EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
クロスボーダー上場支援オフィス
マネージャー 公認会計士 田中 康俊
第1四半期における世界のIPO市場は、上場数299件、調達額215億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数8%減少、調達額61%減少となりました。2022年度より継続しているインフレ、金利上昇に加え、米国での銀行破綻等を要因として世界のIPO市場は依然として低迷が続く結果となりました。
セクター別の件数では、テクノロジーセクターが62件で首位に立ち、製造業セクターが54件で続く結果となりました。
調達額では、エネルギーセクターが59億米ドルで首位に立ち、製造業セクターが46億米ドルで続く結果となりました。数年間にわたり、IPO市場を牽引してきたテクノロジーセクターが件数では首位を維持しています。しかし、暗号資産の価値暴落等により、企業価値が下落した企業が現れ、平均調達額が低迷しました。調達額上位10社中、エネルギーセクターが4社を占め、同セクターが首位となりました。メガIPOはエネルギーセクターで1件、調達額は25億米ドルとなりました。新興国市場では小型IPO、中国及び米国市場では相対的に大型のIPOが実施されました。
第1四半期における南北アメリカエリアのIPO市場は、上場数40件、調達額26億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数11%増加、調達額9%増加となりました。
米国のIPO市場は、上場数31件、うち、調達額5,000万米ドル以上の案件が8件ありました。カナダのIPO市場は、2022年5月以来最大となる調達額1億米ドル以上の案件がありました。
同エリアのIPO市場は、インフレ継続、金利上昇、株式市場のボラタリティー上昇といった環境下において、比較的緩やかなレベルで推移しています。いくつかの前向きな見通しが出ており、市場の回復に弾みがつく可能性があります。
第1四半期におけるアジア太平洋エリアのIPO市場は、上場数175件、調達額127億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数6%減少、調達額70%減少となりました。第1四半期における世界全体の上場数に占める割合は59%となりました。
中国本土では、2023年初めにゼロコロナ政策を全面的に解除したにも関わらず、中国本土のIPO市場は減速傾向が続きました。しかし、同市場の調達額が第1四半期における世界全体の40%以上を占めています。
香港のIPO市場は、例年より低調に推移しました。アジア太平洋エリアの投資家が市場回復への期待を持ち、投資機会を探っており、全般的に、静観姿勢が見られました。
第1四半期におけるEMEIAエリアのIPO市場は、上場数84件、調達額62億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数19%減少、調達額36%減少となりました。多くの企業が市況を考慮し、IPOの申請を中止又は延期したこと等がその要因となりました。EMEIAエリアは世界で唯一メガIPOが行われた地域となりました。
インドのIPO市場は、EMEIAエリアの中で件数が最大でしたが、調達額は対前年同四半期比では83%減少となりました。
第1四半期におけるクロスボーダーIPOは、上場数18件、調達額13億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数13%増加、調達額78%増加となりました。中国企業による米国及びスイスへの上場が行われ、今後も増加すると見込まれます。
第1四半期のSPAC関連のIPO件数は16件、調達額は9億米ドルとなりました。対前年同四半期比では、件数78%減少、調達額92%減少となりました。件数は6年ぶりの低水準となり、調達額は2016年第2四半期以来最低の水準まで落ち込みました。
2021年前半に上場した多数のSPACが償還期限を迎えます。SPACとの合併後、被買収企業は大方の予想に反して厳しい状況に直面しています。SPACは期限までに合併を完了できず清算に至るケースが多いことに加え、私募増資(PIPE)の規模縮小も影響し、資金調達額が当初の想定を下回る結果となりました。そのため、企業はより多くの資金を募る必要がありますが、低調に推移する株価や株式流動性の低さから、投資家による出資を期待することは難しいのが現状です。2023年3月21日現在、2019年~2023年にターゲット企業との合併を完了したおよそ390社の米国SPAC銘柄のうち、90%が10米ドル未満の株価で取引されています。
インフレ、金融業界における信用リスク問題が世界経済及びIPO市場の減速に拍車をかける虞があります。このような環境下で、IPOを目指す企業は資金調達が厳しくなっています。投資家が潜在的な成長力よりも収益性、キャッシュ・フローに注目した投資機会に注目していることに留意が必要です。ストックコネクト(異なる国・地域の証券取引所間で相互に証券取引・決済を可能にするシステム)等の枠組みを利用し、重複上場、クロスボーダー取引を行う等、自国以外からの資金調達を実施することも有効な手段と考えられます。
エリア |
IPO件数 |
調達額※ |
||
---|---|---|---|---|
|
2022年1Q |
2023年1Q |
2022年1Q |
2023年1Q |
南北アメリカ |
36 |
40 |
24 |
26 |
アジア太平洋 |
186 |
175 |
427 |
127 |
欧州・中東・インド・アフリカ(以下、EMEIA) |
104 |
84 |
95 |
62 |
全世界合計 |
326 |
299 |
546 |
215 |
※単位: 1億米ドル |
セクター |
IPO件数 |
調達額※ |
||
---|---|---|---|---|
2022年1Q |
2023年1Q |
2022年1Q |
2023年1Q |
|
テクノロジー |
57 |
62 |
99 |
38 |
製造業 |
56 |
54 |
48 |
46 |
素材 |
57 |
49 |
59 |
22 |
消費財 |
23 |
29 |
8 |
7 |
生活必需品 |
20 |
25 |
22 |
9 |
ヘルスケア・ライフサイエンス |
48 |
22 |
51 |
12 |
エネルギー |
17 |
18 |
123 |
59 |
メディア・エンターテインメント |
5 |
13 |
4 |
3 |
不動産 |
15 |
10 |
8 |
2 |
小売 |
14 |
10 |
23 |
5 |
金融 |
8 |
5 |
17 |
11 |
テレコム |
6 |
2 |
86 |
1 |
合計 |
326 |
299 |
546 |
215 |
※単位: 1億米ドル |
順位 |
市場 |
IPO件数 |
割合 |
---|---|---|---|
1 |
インドナショナル(NSE and SME) and ムンバイ (BSE and SME) |
42 |
14% |
2 |
インドネシア(IDX) |
30 |
10% |
3 |
米国(NASDAQ) |
29 |
10% |
4 |
北京(BSE) |
24 |
8% |
5 |
深セン(Main Board and ChiNext) |
23 |
8% |
6 |
上海(Main Board and STAR market) |
23 |
8% |
7 |
東京(Prime, Growth, Standard, REIT, Pro Market) |
16 |
5% |
8 |
香港(Main Board and GEM) |
15 |
5% |
9 |
韓国(KRX and KOSDAQ) |
13 |
4% |
10 |
タイ(SET and MAI) |
10 |
3% |
10 |
マレーシア(Main, ACE and LEAP Market) |
10 |
3% |
10 |
サウジアラビア(Tadawul and Nomu Parallel Market) |
10 |
3% |
その他 |
54 |
19% |
|
全世界合計 |
299 |
100% |
|
順位 |
市場 |
IPO件数 |
割合 |
---|---|---|---|
1 |
深セン |
47 |
22% |
2 |
上海 |
43 |
20% |
3 |
アブダビ(ADX) |
30 |
14% |
4 |
米国(NASDAQ) |
21 |
10% |
5 |
インドネシア |
8 |
4% |
6 |
香港 |
8 |
4% |
7 |
東京 |
6 |
3% |
8 |
北京 |
6 |
3% |
9 |
イタリア(Borsa Italiana and AIM) |
5 |
2% |
10 |
米国(NYSE) |
4 |
2% |
10 |
ドイツ(Deutsche Börse) |
4 |
2% |
10 |
スイス(SIX) |
4 |
2% |
その他 |
29 |
12% |
|
全世界合計 |
215 |
100% |
|
2022年 |
2023年 |
|
---|---|---|
中国 |
1 |
13 |
イスラエル |
2 |
1 |
ブラジル |
0 |
1 |
シンガポール |
0 |
1 |
カナダ |
1 |
1 |
その他 |
12 |
1 |
合計 |
16 |
18 |
調達額(1億米ドル) |
7 |
13 |
(出典: EY analysis, Dealogic) |
2022年 |
2023年 |
|
---|---|---|
米国 |
8 |
15 |
スイス |
0 |
2 |
ノルウェー |
1 |
1 |
その他 |
7 |
0 |
合計 |
16 |
18 |
(出展: EY analysis, Dealogic) |
SPAC名 |
市場 |
事業会社名 |
評価額(10億米ドル) |
ターゲットセクター |
---|---|---|---|---|
L Catterton Asia Acquisition Corp. |
米国(NASDAQ) |
Lotus Technology Inc. |
5.5 |
製造業 |
Pono Capital Two, Inc. |
米国(NASDAQ) |
SBC Medical Group Co.,Ltd. |
1.2 |
一般消費財 |
Nubia Brand International Corp. |
米国(NASDAQ) |
Honeycomb Battery Co. |
1 |
エネルギー |
Prime Impact Acquisition I |
米国(NYSE) |
Beijing Cheche Technology Co., Ltd. |
0.8 |
テクノロジー |
Marblegate Acquisition Corp. |
米国(NASDAQ) |
DePalma Group Inc. |
0.8 |
一般消費財 |
(出典: EY analysis, Dealogic , SPACInsider) |
地域 |
IPO件数(前年同期比) |
調達額(前年同期比)※ |
---|---|---|
南北アメリカ |
9(△83%) |
0.8(△92%) |
アジア太平洋 |
7(△30%) |
0.1(△76%) |
EMEIA |
0(△100%) |
0.0(△100%) |
全世界合計 |
16(△78%) |
0.9(△92%) |
※単位: 10億米ドル |