医療機器がデータによって個別化する中、今後はどのようなサービスを提供しますか 医療機器がデータによって個別化する中、今後はどのようなサービスを提供しますか

執筆者 Pamela Spence

EY Global Health Sciences and Wellness Industry Leader and Life Sciences Industry Leader

Ambassador for outcomes-based performance and healthy aging. Advocate for women.

11 分 2020年3月11日

医療機器企業は、ダイナミックでコネクテッドなエコシステムにおいて信頼されるパートナーとしての立ち位置を確立させるべく、新しいビジネスモデルを進化させる必要があります。

医療機器業界は2019年の危機的状況から免れており、世界の医療機器業界の収益と価値は上昇し続けています。しかし存在感を発揮し続けるためには、現在のニーズを満たしつつ、患者・消費者や医療提供者が将来必要とする製品の開発に取り掛かる必要があります。これは、製品の販売に依存している現在のビジネスモデルから脱却し、ダイナミックでコネクテッドなヘルスケアエコシステムにおいて医療機器企業が信頼できるパートナーとしての役割を優先するモデルに移行することを意味します。

第13版のPulse of the industry(pdf)では、医療機器業界の現在の立ち位置、目標までの距離、さらには目標に向けた道筋を示しています。

患者・消費者の需要を満たす個別化された治療モデルがあれば、医療機器企業の価値はすぐに押し上げられることでしょう。これを実現するには、医療機器業界は居心地の良い従来のビジネスモデルから外へと飛び出す必要があります。それには、相互運用性を持ちつつ安全につながるデバイスが必要になるでしょう。リアルタイムでデータを取得・分析し、アジャイルなデータ中心のサプライチェーンを介して、より良い医療的介入やケアマネジメントを実現するためのデバイスです。

このような変革を達成することで、患者にとって、また価値ベースの支払い環境が進展する中にあっては業界自体にとっても、より良いアウトカムをもたらすことができます。

医療スキャンを受ける男性
(Chapter breaker)
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第1章

医療機器業界の未来に対する投資は十分か

医療機器企業の収益と価値は2019年に再上昇しましたが、業界として将来の成長を確保する必要があります。

2018年から2019年にかけて、医療機器企業の総収益は7%増加して4,072億米ドルとなり、3年連続の成長となりました。また企業価値も堅調です。2019年6月30日までの18カ月間に医療機器企業の累積市場評価は38%上昇し、ライフサイエンス業界全体の評価を大幅に上回りました。

テクノロジーが収れんしていく中、医療機器企業はヘルスケアにおける変革の中心的存在となる可能性があります。しかし、業界自体はその未来に投資しているでしょうか。数値を見ると十分に投資をしているようには思えません。

2018年の研究開発投資は11%増加したものの、長期的に見ると、研究開発費と企業収益の成長は共に、2007年の金融危機以前に業界が記録した水準までは回復していないことが分かります。

図1. 上場医療機器企業の金融危機前後のパフォーマンス

業界全体では依然として多くの資本が、研究開発費よりも自社株買いと投資家への配当に割り当てられています。2018年に株主に還元された現金の割合は増加し、医療機器企業が成長活動に投資したレベルと同等になりました。企業の将来がイノベーションに左右されることを踏まえると、この戦略は短期的にはステークホルダーを満足させるものかもしれませんが、長期的に見ると潜在的なダウンサイドリスクを抱えています。積極的にステークホルダーに現金を還元しようとする業界の姿勢は、成長投資の方法について確信が持てない表れのように見えます。

2019年の伝統的医療機器企業における10億ドル規模の投資機会は例年よりさらに乏しいとはいえ、ビジネスチャンスが全くないというわけではありません。競合他社による買収と投資の急増に拍車をかけたAbbott社のMitraClip(僧帽弁を修復する医療機器)が果たした画期的な案件をご覧ください。既存の医療機器分野では、この規模での前進は限定的といえます。

次にどのような大規模デバイスイノベーションがやってくるかが明確に分からないことから、医療機器企業は買収には慎重な向きを見せています。特に買収対象企業のバリュエーションが高い場合にはこの傾向が顕著です。M&Aの支出は2019年6月30日までの12カ月間で増加しましたが、医療機器企業がボルトイン買収とポートフォリオの最適化を優先したことから、大規模で変革的なものではなく、小規模化しています。

テクノロジーが収れんしていく中、医療機器企業はヘルスケアにおける変革の中心的存在となる可能性があります。しかし、業界自体はその未来に投資しているでしょうか。

まだ実証されていない新しいテクノロジーに対して慎重になる姿勢が、医療機器業界のイノベーションに勢いをつけようと試みるスタートアップ企業の足かせとなり続けています。現在のM&A環境では、多くのスタートアップ企業が大手医療機器企業による買収という従来型の出口戦略を目指す前に、調達資金の返済圧力を乗り越えなければいけなくなっています。ベンチャーキャピタルは医療機器業界に参入し続けていますが、2018年、業界全体での資金調達水準の低下は2年目を迎えました。調達資本におけるこの若干の縮小は、FDAの市販前承認(PMA)および510(k)市販前通知申請の承認を経て、今年上市される新しい承認が減少している現状を反映したものです。

一方、エコシステム全体でこれまで業界の主要顧客であったステークホルダーは苦戦を強いられています。保険者が医療提供者への払い戻しを削減していることから病院関係は支出に慎重となり、価値を提供するよりむしろ高額な商品を販売しようとする、業界の継続的な活動に憤っています。つまり医療機器業界のステークホルダーは、医療機器業界を自身が協働できる真のパートナーとは見なしていないのです。究極のエンドユーザーに関しては、医療機器業界はまだ、患者・消費者を実際の顧客と見なす方向へと進んではいません。医療提供者のシステム開発にのみ目が向けられているのです。

ワークショップでロボットを検査するエンジニア
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第2章

医療機器の将来を形作る主要なトレンドとは何か

医療機器業界が適切な取引を求める中、診断、デジタルテクノロジー、データが価値を提供するための鍵となる可能性があります。

本稿で特筆すべき点として、より詳細な分析を行った結果、より個別化されたデータ中心の未来に向けた業界の方向性を示す4つの重要なトレンドが出現することが明らかになりました。

1. ポートフォリオの最適化

M&Aへの慎重な機運は業界全体の成長にとってマイナスですが、企業ポートフォリオを最適化するために医療機器業界が取る戦略的アプローチは、将来に備えるための第一歩といえるでしょう。

図2. ポートフォリオの最適化は医療機器企業のM&Aを引き続きけん引

資本が乏しく、開発のスケジュールが長期化・高額化する環境では、企業は資本を賢く使って勝ち、そして、今後も勝ち続ける必要があります。企業は、絶えずM&Aを行うのではなく、より大きなリターンをもたらす可能性のある取引にこそ、より多く投資したいと考えています。適切な新しいテクノロジーとイノベーションに投資するために企業がさらに努力する必要があるのは間違いありません。進行中のポートフォリオ最適化は、医療機器企業が勝つべき分野を特定し、長期的な戦略的思考で投資しようとしていることを示唆しています。

2. 非画像診断

診断は、医療機器企業が患者・消費者に直接アクセスできる方法です。そのため、この分野は活況を呈しています。非画像診断に携わる企業は11%の収益成長率を果たし、業界全体のそれを上回りました。これとは対照的に、治療機器の収益成長率はわずか6%にとどまりました。こうした力強い数値は、診断分野に見られるVCスタートアップ企業への高い関心を反映しています。Thrive Early Detection、Click Diagnostics、uBiomeといった診断分野のスタートアップ企業が、2018年中で最大の資金調達ラウンドに参加していました。

多くの関心は引き続き、非画像診断に有効なゲノミクスサブセクターへと向いています。2018年11月にIllumina社がPacific Biosciences社を12億米ドルで買収するという合意に達したと発表しました。これにより2019年には、マスマーケットでの利用に向けたゲノミクスが進歩を遂げることができました。

3. デジタルヘルスケア

相次ぐ承認が、デジタルヘルステクノロジーの可能性を立証し続けています。2018年10月、FDAは、Novarad社とMicrosoft HoloLens社のコラボレーションに基づいて構築された外科手術トレーニング用の初の拡張現実(AR)システムを承認しました。FDAは同時に、それまで過去1年間にわたって安定した動きを示してきたAIアルゴリズムについても承認しました。AIは分散ケアの重要な推進力です。

糖尿病は依然として、デジタルヘルス市場の進展を決定する治療分野です。昨年、Dexcom社とTandem社が相互運用可能なシステムの市場で収めた成功は、市場シェアを獲得するのは機器単体でなく、相互運用可能な患者中心のデバイスネットワークとデータ分析であることを示しました。

4. 先進医療の提供者と保険者

ヘルスケアエコシステムにおける他の企業は、ビジネスモデルを再考しているようです。遠隔監視、予測分析、統合された臨床医チームに基づき、ベッドレス病院のアイデアを追求したMercy社がその好例です。他の主な医療提供者、保険者もデータの統合に取り組んでいます。

ヘルスケアデータの実行可能な長期モデルを構築するには、企業はレガシー製品に制約されることなく、電子医療記録などのコア要素を組み込むことができるオープン・データ・アーキテクチャーを採用する必要があります。保険者もまた、例えばUnitedHealthcare社やAetna社などと共に価値ベースのアプローチを追求するなど、ビジネスモデルの再構築を続けています。

こうした傾向はすべて医療機器企業のビジネスモデルの将来にとって重要ですが、企業にとっては、ヘルスケアにおいてさらなるデータ中心のデジタル時代の出現に備えるために今、何ができるかを特定することが課題となります。

人口関節を検査する技師
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第3章

未来に備えるために今、医療機器企業ができることは何か

医療機器業界には、安全性の高いコネクテッドデバイス、アジャイルなサプライチェーン、適切なビジネスモデルが必要です。

ヘルスケアエコシステムがより緊密に接続されると、診断、ゲノミクス、AI、その他の最新データテクノロジーの進歩により、それぞれが強化され、パーソナライズされた個別ケアに向けた指数関数的な加速が促進されます。このような動きは、まだ完全には予測できないものの、最終的には医療機器業界を変革することとなるでしょう。ただ、成功に向けて確立する必要がある重要要素のいくつかを特定することはできます。

データ交換のためのサイバーセキュアなエコシステム

医療データの侵害は2018年~2019年、米国だけで1日1回の割合で記録されています。コネクテッド・エコシステムを実現する前に、まずこうした脆弱性に対処する必要があります。医療機器はソリューションの一部となる必要があります。

信頼獲得を望む企業は、規制当局による指導をただ待つだけでは不十分です。自社製品のみならず、自社製品を取り巻くデータエコシステムの保護に向けた措置を講じていることを積極的に示す必要があります。自社のみの脆弱性という課題以上に、エコシステム内でデータを移動させるための安全なネットワークを構築するという、より大きな問題について考えている企業は、将来、信頼できる最適なパートナーとなり得るでしょう。

サプライチェーンの確保

データの利用可能性や利害関係者間の信頼も不足していることで、医療機器業界のサプライチェーンの有効性は限られたものとなり、変革に向けた大きな課題となっています。サプライチェーンに沿った双方向のデータフローを可能にするコネクテッドデバイスにより、企業はよりアジャイルなロジスティクス機能を作成するツールを手に入れることができます。これは、リアルタイムデータを活用して、製品が市場のどこに出回っているかだけでなく、次に必要となる場所をも把握することを意味します。

治療が従来のチャネル、機関から切り離されることがますます増える中、データサプライチェーンは製品サプライチェーンと同等に重要となり、医療機器企業は自身とそのステークホルダーに向けてデータストリームを保護することが求められます。

ビジネスモデルの確立

医療がデータ共有に基づいて構築されたよりダイナミックなエコシステムに向けて進化するにつれて、医療機器業界は将来の価値を提供するための最良の手段を表すビジネスモデルを特定する必要があります。EYの分析では、それぞれが非常に固有のデータと分析のニーズを持つ、医療機器企業に関わる4つの異なるビジネスモデルについて特徴を述べています。

図3. 異なる医療機器ビジネスモデル別の必要データ
  1. 画期的なイノベーター:医療機器業界は従来、臨床試験でテストされる革新的な機器を創造することで価値を生み出してきました。将来の成功は、最先端のハードウエアだけでなく、より広いデータエコシステムへとつながり、より良いヘルスアウトカムをもたらす能力があるかどうかにかかっています。今後ますます、革新的な機器を作るだけでなく、その活用がより良い転帰をもたらすことができると示すことが重要になっていくでしょう。
  2. 疾病管理者:コネクテッドデバイスを介したデータ取り込みの機会が増えるにつれて、機器は個々の患者が疾患を管理するため、高度にパーソナライズされたツールとなる可能性があります。その傾向は糖尿病の領域で顕著です。将来の疾病管理者は、分断化された治療領域を超えてホリスティックに治療を提供し、データの使用を最大化して患者の慢性状態や併存疾患などすべてを最適に管理する必要があります。
  3. ライフスタイル管理者:消費者向けの電子機器は、フィットネスや栄養アプリケーションを超えて既に進化を果たしており、患者・消費者がライフスタイルをより効果的に管理するのに役立つ医療グレードのフィードバックをリアルタイムに提供しています。センサー、ウエアラブル、スマートフォンソフトウエアが持つ普遍性は、企業が個別化された医療機器においてこうした「ソフト」な側面を開発できる、という大きなビジネスチャンスを表しています。
  4. 効率的な生産者:サプライチェーンを変革することによって、主に利益率の削減に重点を置いている企業は、ローテクな医療機器のコモディティ製品の重要市場をターゲットにすることができます。この市場で成功するには、医療機器企業は洗練されたデータ分析を利用し、可能な限り効率的に運用を実行する必要があります。
放射線治療を受ける男性
(Chapter breaker)
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第4章

将来の価値構築のために協働する準備はできているか

データ中心の個別化された未来には、利害関係者が協力するダイナミックなエコシステムが必要です。

2019年、医療機器企業は既ににコネクテッドデバイスを作り上げています。不十分なのは、これらの機器を接続するコネクテッド・エコシステムです。それは、つながりのある機能的なエコシステムを構築することは、業界が単独で取り組むべきタスクではないからです。業界、規制担当者、医療提供者、保険者、患者・消費者などが共に協力した取り組みが必要であり、業界外のテクノロジー関連企業も大きな役割を果たすことになります。つまり、コネクテッドデバイスがあっても医療機器企業が他のステークホルダーとの関係を強化できていなければ、その価値をフルに引き出すことはできないのです。

患者のアウトカムを改善し、アクセスを改善し、治療の全体的なコストを削減するという取り組みにおいては、リスクベースの契約、業務の連携、データの透明性が共にそろっていることが基本要件となります。
John Liddicoat氏
Medtronic Americas RegionのEVP兼社長

業界が他のステークホルダーと緊密な連携を構築するに当たり、大きな障害が2つあります。

  • 第1に、技術的な課題として、ヘルスケア全体で使用されるデータ管理システム間の相互運用性の欠如がありますが、これはデータが分断化されることを意味します。共有デジタルインフラがなければ、利害関係者間でデータがシームレスにつながるためのメカニズムが存在しないこととなります。
  • 第2に、医療機器企業の価値観が自分たちのそれに合致していると他のステークホルダーが感じていない場合には、そのデジタルインフラの開発に協力するインセンティブはありません。求められる規模で協力するステークホルダーの先例はほとんどありません。

医療機器企業が信頼されるパートナーとなるには、引き続きステークホルダーが持つ懸念を払しょくすることが課題となるでしょう。より密接なコラボレーションの一環として、医療機器企業が価値ベースの医療費支払いをより広く受け入れることも、その一歩となるでしょう。Medtronic Americas RegionのEVP兼社長であるJohn Liddicoat氏は、次のように述べています。「患者のアウトカムを改善し、アクセスを改善し、治療の全体的なコストを削減するという取り組みにおいては、リスクベースの契約、運用の調整、データの透明性が共にそろっていることが基本要件となります」

図4. 将来の価値を提供するには

医療機器業界における革新者の中には、高度にコネクテッドなデータ中心の未来を既に計画している革新的な企業もあります。Illumina社の製品開発担当シニアバイスプレジデントであるSusan Tousi氏は、同社の目標は「リッチなデータストリームを統合し、新しい分析の可能性を開き、デジタル化されたバイオロジー時代の到来を告げる」という目的の下、「シームレスなデータファブリックを通じてスマートシーケンサーをインターネットに、相互に、そしてパートナーのアプリケーションに接続することだ」と言います。

視野を広げてみると、テクノロジーや物流において、全ステークホルダーが賛同し、使用可能な「デジタルバックボーン」の構築が求められていること自体、この問題が業界の現在の能力では解決できず、データシステムの専門知識が必要となるような、より長期的な課題であるということを明示しています。

それでも、医療機器企業は、これら両方の問題にローカルスケールで対処し始めることが可能です。データを安全に取り込んで共有するデバイスを構築したり、実際の顧客のニーズを理解するために緊密に協力したり、データを使用してそれらの顧客により良い価値を提供することなど。業界は、コネクテッド・エコシステムの構築に向けた第一歩を踏み出す責任を負っています。そしてこの機会を捉える企業にとって、潜在的に重大な経済的便益があります。

サマリー

第4次産業革命がヘルスケアを変革するにつれて、患者・消費者はいつでも、どこにいても個別化された治療を受けることを求め、新しいテクノロジーを使用することでしょう。しかし存在感を発揮し続けるためには、企業は現在のニーズを満たしつつ、患者・消費者が将来必要とする製品の開発に取り掛かる必要があります。

この記事について

執筆者 Pamela Spence

EY Global Health Sciences and Wellness Industry Leader and Life Sciences Industry Leader

Ambassador for outcomes-based performance and healthy aging. Advocate for women.