IPOの基礎 第6章 経営管理制度の整備・運用

2017年7月27日
カテゴリー IPOの基礎

2017年7月発行のIPOガイドブックを転載したものであり、本文中特に断り書きのない限り、2017年3月31日現在の法令・規則等に準拠して作成しています。予算の内容・体系等に関するチェックポイント

上場会社には、個人的な経営から脱皮した組織的な企業運営が求められます。

上場審査では、「企業の継続性および収益性」および「企業経営の健全性」といった観点から、会社が利益を生み株主に利益を還元する収益構造を有しているか、また企業のコーポレートガバナンス及び内部管理体制の有効性の観点から、その利益を確保するための経営管理制度が適切に整備されているかについて確認されます。

経営管理制度は、原則として1年間の運用が求められています。
本章では具体的な整備のチェックポイント等について説明します。

1. コーポレートガバナンス制度の整備

(1) コーポレートガバナンス・コード

政府の成長戦略「『日本再興戦略』改訂2014」を受けて「コーポレートガバナンス・コード」(以下「コード」)が策定され、コードを適切に実践することにより、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られ、社会、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与するとの考えが明確に示されました。

(2) コードの構成

コードは、それぞれの会社が自らの置かれた状況に応じて、実効的なガバナンスを実現できるように「プリンシプル・ベース・アプローチ」(原則主義)が採用され、また、法令と異なり法的拘束力を有する規範ではないため、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか)の手法が採用されています。従って、「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことも想定されています。

<特定の事項を開示すべきとする11原則>
原則 内容

原則1-4

  • 上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。
  • 毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有の狙い・合理性について説明を行うべきである。
  • 上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべき。
原則1-7
  • 上場会社がその役員や主要株主等の取引(関連当事者間の取引)を行う場合には、そうした取引が会社や株主共同の利益を害することのないよう、また、そうした懸念のないよう、取締役会は、あらかじめ、取引の重要性やその性質に応じた適切な手続きを定めてその枠組みを開示するとともに、その手続きを踏まえた監視(取引の承認を含む)を行うべき。
原則3-1
  • 上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公平性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、(本コード(原案)の各原則において開示を求められている事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。
    1)会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画
    2)本コード(原案)のそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
    3)取締役会が経営陣幹部の報酬を決定するに当たっての方針と手続
    4)取締役会が経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続
    5)取締役会が上記(4)を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明
補充原則4-1 ① 取締役会は、取締役自身として何を判断・決定し、何を経営陣に委ねるのかに関連して、経営陣に対する委任の範囲を明確に定め、その概要を開示すべきである。
原則4-8
  • 独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
  • 業種・規模・事業特性・機関設計・会社を取り巻く環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示すべきである。
原則4-9
  • 取締役会は、金融商品取引所が定める独立性基準を踏まえ、独立社外取締役となる者の独立性をその実質面において担保することに主眼を置いた独立性判断基準を策定・開示すべきである。また、取締役会は、取締役において率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できる人物を独立社外取締役の候補者として選定するように求めるべきである。
補充原則4-11 ① 取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性および規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続きと併せて開示すべきである。
補充原則4-11 ② 社外取締役・社外監査役をはじめ、取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすために必要となる時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべき。こうした観点から、例えば、取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼務する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきであり、上場会社は、その兼任状況を毎年開示すべきである。
補充原則4-11 ③ 取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。
補充原則4-14 ② 上場会社は、取締役・監査役に対するトレーニングの方針について開示を行うべきである。
原則5-1 上場会社は、株主からの対話(面談)の申込みに対しては、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、合理的な範囲で前向きに対応すべきである。取締役会は、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針を検討・承認し、開示すべきである。

※ 下線は「開示」を求める対象

なお、コードは、5つの基本原則と各基本原則に対応する30の原則及び38の補充原則で構成され、コードのうち、原則1-4、原則1-7、原則3-1、補充原則4-1①、原則4-8、原則4-9、補充原則4-11①~③、補充原則4-14②、原則5-1は、「特定の事項を開示すべきとする11原則」とされています。

基本原則 原則

1 株主の権利・平等性の確保

1-1 株主の権利の確保
1-2 株主総会における権利行使
1-3 資本政策の基本的な方針
1-4 いわゆる政策保有株式
1-5 いわゆる買収防衛策
1-6 株主の利益を害する可能性のある資本政策
1-7 関連当事者間の取引

2 株主以外のステークホルダーとの適切な協働

2-1 中期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定
2-2 会社の行動準則の策定・実践
2-3 社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題
2-4 女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保
2-5 内部通報

3 適切な情報開示と透明性の確保

3-1 情報開示の充実
3-2 外部会計監査人

4 取締役会等の責務 4-1~3 取締役会の役割・責務
4-4 監査役及び監査役会の役割・責務
4-5 取締役・監査役等の受託者責任
4-6 経営の監督と執行
4-7 独立社外取締役の役割・責務
4-8 独立社外取締役の有効な活用
4-9 独立社外取締役の独立性判断基準及び資質
4-10 任意の仕組みの活用
4-11 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件
4-12 取締役会における審議の活性化
4-13 情報入手と支援体制
4-14 取締役・監査役のトレーニング
5 株主との対話

5-1 株主との建設的な対話に関する方針
5-2 経営戦略や経営契約の策定・公表

(3) 上場審査の取扱い

上場会社は、定時株主総会後、「準備でき次第、速やかに」コードに対応したガバナンス報告書の提出が必要となり、新規上場会社も既上場会社に準じることとされました。

市場第一部・市場第二部・マザーズ・JASDAQの上場会社は、コードを実施しない場合には、その理由を説明するものとします。ただし、マザーズ・JASDAQについては、新興企業向け市場を巡る国際的な動向及び我が国の新規産業育成の観点から、コードのうち「基本原則」部分を実施しない場合に、その理由を説明するものとなりました。また、「コードを実施しない場合の理由の説明」は、コーポレート・ガバナンス報告書に覧を新設して記載するものとします。

なお、マザーズ・JASDAQの上場会社は、コードのうち「基本原則」を実施しない場合に説明が必要になりますが、基本原則は「特定の事項を開示すべきとする11原則」に含まれないので、開示が必要なく、結果として「実施しない場合」の説明は不要となります。(任意の開示は可能)

2. 定款・諸規程の整備

社内規程は会社の業務が組織的に運営されるために必要なルールを明文化したものであり、上場審査では社内規程の整備が適正に行われていることと、実際に有効に運用されていることがチェックされます。

社内規程整備のためには、現存する社内規程を収集し、実際の業務慣行や上場審査の適用要件との整合性を検討し、改定や足りない規程を制定する必要があります。

一般的に最低限必要とされる規程およびその整備においての主なチェックポイントは以下の通りです。

規程整備のチェックポイント

  1. 規程は会社の実態に適合しているか。
  2. 規程間の整合性はとれているか。
  3. 規程は各種法令等に違反していないか。
  4. 運用実績は帳票、証憑等によって確認できるか。
  5. 各規程の管理担当部門は明確になっているか。
  6. 規程の改廃の時期は明確になっているか。
  7. 規程の改廃の手続きは機関決定されているか。
  8. 社員には周知徹底され、必要な規程はいつでも閲覧できるようになっているか。

3. 会社組織の整備

コーポレートガバナンスが十分に機能するためには、内部統制が構築されていることが必要です。上場会社としてのリスクヘッジ体制及び安全性を確保するために、各組織内および組織間に内部統制システムの整備と運用が求められます。

上場会社は、金融商品取引法において、経営者による財務報告に係る内部統制の有効性を評価した「内部統制報告書」を内閣総理大臣あてに提出すること、および監査法人の監査証明を受けることが義務付けられていますが(第7章参照)、会社法においても大会社の場合は内部統制システムの整備が求められています。

会社法が求める内部統制システムは次の通りです。

会社法の内部統制システムの体制

  1. 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保する体制
  2. 取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
  3. 損失の危険の管理に関する規程その他の体制
  4. 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
  5. 使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
  6. 当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制

会社組織見直しのチェックポイント

  1. 組織的な意思決定ができる体制になっているか。
  2. 職務と権限が有機的に結合した組織になっているか。
  3. 内部牽制が機能した組織になっているか。
  4. ライン部門とスタッフ部門が明確に区別されているか。
  5. 適切な人材・人員配置になっているか。
  6. スタッフ部門(管理部門)の強化・充実されているか。
  7. 安定的な労働力の確保ができているか。
  8. 組織変更を行った場合は、変更内容について社員に周知徹底され、関連する規程はいつでも閲覧できるようになっているか。

4. 意思決定機関の整備

(1) 機関設計

社内管理体制の骨格となるのは会社の機関です。会社法により株式会社の機関設計の選択肢は多様になりましたが、上場審査に要求されるコーポレートガバナンスや社内管理体制を充足するためには、上場までに、取締役会、監査役会・監査等委員会または指名委員会等、および会計監査人の設置が求められています。
上場後の一般的な機関設計は下記のとおりです。

機関設計

(注1)取締役会は取締役3名以上、監査役会は監査役3名以上で構成し、監査役会のうち半数以上は社外監査役でなければなりません。
(注2)監査等委員は取締役3名以上で構成し、監査等委員の過半数は社外取締役でなければなりません。
(注3)各委員会は取締役3名以上で構成し、各委員会の委員の半数以上は社外取締役でなければなりません。
(注4)会計参与はいずれの場合も任意で置くことができます。
(注5)JASDAQ(グロース)では、上場の日から1年を経過した日以後、最初に終了する事業年度に係る定時株主総会の日まで、監査役・会監査等委員会または指名委員会等、および会計監査人の設置が猶予されています。

各機関のチェックポイント

【株主総会】

  1. 定時株主総会は法令に従い定期的に開催され、臨時株主総会は必要に応じて開催されているか。
  2. 法令および定款の規定に従い、招集通知の発送手続きおよび記載事項に不備がないか。
  3. 議事録を作成し、原本は本店に10年間(謄本を支店に5年間)備え置いているか。

【取締役会】

  1. 会社法上は最低3カ月に1回以上の開催が必要であるが、上場審査上は毎月開催が求められる。
  2. 法定事項及び重要な業務執行については取締役会で決定し、取締役会の構成員である取締役に監督されているか。
  3. 議事録を作成し、本店に10年間備え置いているか。
  4. 取締役と会社との利益相反取引があれば取締役会の承認を得ているか。
  5. .取締役会の有する権限が取締役会規程などで明文化されているか。

【取締役】

  1. 名目だけの取締役はいないか(取締役会への出席状況の確認等)。
  2. 同族関係者だけで取締役の過半数を構成していないか。
  3. 取締役の職務権限及び担当部門は明確になっているか。
  4. 取締役の員数が業容に比べて極端に少なくないか。
  5. 親子会社間の取締役の兼任状況は適切か。

【監査役及び監査役会】

  1. 名目だけの監査役はいないか。経営者の配偶者や親族の監査役への就任は原則として不可。
  2. 取締役会に毎回出席しているか。取締役会議事録に出席記録が残されているか。
  3. 常勤監査役が選任され、複数人体制での監査実績があるか。
  4. 監査役または監査役会の監査実施状況は適切か。また監査実施記録を作成し適切に保管されているか。
  5. 社外監査役は会社法で定める資格要件を満たしているか。
  6. 内部監査人および会計監査人(設置している場合)と適切に連携しているか。

(2) 稟議制度

稟議制度は個別案件の意思決定に当たり職務権限の行使を統制する手段です。株式上場にあたっては、組織的かつ迅速な経営活動が行えるように、職務権限規程等を整備し、会社諸規程と連動しバランスのとれた稟議制度を整備することが必要です。

稟議制度のチェックポイント

  1. 適切な権限と責任の委譲が行われており、職務分掌が明確になっているか。
  2. 稟議書の様式は全社統一されたものになっているか。
  3. 事後稟議になっていないか。
  4. 稟議の管理(受付)部門が定められ、記載事項の漏れや必要添付書類の有無の確認が行われ、稟議の決裁の進捗状況を管理できる体制となっているか。

上場審査では、規程どおりに制度が運用されていることがチェックされます。

5. 利益管理制度の整備

上場会社は、投資家に対する利益還元責任や社会的責任を果せるかどうかを投資家保護の観点から厳しく問われますので、上場審査においても利益管理制度の整備は最も重要視され、運用状況は上場承認の直前まで厳しくチェックされます。

利益管理制度は、①長期的経営ビジョンを実現するための中期的な利益計画や行動計画を含む中期経営計画の策定、②中期経営計画の信頼性を担保するための年度予算の編成、③年度予算を達成するための予算統制から成り立ちます。そして、予算統制は、月次を管理サイクルとして、部門単位等に細分化した予算単位での制度整備と運用が求められます。

また、利益管理制度は連結ベースで行うことが求められます。

(1) 中期経営計画の策定

中期経営計画は、一般的に3年から5年間の計画を策定します。策定の時期は新しい事業年度が始まる前までに行われ、同事業年度の第4四半期位から実績を勘案して、次年度以降の見直し(ローリング)が求められます。

中期経営計画は、経営者の思い付きや希望的観測、形だけのものであってはいけません。特に、売上高計画や利益計画等の数値計画は、合理的な根拠に基づき作成されたものでなければなりません。

上場審査では、中期経営計画についてその内容だけでなく、経営に有効に機能しているか否かの確認と、立案・決定・修正・社員への周知等一連の手続きまで総合的にチェックされます。

中期経営計画(3年程度)策定のチェックポイント

  1. 経営理念や経営方針は明確になっているか。
  2. 自社の現状を理解・分析し、自社の強みと弱みを把握した上で、強みを伸ばし弱みを補うための方策が検討されているか。
  3. 自社の環境の変化の要因を客観的かつ正確に把握し、自社に与える影響を予測し、対策を検討しているか。
  4. 将来自社が進むべき中期的方向性を定性的ビジョン(事業構成・市場における位置等)、定量的ビジョン(売上高、利益、人員、設備投資等の基本的かつ重点的項目)として具体的に決定しているか。
  5. 中期ビジョンを具体的に達成するための方策として中期経営戦略が現実的に策定されているか。
  6. 定量的ビジョンは予算管理制度と関連付けられているか。
  7. 計数計画は具体的な根拠に基づいて成り立っているか。
  8. 社員に周知徹底されているか。

(2) 予算管理制度の確立

中期経営計画の初年度が年度経営計画にあたり、行動計画と結びついた計数計画を詳細に編成した(または割振った)ものが年度予算といわれます。

年度予算の内容は、中期経営計画と整合がとれて、合理的な根拠に基づいたものでなければなりません。
また、単に損益予算だけではなく、資金予算や投資予算と結びついた、総合予算である必要があります。

株式上場では、特に損益予算について、事業計画が合理的であるかを判断するため、上場申請直前期の年度計画に対する達成度や上場申請期の年度予算に対する達成度を月単位で審査されますので、予算編成時の計画策定能力と精度を高めることが強く求められます。

また、予算と実績に差異が生じた場合の会社の対応能力についても重要視されます。上場後は業績予想という形で開示します。会社が公表した数値に下方または上方に差異が生じた場合、速やかな業績修正の開示が義務付けられますので、上場準備段階からの対応が必要です。

予算編成能力を高め、月次決算の確立をベースに、Plan⇒Do⇒Check⇒Actionの経営管理サイクルを運用することは、株式上場審査では重要なポイントですが、非上場会社の経営においても安定的な経営活動を行うためには不可欠な制度といえます。

予算の内容・体系等に関するチェックポイント

  1. 予算の内容に経営方針が織り込まれ、中期経営計画と整合しているか。
  2. 予算の編成方針の内容が明確にされているか。
  3. 予算の内容は損益予算だけではなく、資金予算、投資予算等を含んだ総合予算となっているか。
  4. 連結ベースで利益計画が整備されているか。
  5. 予算の内容は合理的根拠に基づき作成されているか。
  6. 予算の内容は、月別、部門別、製品別等予算統制に必要な管理区分に分けられているか。
  7. 予算は実行可能なものであり、予算達成のための具体的施策が検討され提示されているか。
  8. 直近事業年度及び申請事業年度について、申請時点での予算と実績の乖離と、その原因が明確に分析、検討されているか。

予算編成に関するチェックポイント

  1. 予算の編成の手続きは、トップダウンの予算ではなく、ボトムアップ方式をとりいれ部門の意見を反映した内容となっているか。
  2. 各部門の予算管理における権限と責任は明確になっているか。
  3. 予算の立案手続きは適切に行われているか。
  4. 予算の各部門への割当、伝達と、予算実行に当たっての管理責任が明確にされているか。
  5. 予算は取締役会によって承認されているか。

予算統制に関するチェックポイント

  1. 予算管理の単位は合理的に設定されているか。
  2. 予算と実績との差異分析は月次ベースで行われているか。
  3. 月次予算と実績との差異についての原因分析は明確に行われているか。
  4. 予算管理単位別、全社ベース及び連結ベースでの差異分析が実施されているか。
  5. 経営管理への利用のため、差異の内容についての全社的な報告・検討などのフォローアップ体制が整備されているか。
  6. 差異分析の結果に応じて適切かつ迅速な対策が実施されているか。
  7. 予算の金額修正及び修正手続きについて明確な定めがあり、その定めに従って適切に修正が行われているか。

6. 月次決算体制の確立

経営の舵取りを適切に行うためには、Plan⇒Do⇒Check⇒Actionの経営管理サイクルを継続的かつタイムリーに運営し、経営判断を行うことが重要です。

会計制度では、経営判断の基礎となる月次決算情報を、正確かつタイムリーに経営陣に提供できる体制を確立することが必要です。

また、株式上場後は四半期情報の開示を求められますので、上場準備の段階で開示ルールを遵守できる体制を整えなければなりません。

月次決算のタイミングは、経営判断の情報としての価値をもたせるために、一般的には遅くとも翌月の10営業日位迄に月次決算を完了することが求められます。また、月次決算での会計処理は、減価償却費や引当金、賞与等については月割りまたは一定の基準を設けて按分するなどの処理を行い、年度決算と同じ会計処理が求められます。

なお、連結子会社がある会社の場合は、連結ベースでの月次決算に対応する必要があります。

月次決算に関するチェックポイント

  1. 月次決算が正確かつ迅速に行われ上場後の四半期報告制度への対応が可能か。
  2. 年度決算と同様の会計処理が行われているか。
  3. 月次決算が部門別、製品別等の細分化された単位ごとになされているか。
  4. 月次決算と予算の対比がなされ取締役会等へ報告されているか。
  5. 連結ベースでの月次決算がなされているか。
  6. 月次決算制度を確立するための前提となる、販売管理制度、購買管理制度、原価計算制度、棚卸資産受払制度等の諸制度が整備されているか。

7. 原価計算制度の確立と棚卸資産の継続受払記録の作成

製造業や一部のサービス業(ソフトウェア開発等)では、原価計算制度の導入が必要となります。原価計算制度の整備の検討にあたっては、実際にどれくらいのレベルで行うのか、監査法人等と十分に打合せを行うことが大切です。

また、製造業や流通業等で原材料、製品、商品等の棚卸資産を保有する会社では、棚卸資産の継続受払記録を作成し、現物在庫と帳簿の残高とを整合させる運用を行うことが必要です。継続受払記録は、利益管理、在庫管理を適切に行うために必要な管理資料であり、製造業においては原価計算に必要ですので必ず作成しなければなりません。

原価計算制度の構築や棚卸資産の継続受払記録は、整備および運用に手間が掛かるうえ、複雑なシステムが必要となる場合もあるため、非上場会社の中には導入あるいは作成していない会社も散見されます。そのような会社は、株式上場の意思決定を行った場合、出来る限り速やかにシステムを構築し、原則として、監査対象期間には運用することが必要です。

8. 業務管理制度の整備・運用

企業が成長していくためには、それを支える組織的な企業運営が構築されている必要があります。上場審査では、主要な業務処理手続についてはフローチャート等をもとに審査されます。また、経営管理組織の業務分掌と権限を適切かつ明確に規定し、内部牽制を有効に機能させることが必要です。

内部牽制とは、一つの業務処理等に組織間または組織内で2人以上が、横断的または縦断的にかかわることにより、業務フローで生じる不正や誤謬を未然に防ぐ機能のことをいいます。

業務の区分 対象となる業務やポイント
販売管理制度 ①契約締結業務、②受注業務、③販売業務、④回収業務、⑤与信管理業務 等
購買管理制度 ①発注業務、②購買業務、③支払業務、④外注管理業務 等
在庫管理制度
①在庫計画、②継続受払記録の整備、③「実地棚卸」、④「棚卸資産の評価に関する会計基準」適用への対応 等
財務管理制度
①資金管理(資金計画、資金調達、資金運用)、②出納管理(現金・預金管理、有価証券管理、手形管理) 等
固定資産管理制度
①設備計画と設備予算、②固定資産取得、③固定資産処分、④固定資産現品管理、⑤リース資産管理 等

業務管理制度の整備・運用に関するチェックポイント

  1. 経営資源の配置や意思決定権限の委譲等が適正であるか。
  2. 組織間や担当者間で相互に牽制機能が有効に働いているか。
  3. 各組織の分業体制が構築されているか。
  4. 諸取引が文書等に基づいて行われているか。

内部牽制の主なチェックポイント

  1. 内部牽制を阻害する職務の兼務はないか。
    (例)
    × 監査役兼内部監査室長(監査役が取締役または従業員の職務である内部監査を兼務することは会社法で禁止されている)
    × 経理部長(または総務部長)兼内部監査室長(監査主体と監査対象者が同一だと牽制機能は効かない)
  2. 内部牽制を阻害する業務分担はないか。
    (例)
    × 社長秘書による手形・小切手の管理
    × 購買発注担当者による買掛金の支払
  3. 内部牽制を阻害する業務処理はないか。
    (例)
    × 取引承認、取引実行、記録が同一担当者によって実施されている。

9. 内部監査制度の整備

内部監査制度とは、経営者に代わって社長直属の担当責任者が、各部門の行う業務が法令、社内規程、経営計画等に準拠して遂行され、効果的かつ効率的な経営が行われているか否かをチェックして、業務改善に資する情報を経営者にフィードバックする制度をいいます。上場審査では、内部監査制度は原則として1年間の運用実績が求められます。

内部監査の主なチェックポイント

  1. 内部監査の責任者は相応の経歴があるか。
  2. 内部監査計画書、日程表、実績表、監査手続書、報告書はあるか。
  3. 指摘事項に対する改善結果報告はなされているか。
  4. 内部監査部門は会計監査人や監査役との適切な連携関係をもっているか。

10. 労務管理の整備

継続的な企業経営を行うために、人材は重要な経営資源です。

上場審査では会社の継続性、成長性、健全性及びコンプライアンスの観点から、人事制度や労務管理の状況を確認されます。

労務管理のチェックポイント

  1. 人事労務管理の基本方針は明確になっているか。
  2. 就業規則が制定され、適時に変更され、届出がなされているか。
  3. 法令に定められた届出はなされているか(36協定等)。
  4. 社員の定着率は悪くないか。
  5. 経営上重要な社員が受入出向者等になっていないか。
  6. 労働保険や社会保険の手続きは適法に行われているか。
  7. 時間外手当の支払ルールは明確かつ適法に行われているか。
  8. 管理監督者の範囲は適切か。
  9. 労働基準監督署の調査による指摘は是正されているか。

11. 会計制度の整備

非上場会社の決算は、一般的に法人税法等の規定を中心とした税務会計に基づいた処理が行われていますが、株式上場を目指す場合には、企業会計原則を頂点とした企業会計に関する諸法規、規則および日本公認会計士協会の各種報告書等から、一般に公正妥当な会計処理基準に準拠した会計制度を確立する必要があります。

また、上場会社は連結決算を中心とした開示が求められることになるため、連結決算制度を正しく理解し、上場準備の段階から連結決算に対応した会計システムを構築する必要があります。

12. 株式事務の整備・運用状況

株式事務の整備・運用に関しては、以下のような点に留意すべきです。なお、上場会社は株券等振替制度の利用が義務付けられており、株券は電子化されています。

このため、指定保管振替機関(株式会社証券保管振替機構)における株券等の取扱いに同意または同意する見込みがあることが上場の要件となっています。

チェックポイント

  1. 株式取扱規程が整備されているか。
  2. 担当者及び責任者が明確で所定の承認決裁手続がとられているか。
  3. 株券の発行状況が正しく把握されているか。
  4. 株式事務代行機関は選定されているか。

IFRS上場について

平成25年10月に連結財務諸表規則が改正され、IFRS適用要件から「上場」の文言が削除されIFRS上場が可能となりました。2017年5月15日現在、下記10社がIFRS上場しています。

会社名 業種分類 適用時期
上場日
すかいらーく 小売業 2013年12月期 2014年10月9日
テクノプロ・ホールディングス サービス業 2014年6月期 2014年12月15日
ベルシステム24ホールディングス サービス業 2015年2月期 2015年11月20日
ツバキ・ナカシマ 機械 2014年12月期 2015年12月16日
コメダホールディングス 卸売業 2016年2月期 2016年6月29日
LINE 情報・通信業 2015年12月期 2016年7月15日
ベイカレント・コンサルティング サービス業 2016年2月期 2016年9月2日
マクロミル 情報・通信業 2016年6月期 2017年3月22日
ソレイジア・ファーマ 医薬品 2015年12月期 2017年3月24日
スシローグローバルホールディングス 小売業 2016年9月期 2017年3月30日

(注)日本取引所グループホームページより抜粋

IFRS上場時の留意点

IFRSは原則主義であり、基準自体には基本的に原理原則のみが明示されています。そのため、会計方針の適用に辺り、判断が求められ、会計方針策定のために一定の準備期間が必要です。

また、IFRSを初めて適用する企業はIFRS開始財政状態計算書の開示が求められます。IFRS開始財政状態計算書とは、IFRSを適用し最初開示する期間の比較対象期間(開示する期間の前の期)の開始日における財政状態計算書になります。そのため、初めてIFRSで開示を行うためには、実質的に3期分をIFRS適用後の財務数値に修正する必要があります。

IFRSで開示を行う場合、連結財務諸表はIFRSでの開示となりますが、個別財務諸表は日本基準での開示となります。そのため、IFRSと日本基準の間での修正が必要になり、経理処理や開示書類作成負担等が増大します。

IFRS上場している会社の特徴

IFRS上場している会社の特徴として再上場の会社が多い(10社中8社)、のれんを計上している会社が多い(10社中10社)ことが特徴としてあげられます。IFRS適用により海外企業との比較可能性が高まるため、海外から資金調達や海外企業のM&Aを検討している会社がIFRS適用しているケースが多いのではないかと考えられます。また、IFRSと日本基準の代表的な相違点としてのれんの取扱いの違いがあります。

  IFRS 日本基準
のれん
償却は行わず、毎期減損テストを実施する。 一定期間にわたって、償却を行う

IFRSを適用した場合、のれんの償却費が発生しないため、のれんの償却による業績への負担を回避することができ、のれんを巨額に計上している企業にとってはIFRS適用により大きな影響があります。