15 分 2021年9月2日

            迷える農家の未来を再構築する

ジェネラルカウンセル(最高法務責任者)が直面する喫緊の課題:複雑な契約実務の背後で損なわれるビジネスの利益とは

執筆者 John Knox

EY Global Legal Managed Services Leader

Committed to legal innovation and helping clients through their transformation agendas. Husband, father of two and dedicated sports nut.

EY Japanの窓口

EY Japan Law リーダー EY弁護士法人 代表弁護士

外資系ローファーム経験後、EY弁護士法人の日本代表に就任。専門はクロスボーダーのM&A・提携・再編。

15 分 2021年9月2日

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  • ジェネラルカウンセル(最高法務責任者)が直面する喫緊の課題(PDF)

EYは「2021年EY Law Survey」を実施し、契約チームがビジネスの優先課題を適切に支援するための重要な要件を明らかにしました。

要点

  • 契約プロセスの非効率性は、取引損失の可能性など、企業に悪影響を及ぼしている。
  • 契約業務の大幅な変革を実現するためには、誰が契約プロセスに責任を負うかについて、より密接な連携が必要となる。
  • 企業はテクノロジー戦略とソーシング戦略を見直すことにより、適切な人材とリソースが適切な方法で配置されているかどうかを確認すべきである。
Local Perspective IconEY Japanの視点

前回の「障壁をビジネスの土台に変える方法とは」に続く今回のレポートは、企業による「コントラクト・ライフサイクル・マネジメント」、すなわち契約書の作成から交渉、社内決済、締結、保存、有効期間中の管理、失効後の保存に至るプロセスについての改善にスポットを当てています。多くの企業が、自社における契約プロセスについて、効率性・スピード・検索可能性などに不満を抱え、これらを改善することでコスト・リスク管理・ビジネス優位性の面でメリットがあると考えています。日本企業においても脱はんこ・脱ペーパーの観点から契約締結のデジタル化が進んでいますが、それを契機に契約のライフサイクル全般の管理方法の見直しを進める企業も出始めています。そのような中、本レポートが皆さまのご参考になれば幸いです。

EY Japan の窓口

木内 潤三郎
EY Japan Law リーダー EY弁護士法人 代表弁護士
  • 調査方法

    EY LawとHarvard Law School Center on the Legal Profession(ハーバード大学法科大学院センター・オン・ザ・リーガル・プロフェッション)は、2021年1月、世界22カ国にわたる17業種の2000名を超えるビジネスリーダーを対象に聞き取り調査を実施しました。

    この調査の第1弾となるレポート「障壁をビジネスの土台に変える方法とは」では、ジェネラルカウンセルへの1000回に及ぶ聞き取り調査から得た知見に焦点を当て、特に組織の変化するニーズに対応するために法務部門がどのように変革しているかを検討しました。

    第2弾となる今回のレポートでは、1000名の法務部門と契約担当リーダーの知見を取り上げます。企業全体にわたる契約業務を明確かつ総合的に理解するため、調査では法務部門、調達部門、営業契約部門、事業開発部門のリーダーを対象に聞き取りを行っています。以下、これらの回答者を合わせて「契約担当チーム」と総称します。

    これと並行して、EYが別途実施したより広範な調査であるThe CEO Imperativeでは、2021年とその先のビジネス目標について、CEOに意識調査を行いました。

    これらを合わせた本調査の結果から、契約プロセスと、その果たすべき全社的な役割、そしてそのプロセスが大企業においてどのように認知されているかについて、あらゆる角度から考察します。

貴社の契約業務に責任を負っているのは誰でしょうか? これはつまらない質問ではありません。大企業では1週間に平均350件の契約を扱っており、その作成には数千ドルから数万ドルのコストがかかっています。また、ほぼ全て(99%)の企業が契約コストの削減を望んでいます。これらを踏まえると、貴社の組織において契約プロセスの管理と変革に責任を負うのは誰になるでしょうか。

EY LawとHarvard Law School Center on the Legal Professionは、法務部門と契約プロセスや手続きが直面している機会と課題を理解するための幅広い取り組み(「調査の手法」を参照)の一環として、2021年1月に、法務部門、調達部門、営業契約部門、事業開発部門の1000名の契約担当プロフェッショナル(以下、総称して「契約担当チーム」という)を対象に、聞き取り調査を実施しました。

その結果、92%の企業が契約の処理方法の変革を進めており、60%が抜本的な変革を導入していることが分かりました。しかし、企業の99%は契約プロセスを改善するのに必要なデータやテクノロジーを持っておらず、戦略とその効果的な実行の間にギャップが生じています。

加えて、契約は、さまざまな業務にまたがって連携されることなく非効率に処理されており、それにより収益認識が遅れています。回答によると、50%超の企業が、契約プロセスの非効率性が原因で取引を逃したことがあると述べています。契約業務に誰が責任を負うかが重要であるのはこのためです。企業が契約に絡む複雑さや諸課題を乗り越えて変革を加速させるための「土台」として、EYは以下の4つを特定しました。

  1. 変革の主導に責任を負う者を定義する
  2. 標準化と一貫性を推進する
  3. 適切なテクノロジー面の課題に注力する
  4. 適切な人材に適切な仕事を割り当てる

契約という業務:調査から分かったこと

契約業務の方法を変更する必要性や変革のゴールについての契約担当チームの見解は、おおむね一致しています。しかし、多くの企業において、アプローチの変更にまつわる成功体験は限定的です。本調査では以下のことが明らかになりました。

  • コスト:企業は契約業務について大幅なコスト削減目標を掲げており、大企業の3分の1が30%以上のコスト削減を目指しています。
  • 効率性:多くの契約担当チームは、最優先事項として収益面の成長の促進とビジネス活動の支援を掲げています。しかし、契約プロセスの非効率性を起因とする収益認識の遅れにより、50%を超える企業で取引の喪失につながっています。
  • データおよびテクノロジー:大部分(70%)の企業は、契約テクノロジー戦略を正式に導入していますが、99%が契約プロセスの改善に必要とされるデータやテクノロジーを持っていません。これは、戦略とその効果的な実行の間に重大なギャップがあることを示しています。
  • リーダーシップ:変革を主導する責任をどの部門が負うかについて、調整がほとんど行われておらず、変革プログラムの縦割り化のリスクが生じています。これにより、根本的な問題が解決されず、変革が最終的に成功しない可能性が高まっています。
  • 一貫性:テクノロジーや一貫したプロセスの整備が不十分であることから、契約に関するポリシーの遵守状況を測定・管理・統制できている企業はごく少数です。契約に関する規則や指針におおむね準拠している契約は31%にとどまり、契約の71%は標準的な条件からの逸脱についてモニターがなされていない状況です。
  • コソーシング:大企業のうち半分以上が、契約プロセスのコソーシングについて検討しています。オルタナティブ・リーガル・サービスプロバイダー(ALSP)の利用を拡大したいと述べた企業は、既に利用している企業では8倍となりました。

このほかにも、契約担当チームには、より幅広いビジネスにおける差し迫った必要性に対応することが、今まさに求められています。世界的なパンデミックにより、多くの企業はサプライチェーンへのアプローチおよびサプライヤーや顧客との関係についての再検討を迫られています。これらの変化は下流に位置する契約担当チームにも影響を及ぼすと同時に、企業は業務とリスク管理の改善のために、契約プロセスの大幅な調整を検討しています。

CEOの優先事項が契約業務に及ぼす影響

契約に関与するさまざまな部門およびステークホルダーはそれぞれに変革の優先事項を定めることになりますが、同時に、より幅広いビジネスの目標とも足並みをそろえなければなりません。2021 CEO Imperative studyによると、契約担当チームに影響を及ぼすビジネスリーダーの重要な優先事項は、コストの削減、リスク管理の改善、業務のデジタル化、成長の実現の4つです。契約担当チームのリーダーは、組織の広範なリスク管理の取り組みの運営において自身の役割を果たしつつ、これらのビジネス目標や、自身がビジネスにもたらすことのできる付加価値に対して常に注意を払わなければなりません。

優先事項1:契約コストの削減

CEO Imperative studyによると、CEOの53%が、本年度に大幅なコスト削減の取り組みに着手する予定だと述べています1

これが契約業務に及ぼす影響は明らかです。World Commerce & Contractingの調査によると、契約の作成コストは基本的な契約で平均およそ7000ドル、複雑な契約では平均5万ドルに上ります2。大企業が1週間に平均350件の契約を扱っていることを合わせて考えると、企業の99%が今後2年間に契約コストの削減を計画しているのもうなずけます。

コスト削減目標の規模は相当なものです。3分の1を若干超える34%の大企業が、30%以上のコスト削減を目標としています。契約プロセスに費やされる3ドルごとに1ドルを削減するという目標は、対象を絞った小規模な調整では達成できません。より幅広い変革が求められます。

優先事項2:リスクの軽減および管理の改善

過去10年間にわたるさまざまな政治的および経済的問題により、企業はサプライチェーンの再検討を迫られてきました。この転換によって、契約担当チームに、既存と新規両方のサプライヤーの審査や交渉を必要とする業務が生まれました。新型コロナウイルス感染症のパンデミックによってこのトレンドは加速するとともに、リスク管理がより重視されるようになりました。実際に、CEOは、今後3年間に最も大きな変革の実施を見込む分野としてリスク管理を挙げています。

こうしたリスク管理の重点化に対応すべく、契約担当チームは、さまざまな戦略を採用してきました。その中には、各契約の戦術的な再評価も含まれており、それぞれの契約当事者の義務を定義する条件や義務が履行されない場合の影響に細心の注意が払われています。その目標は、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンやサプライチェーンの混乱によって、サプライヤーが契約上の義務を履行できなくなった状況下で、多くの組織が経験した諸課題を軽減することです。

契約担当チームは、基本用語や規則集を策定するなどして、プロセス管理に重点的に注力し、リスクの軽減に取り組んできました。この取り組みはCEOの優先事項を達成するために極めて重要ですが、プロセスが不完全であったり、運用に一貫性がなかったりすることから、その成果はまちまちです。

回答によると、69%の企業では、契約書のひな形や承認済みのテンプレートの使用を依然としてスタッフに義務付けておらず、69%が契約業務の規則集や指針文書に通常は準拠していません。半数弱(49%)は、締結済みの契約書の保管について明確な社内プロセスを整備していないと述べています。こうしたプロセス管理の不備によって、間違いや不一致が起きる可能性が発生するとともに、企業が潜在的に不利な条件に縛られることになり、リスクへのエクスポージャーが高まります。

テクノロジーも、CEOが求めるリスク管理の強化を達成するための重要なツールの1つとなります。CEOの61%は、リスク管理に対してデータ主導型のアプローチを取ることを望んでいます。このようなアプローチでは、契約の作成、保管、検索、分析を集中化・合理化するにあたり、デジタルプラットフォームが極めて重要な役割を果たします。

企業がこのビジョンを達成するためには、埋めなければならない大きなギャップが存在します。回答では、90%の企業が、必要なテクノロジーやプロセスがないために契約書を見付けられず苦労していると述べています。また、企業の71%が契約の標準条件からの逸脱をモニターするテクノロジーを持っていないと答え、78%が契約上の義務を体系的に把握していないと述べています。

 
リスクを生み出す契約プロセスの課題
契約の作成
69% 承認済みの契約書のひな形を常時使用するよう契約担当スタッフに義務付けていない
69% 契約が契約業務の規則集や指針文書に通常は準拠していない
契約の交渉と修正
75% 承認済みのフォールバック(代替)条件を設定していない
71% 契約の標準条件からの逸脱がモニターされていない
契約書の保管と検索
90% 契約担当プロフェッショナルが契約書を見付けるのに苦労している
49% 締結後の契約書の保管に関する明確なプロセスがない
 

「契約処理の所要時間やコストへ悪影響を与えずにCEOのリスク管理の優先事項を達成するためには、企業は、リスク管理とビジネスのニーズを両立できるテクノロジーを活用して、現行のプロセスやワークフローをサポートする必要があります」と、EY Global Legal Managed Services LeaderであるJohn Knoxは述べています。「これには、共通の契約戦略の下で、さまざまな部門にわたるステークホルダーの全てが協力することが求められます」

優先事項3:業務のデジタル化

デジタル化は新しい概念ではありませんが、多くの企業は依然として契約の効率的な管理に必要なツールを持っていません。前述のとおり、大部分の契約担当者は、契約書を見付けるのに苦労しており、多くの企業は、契約内容を記述した情報にアクセスできるデジタル環境を持っていません。

テクノロジーについて契約担当チームが直面している課題は、本社機能についてCEOが掲げている目標と著しい対比をなしています。厳しい経済状況にもかかわらず、CEOの61%は、来年度中にデータやテクノロジーへの多額の投資を見込んでいると述べています。

大部分の契約担当チームはテクノロジーの重要性を理解しており、企業の70%では契約テクノロジー戦略を正式に導入しています。しかし、このような戦略の運用はうまくいっていません。こうした課題を乗り越えることが、企業の組織変革の目標達成に向けた鍵となります。

EY Global Law Contracts Co-Lead であるAlex Fortescue-Webbは、次のように述べています。「おびただしい数の契約ツールがこの10年間に市場に登場しました。新たに発表される全てのテクノロジーを活用しようとすることは一般にはお勧めできませんが、自社が蓄積した契約テクノロジー内に存在するギャップについて、そして新たなテクノロジーが適切に導入された場合にもたらされる効率性と透明性の向上によって契約業務がどのように改善するかについて、企業が理解することは重要です」

現在のテクノロジー戦略

70%

の企業が契約テクノロジー戦略を導入している

優先事項4:ビジネスの遂行支援と成長の促進

契約担当チームが抱えるおそらく最も重要な優先事項は、より幅広いビジネスの成功の実現においてより効果的な役割を果たすことです。

短期的には、CEOの66%が本年度の収益の成長を見込んでいません。しかし中期的には、世界の新たなパターンが定まることにより、力強い成長の時期が到来するとの経済予測が出されています3。そうなれば、企業は顧客の需要の拡大に応えるために、中核ビジネスの生産能力の拡大、買収を通じた成長、新たな市場への進出、新たな製品分野への転換などを目指すことになるでしょう。

これは契約担当チームに課題をもたらします。まず、可能な限り大きな成長を確保したいという狙いがあるため、可能な限り効率的に契約を処理する必要があります。一方、経済活動の活発化に伴い、契約の件数の劇的な増加が見込まれますが、この数量増加により、企業が契約処理の迅速化を必要とする時に所要時間が増加する可能性があります。

効果的なビジネスの実現は、契約担当チームが抱える課題の1つです。事業開発チームの94%は、契約プロセスにおいて課題に直面していると述べています。自社の契約プロセスに対する評価を尋ねる質問に対し、自社のプロセスが「非常に良い」と回答した事業開発担当者は、4分の1に満たず、自社のプロセスが期待に応えていないとの回答が過半数を占めました。

契約業務の遂行の鍵は、ビジネスの推進とリスクの軽減との間に存在する『スイートスポット』を捉えることにあります
Rebecca Thorkildsen
EY Law Global Contracts Co-Lead

事業開発担当者が挙げた課題のトップ3は、所要時間の長さ、「お役所的」なプロセス、契約のポリシーについての明確な指針の欠如でした。ビジネスに及ぼす悪影響を踏まえると、これらの課題は特に懸念されます。事業開発担当者の57%が契約プロセスの非効率性によって収益認識が遅れていると述べ、その50%が取引機会の喪失につながっていると述べました。これらの問題には対応が不可欠です。

この現状をうまく乗り越えるために、契約担当チームは絶妙なバランスを取っていかなければなりません。EY Global Law Contracts Co-LeadであるRebecca Thorkildsenは、次のように述べています。「契約業務の遂行の鍵は、ビジネスの推進とリスクの軽減との間に存在する『スイートスポット』を捉えることにあります。つまり、柔軟性の向上とプロセスの改善によって所要時間を短縮すると同時に、妥当なリスク許容度の範囲内にリスクを抑えるということです。法務機能がリスクの制御を目指すにあたっては、契約が締結に至ることで組織の損益に重要なプラスの影響が生まれるという事実も併せて認識されなければなりません」

変革の複雑さへの対処

契約実務の変革という差し迫った必要性は、多くの企業において理解されているものの、その変革は容易ではありません。98%の企業が、契約業務のビジョンを実現するにあたってさまざまな重要な障壁に直面していると回答しています。また、38%の企業が、以前に変革を試みたことがあるものの期待外れに終わったと述べています。

 

58%の企業が挙げた変革への重要な障壁は、変更管理と従業員の業務方法の転換という課題であり、これは特に一部の従業員が変革に抵抗を示すことによるものです。加えて、多くの組織では、特に日常的な職務を優先させなければならない場合において、変革プロセスへ投資するのに必要な時間が不足しています。さらに、契約担当チームの多くは、プロセス管理、変更管理やテクノロジーのスキルを有する人材にアクセスすることができません。これらの障壁を乗り越える戦略を見極めることが、企業の変革目標を達成するための鍵となります。

変革の土台

変革の推進は困難を伴いますが、決して不可能ではありません。多くの企業が、契約プロセスに大幅な変化をもたらす変革の取り組みを成功に導いてきました。これらの企業の経験に目を向けると、同じように有意義かつ持続可能な変革を目指す組織にとって、検討する必要のある変革の土台は以下の4つとなります。

1. 変革の主導に責任を負う者を明確にする

変革を推進する責任をどの部門が負うかを巡って連携が不足している点は、多くの企業において、さまざまな本社機能を横断する根深い問題となっています。幅広い活動やステークホルダーが関与する契約業務において、これはとりわけ難しい問題です。

大部分の企業は、自社の契約機能が極めて断片化していると述べています。多くの場合、契約はレビューや調整のために事業開発部門、調達部門、法務部門、その他の部門の間を行ったり来たりしており、単独のプロセス責任者が存在しません。加えて、それぞれのステークホルダーのグループが独自の目標、プロセス、テクノロジーを持っていることがあります。このことが、契約のプロセスや変革の取り組みを複雑にしています。

責任の所在を巡る連携や明確さが不足していることは、調査の結果からも明らかです。例えば、法務部門の59%は、自分たちの部門が契約機能において主導的な役割を果たしていると考えています。契約担当部門も、ほぼ同じ割合(56%)で、法務部門ではなく自分たちが契約機能に責任を負っていると考えています。加えて、事業開発担当者の39%が、責任者は自分たちであると考えています。

こうした連携の不足はさまざまな問題をもたらす可能性があります。縦割り型で行われる変革の試みは、他の重要な部門からの情報提供を欠くことになるため、失敗しがちです。このような取り組みは、貴重な時間を消費し、予算を浪費する一方で、根本的な問題を解決できないことがあります。また、連携の不足は重要な人材の士気に影響を及ぼし、将来の変革の取り組みに関わろうとする意欲を失わせる可能性があります。最も懸念されるのは、連携の不足によって、契約に係る全社的な戦略を生み出す取り組みが妨げられる可能性があることです。

変革を推進する責任を負う当事者が誰かを分かっていることは極めて重要です。また、企業は契約プロセスの各段階に責任を負う部門を特定すべきです。責任の所在を巡って連携することにより、最適化の責任を誰が負うか、そして変革の取り組みに他のどのようなステークホルダーを含める必要があるかを定義することができます。EYのRebecca Thorkildsenは次のように述べています。「大手企業では、契約の管理のために単一かつ集中型の部門を設ける戦略を採用しています。この集中型の部門は、内部または外部で管理されます。誰が管理するかにかかわらず、重要なのは、各プロセスの遂行を支援するツールやKPIを通じて測定・監視され、一貫したプロセスの下で運用され、説明責任を負う、単一の部門を置くことです」

2. 標準化と一貫性を推進する

回答によると、99%の企業が、契約の作成、レビュー、承認について何らかの明確な契約プロセスを持っていると述べています。また、75%の企業が、自社の契約担当プロフェッショナルが正式なプロセスに「常に」準拠していると述べています。

しかし、データをより詳細に検討すると、多くの企業のプロセスは必ずしも精査に耐えうるものではないことが分かります。契約担当スタッフによる承認済みテンプレートの使用を多くの場合に義務付けている企業は31%、承認済みのフォールバック(代替)条件を設定している企業は25%にとどまっています。前述のとおり、49%の企業は、締結後の契約書の保管について明確なプロセスを持っていないと述べており、契約上の義務を体系的に追跡しているとの回答も22%にとどまっています。これらはいずれも、現行のプロセスが重大なギャップを抱えているか、あるいは実務において機能するには厳格過ぎることを示しています。これらは、契約についてのポリシーの遵守状況の測定や管理において企業が直面している課題の理由を説明しているともいえます。

リスク管理の強化や変革の実行を目指す全ての企業は、プロセスやツールが強固であり、一貫して運用され、継続的な改善計画により裏付けられていることを確保しなければなりません。これらはいずれも過度に複雑であってはなりません。契約のテンプレート、条項のライブラリー、ルールを適切に整備することにより、契約担当マネージャーや営業マネージャーは、明確な基準の範囲内で、さまざまな契約に合わせてアプローチを調整できるようになります。

企業は、より強固な契約プロセスの策定にあたって、2つの基本的な課題に直面しています。第1の課題は、プロセス管理についての社内スキルの不足です。第2の課題は、責任の所在です。契約は、そのライフサイクルのさまざまな段階において、縦割りで活動するさまざまな部門が関与する可能性があります。当事者間の連携が不足することにより、プロセスの最適化が複雑化されてしまいます。

EYのRebecca Thorkildsenは次のように述べています。「法務、調達、財務、その他の関連するステークホルダーを一堂に集め、契約書のテンプレートや条項のライブラリーに含まれる全ての概念について見解を一致させることができれば、契約に関する全社的な合意を実質的に生み出したことになります。企業は、契約の各部分の責任者となるべき者を明確にすることにより、このような対話に着手し、推進するようになってきています。責任の所在が明確に定められ次第、それらのステークホルダーの目標が達成されていることを確認するための方針や強固なプロセスを導入することができます」

3. 適切なテクノロジーの課題に注力する

大部分の企業は契約テクノロジー戦略を正式に導入していると述べていますが、その戦略と効果的な実行の間には重大なギャップがあるようです。

大部分の企業では、契約プロセスの支援のため、1つまたは複数のテクノロジーに投資しています。具体的には、承認から署名までのテクノロジー(電子署名ツールなど)が多くの企業において広く使用されています。その一方で、契約からデータを抽出し、比較し、分析するテクノロジーの普及ははるかに遅れています。これは、87%の企業が契約テクノロジーに課題があると述べている現状に起因しているかもしれません。この状況を改善するために、企業はまず、契約担当チームが直面する特定の障壁をより詳細に検討することに取り掛かるべきです。

契約担当チームが挙げたテクノロジーについての最大の障壁は、コストでも予算不足でもありません。課題となっているのは、主にテクノロジー戦略の定義と実行に関するものです。企業の3分の1は、自社のニーズに応える適切な契約プラットフォームの選定が課題だと述べています。これは、期待と、選定されたソリューションから得られる価値との間に重大なギャップを生み出しています。また、テクノロジーの導入に課題があると答えた企業は、半数弱(47%)に上っています。不適切な導入によって生じた諸問題は、導入テクノロジー間での連携がほとんどない状況では、さらに深刻化し、全社的なテクノロジー戦略の欠如が露呈されます。

こうした運営上の課題の根本的な原因は、企業のニーズに応える適切なテクノロジーを選定し、導入するという業務に対応できる知識、経験、時間を持つ人材が不足していることです。34%の企業が、適切なテクノロジーとプロセスを管理するスキルを持った人材を契約担当として採用することが課題であると考えています。また、24%の企業は、作業負荷が重く、ほかにも優先事項があるため、テクノロジー戦略を支えるのに苦労していると述べています。

こうした課題を解決するため、一部の企業では、外部のプロバイダーを利用して業務を行っています。これらのプロバイダーは、高度なテクノロジーを活用してサービスを提供し、企業のテクノロジー戦略の定義と実行に不可欠な専門知識を提供しています。

EYのAlex Fortescue-Webbは次のように述べています。「近年、最新の契約テクノロジーを入手した企業が、導入の推進やビジネス目標の達成に失敗するパターンが見られます。企業は、テクノロジーの能力を社内で構築すべきか、幅広いテクノロジーへの投資ができる外部のプロバイダーを活用して、テクノロジー導入のリスクを移転し、ビジネス上の成果を上げるべきかを問うようになってきています」

「社内での構築を選択する場合、賢明なアプローチは、ビジネスの目標達成に必要な基本的機能を備え、応用可能性が高く、かつテクノロジーの絶え間ない進歩に応じて容易に置き換えられるソリューションを見極めることです」

4. 適切な人材に適切な仕事を割り当てる

大企業の契約担当チームは、1年間に平均1万9000件の契約を扱っています。多いところではその数は5万件超に及びます。99%の企業が現状の契約業務の作業負荷に対処することが課題であると述べている理由が、この数字から分かります。

さらに詳細に見てみると、複雑でない定型的な仕事が作業負荷の増大の一因になっていることが分かります。契約担当スタッフの65%が、難易度や複雑度が低い契約を日常的に扱っていると述べており、契約担当チームは、この種の業務に時間と予算の40%超を合計で費やしています。

複雑度の低い契約業務の業務量の多さは企業に幅広くマイナスの影響を及ぼしており、特に人材の採用と維持における競争力に影響を与えています。96%の企業が契約担当の人材についての課題に直面しており、適切なスキルを持つ人材の採用(49%)や人材の維持と昇格(それぞれ44%)を一番の課題に挙げています。

EYのRebecca Thorkildsenは次のように述べています。「定型的な契約のレビューのために、弁護士やパラリーガルに過度な負担がかかっている状況をしばしば見かけます。このような人材の多くは、より戦略的な役割に時間を割き、もっと複雑度や難易度が高い業務に集中するべきです。私たちは、定型的な仕事を避けるためにさまざまなキャリアチェンジを行う人々を目にしてきました。結論としては、企業が優秀な人材を引き留めたいと思うならば、そのような人材の熱意を維持する方法を見付けなければなりません」

作業負荷の管理方法を決定することは、変革を構成する重要な要素の1つです。企業は広範な業務モデルや外部リソースを活用してこれを行っています。各種の職務に適切なリソースを見いだすことによって、リスクの軽減、効率性の向上、コストの削減、士気の向上が図れます。また、全員が同一の効率的なプロセスに準拠していることを確認することで、変更管理の取り組みを強化することができます。

以上により、企業が検討すべき重要な選択肢は以下となります。

  • 契約業務のセンター・オブ・エクセレンス(CoE)の設置:CoEは、契約業務の専任チームとして、コストの低い国に設置され、適切なテクノロジーとプロセスを備え、縦割り型の契約担当チームに比べてより効率的に契約作業を処理することができます。契約業務のCoEは、大幅なコスト削減をもたらす一方で、大きなインフラと継続的な改善を必要とするため、特に大企業において効率性を発揮します。大企業(年間収益200億ドル超)の85%が、契約業務の支援にCoEを活用しているのに対し、小規模な企業(年間収益50億ドル未満)では16%にとどまっているのは、このことに起因している可能性があります。
  • セルフサービスソリューションのサポート:事業開発チームと業務チームがテクノロジーのプラットフォームを活用して最小限の人的作業で契約を作成することを可能にします。このプラットフォームは所要時間の短縮、ビジネスの目標の実現、コスト削減をもたらす一方で、システムの効率的な運用や契約に関するポリシーの変更に合わせて更新を行うために、保守とモニタリングを必要とします。加えて、全ての種類の契約にセルフサービスが適切なわけではありません。従って、このアプローチは、契約のカスタマイズに必要な情報を標準化できる比較的複雑度の低い契約に対して、特に有用となります。企業からの回答によると、現在セルフサービス化されている契約は、17%にとどまっています。
  • 外部プロバイダー(ALSPを含む)への業務のアウトソーシングまたはコソーシング:これらのプロバイダーのソリューションを活用することにより、契約の変更管理とテクノロジーリスクの外部プロバイダーへの移転が可能になります。また、このソリューションにより、契約業務の役割と責任を一層明確化することができ、企業がより戦略的な活動に注力する余地が生まれます。大企業の41%が、今後5年以内に契約機能の一部をコソーシングすることを検討しています。

EYのAlex Fortescue-Webbは次のように述べています。「コソーシングによって、単に契約作成の直接コストを削減できるだけでなく、所要時間を短縮し、契約上のリスクを軽減することができます。加えてコソーシングでは、必要なプロセスの管理や高度なテクノロジー関連のスキルにアクセスすることができます。これらを全て組み合わせることで、リスク管理、効率性、ビジネスに対するサービス品質の向上に大きな利益がもたらされます。この点が、このようなデリバリー戦略が勢いを増している理由の1つになります」

結論

契約担当チームは、運営方法の改善を目指して、幅広い変革戦略に目を向け、さまざまなプロジェクトに投資してきました。しかし、さまざまな重要な障壁を前にして、成功の度合いはまちまちです。

変革の取り組みの成功は、誰が責任を負うか、どのような戦略が必要かを巡って、明確な連携ができるかどうかにかかっています。企業は、自身の具体的な目標やニーズを支えることを目的とした、プロセス管理、テクノロジー、新たなソーシング戦略の組み合わせを検討すべきです。

明確な道筋を設定し、それぞれの種類の仕事に適切なアプローチを選定し、ビジネスイネーブルメント、コストの管理、リスクの軽減の間で絶妙なバランスを取ることにより、契約担当チームは変革の実現と、従来と比べてはるかに効果的なビジネスへの貢献を狙うことができます。

 

現地の法規制により許可されている場合を除き、EYのメンバーファームは法律実務を行いません。

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サマリー

企業には、契約プロセスを変革し、結果として組織全体に大きな利益をもたらす真の機会があります。しかし、そのためには、契約戦略を人材、プロセス、テクノロジーを中心に組み立て、ビジネスにおける全てのビジネス部門で主要なステークホルダーから賛同を得られるように構築することが必要です。

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