2021年2月4日
なぜライフサイエンス業界ではGxPが重視されるのでしょうか

なぜライフサイエンス業界ではGxPが重視されるのでしょうか

執筆者 EY Japan

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2021年2月4日

ライフサイエンス業界では、製品の安全性や信頼性を担保するための規制の総称として”GxP”という用語があります。本稿ではGxPの概念を説明するとともに、他産業との比較も盛り込みながらライフサイエンス業界でGxPが重視される背景をご説明します。

本記事は、医療機器業界におけるGxPおよびCSVへの取り組み に関するシリーズ記事です。

要点
  • GxPの概念とは?
  • GxPがライフサイエンス業界で重視される理由
  • 安全性・信頼性に関するリスクの考え方について、ライフサイエンス業界と他業界とはどのように異なるのか

GxPおよびCSV(computerized system validation)に関する概説記事を12回にわたって連載します。本稿が第1回目です。

ライフサイエンス業界特有のトピックであるGxPおよびCSVは伝統的に製薬業界での取り組みが主でしたが、近年では医療機器業界においても取り組みが進んでいます。EY Japanは、GxPの概念を分かりやすく説明するとともにGxP対応実現の方法論であるCSVの実務にも言及する記事を順次公開する予定です。 連載記事の詳細については記事末尾の表をご覧ください。

GxPとは何か

言うまでもなく、人間の健康・生命に関わるライフサイエンス業界では、製品(医薬品・医療機器)の開発から市販までのプロダクトライフサイクル全体における品質を担保することが重要です。そのため、各国の規制当局は医薬品・医療機器の有効性・安全性について承認審査を行います。この規制の枠組みは一般に”GxP”と呼ばれています。

GxPは”Good x Practice”の略称です。”x”の部分にプロダクトライフサイクルの段階を表す英単語の頭文字が入ると、そのプロダクトライフサイクルの段階においてクリアするべき基準を示すようになります。代表的なものは以下の通りです。

表:GxPの構成要素

下図は医薬品・医療機器の開発から市販までのプロダクトライフサイクルとGxPの対応を示しています。ライフサイエンスという広い業界の中でも、事業会社や組織・部門ごとに意識するべきGxPは異なります。

例えば、研究開発部門で意識されるべきはGLPやGCPです。これらはその医薬品・医療機器の有効性・安全性の検証に焦点が当てられているためです。一方、製造部門(工場)ではGMPとなります。GMPの焦点は医薬品・医療機器が有効性・安全性が確保された手順で製造されているかどうかだからです。

図:プロダクトライフサイクルとGxP

図:EY作成

GxPを構成する5つの基準

1. GLP <Good Laboratory Practice> 「医薬品・医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施基準」

GLPは非臨床試験(微生物や細胞を含む動物を用いた安全性試験)における「職員および組織」「試験施設および機器」「被験物質などの取り扱い」「試験計画書および試験の実施」「報告および保存」に関する基準を定めています。例えば動物試験を計画・実施し、その過程で発生するさまざまなデータを記録し、それを報告することで、試験の信頼性を確保することが求められています。
なお、動物安全性試験に限らず、将来的な製造販売承認申請を目指して実施される基礎研究においてもGLPの概念は重要です。データ記録や資料保存といったGLPの基準を採用することで研究段階から信頼性の高いデータが取得でき、製造販売承認時に必要となる信頼性の基準を満たすことができるためです。

2. GCP <Good Clinical Practice>「医薬品・医療機器の臨床試験の実施基準」

GCPでは臨床試験(治験)における被験者の人権の保護、安全の保持および福祉の向上を図り、治験の科学的な質および成績の信頼性を確保することで医薬品・医療機器などの品質・有効性および安全性の担保するための基準が定められています。
従ってGCPには「被験者」「医師(治験責任医師)」「医薬品を開発する製薬企業(治験依頼者)」「治験審査委員会(IRB:Institutional Review Board)」などの治験実施に関与する全ての者の役割と業務など順守しなければならない基本的な基準が定まれています。

3. GMP <Good Manufacturing Practice>「医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理の基準」

製薬会社が医薬品を生産するとき、当初の目的通り患者に安全に使用してもらうために実施する手順や規則を定めており、主に以下の3点に主眼が置かれています。

  1. 人為的な間違いを排除する
  2. 汚染などを防ぎ品質を確保する
  3. 品質維持のプロセスを定義し運用する

これらを達成するために、ハード・ソフトの両面からルールを決めて運用することがGMPの目的です。製造過程において人為的ミスや汚染物の混入を防ぎ同じ品質の医薬品が製造できるよう(不良品が発生しないよう)な製造工程を実現し、また常に必要な品質をモニタリングすることが重要です。

4. GDP <Good Distribution Practice>「医薬品の流通に関する基準」

医薬品の市場出荷後、薬局・医薬品販売業・医療機関に渡るまでの医薬品の仕入れ・保管・供給業務に関して、高水準の品質保証の維持と医薬品の流通過程での完全性を保証するための基準を指します。
日本では医薬品の製造から出荷まではGMPが省令として長い歴史を持っていた半面、出荷後の流通について品質を保証する基準はありませんでした。厚生労働省が2018年12月28日に「医薬品の適正流通(GDP)ガイドライン」を公開したことで、日本でもGDPが導入されることになりました。
GLP・GCP・GMPとは異なり法的拘束力はありませんが、国際団体のPIC/S1のGDPガイドラインを踏襲しているためグローバルスタンダードを準拠しており、GxPの根幹である人間の健康・生命を守るという観点からGDPガイドラインへの対応はこれから強く求められることになります。

5. GPSP <Good Post-Marketing Study Practice>「医薬品・医療機器の製造販売後の調査および試験の実施の基準」

市販後の医薬品・医療機器の品質・有効性・安全性に関する情報の収集・検出・確認または検証のために行う調査および試験実施に対する基準を指します。市販された医薬品・医療機器には下記2つのリスクが存在すると言われています。

  1. 市販後多くの患者に使用された場合に未知の副作用が発現される可能性
  2. 治験での使用法と実際の医療の場での医薬品の使われ方が同じでない可能性

従って市販された医薬品・医療機器は一定期間が経過した後に、企業が実際に医療機関で使用されたデータを集めて品質・効果・安全性について再度確認するという再審査および再評価制度が設けられています。なお再審査・再評価の結果、承認された有効性や安全性が認められなかった場合は、直ちに市場から当該医薬品・医療機器を回収することになります。

ライフサイエンス業界に厳しい規制が設けられている理由(他業界との比較)

ライフサイエンス業界はどうしてこのような厳格な規制・ガイドラインが設けられているのでしょうか。それは薬品・医療機器の品質に問題があった場合、人間の健康や生命に直接的な危害が及ぶ恐れがあるためです。実際、GxPのレギュレーションに違反したオペレーションにより日本でも薬害による死者が出る事態が発生しています。他業界との比較を通じ、GxPの厳格性を確認していきましょう。

  • 工業製品

一般的な工業製品の品質管理はISOに基づく品質基準により運用されています。例えば、一般工業製品はISO9001の認証に基づいて実施されることが多く、これは「作業・品質の均一化やマニュアルを作成することで誰でも作業の再現ができること」により品質を担保する方法です。
また、一般的な製造業は製品が周辺環境や人体に及ぼす結果を試験により確認することができます。例えば自動車部品などは耐久試験などにより、設計された部品を使用した製品が起因して発生するアクシデントを予測することが可能です。このように工業製品は試作段階から意図的に極限の状態(耐久試験など)を作り出すことにより品質を確認できますが、医薬品・医療機器は安全性が確保されてから出ないと試験そのものが実施できません。
もちろん医薬品・医療機器でも臨床検査などの試験を行いますが、これは安全が確認されてからさらに、不測の事態、未知の副反応が無いことを確認するためで、思想的に大きく異なります。

  • 航空宇宙業界

機能・性能および安全性の確保などを目的とし、プロジェクト管理、リスク管理、形態管理、キー特性・クリティカルアイテム管理、初回製品検査などの要求事項を満たすためにAS/EN/JISQ9100に基づいた設計・開発・製造までの全ての工程に対して品質管理を行っています。
AS/EN/JISQ9100ではフェールセーフ(なんらかの不具合が発生することを前提に対策すること)での対応が認められています。
例えば、ロット単位の部品に対して負荷検査を行い、規格に反して破損した場合はそのロット全てを使用しない方法で品質を担保しています(1つのボルトを使う場合、そのロットが10本あればその他の9本が壊れない場合に初めてその部品を使用します)。この数学的な品質確保の考え方は、医薬品・医療機器では認められていません。

これまで見てきた通り、ライフサイエンス業界ではGxPに対応することで品質を確保しています。事前の計画を丁寧に精査し、計画がその通りに実行されたことを検証し、文書化することにより品質を確保する手法です。
計画通りに実行されていることを検証するため、ここでは計画とは異なった手順の実施は許されません。検証済みの手順で研究・生産・販売を行うことで事故を防ぐことがGxPの狙いだからです。従って、コンピューター化システム(研究・生産・販売などの目的に企業が利用するシステム)もGxPの検証対象です。言い換えれば、研究・生産・販売などのプロセスで利用されるシステムの品質が検証され、動作保証されている必要があります。
航空宇宙業界もかなり厳格な基準を設けていますが、ライフサイエンス業界ではフェールセーフを想定しない点でさらに厳格であるといえます。エラーは人間の健康や生命に直接的な危害が及ぼす恐れがあることから、ライフサイエンス業界ではエラーの発生を未然に防ぐことに主眼が置かれているのです。

脚注
  1.  PIC/S(Pharmaceutical Inspection Convention and Pharmaceutical Inspection Co-operation Scheme) :「医薬品査察協定及び医薬品査察協働スキーム」のことで、加盟している各国規制当局間での医薬品規制の国際調和・情報共有・品質向上などを目指す。1995年にEUを中心に設立され、日本は2014年に厚生労働省・PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)・47都道府県が共同で加入した。(櫻井 信豪 (編著)『ゼロから学ぶGMP 仮想査察事例を徹底解説』(株式会社じほう、2020年))

 

  • 「医療機器業界におけるGxPおよびCSVへの取り組み」記事一覧

    1. なぜライフサイエンス業界ではGxPが重視されるのでしょうか(本記事)
    2. GxPとISOはどのように関係するのでしょうか(医薬品と医療機器の異なる観点)
    3. GxPに対応するには何を順守すればいいのでしょうか(各国のGxP関連法律とGAMP-5)
    4. GxP対応の方法論であるCSVとは何でしょうか?(一般の開発モデルとの共通点と相違点)
    5. 医薬品業界・医療機器業界でCSVの対応状況には違いがあるでしょうか
    6. GlobalプロジェクトにおけるCSVの実践的運用(事例紹介も含む)
    7. アジャイル開発とCSVは相いれないのでしょうか(EYの考え方)
    8. Cloud技術にCSVの枠組みはどのように適用できるでしょうか(EYの考え方)
    9. CSV実践基礎(1)計画編:プロジェクトの計画に対するバリデーション計画の立案のポイント
    10. CSV実践基礎(2)実行編:リスクに応じたバリデーション手法の紹介(要件・テスト・報告の3つの観点から)
    11. CSV実践基礎(3)報告編:バリデーションの結果報告と欠陥対応のポイント
    12. CSV実践基礎(4)総集編:CSVプロジェクトのケーススタディー

サマリー

ライフサイエンス業界では、製品の開発から市販までのプロダクトライフサイクル全体における品質を担保するため、”GxP”という規制が設けられています。ライフサイエンス業界ではエラーがそのまま人間の健康・生命を害する可能性があるため、GxPを通じ厳格な品質管理を行っているのです。

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