関連法令等の改正

EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
公認会計士 大川 真邦

1. 2021年6月11日、東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」を公表

2021年4月、東京証券取引所は、「フォローアップ会議の提言を踏まえたコーポレートガバナンス・コードの一部改訂に係る上場制度の見直しについて(市場区分の再編に係る第三次制度改正事項)を公表しました。本改正において金融庁及び東京証券取引所が事務局を務める「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」によりコーポレートガバナンス・コードの改訂が提言されたことを踏まえ、「コーポレートガバナンス・コード(改訂案)」が公表され、パブリックコメントを経て、「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」が2021年6月11日に公表されています。2015年に東京証券取引所が有価証券上場規程として策定したコーポレートガバナンス・コードは定期的な改訂を行うこととされており、2018年に第1回目の改訂がなされています。今回はそれに続く2回目の改訂です。
東京証券取引所は2022年4月に「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3市場に整備され、特にプライム市場に上場する企業については、日本を代表する投資対象として、優良な企業が集まる市場にふさわしいガバナンス水準を求めていく必要があるとして他の市場区分と比較して一段高い水準のガバナンスを求められることになります。今回の改訂においてその水準が示されています。
 

2. コーポレートガバナンス・コードとは

東京証券取引所は、コーポレートガバナンスについて、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。」として、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を「コーポレートガバナンス・コード」として取りまとめています。コードは、それぞれの会社が自らの置かれた状況に応じて、実効的なガバナンスを実現できるように「プリンシプル・ベース・アプローチ」(原則主義)が採用され、また、法令と異なり法的拘束力を有する規範ではないため、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか)の手法が採用されています。従って、「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことも想定されます。「基本原則」は、5つのベースとなるルールが定められており、それらをより具体化したものが「原則」・「補充原則」といった関係になっています。
 

3. コーポレートガバナンス・コードの主な改訂内容

2018年6月1日に改訂されたコードは、5つの基本原則と各基本原則に対応する31の原則及び42の補充原則で構成されていました(全78原則)。今回の改訂でコーポレートガバナンス・コードの原則・補充原則の改訂及び補充原則が5つ追加され、5つの「基本原則」・31の「原則」・47の「補充原則」から構成されることになりました(全83原則)。なお、本コードの改訂は2021年6月11日から施行されます。ただし、コードの各原則に規定された内容のうち、プライム市場の上場会社のみを対象とするものについては、2022年4月4日から適用されます。

主に、①取締役会の機能発揮、②企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保、③サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性をめぐる課題への取組み)に関して改訂が行われています。主要な改訂内容は表1のとおりです。

2018年のコーポレートガバナンス・コード改訂以降も政府はガバナンス改革を重点施策としています。今回のコーポレートガバナンス・コードの見直しは、ガバナンス改革をさらに実質化し深化させることを目的とするものです。プライム市場においては一段高い水準のガバナンスが求められています。

表1

プライム市場

プライム市場以外

①取締役会の機能発揮

原則4-8[改訂]

独立社外取締役を3分の1以上選任すべき(必要に応じて過半数推奨)

変更なし
《独立社外取締役を2名以上選任すべき(必要に応じて3分の1以上推奨)》

補充原則4-8③[新設]

支配株主を有する会社は、独立社外取締役を過半数選任する、または独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべき

支配株主を有する会社は、独立社外取締役を3分の1以上選任する、または独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべき

補充原則4-10①[改訂]

指名委員会・報酬委員会について構成員の過半数を独立社外取締役とし、委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべき

補充原則4-11①[改訂]

取締役会にて必要なスキルを特定し、取締役の有するスキル等の組み合わせを開示すべき

独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべき

 

② 企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保

補充原則2-4①[新設]

女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等の多様性の確保の考え方、目標、状況を公表すべき

女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等の多様性の確保の考え方、目標、状況を公表すべき

③ サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み

補充原則3-1③[新設]

自社のサステナビリティの取組みを適切に開示すべき
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)又は同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべき

自社のサステナビリティの取組みを適切に開示すべき

④ その他個別の項目

補充原則5-2①[新設]

事業ポートフォリオの基本方針や見直しの状況について示すべき

事業ポートフォリオの基本方針や見直しの状況について示すべき


4. 上場準備会社の対応

プライム市場、スタンダード市場では全コードの原則が適用され、グロース市場では、基本原則のみが適用されます。プライム市場、スタンダード市場への上場を目指すにあたっては、全コードの原則が適用されますので、今回の改訂を踏まえたガバナンス体制を検討する必要があります。グロース市場への上場を目指すにあたっては、今回基本原則については改訂がなされていませんので、これまで基本原則を念頭に上場準備を進めてきた会社にあっては特段この改訂による影響はないと考えられますが、ガバナンス体制の構築にあたっては補充原則等も参照し、検討を進めることが有用であると考えられます。例えば補充原則4-8③において「支配株主を有する上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任するか、または支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う、独立社外取締役を含む独立性を有する者で構成された特別委員会を設置すべきである。」とされています。補充原則はグロース市場に上場する会社には適用されないものの、支配株主(支配株主のみならず、それに準ずる支配力を持つ主要株主)を有する会社にあっては当該補充原則の趣旨に鑑みた適切な対応が望まれるところです。

また、コードの理解にあたってはコードの附属文書として位置付けられている「投資家と企業の対話ガイドライン」についても参照すべきと考えられます。上場審査にあたってはコーポレートガバナンス報告書の提出が求められます。形式的な記載となることがないよう企業の目指すべき方向を明確にし、どのように対応すべきか道筋を立て、適切に対応を行うことが重要です。