ジェンダーギャップ解消には正しい知識を持つことが不可欠
塚原:ダイバーシティの取り組みについて「女性が優遇されている」と思う人が男女ともにいます。特に男性に多く、2022年のEY Japanでの企業環境調査では74.3%の男性が「女性が優遇されている」と感じているようです。これは誤解だと思うのですが、解消するにはどうすれば良いのでしょうか。
船越氏:これはエクイティ(公正)に関連する話であり、男性と女性では何をもって優遇と考えるのか視点の違いがあるために起きているのだと思います。
女性の視点からは、挑戦する機会そのものは平等になっても、まだまだ男性の方がさまざまな機会にアクセスしやすいという意見があります。これまでは男性の方が働く人材として数が多かったため、あらゆるシステムが男性に使いやすいように無意識に設計されている傾向があり、その中で働いてきた女性は仕組みなどの前提部分に対して「男性の優位性」を感じ続けてきたと考えられます。
一方、男性の視点からは、これまでのジェンダーギャップを埋めるための施策やポジティブアクションなどを見て、「女性の方が優遇されている」と感じているのではないでしょうか。女性活躍推進法なども含め、喫緊のダイバーシティ推進対象としてまず女性が打ち出されていることが多く、企業もその活躍推進に重点的に取り組んでいることが背景にあると思います。
何をもって優遇とするかの視点が、女性は「入り口」に、男性は「出口」に向いているという違いがあるため、こうしたギャップが生まれているのでしょう。ギャップを解消するには、こういった啓発のためのイベントを開催するなど知識を深めることが重要です。多くの人が正しい知識を持ち、考え方を少しずつ調整していければ、ダイバーシティ=女性優遇という誤解が減っていくと考えています。
塚原:船越先生のおっしゃっていた入り口と出口という視点の違い、非常に興味深いです。日本のダイバーシティは女性の登用比率など結果としての数値を求められる場合が多いですが、企業によって全体の母数などが違う中で、女性・男性それぞれの視点で最適を考えていくことが重要だと思いました。DE&Iを推進していくにあたり、基礎知識を身につけて、自分自身の行動の指針を定めることが大切ですね。梅田さんは視点の違いについてどのようにお考えでしょうか。
梅田:日本だけでなく世界中でジェンダーギャップがあり、企業内では男性がまだマジョリティです。そのため男性は女性よりもロールモデルを見つけやすく、「あの先輩みたいにやっていけば何とかなる」と思えるのが有利だと思います。また、先輩や上司も自分と似た男性の後輩には声を掛けやすいため、接点を多く持つことができます。反対に女性は身近なロールモデルが少ないため、自分で道を切り開いていかなければならないケースが多いです。
キャリアアップについても同じような側面があります。社内にキャリアアップの機会や制度があったとしても、女性はそれらを活用するために思い切ってジャンプしなければいけないようなことがあります。自信のなさや経験の少なさもステップアップの際に影響してくるでしょう。また、女性自身が「自分は女性だからといって優遇されたくない」と思い、一歩踏み出すのをためらってしまうことも少なくありません。
機会が平等であれば男性も女性もキャリアの道のりは同じだと思われがちですが、実際はまだ女性の前にだけ壁があるケースが大半です。その壁の存在を男性に認識してもらうことも重要だと思います。
塚原:これらの話は男性と女性に限らず、同性同士でも起こり得るし、場合によっては男性がマイノリティになることもありますね。
梅田:もちろんです。ここでは国際女性デーにちなんで男性と女性で言及しましたが、性別以外にも文化的背景や歴史的背景に伴うさまざまな違いが世の中には存在しています。以前、講演してくださった上智大学の出口 真紀子教授がおっしゃっていましたが、マジョリティ性の高い人の前には「自動ドア」があるようなもので、簡単に通り抜けられる故に自分のマジョリティ性を自覚する機会がありません。対して、マイノリティ性の高い方の前にあるのは固く閉ざされた扉で、外に出るために自分でこじ開ける必要があります。こういった違いがあることをマジョリティ側の方には認識していただきたいですし、「開けにくいドア」があるならば内側から開けるのを手伝ってくれるような施策をさまざまなところで実現していきたいと考えています。