IPOの基礎 第3章 株式上場準備の進め方

2017年7月27日
カテゴリー IPOの基礎

2017年7月発行のIPOガイドブックを転載したものであり、本文中特に断り書きのない限り、2017年3月31日現在の法令・規則等に準拠して作成しています。

株式上場の意思がある程度固まったら、一般的には監査法人によるショート・レビュー(予備調査または短期調査と呼ばれることもあります)を受けることになります。

ショート・レビューとは、監査法人が「企業の現状」、「株式上場を達成するために解決する課題」、「対象企業に合致した適切な上場スケジュール」等を総合的に調査し「報告書」にまとめ企業に提出するもので、企業は報告書の内容を詳細に検討したうえで、株式上場の意思決定を行うことになります。

上場準備作業とは、この株式上場の意思決定を行った後に上場準備に具体的に着手する作業全般をいい、主幹事証券会社、監査法人およびその他外部のサポート会社(印刷会社、株式事務委託をする証券代行、ベンチャーキャピタル、顧問弁護士等)の選定・決定、並びに社内管理体制や開示体制の整備・運用、資本政策の検討・実行、申請書類の作成、上場審査への対応、IR(投資家向け広報)活動を経て株式上場に至るまでの全ての準備作業が含まれます。

これらの作業は非常に範囲が広く、部門横断的な課題が多いため、部門間調整等の作業も多くなり相当の時間を要します。したがって、無理、無駄の無い株式上場準備を行うためには、上場の意思決定を行った後、プロジェクトチームを編成し、上場準備の体制作りを行うことが必要となります。

本章では主な上場準備作業について述べていきます。

なお、上場準備作業のうち、資本政策については第5章、企業内容の開示については第9章、上場申請書類の作成については第10章をご参照ください。

1. パブリックカンパニーになることへの意識改革

株式上場により、会社は様々なメリットを享受しますが、同時に、経営者の経営責任や会社の社会的責任が増大します。

株式上場の第一歩として、会社はパブリックカンパニーとしての責務を十分にはたす会社に変貌するという、意識改革を推し進めることが必要です。

その上で、上場準備作業を通じて、上場会社にふさわしい社内管理体制を整備し、開示体制を確立することが必要となります。

これらの体制整備は、人材の確保等の様々な管理コストの増大を招きますが、株式上場にあたり、コーポレート・ガバナンスの仕組みを構築することは不可欠です。

内部管理体制の強化を単に株式上場のために経営の自由度を制限するものとしてとらえるのではなく、経営体質の改善・強化の絶好の機会であると認識することが大切です。

2. 上場準備プロジェクトチームの編成

(1) プロジェクトチーム編成の必要性

これから株式上場を目指す会社の多くでは、ライン部門である営業部等への人材の投入が重要視されるのに比較して、スタッフ機能である管理部門については最小の人員で業務が分担されているのが実状かと思われます。

この様な会社の場合、少数の管理スタッフで上場準備を行うには無理が生じ、日常業務へ支障をきたすだけでなく、準備作業の遅延を招く可能性があります。

また、管理スタッフだけで準備を行える余力のある会社でも、営業部門や製造部門等の現場に精通した人材が欠けていた場合、重要な問題の発見が漏れたり、形式的な整備に終わり、会社の実態を無視した上場準備になる恐れがあります。

上場準備は企業経営の健全性やコーポレートガバナンスおよび内部管理体制の有効性を確保するための改善活動ですので、一部の管理スタッフに負荷をかけるのではなく、全社が一丸となって対応することが肝心です。

(2) 編成時期

プロジェクトチーム編成の時期は、会社の社内管理体制の整備状況によって異なりますが、一般的には上場申請直前期末から2年以上前には発足させる例が多いようです。

上場申請直前期には、社内管理体制等が有効に機能していることが必要です。社内管理体制の整備は直前事業年度の期首にはある程度の整備がなされ、直前事業年度を通して運用されることが求められ、運用実績の内容が上場審査の対象となります。

社内管理体制に課題の多い会社は、整備の準備期間に余裕を確保するためにも、株式上場の意思決定をしたら、なるべく早い時期にプロジェクトチームを編成することが望まれます。

(3) 組織編成

プロジェクトチームは、社長またはリーダーシップのある取締役等が株式上場準備最高責任者として直轄する組織を採用することが効果的です。

プロジェクトリーダーは、主幹事証券会社や監査法人との対応窓口となり、プロジェクトチームの各スタッフを指揮し、上場準備の進捗管理を行う実務上の責任者となりますので、会社の事業内容と経理に精通した部門長以上のクラスの人材を選任することが効果的です。一般的には経営企画室長や経理部長が兼任することが多いようですが、会社の規模が大きく準備作業の量が多く煩雑な会社の場合には、専任者を置くケースもあります。

スタッフは実際に上場申請書類等の作成を担当しますので、担当範囲の業務の流れ等をよく理解し、事務処理能力の高い人材の選任が必要です。

上場準備作業は、会社を俯瞰した社内管理体制整備です。プロジェクトチームに参画するスタッフの経営管理能力を高める機会となりますので、将来の経営幹部候補の育成等を考慮した人選が有効です。

(4) 業務内容

プロジェクトチームの具体的な業務内容は以下の通りです。

① 証券会社、監査法人の対応窓口
② 上場準備作業日程の作成
③ 各部門(各スタッフ)提出資料の指示、調整および進捗管理
④ 中期経営計画の策定
⑤ 予算制度の整備
⑥ 資本政策案の策定
⑦ 社内管理体制の整備
⑧ 社内規程の整備
⑨ 社内重要書類等の整備
⑩ 主要業務および業務フローの整備(業務処理の見直し、フローチャートの作成)
⑪ 会計制度の整備
⑫ 人的・資本的関係会社の整備
⑬ 関連当事者等との取引の見直しと整備
⑭ 上場申請書類の作成(Ⅰの部、Ⅱの部もしくはJASDAQ上場申請レポート等の作成)
⑮ 上場審査質問書に対する回答書の作成

3. 主幹事証券会社の選定

株式上場における最も重要なパートナーは主幹事証券会社です。主幹事証券会社の役割は、上場準備の進行に合わせて上場の準備段階から上場以後も踏まえて会社の立場に立ったアドバイスを行ったり、取引所の行う上場審査の前には第三者的立場で会社を審査したりすることです。

上場準備の早期の段階では、主幹事証券会社の企業部等の営業部門に上場スケジュール、ビジネスプラン(事業計画)の策定、資本政策の策定、社内管理体制の整備等に関するアドバイスを受けることになります。特にビジネスプランは、上場時の公募株価の形成や株式上場の可否に影響しますので、上場準備の早い段階からアドバイスを受けることが重要です。

社内管理体制がある程度整備され、申請書類のドラフトが出来る頃になると、主幹事証券会社の公開引受部門に審査前の事前チェックや助言・指導を受けます。一般的には主幹事証券会社とコンサルティング契約を締結し1年超の期間をかけて行われます。

公開引受部門の指導が終わると証券取引所の上場審査を受ける前に、主幹事証券会社の審査部門が第三者的立場で会社を厳しく審査します。

主幹事証券会社の役割は複雑多岐に亘りその一つ一つが重要ですので、主幹事としての経験と実績を考慮して証券会社を選択することがポイントといえます。

※ 証券会社によって、営業部門、公開引受部門、審査部門等の組織名称や役割は異なります。

4. 監査法人の選定

株式上場に際しては、証券取引所の規則により、申請書類に含まれる財務諸表等について金融商品取引法に準ずる監査を受けていることが必要です。このため、原則として監査が必要とされている期間(上場申請直前期以前の2年間)よりも前に監査法人と監査契約を締結する必要があります(第4章株式上場と監査法人の役割参照)。

監査法人は、監査契約を締結する前にショート・レビューを実施することが一般的です。

株式上場の意思がある程度固まったら、出来るだけ早い時期に監査法人に相談することが良いでしょう。また、近年、会計基準の改正、会社法の改正、金融商品取引法および同法施行に伴う内部統制監査の実施、各取引所の上場審査基準の変更等、上場準備に関係する変更が頻繁に行われています。株式上場の早道としては、株式上場の専門部署を設置し、株式上場の実績と指導経験の豊富な監査法人を選ぶことが大切です。

5. その他の関係者

株式上場では、証券会社や監査法人の他にも下表の関係者が直接的または間接的に関与することがあります。

関係者

株式上場における機能
ベンチャーキャピタル

上場準備会社への投資を通じて資金提供を行います。出資割合によっては会社経営への参画や経営管理体制整備のコンサルタント機能をはたすこともあります。

証券代行機関 株主名簿管理人として株主名簿の作成や配当処理等の株式に関する事務を円滑に行うための機関です。
印刷会社 上場時の申請書類の作成、上場後の有価証券報告書等ディスクロージャー書類の作成等を行います。
顧問弁護士 業務推進に関連する法律面での助言指導等を行います。
コンサルティング会社 経営管理体制整備についての助言・指導、コンピュータシステム構築に関する支援等を行います。
銀行等の金融機関 資金融資、人材や情報の提供等を行います。