2020年6月22日
再エネ海域利用法の施行により変化した洋上風力発電事業に参入するための留意点とは

再エネ海域利用法の施行により変化した洋上風力発電事業に参入するための留意点とは

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

EY Japanの窓口

EY Japan 公共・社会インフラセクター・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リード・アドバイザリー パートナー

金銭債権、不動産、インフラ資産までカバーするスペシャリスト。WindSステアリング・コミッティ委員でもある。

2020年6月22日

洋上風力発電事業への参入のためには、長期占有を前提として、事前の入念な準備と地域共生が鍵となります。

2019年4月1日に施行された「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(以下、「再エネ海域利用法」または「本法」)により、国主導で洋上風力発電事業が推進されることとなりました。本法施行による日本の洋上風力発電事業の変化および参入を計画する事業者への影響を通して、参入までに何に留意すべきかを考える必要があります。

1.  再エネ海域利用法の特徴および現状

本法では、30年度までに5区域の一般海域で洋上風力発電の運転を開始することをKPIとし、「促進区域」(本法に基づく洋上風力発電事業を実施する地域)の指定・公募による事業者選定・長期占用の許可を定めています。

洋上風力発電は再生可能エネルギーの最大限の導入と国民負担抑制を両立する観点から重要な電源と認識されてきたものの、特に海域の大半を占める一般海域について、長期占用を実現するための統一的ルールや先行利用者との調整の枠組みが存在しないという課題により導入が進んでいませんでした。これらの理由の一つとして、沿岸から近い港湾区域については16年7月1日の改正港湾法により一定のルールが定められたものの、一般海域については都道府県の条例に留まっていたということがあります。本法は、これらの課題解決を目的として制定されました。

図1 再エネ海域利用法の概要 1

図1 再エネ海域利用法の概要
国からの30年間の占用許可

占用許可の期間が短い(通常3~5年)ことから中長期的な事業予見可能性が低く資金調達が困難だったのに対し、長期の占用許可に基づく安定的な事業計画の策定が可能となり、資金調達の確度も高まると想定されます。
 

促進区域指定前の関係者間協議会の設置

これまで海域利用について漁業組合などの地域の先行利用者との調整に係る枠組みがありませんでした。本法下では促進区域指定前に地元との協議会の設置や関係省庁と協議が行われることで、参入を企図する事業者にとっては事業開始までのスムーズな交渉や事業運営の素地(そじ)が整いやすくなる効果が期待されます。

19年7月30日には、経済産業省資源エネルギー庁および国土交通省港湾局により、促進区域の指定に向けて「既に一定の準備段階に進んでいる区域」として11区域が整理され、うち4区域は「有望な区域」として協議会の組織や国による風況・地質調査の準備が開始されています。さらにその中から、2019年12月27日には長崎県五島市沖が「促進区域」として国の指定を受けました。今後、同海域については公募に基づく事業者選定プロセスが進行することとなります。

  図2 すでに一定の準備段階に進んでいる区域 2

 図2 すでに一定の準備段階に進んでいる区域 2

2.  30年間の占用を見据えた事業計画および地域共生案


公募プロセスにおける公募占用指針などの詳細は未定です。19年4月に公表された「中間整理」や、先行する福岡県北九州市沿岸の響灘洋上風力発電施設の設置・運営事業者の公募(港湾地域の洋上風力。以下、響灘)における「評価項目と評価する内容および配点」から類推すると、建設予定海域の自治体に対する貢献・地域との共生は特に留意が必要な事項と見込まれます。

「中間整理」における評価基準の基本的な考え方では、価格を最重要として評価することが適切であるとはしつつも、プロジェクトの長期性や他の再生可能エネルギー発電事業に比べて地元関係者が多い点を踏まえ、事業実施能力および地域との調整・事業の波及効果の観点からも評価することが必要とされています(響灘では地域貢献の点数割合は全体の約33%)。加えて、国内での事業運営や国内洋上風力の関係行政機関の長との調整に係る実績が高評価とされており、過去に都道府県条例下や港湾地域での洋上風力発電事業の運営実績がある企業が有利になる可能性もあります。特に新たに洋上風力発電事業に参入しようとする企業にとっては、コンソーシアム(共同事業体)組成時の戦略的パートナー選定、また実績がある企業についても、地域との共生を図るために適切なパートナーと組むことが重要になると思われます。

3. 洋上風力発電事業への参入に向けて

本法下での先行案件が無く、また地域との共生が重視されていることから、本法に基づく洋上風力発電事業への参入に際しては入念な準備と事前の戦略立案が重要になると考えられます。国主導の他のPFI事業における選定基準などに対する知見を参考にしながら、参入前の戦略立案、事業提案および長期的な事業計画の遂行に向けた準備が必要です。

脚注

  1.  国土交通省 港湾局『令和元年5月15日 交通政策審議会 第75回港湾分科会 資料3 洋上風力発電の推進に向けた取組(報告)』に基づき、弊社にて加工
  2.  経済産業省ニュースリリース(2019年7月30日)『再エネ海域利用法における今後の促進区域の指定に向けて有望な区域等を整理しました』に基づき、弊社にて作成
  3.  経済産業省資源エネルギー庁および国土交通省港湾局「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会/電力・ガス事業分科会 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会 洋上風力促進ワーキンググループ」「交通政策審議会港湾分科会環境部会洋上風力促進小委員会 」合同会議

サマリー

洋上風力発電事業への参入のためには、長期占有を前提として、国主導の他のPFI事業における選定基準などに対する知見を参考にしながら、事前の入念な準備と地域共生が鍵となります。

この記事について

執筆者 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EY Strategy and Consulting Co., Ltd.

EY Japanの窓口

EY Japan 公共・社会インフラセクター・ストラテジー・アンド・トランザクションリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リード・アドバイザリー パートナー

金銭債権、不動産、インフラ資産までカバーするスペシャリスト。WindSステアリング・コミッティ委員でもある。