関連法令等の改正

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EY Japan

2021年4月20日
カテゴリー IPOの動向

EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
公認会計士 松本 美咲

1. 企業会計基準委員会(ASBJ)は2021年1月28日に実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」を公表

企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」という)は2021年1月28日付で実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」を公表しています。

2019年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)により、「会社法」(平成17年法律第86号)第202条の2において、金融商品取引所上場企業を対象に取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められました。これを受けてASBJは取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする場合における会計処理及び開示について審議を行い、2021年1月27日開催の第450回企業会計基準委員会において、実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」、改正企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」及び適用指針の公表が承認されました。本実務対応報告は2020年9月11日に公開草案を公表し広くコメント募集を行った後、寄せられたコメントを検討し、公開草案の修正を行ったうえで公表するに至ったものです。

(1) 本実務対応報告等の概要

① 適用範囲

会社法第202条の2に基づき、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を対象とします。いわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等としたうえで、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引については適用されません。

② 会計処理

(ア) 基本的な考え方

適用対象とする取締役の報酬等として株式を無償交付する取引については、いわゆる事前交付型と事後交付型が想定されます。自社の株式を報酬として用いる点で、自社の株式オプションを報酬として用いるストック・オプションと類似性があります。両者はインセンティブ効果を期待して自社の株式又は株式オプションが付与される点で同様であるため、費用の認識や測定については、ストック・オプション会計基準の定めに準じることとしました。一方、株式が交付されるタイミングが異なる点や、事前交付型において、株式の交付の後に株式を無償で取得する点については、取引の形態ごとに異なる取扱いを定めています。

(イ) 事前交付型

取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限が付された株式の発行等が行われ(会社法における割当日)、権利確定条件が達成された場合には譲渡制限が解除されますが、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する(以下、無償取得することが確定することを「没収」という)取引を事前交付型と定義しています。新株の発行により行う場合と自己株式の処分により行う場合が想定されるため、それぞれ会計処理を定めています。

・新株の発行により行う場合の会計処理

割当日における取扱いとして、当初の割当日において新株を発行し発行済株式総数は増加しますが、その時点では資本を増加させる財産等の増加は生じていないため、割当日には払込資本を増加させません。

対象勤務期間における取扱いとして、ストック・オプション会計基準と同様に、企業が取締役等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上します。各会計期間における費用計上額は、株式の公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額とします。また、当該会計処理により年度通算で費用が計上される場合は対応する金額を資本金又は資本準備金に計上し、年度通算で過年度に計上した費用を戻し入れる場合はその他資本剰余金から減額します。

没収によって企業が無償で株式を取得したときは、自己株式の無償取得として、自己株式の数のみの増加として処理を行います。

・自己株式の処分により行う場合の会計処理

割当日における取扱いについて、自己株式を処分するため、その時点で自己株式の帳簿価額を減額するとともに、同額のその他資本剰余金を減額します。

対象勤務期間における取扱いとして、ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額をその他資本剰余金として計上します。

没収によって企業が無償で株式を取得した場合は、当初の割当日において減額した自己株式の帳簿価額の農地、無償取得した部分に相当する額の自己株式を増額し、同額のその他資本剰余金を増額します。

(ウ) 事後交付型

取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる(会社法にける割当日)取引を事後交付型と定義しています。新株発行により行う場合と自己株式処分により行う場合の会計処理をそれぞれ定めています。

・新株の発行により行う場合の会計処理

対象勤務期間における取扱いとして、ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応金額を新株発行が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株式資本以外の項目に株式引受権として計上します。

権利確定条件を達成した後の割当日に、株式引受権として計上した額を資本金又は資本準備金に振り替えます。

・自己株式の処分により行う場合の会計処理

対象勤務期間における取扱いにおいて、ストック・オプション会計基準と同様に、各会計期間において報酬費用の認識と測定を行い、対応する金額を自己株式の処分が行われるまでの間、貸借対照表の純資産の部の株主資本の以外の項目に株式引受権として計上します。

権利確定条件を達成した後の割当日に、自己株式の取得原価と株式引受権の帳簿価額との差額を、自己株式処分差額としてその他資本剰余金を増額させます。

③ 開示

実務対応報告では、費用の認識や測定はストック・オプション会計基準の定めに準ずるので、開示も同様にストック・オプション会計基準の注記事項を基礎とします。ストック・オプションと事前交付型、事後交付型とのプロセスの違いを考慮して、注記することとなります。

2. 「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」の施行

デジタルプラットフォーム運営事業者とデジタルプラットフォームの利用事業者間の取引の透明性と公正性確保のために必要な措置を講ずる「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が2021年2月1日に施行され、あわせて政令が閣議決定されました。今後大規模な物販総合オンラインモール運営事業者及びアプリストア運営事業者が同法の規律対象者として指定されることとなります。

① 法律の概要

近年、デジタルプラットフォームが利用者の市場アクセスを飛躍的に向上させ、重要な役割を果たしています。他方、一部の市場では規約の変更や取引拒絶の理由が示されないなど、取引の透明性が低いことや、商品等提供利用者の合理的な様相に対応する手続・体制が不十分であること等の懸念が指摘されている状況を踏まえ、取引条件等の開示、運営における公正性確保、運営状況の報告と評価及び評価結果の公表等の必要な措置を講ずるため、制定されました。なお、デジタルプラットフォーム提供者の自主的かつ積極的な取組を基本に、国の関与等を必要最小限のものとして、デジタルプラットフォーム提供者と商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図らなければならないこととしています。

② 指定事業区分及び規模

物販総合オンラインモールでは3,000億円以上の国内売上額、アプリストアでは2,000億円以上の国内売上額の事業者を対象とします。

③ 特定デジタルプラットフォーム提供者に対する措置

下記について、経済産業大臣が定める指針に基づき対応が必要となります。

  • 特定デジタルプラットフォームの取引条件等の情報の開示
  • 自主的な手続き・体制の整備
  • 運営状況の報告と評価

④ 公正取引委員会との連携

独占禁止法違反の恐れがあると認められる事案を把握した場合には、公正取引委員会に対し、同法に基づく対処を要請する仕組みを設けます。

3. 上場準備会社の対応

今回取り上げた実務対応報告は上場企業を対象としております。しかし、取締役の報酬等として株式を無償交付することは、上場準備会社として上場後の資本政策手段の一案となるでしょう。資本政策は一度実行するとやり直しがきかないため、上場後を踏まえた中長期的な資本政策を策定し、リスク低減を図ってください。

特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律は、同様の法律がEU諸国でもあり、日本より内容は厳しいものとなっています。このため日本の法律は透明性や公正性の確保の意識を各企業に醸成させることを目的としていると想定されます。健全な市場を確保するには取引の透明性や公正性は欠かせません。より良い市場の拡大に微力ながらお役に立てれば光栄です。