不確実で変化の渦中にある時代
今日ビジネスを取り巻く環境は、これまでになく不確実です。ビジネスがグローバルに広がったことにより、局所的な火種が世界全体を覆う大きなリスクへと膨らむ可能性を有しています。約10年前にはリーマンショックや東日本大震災により、日本の経済は大きな打撃を受けました。その後、米中冷戦により地政学リスクが高まり、気候変動に伴う自然災害は徐々に激甚化しています。そして今は、新型コロナウイルス感染症が世界を襲っており、ポストコロナがどういう世界になるのかは未だ不透明です。想定外のリスクがビジネスを直撃することは、むしろ常態となっています。
一方で、世界では資本市場の変革に向けた大きなうねりが起きています。前述のフィンクレターは、「金融の抜本的な見直し」と題されています。そこでは、「透明性ある情報開示は、より持続可能で包摂的な資本主義を実現するための手段であるべきです。企業は、企業理念を掲げ、株主、顧客、従業員、地域コミュニティなど、あらゆるステークホルダーに資するために思慮深くかつ真摯に取り組まなければなりません。そうすることにより、貴社、ひいては投資家、従業員、そして社会全体が長期的な繁栄を手にすることができるでしょう」と述べられています。マルチステークホルダーに価値を提供する、ステークホルダー資本主義の概念が台頭しています。
頻発するリスクや世の中のうねりをどのように解釈し、組織の意思決定を行うか。企業経営は、これまでになく難しいものになっています。そして投資家や社会は、企業の考えを聞きたがっています。
未来へのストーリー構築
2017年に、EY、事業会社、アセットマネージャー、アセットオーナーが集まり、Embankment Project for Inclusive Capitalism(以下、EPIC)を立ち上げました。このメンバーの運用資産総額は約30兆米ドルに上ります。ここで目標として掲げられたのは、長期的価値をけん引する主要因である消費者や財務、人材、社会に対して効果的な戦略が与える影響を測定するため、首尾一貫した、受容性の高い指標を見定めることでした。EPICで検証されたLTVフレームワークおよび4つのステップは、企業が自らの考えを発信するストーリーを構築するための参考になります。
長期的価値の創造に向けて
利益を上げる、成長する、イノベーションを起こす。ステークホルダー資本主義の文脈において、これらは目的ではなく手段に過ぎません。その先にどのような社会を目指すのか、その実現に自社としてどのように貢献するか。企業の長期的価値を創造するためには、自らの目的(パーパス)に基づく、ステークホルダーに提供する価値とその実現方法を定義することが必要です。
投資家とのコミュニケーションとは、自らの組織を見定める査定者に、自分をよく見せることが目的ではありません。混迷の時代を生き抜き、目指す社会の実現に貢献し、長期的価値を創造するための道筋を共有し、議論することが目的です。透明性ある対話、かみ合った議論の積み重ねの先に、あるべき未来の姿が描かれていく。より良い社会の構築を目指して(Building a better working world)を志すEYは、そのお手伝いをしていきます。
サマリー
企業は自らの目的(パーパス)に基づき、ステークホルダーに提供する価値とその実現方法を定義することが求められます。LTVフレームワークはそれらを定義し、企業が自らの考えを発信するストーリーを構築の支援となります。