で完了しているIPOをベースとし、2020年9月30日の営業終了時までのものです。

    • これらのレポートやニュースリリースに記載するIPO統計の集計にあたっては事業会社のIPOのみを対象とし、IPOを「企業が新規に上場し、市場に株式を公開すること」と定義しています。
    • 本レポートの対象は、取引初日(証券取引所で取引が開始された日)と取引金額(オーバーアロットメントによる売り出しを含めた調達資金)に関するデータをDealogicとEYのチームが提供しているIPOのみです。
    • どの四半期のディールとして扱うかを決めるのは取引初日です。そのため、延期されたIPO、あるいは公募価格がまだ決められていないIPOは除外されています。店頭(OTC)上場も対象外としています。
    • 信託、ファンド、特別買収目的会社(SPAC)など、事業会社以外のIPOを除外するため、標準産業分類(SIC)の以下のコードに該当する企業は対象から外しています。
      • 6091:信託・保証・管理業務を行う金融事業者
      • 6371:厚生基金、年金基金、それらの事務代行会社(TPA)、その他の金融ビークルなどの資産運用会社
      • 6722:オープンエンド型投資ファンド会社
      • 6726:その他の金融ビークル会社
      • 6732:助成金を交付する基金事業者
      • 6733:信託、財産、代理店勘定を扱う資産運用会社
      • 6799:特別買収目的会社(SPAC)
  • 地域別IPO銘柄パフォーマンスの定義

    • Americas(北・中・南米)
      米国、カナダ、アルゼンチン、バミューダ、ブラジル、チリ、コロンビア、ジャマイカ、メキシコ、ペルー
    • Asia-Pacific(アジア・パシフィック)
      オーストラリア、バングラデシュ、中華圏、フィジー、インドネシア、日本、ラオス、マレーシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィリピン、シンガポール、韓国、スリランカ、タイ、ベトナム
    • EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)
      アルメニア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、カザフスタン、ルクセンブルク、リトアニア、オランダ、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ロシア連邦、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、英国のほか、以下の中東・アフリカ諸国
    • アフリカ
      アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガーナ、ケニヤ、マダガスカル、マラウイ、モロッコ、ナミビア、ルワンダ、南アフリカ、タンザニア、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
    • 中東
      バーレーン、イラン、イスラエル、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメン
  • IPOディールの定義 — 上位証券取引所

    本則市場に加え、必要に応じて新興市場のデータを使用しています。横軸の表記は証券取引所の略称です(正式名称は、以下をご参照ください)。

    Asia-Pacific(アジア・パシフィック)

    • ASX:オーストラリア証券取引所
    • HKEx:香港証券取引所主板(メインボード)および創業板のGEM
    • IDX:インドネシア証券取引所
    • SET:タイ証券取引所および二部市場のMAI
    • SSE:上海証券取引所および科創板のSTAR
    • SZSE:深圳証券取引所および創業板のChiNext
    • TSE:東京証券取引所(一部、二部、TOKYO PRO Market)と新興市場のマザーズおよびジャスダック

    EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)

    • Euronext:ユーロネクスト(アムステルダム、ブリュッセル、リスボン、パリ)および新興市場のAlternext(アムステルダム、ブリュッセル、リスボン、パリ)
    • Indian:インドの国立証券取引所および新興市場の中小企業(SME)板と、ボンベイ証券取引所および新興市場のSME板
    • LSE:ロンドン証券取引所本則市場および新興市場のAIM
    • NASDAQ OMX:NASDAQ OMX Nordics本則市場および新興市場のFirst North(本拠地:コペンハーゲン、ヘルシンキ、ストックホルム、リガ)

    Americas(北・中・南米)

    • NASDAQ:米国のナスダック証券取引所
    • NYSE:米国のニューヨーク証券取引所
    • B3:サンパウロ証券取引所
  • セクター別のIPOディールとIPO取引金額の定義

    各企業の標準産業分類(SIC)コードを使用して、トムソン・ロイター社の産業分類に従ってセクターを分類しています。11のセクターがあり、その定義と具体的な産業名は以下の通りです。横軸のセクターは11です。

    • 消費財:
      「消費必需品」と「消費財・サービス」を合わせたセクター。具体的な対象産業:農業・畜産、飲食、家庭・個人用品、繊維・アパレル、たばこ、教育サービス、人材サービス、家具・インテリア、法務サービス、その他の消費財、プロフェッショナルサービス、旅行サービスなど
    • エネルギー:
      具体的な対象産業:代替エネルギー源、石油・ガス、その他のエネルギー・電力、石油化学製品、パイプライン、電力、水・廃棄物管理など
    • 金融:
      具体的な対象産業:資産運用、銀行、証券会社、信用機関、各種金融、政府系企業、保険、その他の金融など
    • ヘルスケア:
      具体的な対象産業:バイオテクノロジー、医療機器・用品、ヘルスケア事業者・サービス(HMO)、病院、製薬企業など
    • 工業:
      具体的な対象産業:航空宇宙・防衛、自動車・部品、建築/建設・エンジニアリング、機械、その他の工業、運輸、インフラなど
    • 素材:
      具体的な対象産業:化学、建設資材、容器・包装、金属・鉱業、その他の素材、紙・森林製品など
    • メディア・エンターテインメント:
      具体的な対象産業:広告・マーケティング、放送、ケーブルテレビ、カジノ・賭博、ホテル・宿泊、映画・AV、その他のメディア・エンターテインメント、出版、レクリエーション・レジャーなど
    • 不動産
      具体的な対象産業:非住居用、その他の不動産、不動産管理・開発、住居用不動産など
    • 小売:
      具体的な対象産業:アパレル小売、自動車小売、コンピューター・電子機器小売、ディスカウントショップ、百貨店、飲食店、住宅リフォーム、通販(オンラインとカタログ)、その他の小売など
    • テクノロジー:
      具体的な対象産業:コンピューター・周辺機器、電子機器、インターネットソフトウエア・サービス、ITコンサルティング・サービス、その他のハイテクノロジー、半導体、ソフトウエアなど
    • テレコム:
      具体的な対象産業:その他のテレコム、宇宙・人工衛星、電気通信設備、電気通信サービス、無線など

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サマリー

企業の長期的価値創造戦略の将来性を評価できるよう、その企業の無形価値をより体系的に測定したいという投資家の声がますます強まっています。

この記事について

執筆者 Paul Go

Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

Leads Chinese and multinational companies in client servicing domain. Heads Hong Kong real estate, hospitality and construction sector audit group.