好機を捉えるために、どう準備するか。

執筆者 Paul Go

Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

Leads Chinese and multinational companies in client servicing domain. Heads Hong Kong real estate, hospitality and construction sector audit group.

5 分 2023年3月9日

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世界のIPO(新規株式公開)市場は記録的な好調から一転、完全に失速しました。2023年に向けたトレンドの変化に注目してみましょう。

要点
  • 2022年の世界のIPOは前年比で件数が45%減少、調達額が51%減少した。
  • パンデミック前と比較すると、IPO件数は16%増加した。 
  • Asia-Pacific(アジア・パシフィック)のIPO調達額は、世界全体の67%であった。

2021年の記録的な好調の後、世界のIPO市場は2022年に急激な衰退へと転じました。IPO件数は1,333件、調達額は1,795億米ドルにとどまり、それぞれ前年比で45%減、61%減となりました。バリュエーションの低下と株式市場の不調により平均調達額が減少したことから、大型IPOの件数も限定的でした。 

2022年、世界のIPOは2021年以降に行われた多くのIPOの悲惨なパフォーマンスに加え、市場のボラティリティの高まりやその他の思わしくない市場状況に、年間を通して影響を受けました。インフレの進行と金利の上昇を背景とした環境の中で、投資家は新規上場企業を敬遠し、よりリスクの低いアセットクラスに目を向けました。同様に、金融機関をスポンサーとするIPOも件数で77%、調達額で93%の急落となりました。また、2020年後半以降に上場したSPAC(特別目的買収会社)の多くが2年の期限を迎え、今後は合併対象を見つけるか、IPO調達金を投資家に返還しなければなりません。ここに述べた急激な減少は2021年との比較ですが、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年と比較すると、2022年の世界のIPO件数は16%増加しています。 

2022年の市場活動は全般的に低調であったものの、控えめながら成功を収めたセクターや地域もあります。テクノロジーセクターは2022年も件数で全体の23%を占めてリードを保ち、エネルギーセクターは調達額で22%を占めました。調達額が10億米ドル超のメガIPOに関しては、エネルギーセクターのメガIPOが高いバリュエーションを得たことから、2022年の平均調達額は2021年比で45%の増加となりました。中国本土、中東、ASEAN諸国の一部などの特定の市場は、世界的な著しい低迷にもかかわらず、比較的良好な結果を残しています。 

EY Global IPOリーダーのPaul Goは次のように述べています。「2021年のIPOの記録的な好調に取って代わり、地政学的緊張の高まり、インフレ、積極的な利上げによるボラティリティの高まりが2022年のIPO市場を支配しました。株式市場の低迷、バリュエーションの悪化、IPO後の思わしくないパフォーマンスによって、IPO投資家の心理はいっそう冷え込みました」

世界のIPO

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地域別パフォーマンスの概要:2023年の市場の持ち直しと市況の好転が待ち望まれる

Americas(北・中・南米)のIPOは大不況ピーク時以来の落ち込みとなりました。市場はボラティリティとインフレ対策のあおりを受け、件数で13 年ぶり、調達額で 20 年ぶりの低水準となり、件数が前年比76%減の130件、調達額が95%減の90 億米ドルと、どちらも2021年から急落しました。AmericasのIPOの大部分(69%)は米国の取引所での実施でした。 

Asia-PacificのIPO件数は845件、調達額は1,206億米ドルでした。この地域は世界的な景気後退と地政学的緊張による影響が最も小さく、2022年のIPO全体に対し件数は63%、調達額は67%を占めました。中国本土のIPOは記録的な調達額の再達成に向けて順調に推移しました。

EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)のIPOは、件数が358件、調達額は499億米ドルで、それぞれ53%減、55%減となりました。欧州のIPOは地政学的な混乱により78%減少しましたが、MENA(中東・北アフリカ)では、エネルギーなどの大型IPOの完了と、政府の民営化計画に沿って展開されたイニシアチブとの相乗効果の恩恵で、調達額が115%増加しました。また、上位10件のIPOのうち5件をEMEAのIPOが占めました。  

 

2023年の見通し:ファンダメンタルズとESGに注目しつつ、好機を待つ 

2023年に向け、前途には有望なIPOパイプラインが数多く存在します。少なくとも第1四半期は低調が続く可能性が高いものの、下半期には世界のIPOが勢いを取り戻すような好条件が整うものと思われます。 

ポジティブな市場心理と株式市場の業績好転、インフレ率の抑制と利上げの終了、地政学的緊張の緩和、パンデミックによる経済への影響の低減などが、IPO市場の再活性化の前提条件となります。 

IPOを目指す企業の多くは、依然としてしかるべきタイミングを待つ「様子見」の構えを見せています。ここしばらくは、投資家は企業の単なる成長予測ではなく、増収率、収益性、キャッシュフローなどのファンダメンタルズに注目するでしょう。

企業のIPO後の株価パフォーマンスと環境・社会・ガバナンス(ESG)戦略の伝達には正の相関性があることから、企業の ESG課題に対する投資家の注目も今後ますます高まるでしょう。   

「パイプラインの構築が進む中、多くの企業がIPO計画復活の好機を待っています」と、Paul Goは述べています。

「こうした流れの中でも、市場流動性の逼迫からリスク回避の姿勢を強めている投資家は、ESG課題を明示しながら収益性とキャッシュフローの面でレジリエントなビジネスモデルを打ち出すことができる企業を選好しています」と、Paul Goは付け加えています。

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株式公開の手引き

株式公開の手引きは、IPO前、IPO期間中、そしてIPO後において、企業が戦略的に検討すべき事項を取り扱っています。

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  • 全グラフのデータ定義

    本記事および「2022年世界のIPO市場動向」ニュースリリースに掲載されているデータは、DealogicおよびEYの分析によるものです。2022年とは暦年全体を指し、2022年1月1日から12月5日時点で完了しているIPOおよび2022年12月末までに完了すると予測されるIPOが、2022年の対象IPOとなります(完了予測は2022年12月5日時点の予測)。データは12月5日(終業時間)時点のものです。 

    • これらのレポートやニュースリリースに記載するIPO統計の集計にあたっては事業会社のIPOのみを対象とし、IPOを「企業が新規に上場し、市場に株式を公開すること」と定義しています。
    • 本レポートの対象は、取引初日(証券取引所で取引が開始された日)と取引金額(オーバーアロットメントによる売り出しを含めた調達資金)に関するデータをDealogicとEYのチームが提供しているIPOのみです。
    • どの四半期のディールとして扱うかを決めるのは取引初日です。そのため、延期されたIPO、あるいは公募価格がまだ決められていないIPOは除外されています。店頭(OTC)上場も対象外としています。
    • 信託、ファンド、特別買収目的会社(SPAC)など、事業会社以外のIPOを除外するため、標準産業分類(SIC)の以下のコードに該当する企業は対象から外しています。
      • 6091:信託・保証・管理業務を行う金融事業者
      • 6371:厚生基金、年金基金、それらの事務代行会社(TPA)、その他の金融ビークルなどの資産運用会社
      • 6722:オープンエンド型投資ファンド会社
      • 6726:その他の金融ビークル会社
      • 6732:助成金を交付する基金事業者
      • 6733:信託、財産、代理店勘定を扱う資産運用会社
      • 6799:特別買収目的会社(SPAC)
  • 地域別IPO銘柄パフォーマンスの定義

    • アフリカには、アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガーナ、ケニヤ、マダガスカル、マラウイ、モロッコ、ナミビア、ルワンダ、南アフリカ、タンザニア、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエが含まれる。
    • Americas(北・中・南米)には、アルゼンチン、バミューダ、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、エクアドル、ジャマイカ、メキシコ、ペルー、プエルトリコ、米国が含まれる。
    • ASEAN(アセアン)には、ブルネイ、カンボジア、グアム、インドネシア、ラオス、マレーシア、モルディブ、ミャンマー、北マリアナ諸島、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナムが含まれる。
    • Asia-Pacificには、上記のASEAN諸国、以下に示す中華圏、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、パプア・ニューギニアが含まれます。
    • EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)には、アルメニア、オーストリア、バングラデシュ、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、カザフスタン、ルクセンブルク、リトアニア、オランダ、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ロシア連邦、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、英国のほか、以下に示す中東諸国、上記のアフリカ諸国が含まれる。
    • 中華圏には、中国、香港、マカオ、台湾が含まれる。
    • インド地域のIPOには、インドおよびバングラデシュの証券取引所におけるIPOが含まれます。 
    • 中東には、バーレーン、イラン、イスラエル、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンが含まれる。
  • セクター別のIPOディールとIPO取引金額の定義

    企業の標準産業分類(SIC)コードを使用したトムソン・ロイター社の産業分類に従ってセクターを分類しています。11のセクターがあり、それぞれの産業名と定義は以下の通りです。横軸にセクターが11あります。

    • 消費財:「消費必需品」と「消費財・サービス」を合わせたセクター。具体的な対象産業:農業・畜産、飲食、家庭・個人用品、繊維・アパレル、たばこ、教育サービス、人材サービス、家具・インテリア、法務サービス、その他の消費財、プロフェッショナルサービス、旅行サービスなど
    • エネルギー:具体的な対象産業:代替エネルギー源、石油・ガス、その他のエネルギー・電力、石油化学製品、パイプライン、電力、水・廃棄物管理など
    • 金融:具体的な対象産業:資産運用、銀行、証券会社、信用機関、各種金融、政府系企業、保険、その他の金融など
    • ヘルスケア:具体的な対象産業:バイオテクノロジー、医療機器・用品、ヘルスケア事業者・サービス(HMO)、病院、製薬企業など
    • 工業:具体的な対象産業:航空宇宙・防衛、自動車・部品、建築/建設・エンジニアリング、機械、その他の工業、運輸、インフラなど
    • 素材:具体的な対象産業:化学、建設資材、容器・包装、金属・鉱業、その他の素材、紙・森林製品など
    • メディア・エンターテインメント:具体的な対象産業:広告・マーケティング、放送、ケーブルテレビ、カジノ・賭博、ホテル・宿泊、映画・AV、その他のメディア・エンターテインメント、出版、レクリエーション・レジャーなど
    • 不動産:具体的な対象産業:非住居用、その他の不動産、不動産管理・開発、住居用不動産など
    • 小売:具体的な対象産業:アパレル小売、自動車小売、コンピューター・電子機器小売、ディスカウントショップ、百貨店、飲食店、住宅リフォーム、通販(オンラインとカタログ)、その他の小売など
    • テクノロジー:具体的な対象産業:コンピューター・周辺機器、電子機器、インターネットソフトウエア・サービス、ITコンサルティング・サービス、その他のハイテクノロジー、半導体、ソフトウエアなど
    • テレコム:具体的な対象産業:その他のテレコム、宇宙・人工衛星、電気通信設備、電気通信サービス、無線など

過去のIPOレポート

サマリー

EYの世界のIPO市場動向レポート2022では、年間を通じて世界のIPO市場が落ち込んだことが明らかになりました。マクロ経済の課題がもたらす変動、市場の不確実性、ボラティリティの高まり、世界的な株価下落などにより、多くのIPOが延期されました。

この記事について

執筆者 Paul Go

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