EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
※所属・役職は記事公開当時のものです。
日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の遅れは、とりわけ税務の分野で顕著になっています。大企業を中心にDXを進めていますが、税務関係が取り残されたままになっている事例も散見されます。
その主な要因として、税務は専門性が高く属人的になりがちな側面があるほか、税務の業務は多くの異なるシステムからデータを収集して集約する必要がある点などが挙げられます。
ですが、欧米の多国籍企業などでは、税務に関する業務の自動化に成功しているところも少なくありません。税務部門が経理・財務部門から独立した組織になっていることや、グローバルベースで税務に関するオペレーションの集約を進めてきたことが成功の理由として考えられます。
一方、日本企業は、税務部門が経理・財務部門と一つの組織になっていることが多く、税務に関する業務だけ変えるのは難しいケースが多いです。このため税務のDXに取り組んだとしても小幅なオペレーション変更にとどまってしまいがちです。
日本企業が現実的に取り得る税務DXの方策は存在しないのでしょうか。ヒントとなるのは、経営管理という大きな枠組みの中で税務の業務を捉えていくことにあります。税務を財務会計や管理会計と同じ一つの組織で取り扱っているというのであれば、逆にその強みを生かし、経営管理全体の高度化を進めていくことができます。
日本企業の中には、「経営管理統合プラットフォーム」を導入しているところがあります。管理会計と税務データをEPMと呼ばれる一つのシステムで管理しています。税務データの内容は、法人税の申告や移転価格税制に関するもので、管理会計(予算実績管理)と親和性が高いです。
DXで重要となる「データの一元管理」という概念は、税務にも当てはまります。データの集約方式は、プロセスの上流から下流まで一つのシステムで運用するのが理想的ですが、データ収集先(元データ)が多い税務にあっては、複数のシステムを途中で一つにまとめるというのが現実的な選択肢となります。
ESG(環境・社会・企業統治)の影響もあって、一昔前に比べて最高財務責任者(CFO)のアジェンダ(課題)で税務の優先順位が上がってきたと言われています。日本企業でも税務への注目度が高まっており、現場の税務部門の負荷は相当に高くなっています。近年の税務の複雑化と対応リソース不足の中で、税務DXを避けては通れません。
経営管理を高度化させる取り組みの中で、税務を重要な柱として据える企業は増えており、今後もその動きは加速していくことになるでしょう。
(出典:2023年1月27日 日経産業新聞)