2020年7月15日
長期的価値の創造に向けた企業ストーリーを発信するには

長期的価値の創造に向けた企業ストーリーを発信するには

執筆者

尾山 耕一

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト パートナー

平日はひたむきに持続可能な社会づくりに向き合う修行僧。休日はひたむきに波に向き合うサーファー。

2020年7月15日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、不確実性の増す今日において企業に求められるものは何でしょうか。グローバルに広がりを見せるビジネスでは今まで以上に未来へのストーリーが必要となります。

口下手な日本企業

「三方よしの経営を実践してきた日本企業は、元来から“ESG”的な企業だった」という考えをよく聞きます。あるいは、“ESG”を“SDGs”や“CSV”、”ステークホルダー資本主義“に置き換えることもできます。実際、これまでは世界が株主を最優先して短期的な利益主義に走る傾向がありましたが、日本企業は比較的それにくみしない理念を持ち続けているように感じます。

ところが、不確実で変化の渦中にある今日では、あるべき経営を粛々と実践しているだけでは十分な対応とは言えません。経済がグローバル化した今日、投資資金は世界中を循環しています。そして、世界最大の資産運用会社ブラックロック社のラリー・フィンクCEOによる2020年の企業向けレターには、世界の投資家の多くが、より良い社会の実現に向けて投資行動を見直そうとしており、そのために投資先企業に対して透明性のある情報開示を求めているとされています。

不言実行、多くを語らないことが美徳、といった謙虚な姿勢は、日本企業は口下手であると見なされ、足かせとなります。この不確実で変化の渦中にある時代をいかに生き抜くか、その先にいかなる未来を切り拓きたいのか。自らの言葉で、しかし聞き手の文脈を踏まえて、自らの考えを発信することが求められています。

不確実で変化の渦中にある時代

今日ビジネスを取り巻く環境は、これまでになく不確実です。ビジネスがグローバルに広がったことにより、局所的な火種が世界全体を覆う大きなリスクへと膨らむ可能性を有しています。約10年前にはリーマンショックや東日本大震災により、日本の経済は大きな打撃を受けました。その後、米中冷戦により地政学リスクが高まり、気候変動に伴う自然災害は徐々に激甚化しています。そして今は、新型コロナウイルス感染症が世界を襲っており、ポストコロナがどういう世界になるのかは未だ不透明です。想定外のリスクがビジネスを直撃することは、むしろ常態となっています。

一方で、世界では資本市場の変革に向けた大きなうねりが起きています。前述のフィンクレターは、「金融の抜本的な見直し」と題されています。そこでは、「透明性ある情報開示は、より持続可能で包摂的な資本主義を実現するための手段であるべきです。企業は、企業理念を掲げ、株主、顧客、従業員、地域コミュニティなど、あらゆるステークホルダーに資するために思慮深くかつ真摯に取り組まなければなりません。そうすることにより、貴社、ひいては投資家、従業員、そして社会全体が長期的な繁栄を手にすることができるでしょう」と述べられています。マルチステークホルダーに価値を提供する、ステークホルダー資本主義の概念が台頭しています。

頻発するリスクや世の中のうねりをどのように解釈し、組織の意思決定を行うか。企業経営は、これまでになく難しいものになっています。そして投資家や社会は、企業の考えを聞きたがっています。

未来へのストーリー構築

2017年に、EY、事業会社、アセットマネージャー、アセットオーナーが集まり、Embankment Project for Inclusive Capitalism(以下、EPIC)を立ち上げました。このメンバーの運用資産総額は約30兆米ドルに上ります。ここで目標として掲げられたのは、長期的価値をけん引する主要因である消費者や財務、人材、社会に対して効果的な戦略が与える影響を測定するため、首尾一貫した、受容性の高い指標を見定めることでした。EPICで検証されたLTVフレームワークおよび4つのステップは、企業が自らの考えを発信するストーリーを構築するための参考になります。

長期的価値の創造に向けて

利益を上げる、成長する、イノベーションを起こす。ステークホルダー資本主義の文脈において、これらは目的ではなく手段に過ぎません。その先にどのような社会を目指すのか、その実現に自社としてどのように貢献するか。企業の長期的価値を創造するためには、自らの目的(パーパス)に基づく、ステークホルダーに提供する価値とその実現方法を定義することが必要です。

投資家とのコミュニケーションとは、自らの組織を見定める査定者に、自分をよく見せることが目的ではありません。混迷の時代を生き抜き、目指す社会の実現に貢献し、長期的価値を創造するための道筋を共有し、議論することが目的です。透明性ある対話、かみ合った議論の積み重ねの先に、あるべき未来の姿が描かれていく。より良い社会の構築を目指して(Building a better working world)を志すEYは、そのお手伝いをしていきます。

サマリー

企業は自らの目的(パーパス)に基づき、ステークホルダーに提供する価値とその実現方法を定義することが求められます。LTVフレームワークはそれらを定義し、企業が自らの考えを発信するストーリーを構築の支援となります。

この記事について

執筆者

尾山 耕一

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト パートナー

平日はひたむきに持続可能な社会づくりに向き合う修行僧。休日はひたむきに波に向き合うサーファー。