IPOに乗り出す時に備えて、今何をするべきか

執筆者 Paul Go

Asia-Pacific EY Private Assurance Leader

Leads Chinese and multinational companies in client servicing domain. Heads Hong Kong real estate, hospitality and construction sector audit group.

4 分 2023年8月4日

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2023年第2四半期、世界のIPO市場が鈍化する中、新興市場は成長しています。

要点
  • 2023年上半期の世界のIPOは前年同期比で件数が5%減少、調達額が36%減少した。
  • 米国では、2021年11月以来最大の募集が行われた。
  • Asia-Pacificは、世界全体のIPOの約60%を占め、地域別では依然としてもっとも優勢である。

2023年上半期には615件のIPOにより、609億米ドルの資金が調達されました。これは、前年比でそれぞれ5%と36%の減少です。第2四半期は、第1四半期と比較して大規模な取引が増加し、回復スピードは遅いものの、ギャップは縮小しました。このような控えめな結果は、世界経済の成長鈍化、金融引き締め政策、地政学的緊張の高まりを反映しています。しかし、一部の新興市場では、豊富な鉱物資源に対する世界の需要、膨大な人口、ユニコーン企業や起業家精神にあふれる中小企業がプラス要因となり、IPO活動が活況を呈しています。これらを含む調査結果は、EYの世界のIPO市場動向レポート2023年第2四半期に記載されています。

2023年も現在までのところ、テクノロジーセクターが引き続きIPO活動を主導しています。一方、エネルギーセクターの企業のIPO調達額は、エネルギー価格の世界的な軟化を受けて減少しています。また、クロスボーダーIPO活動は、主に中国から米国への資金流入の拡大とスイス証券取引所への上場の着実な増加により、件数と調達額の双方で著しく拡大しました。 

SPAC市場は、交渉が一段と複雑化していることを受け、引き続き困難な状況にあります。今後6カ月以内に期限を迎えるSPACのうち、膨大な数が、DeSPACを発表または完了しておらず、清算に直面しています。SPACのIPO活動は、2021年以前にみられたような、より常識的で持続可能な水準に戻ると期待されます。 

女性カイトサーファーとその背景

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EYの世界のIPO市場動向レポート2023年第2四半期では、より踏み込んだ分析と洞察をご紹介しています。

 

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エリア別のIPOパフォーマンス概要:第2四半期は第1四半期よりも好調

Americas(北・中・南米)では、IPOの件数は横ばいでしたが調達額は91億米ドルとなり、前年比で86%増加しました。この増加は主に、2021年11月以降で米国最大となる、単一の巨大スピンオフIPOによるものです。米国では、数件の大型取引を主な要因として市場が上向いており、最近の市場心理の改善は、2023年後半または2024年に米国のIPO活動が活発化する先触れとなる可能性があります。ただし、このような期待のもてる展開にもかかわらず、2023年の予期せぬ銀行危機のため、AmericasのIPO市場が全体的に回復するまでには、多くの市場参加者が年初に予測したよりも長い時間がかかるかもしれません。 

Asia-Pacific(アジア・パシフィック)のIPO市場は、年初来、件数と調達額において世界トップの地位を維持しており、そのシェアは約60%です。世界のIPO上位10社のうち、半数が中国企業で、1件は日本企業でした。同地域では、この期間に371件のIPOにより394億米ドルが調達され、前年同期比でそれぞれ2%と40%の減少となりました。調達額の大きな落ち込みは、中国のIPO市場が予想以上に冷え込み、多数の大規模なIPO案件が延期されたことによります。インドネシアは20年超ぶりに、世界の証券取引所のIPO件数ランキングで香港よりも上位になりました。 

EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)ではIPO活動の縮小が続いており、年初来、167社が上場し、124億米ドルを調達しました。これは前年同期比で、それぞれ12%と50%の減少です。それにもかかわらず、この地域は全IPOディールの27%を占め、2番目に大きなIPO市場としての地位を維持しました。また、調達額ランキング2位(25億米ドル)のIPOディールが実施されました。インドの取引所も20年ぶりに記録を更新し、ディール件数のトップに躍進しました。しかし、大半の欧州諸国ではインフレが依然として困難な水準にあり、流動性の欠如のためにIPO活動が抑制される状況が続いています。 

2023年第3四半期の見通し:パイプラインは待機中

IPO活動が世界的に回復し始めるのは、金融引き締め政策が最終段階に入り、経済状況と市場心理が徐々に改善していくとみられる2023年後半になると予想されます。 

他の従来型IPOすべてを上回る、巨大スピンオフIPOが米国で1件実施されると、この傾向が続く可能性が高いことが示唆されています。企業が売却を通じてより多くの株主価値の創造を目指す一方で、投資家は、回復の途上にあるIPO市場において収益力の高い成熟した企業を求めているため、大企業のスピンオフ上場やカーブアウト上場が主要市場で表面化する可能性があります。 

投資家の期待に応え、規制上の問題のために生じかねない遅延を回避するには、企業が上場を計画しているIPO市場それぞれによって異なる要件を理解することが不可欠です。投資家は今後さらに選好を強め、堅実なファンダメンタルズと実績のある企業を求めるでしょう。代替的なIPOプロセス(直接上場またはDeSPACによる合併)を始めとして他の資金調達手法(プライベートキャピタル、債券、またはトレードセール)まで、あらゆる選択肢を検討するべきです。 

経済状況は世界各地で異なり、地政学的情勢は予測不可能です。こうした中、一部の株式市場は過去最高水準にまで高騰し、ボラティリティが低下しています。テクノロジーやクリーンエネルギーなど、テーマ重視の一部のセクターでは、IPO活動が活発化する兆候があります。一流大企業は持続的なレジリエンス(復元力)を示しており、一方で、市場では、より現実的で許容範囲内のバリュエーションを伴う成長ストーリーが受け入れられるようになっています。 

この環境の変化を受け、企業は、今後機会の扉が開いたときに「IPOに乗り出せる」ように、今、準備を整えておく必要があります。

世界のIPO

株式公開の手引き

株式公開の手引きは、IPO前、IPO期間中、そしてIPO後において、企業が戦略的に検討すべき事項を取り扱っています。

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    この棒グラフは、2019年から2022年までの通年と2023年の現時点までのIPO件数の推移により、世界のIPO活動の動向を表しています。全データは次のとおりです。2019年(通年)、1,146件。2020年(通年)、1,452件。2021年(通年)、2,436件。2022年(通年)、1,415件。2023年(現時点まで)、615件。

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    この棒グラフは、2019年から2022年までの通年と2023年の現時点までのIPO調達額(単位:10億米ドル)の推移により、世界のIPO活動の動向を表しています。全データは次のとおりです。2019年(通年)、2,083億米ドル。2020年(通年)、2,713億米ドル。2021年(通年)、4,599億米ドル。2022年(通年)、1,843億米ドル。2023年(現時点まで)、609億米ドル。

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    この棒グラフは、2023年の現時点までの地域別のIPO活動を、件数と調達額の前年同期比で示しています。地域ごとの全データは次のとおりです。世界全体では、IPOの件数は5%減少し、総調達額は36%減少しました。Americasでは、IPOの件数は2022年の同期間と同じで、調達額は86%増加しました。Asia-Pacificでは、IPOの件数は2%減少し、調達額は40%減少しました。EMEIAでは、IPOの件数は12%減少し、調達額は50%減少しました。

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    この棒グラフは、2023年の現時点までのセクター別のIPO件数を、2022年と2021年の件数と比較したものです。全データは次のとおりです。テクノロジーセクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは124件、2022年は328件、2021年は631件です。工業セクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは123件、2022年は222件、2021年は314件です。消費財セクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは103件、2022年は187件、2021年は306件です。素材セクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは87件、2022年は217件、2021年は303件です。ヘルスケア・ライフサイエンスセクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは58件、2022年は168件、2021年は391件です。エネルギーセクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは35件、2022年は93件、2021年は141件です。メディア・エンターテインメントセクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは22件、2022年は29件、2021年は48件です。小売セクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは22件、2022年は50件、2021年は62件です。不動産セクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは19件、2022年は54件、2021年は106件です。金融セクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは11件、2022年は44件、2021年は107件です。テレコムセクターのIPO件数は、2023年の現時点まででは11件、2022年は23件、2021年は27件です。

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    この棒グラフは、2023年の現時点までのセクター別のIPOによる調達額を、2022年と2021年の調達額と比較したものです(単位:10億米ドル)。全データは次のとおりです。テクノロジーセクターでは、2023年の現時点まででは140億米ドル、2022年は374億米ドル、2021年は1,491億米ドルです。工業セクターでは、2023年の現時点まででは131億米ドル、2022年は305億米ドル、2021年は644億米ドルです。消費財セクターでは、2023年の現時点まででは92億米ドル、2022年は98億米ドル、2021年は423億米ドルです。エネルギーセクター2023年の現時点まででは85億米ドル、2022年は40億米ドル、2021年は277億米ドルです。素材セクターでは、2023年の現時点まででは53億米ドル、2022年は164億米ドル、2021年は227億米ドルです。ヘルスケア・ライフサイエンスセクターでは、2023年の現時点まででは53億米ドル、2022年は175億米ドル、2021年は667億米ドルです。金融セクターでは、2023年の現時点まででは21億米ドル、2022年は95億米ドル、2021年は337億米ドルです。不動産セクターでは、2023年の現時点まででは10億米ドル、2022年は40億米ドル、2021年は160億米ドルです。メディア・エンターテインメントセクターでは、2023年の現時点まででは10億米ドル、2022年は13億米ドル、2021年は64億米ドルです。小売セクターでは、2023年の現時点まででは9億米ドル、2022年は80億米ドル、2021年は152億米ドルです。テレコムセクターでは、2023年の現時点まででは5億米ドル、2022年は99億米ドル、2021年は157億米ドルです。

IPOを成功に導く可能性を最大化するために企業が取るべき対策に関して、より詳細な洞察を参照するにはEYの株式公開の手引き(PDF、英語版のみ)をダウンロードしてください。

  • 全グラフのデータ定義

    本記事および世界のIPO市場動向2023年第2四半期レポートに記載されているデータの出所は、DealogicおよびEYによる分析です。この文書には、DealogicおよびIONによりライセンスに基づいて提供されたデータから抽出されたデータが含まれています。DealogicおよびIONは、かかるデータに関するすべての権利を保持し、留保します。 

    2023年Q2とは2023年第2四半期を指し、2023年4月1日から6月19日までに完了したIPOと、2023年6月30日までに完了すると予想されるIPO(2023年6月19日時点での予測)を対象としています。2022年Q2とは2022年第2四半期を指し、2022年4月1日から6月30日までに完了したIPOを対象としています。2023年の年初来とは、2023年の最初の6カ月間を指し、2023年1月1日から2023年6月19日までに完了すると予想されるIPO(2023年6月19日時点での予測)を対象としています。2022年の年初来とは、2022年の最初の6カ月間を指し、2022年1月1日から6月30日までに完了したIPOを対象としています。出所:EYによる分析、Dealogic

    • これらのレポートやニュースリリースに記載するIPO統計の集計にあたっては事業会社のIPOのみを対象とし、IPOを「企業が新規に上場し、市場に株式を公開すること」と定義しています。
    • 本レポートの対象は、取引初日(証券取引所で取引が開始された日)と取引金額(オーバーアロットメントによる売り出しを含めた調達資金)に関するデータをDealogicとEYのチームが提供しているIPOのみです。
    • どの四半期のディールとして扱うかを決めるのは取引初日です。そのため、延期されたIPO、あるいは公募価格がまだ決められていないIPOは除外されています。店頭(OTC)上場も対象外としています。
    • 信託、ファンド、特別買収目的会社(SPAC)など、事業会社以外のIPOを除外するため、標準産業分類(SIC)の以下のコードに該当する企業は対象から外しています。
      • 6091:信託・保証・管理業務を行う金融事業者
      • 6371:厚生基金、年金基金、それらの事務代行会社(TPA)、その他の金融ビークルなどの資産運用会社
      • 6722:オープンエンド型投資ファンド会社
      • 6726:その他の金融ビークル会社
      • 6732:助成金を交付する基金事業者
      • 6733:信託、財産、代理店勘定を扱う資産運用会社
      • 6799:特別買収目的会社(SPAC)
  • 地域別IPO銘柄パフォーマンスの定義

    • アフリカには、アルジェリア、ボツワナ、エジプト、ガーナ、ケニヤ、マダガスカル、マラウイ、モロッコ、ナミビア、ルワンダ、南アフリカ、タンザニア、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエが含まれる。
    • Americas(北・中・南米)には、アルゼンチン、バミューダ、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、エクアドル、ジャマイカ、メキシコ、ペルー、プエルトリコ、米国が含まれる。
    • ASEAN(アセアン)には、ブルネイ、カンボジア、グアム、インドネシア、ラオス、マレーシア、モルディブ、ミャンマー、北マリアナ諸島、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、ベトナムが含まれる。
    • Asia-Pacificには、上記のASEAN諸国、以下に示す中華圏、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー、パプア・ニューギニアが含まれます。
    • EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)には、アルメニア、オーストリア、バングラデシュ、ベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、インド、アイルランド、マン島、イタリア、カザフスタン、ルクセンブルク、リトアニア、オランダ、ノルウェー、パキスタン、ポーランド、ポルトガル、ロシア連邦、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、英国のほか、以下に示す中東諸国、上記のアフリカ諸国が含まれます。
    • 中華圏には、中国、香港、マカオ、台湾が含まれる。
    • インド地域のIPOには、インドおよびバングラデシュの証券取引所におけるIPOが含まれます。 
    • 中東には、バーレーン、イラン、イスラエル、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンが含まれる。
  • セクター別のIPOディールとIPO取引金額の定義

    企業の標準産業分類(SIC)コードを使用したトムソン・ロイター社の産業分類に従ってセクターを分類しています。11のセクターがあり、それぞれの産業名と定義は以下の通りです。横軸にセクターが11あります。

    • 消費財:「消費必需品」と「消費財・サービス」を合わせたセクター。具体的な対象産業:農業・畜産、飲食、家庭・個人用品、繊維・アパレル、たばこ、教育サービス、人材サービス、家具・インテリア、法務サービス、その他の消費財、プロフェッショナルサービス、旅行サービスなど 
    • エネルギー:具体的な対象産業:代替エネルギー源、石油・ガス、その他のエネルギー・電力、石油化学製品、パイプライン、電力、水・廃棄物管理など
    • 金融:具体的な対象産業:資産運用、銀行、証券会社、信用機関、各種金融、政府系企業、保険、その他の金融など
    • ヘルスケア・ライフサイエンス:具体的な対象産業:バイオテクノロジー、医療機器・用品、ヘルスケア事業者・サービス(HMO)、病院、製薬企業など
    • 工業:具体的な対象産業:航空宇宙・防衛、自動車・部品、建築/建設・エンジニアリング、機械、その他の工業、運輸、インフラなど
    • 素材:具体的な対象産業:化学、建設資材、容器・包装、金属・鉱業、その他の素材、紙・森林製品など
    • メディア・エンターテインメント:具体的な対象産業:広告・マーケティング、放送、ケーブルテレビ、カジノ・賭博、ホテル・宿泊、映画・AV、その他のメディア・エンターテインメント、出版、レクリエーション・レジャーなど
    • 不動産:具体的な対象産業:非住居用、その他の不動産、不動産管理・開発、住居用不動産など
    • 小売:具体的な対象産業:アパレル小売、自動車小売、コンピューター・電子機器小売、ディスカウントショップ、百貨店、飲食店、住宅リフォーム、通販(オンラインとカタログ)、その他の小売など
    • テクノロジー:具体的な対象産業:コンピューター・周辺機器、電子機器、インターネットソフトウエア・サービス、ITコンサルティング・サービス、その他のハイテクノロジー、半導体、ソフトウエアなど
    • テレコム:具体的な対象産業:その他のテレコム、宇宙・人工衛星、電気通信設備、電気通信サービス、無線など

過去のIPOレポート

サマリー

EYの世界のIPO市場動向レポート2023年第2四半期では、2023年上半期、世界のIPO市場が鈍化する中、新興市場が成長していることが明らかになりました。IPO活動が世界的に回復し始めるのは、金融引き締め政策が最終段階に入り、経済状況と市場心理が徐々に改善していくとみられる2023年後半になると予想されます。

この記事について

執筆者 Paul Go

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