2020年6月10日
水素エネルギーの灯が照らす未来

新型コロナウイルス感染症の影響下で日本の保険会社が取るべき対応策とは

執筆者

EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

EYは、グローバルに連携した複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファームです。

2020年6月10日

保険会社に求められるのは、ビジネス環境の変化に対応して戦略を迅速に見直し、実行していくことです

21世紀に入り、日本ではリーマンショック、東日本大震災、消費税増税と、経済・社会を揺るがす大きなうねりを3度にわたって経験しました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは4度目のうねりかつ最大級の危機となり得るため、過去の経験を生かしつつ再び逆境に耐えることが求められています。

1. 保険業界への直近のインパクト

リモートワークが推奨される今日ではありますが、スムーズに移行できている企業はそう多くはありません。企業の多くは金融庁の「保険会社向けの総合的な監督指針」「保険検査マニュアル(保険会社に係る検査マニュアル)」などを基に事業継続計画 (BCP) を準備・実行していますが、これは自然災害を想定したBCPであり、リモートワークを前提としておらず、十分に機能していないのが現状です。営業活動においても、日本では主流の対面での販売が困難になり、新規契約は減少しています。加えて、景気後退や回収不能な費用の増加などのネガティブな要因により、財務状況も悪化しています。各社とも社会貢献への期待に応えるため、顧客向けの特例対応を実施しているものの、対応内容には限界が見受けられます。

2. グローバルにおける各社の対応状況

パンデミックによる影響を最小化するため、保険会社各社はテクノロジーの活用、業務プロセスの変更、従業員の健康管理などを実施し、臨機応変に対応しています。
 

  • テクノロジーの活用によるセキュリティを考慮した在宅勤務環境の整備

    ノートパソコンやポータブルWi-Fi を従業員および外部ベンダーに供給し、インターネット環境を整備しているほか、Microsoft Teams、WebEx、Skype などのツールによる作業効率の向上やコミュニケーション不足の解消に努めています。新環境適応時のリスクを低減するため、データセキュリティや個人情報保護の強化(必須研修を含む)や、ストレステストを複数回実施することにより在宅勤務の適応能力チェック・評価を行っています。

  • 既存業務プロセスの変更

    従業員の在宅勤務を許可し、一定期間オフィスでの勤務を制限しているため、従来紙ベースで行っていた署名プロセスをAdobe Sign などを使用することで電子署名へとシフトしたり、はんこによる承認プロセスを一時的に廃止し、メールベースでの承認に変更したりしています。またオフィスでのみ使用可能な機器を家庭にある機器や他の方法で代用する試みも見られます(例: オペレーターが使用するレコーダーをスマートフォンで代用)。

  • 在宅勤務中の従業員に対するストレス対策の実施

    在宅勤務時に役立つ情報を社内で共有しています。従業員のストレス緩和や作業効率向上を目指すため、チーム単位でコミュニケーション方法におけるルールやガイドラインを作成する例もあります。また、コミュニケーションツールを活用し、心理療法士によるストレス対処法や健康管理についてのセッション、チーム内でカジュアルな会議やピラティスなどを開催するほか、業務とは別にカジュアルな情報共有の場を設け、従業員の心の健康を管理するよう心掛けています。

3. この危機にどう立ち向かうか

保険会社は、顧客、従業員、投資家、サプライヤーにとって新型コロナウイルス感染症のパンデミックが長期にわたる脅威になると認識しています。本稿執筆時点、この脅威の最終的な影響範囲、収束時期、深刻度の見通しはついていません。保険会社は、前例のないこのような危機に立ち向かうにあたり、どのような仕組み・ツールが必要となるか、またどのようにこの危機から学び、強力なビジネスモデルを生み出すことができるかを考える必要があります。

4. パンデミックの有力シナリオ

このパンデミックは、情報のライフサイクルを加速させており、古いデータや誤ったデータが不適切な意思決定につながるリスクが高まっています。EYは、ダイナミックなプランニングのプロセスを導くために、医療専門家、エコノミスト、業界アナリストの見解を基に、3つの代表的なシナリオを作成しました。
 

A)  早期回復シナリオ

強力な公衆衛生対応とウイルスの季節性により、新型コロナウイルス感染症のまん延を遅らせ、抑えることができることを想定。集団検疫と外出自粛などの移動制限により、個人消費は急激に収縮するが、経済は政府による財政策と金融策によって支えられ、急速に回復します。また事業継続に関するプランニングとリモートテクノロジーにより、従業員の混乱は軽減されます。
 

B)  長期継続シナリオ

各国の組織化されていない対応やばらつきのある施策により、新型コロナウイルス感染症の抑制に苦戦することを想定します。消費や企業の投資の低下に起因する世界的な景気後退は、感染率が季節の変化に伴い低下しても継続します。感染症の世界的な広がりがサプライチェーンをひっ迫し、持続的な収縮によって従業員の解雇と構造再編を引き起こします。またテクノロジー上の制約により、リモートワーク中の従業員の生産性が低下します。
 

C)  再流行シナリオ

新型コロナウイルス感染症の収束に伴って、公衆衛生への対応と経済対策が緩和されるものの、政策立案者の油断が感染症拡大の第2波をもたらすことを想定します。公衆の疲労が、さらなる市場介入と業界の「救済措置」に対する政治的欲求を鈍らせます。保険会社の業務は、顧客の活動と政府の行動に追いつくために苦戦し、労働力の減少が業務上のリスクとサイバーリスクを増大させます。

5. 影響と取るべきアクション

保険会社への影響は目に見える課題として表面化してきました。今後はそれらにどう先行して対応していくかが、ニューノーマルに適応する上で必要となるでしょう。

カスタマー・商品・チャネルに関しては、社会へのサポートを通じて存在意義を示すとともに、この危機の経験から生じる顧客のニーズや行動の変化を的確に捉え、商品・マーケティングを適応させていく必要があります。契約者・関係者からの膨大な量の問い合わせによって、従来の販売チャネルに大きな負荷がかかっています。多くの保険契約はパンデミックによる損害を免責としていますが、世間の注目が集まっていることから、レピュテーショナルリスクの増大と政府の市場への介入によるコスト増加につながるとみられます。半面、顧客を中心に捉え直す機会であり、市場シェアの拡大、デジタル化の加速、新商品の開発といったビジネスチャンスがもたらされているといえるでしょう。

人材・組織、オペレーション・テクノロジー周りでは、リモートワークを前提とする業務態勢の構築がオペレーションの鍵です。デジタル化の進んでいない労働環境に加え営業活動も停滞する中、顧客との、また従業員同士のコミュニケーションも制限され、私生活におけるストレスもあいまって、従業員は疲弊しています。まずは従業員の心身への十分なケアが、戦略的優先事項となるでしょう。リモートワークへの急速な移行は、ITおよびセキュリティチームに多大なプレッシャーがかかるため、増大するサイバーセキュリティリスクにも対処する必要があります。

資産・負債、流動性、運用については、財務への影響のモニタリングを強化すると同時に、先を見越した資本政策が重要です。そうすることで、この「危機」を新たな「チャンス」として捉えることが可能になります。金利低下、資産価値低下などにより財務状況が悪化することからソルベンシー・マージン比率が低下し、持株会社の流動資産の換金が進むことが想定されます。よりリスクの高い資産戦略を採用している保険会社については、特に非流動性の資産を保有している場合、緊迫した状況に陥ることも考えられます。危機が続き、損失が具体化するにつれ、資産戦略を見直す必要が生じるでしょう。逆ザヤの発生、収入保険料の減少、保険金支払額の増大によって、キャッシュフローがひっ迫する可能性も十分に考えられます。

決算、監督当局・株主対応に関しては、不確実な状況下において業務をコントロールし、より効率的かつ高度に事業状況を分析・可視化するための体制構築が必要です。スタッフ不足、働き方の変化、財務面での不確実性は、財務報告書作成プロセスの複雑化を招きます。効率的な運用体制を構築し、多くの重要なプロジェクトの遂行を継続する必要もあります。プロセスが複雑化し、従業員エンゲージメントの課題が生じたとしても環境をコントロールし続けることが重要です。会計上の見積もりについては、将来予測モデルの高度化・精緻化が求められます。外部・内部データの不足・遅延のリスクを考慮することや、不確実性の開示の充実も求められるでしょう。

この記事はEY Globalの記事に添付されている“COVID-19: Insurance impact and response(pdf)”資料を基に日本独自の視点を加えて再構成したものです。

サマリー

新型コロナウイルス感染症の影響下、日本の保険会社はニューノーマルに適応し始めています。需要が急速に変化するこの不安定な状況においては、保険契約者と継続的に関わり、機敏かつ重点を絞って対応していく必要があります。

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