ESGの評価が⾼い企業ほど、より低⾦利で魅⼒的な条件の資本調達⼿段を幅広く活⽤することができます。
トレンド6:需要の不確実性
アジリティ(敏しょう性)を向上させることで、価格のボラティリティ、代替資源の脅威と需要の変化に対処することができます。
エネルギー移⾏に伴い再⽣可能エネルギー、電気⾃動⾞、エネルギー貯蔵システムに不可⽋な鉱物の需要が⾼まっています。こうした需要を満たすために、鉱⼭事業者は今後、供給⾯の⼤きな課題を克服する必要があるでしょう。具体的には資本調達、操業許可の確保、鉱物がごく⼀部の国に偏っていることに起因する地政学的リスクなどです。
プロジェクトの期間が⻑いセクターでは、代替資源の脅威も確実に存在します。テクノロジーの進歩とエネルギー移⾏の進展により、さまざまなコモディティ需要の変化に鉱⼭事業者が追いつけなくなるかもしれません。このリスクを浮き彫りにしているのが、バッテリー製造のロードマップです。
需要の変化による影響を予測するにはシナリオモデリングが役⽴ちます。またオフテイク契約を締結することで価格変動のリスクを軽減できるかもしれません。コモディティ市場の参加者というよりは、統合されたサプライチェーンの一部として加わる企業も出てきました。
トレンド7:デジタルとイノベーション
鉱⼭事業者は⽣産性、安全性、ESGの優先事項などに対応するべくイノベーションを推し進めています。
デジタルとイノベーションは鉱⼭事業者の⽣産性向上のための主要なツールとしての役割を果たしてきました。EYでは、コストに関する意思決定をより迅速に行うべく、データサイエンス、モデリング、シナリオプランニングの活⽤がさらに進むとみています。
今回のパンデミックは、現場での健康と安全性の向上にデジタルが⼤きな可能性を持つことをも浮き彫りにしました。⾃動化やリモート・オペレーション・センター(ROC)をパンデミック前から利⽤していた鉱⼭事業者はスムーズに業務を進めることができました。EYの調査によると、企業はこれら分野への投資拡大を計画しており、これは当然の流れといえるでしょう。
鉱山事業者はESGへの取り組みの一環としてもテクノロジーを活用しています。デジタルイノベーションを促進することで、多様化を図りより環境に優しい製品をラインナップに加え、報告の透明性を高めることができます。
トレンド8:仕事の未来を加速させる
インクルーシブかつ安全な⽂化とキャリアパスを構築することが未来に通⽤する⼈材育成を可能にします。
国境の閉鎖やブランドの魅⼒⽋如により、業界の変化に対応できるスキルを備えた⼈材を確保することが難しくなり、鉱⼭事業者は⼈材危機に直⾯しています。争奪戦が激化する中で⼈材を確保するためには、より多様な働き⼿にとって魅⼒のある職場づくりが必要です。現場における安全⽂化の浸透を優先課題にしなければなりません。鉱山事業者には、パンデミックを受けて始めたメンタルヘルス・プログラムの継続も求められます。今やダイバーシティ&インクルージョンは投資家が重視する項⽬として定着しており、鉱業・⾦属企業では取締役レベルの指⽰が必要です。
鉱業・⾦属セクターではデジタルリテラシー格差が広がっています。この格差を埋めることができるかどうかの鍵を握るのは、質の⾼いオンライン学習への投資拡大、業界内やサードパーティとの連携です。
トレンド9:新しいビジネスモデル
より変化の激しい環境下で鉱業・⾦属企業が事業運営する際の⼀助となる6つのモデルがあります。
不確実性が続く中、現在のビジネスモデルが⽬的に適しているかどうかを評価する⽅法があります。ボラティリティの中にありながら鉱⼭事業者が価値を獲得する上で役⽴つ6つのモデルは以下の通りです。
- 価値共有モデル:ホストコミュニティーと政府に直接大きなリターンをもたらす
- 循環型ビジネスモデル︓廃棄物を最⼩限に抑え、炭素排出量を削減する
- 垂直統合︓⾃動⾞メーカーなど下流企業を買収または統合する
- ⽔平⽅向の市場統合︓例えばテクノロジープロバイダーなど周辺事業に参⼊してイノベーションを推進する
- ジョイントベンチャー︓ステークホルダーに⼤きな価値を提供し、埋蔵資源や能力へのアクセスを向上させる可能性がある
- オフテイク契約︓低リスクでの資本調達が可能になる
どのモデルが最適であるかを判断するためにはまず、現在のモデルのどこに価値、リスク、機会があるかを⾒極め、綿密なシナリオプランニングと将来の市場評価を⾏う必要があります。
トレンド10:生産性とコスト上昇
短期的な利益と⻑期的価値のバランスをとることで、持続可能なコスト削減を推し進めることができます。
今回のパンデミックで需要が⾼まった⼀⽅で、投⼊資金、輸送費、⼈件費、脱炭素化プログラムのコストも上昇しています。鉱⼭事業者にとってコスト削減と⽣産性向上の両⽴は難しい課題です。短期的な利益を上げながら、⻑期的価値をも創造しなければなりません。
鉱⼭事業者の⽣産性が受ける主な影響は変動性です。変動性の管理には以下が必要です。
- 不確実性を軽減するための地質モデリングの改善
- 予測的なメンテナンスを実現し、信頼性を⾼めるための資産パフォーマンス関連の解析
- 一貫した結果を導くためのオペレーションの規律
- 変化に迅速に対応するための市場動向に沿って統合されたオペレーティングモデル
⼈を中⼼に据え、テクノロジーを活⽤した⽣産性向上に資する取り組みは、操業許可に悪影響を及ぼすことなく持続可能かつエンド・ツー・エンドに改善を図る⼀助となり得ます。
サマリー
グローバルな鉱業・⾦属セクターが直⾯するリスクと機会はディスラプションによって劇的に変化しています。本年度のEY調査では、「環境・社会」がリスクの第1位となり、新たに「需要の不確実性」と「新しいビジネスモデル」がランクインしました。調査の結果からボラティリティが継続していることが浮き彫りとなりましたが、変⾰を進め、⻑期的価値をもたらし、持続可能な未来を構築することに前向きな企業にとっては機会がリスクを上回ると私たちはみています。