9 分 2022年3月1日

鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティトップ10 - 2022

執筆者 Paul Mitchell

EY Global Mining & Metals Leader

Experienced mining and metals leader. Contributing insightful points of view to the market around productivity and digital.

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アンドリュー・カウエル / グローバル規模で点と点をつなぐ「Global dot connector」。

9 分 2022年3月1日

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  • 鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティ トップ10 - 2022(PDF)

鉱業セクターに関するEYの最新のレポートによると、鉱業・⾦属企業にとっては2022年も機会がリスクを上回る状態が続くでしょう。

要点
  • 鉱業・金属セクターに関するEYの年次レポートは、初めて環境・社会問題をリスクの第1位に挙げた。
  • 脱炭素化は重要な課題となっており、多くの議論を呼び、リスクと機会の両方をもたらしている。
  • 過去3年間リスクの第1位に挙げられてきた操業許可は首位を明け渡したものの、依然としてトップ3に入るリスクとみなされている。

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  • EYの年次レポート「鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティトップ10 - 2022」をダウンロードする

ディスラプション(創造的破壊)により、鉱業・金属セクターでは最大の課題と成長機会がどこにあるかに対する認識が急速に変わりつつあることが、EYの年次レポート「鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティトップ10—2022」(PDF)で明らかになりました。変⾰を後押しする⼤きな推進⼒となってきたのは気候危機とステークホルダーの期待の⾼まりです。今回の調査では「環境・社会」が初めてリスクの第1位に挙げられました。これに「脱炭素化」が続き、過去3年間第1位だった「操業許可(LTO)」は第3位でした。

「需要の不確実性」と「新しいビジネスモデル」の2項⽬が新たにランクイン。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響が依然として顕在する、市場の継続的なボラティリティを浮き彫りにしました。とはいえ、変⾰に前向きな鉱⼭事業者にとっては、機会がリスクを上回ると私たちはみています。変⾰が組織と地域コミュニティーに⻑期的価値をもたらす後押しとなる可能性があるためです。

鉱業・金属セクターのリスクと機会を表すグラフ
  • 調査対象について

    年次レポートの⼀環として、鉱業・⾦属セクターのグローバル企業200社以上の経営層を対象に調査を実施しました。回答者の⼤多数は最⾼経営者クラスの上級幹部でした。調査は2021年6⽉から9⽉にかけて実施しました。

トレンド1:環境・社会

鉱⼭事業者は持続可能な未来への貢献を⽰すことにより競争⼒を⾼めることができるでしょう。

投資家、株主など幅広いステークホルダーの間で環境・社会・ガバナンス(ESG)要素の優先順位が⾼くなるにつれ、鉱⼭事業者は企業戦略、意思決定、ステークホルダーレポーティングにESGを組み込む取り組みに今まで以上に⼒を⼊れるようになってきました。⽣物多様性や⽔管理などの問題をめぐるステークホルダーからのプレッシャーは今後強まると見込まれます。鉱⼭事業者はステークホルダーの期待に応えるため、鉱⼭閉鎖に徐々に備えるとともに、⽔とエネルギーの関係の管理を強化する必要に迫られることになるでしょう。

規制当局から課せられた義務の範囲を超えて、コミュニティーに与える影響に対してより⼤きな責任を負うことを企業に求める圧⼒も⾼まってきました。鉱⼭事業者は地域の長期的かつ持続可能な経済成⻑と社会的発展を推進することで、鉱山寿命を超えてプラスのレガシーを残すことができます。

環境・社会問題に関するグラフ

トレンド2:脱炭素化

柔軟な脱炭素化戦略の構築がネットゼロの達成と差別化の一助となり得ます。

投資家と政府による投資の一般炭離れが進み、カーボンプライシングが増え始める中、鉱山事業者は脱炭素化を他の戦略的リスクと同様に扱う必要があります。

脱炭素化の柔軟な道筋の構築が、企業によるネットゼロ(炭素排出量実質ゼロ)の実現と差別化の一助となり得ます。具体的にはシナリオモデリングや、資金源、テクノロジー、資産の見直しなどです。また、多くの企業がスコープ1とスコープ2の排出量の削減を順調に進めており、今こそスコープ3への取り組みに注力すべきです。これらの排出量を抑えることで真の価値と長期的なサステナビリティを生み出すことができます。

脱炭素化に関するグラフ

トレンド3:操業許可

全てのステークホルダーに対して⻑期的価値を創造することで鉱業の未来を確実にすることができます。

鉱業による地域コミュニティーや経済への貢献、遺産保護、先住⺠やファーストネーションの⼈々との関係をめぐる期待の変化に伴い、操業許可(LTO)は急速に進化を遂げています。

調査レポート

40%

の回答者が2022年に投資家の注目の対象になるのはコミュニティーとの関係だと回答しています。

資源、資本、融資に対する組織の調達能⼒と、操業許可がますます連動するようになる中、これら課題への積極的なアプローチが不可⽋です。従来の所有者(Traditional Owners)との幅広い協議、今まで以上に焦点を絞ったブランド強化、株主とコミュニティーの双⽅に価値をもたらす取り組みは、企業がより強固な操業許可を確保する⼀助となり得ます。調査では回答者の40%以上が、2022年にはコミュニティーとの関係が鉱業・⾦属セクターへの投資家の注目の対象になると回答しています。

トレンド4:地政学的アジェンダ

鉱⼭事業者は貿易戦争、新しい政権や政府、資源ナショナリズムの先を⾒越しての事業経営が求められるでしょう。

今回のパンデミックによる各国政府の地政学的な動きにより、重要製品の「⾃給率」を⾼めるための輸出規制や業界⽅針、大手グローバル企業に対する世界共通最低法⼈税など、グローバリゼーションに新たな逆⾵をもたらし、ルールに基づく世界秩序にさらなるゆがみを⽣じさせています。

調査レポート

79%

の回答者が鉱⼭使⽤料の引き上げと増税を想定しています。

2022年は、政権交代や資源ナショナリズムを含め地政学的な課題が増えると考えられます。鉱⼭事業者の79%が鉱⼭使⽤料の引き上げと増税を想定しています。リスクを軽減するためには政府との連携やサプライチェーンのレジリエンス構築を含めた多様なアプローチが必要となるでしょう。

トレンド5:資本

資本調達がますますESG評価と連動するようになる中、鉱⼭事業者に必要なのは実績を⽰すことです。

投資家はESG、操業許可、コミュニティー問題、ボラティリティに関連するリスクを懸念しており、鉱業・⾦属企業にとって資本調達は依然として課題となっています。⾼炭素資産を保有する企業の中には、プライベートエクイティなど代替となる調達⼿段を模索しているところもあります。

適切な条件で資本を調達するためには、財務・⾮財務上の考慮事項にきちんと対応していることをより具体的に⽰す必要があります。ESGの評価が⾼い企業ほど、より低⾦利で魅⼒的な条件の資本調達⼿段を幅広く活⽤することができます。資⾦のひっ迫に伴い、鉱⼭事業者は戦略に合わせてポートフォリオと投資も⾒直し、バッテリー向け鉱物の需要などを含めて需要の変化をうまく利⽤しなければなりません。

ESGの評価が⾼い企業ほど、より低⾦利で魅⼒的な条件の資本調達⼿段を幅広く活⽤することができます。

トレンド6:需要の不確実性

アジリティ(敏しょう性)を向上させることで、価格のボラティリティ、代替資源の脅威と需要の変化に対処することができます。

エネルギー移⾏に伴い再⽣可能エネルギー、電気⾃動⾞、エネルギー貯蔵システムに不可⽋な鉱物の需要が⾼まっています。こうした需要を満たすために、鉱⼭事業者は今後、供給⾯の⼤きな課題を克服する必要があるでしょう。具体的には資本調達、操業許可の確保、鉱物がごく⼀部の国に偏っていることに起因する地政学的リスクなどです。

プロジェクトの期間が⻑いセクターでは、代替資源の脅威も確実に存在します。テクノロジーの進歩とエネルギー移⾏の進展により、さまざまなコモディティ需要の変化に鉱⼭事業者が追いつけなくなるかもしれません。このリスクを浮き彫りにしているのが、バッテリー製造のロードマップです。

EYのバッテリー技術のロードマップ

需要の変化による影響を予測するにはシナリオモデリングが役⽴ちます。またオフテイク契約を締結することで価格変動のリスクを軽減できるかもしれません。コモディティ市場の参加者というよりは、統合されたサプライチェーンの一部として加わる企業も出てきました。

トレンド7:デジタルとイノベーション

鉱⼭事業者は⽣産性、安全性、ESGの優先事項などに対応するべくイノベーションを推し進めています。

デジタルとイノベーションは鉱⼭事業者の⽣産性向上のための主要なツールとしての役割を果たしてきました。EYでは、コストに関する意思決定をより迅速に行うべく、データサイエンス、モデリング、シナリオプランニングの活⽤がさらに進むとみています。

 

今回のパンデミックは、現場での健康と安全性の向上にデジタルが⼤きな可能性を持つことをも浮き彫りにしました。⾃動化やリモート・オペレーション・センター(ROC)をパンデミック前から利⽤していた鉱⼭事業者はスムーズに業務を進めることができました。EYの調査によると、企業はこれら分野への投資拡大を計画しており、これは当然の流れといえるでしょう。

鉱山事業者はESGへの取り組みの一環としてもテクノロジーを活用しています。デジタルイノベーションを促進することで、多様化を図りより環境に優しい製品をラインナップに加え、報告の透明性を高めることができます。

今後1、2年間のデジタル関連の優先課題

トレンド8:仕事の未来を加速させる

インクルーシブかつ安全な⽂化とキャリアパスを構築することが未来に通⽤する⼈材育成を可能にします。

国境の閉鎖やブランドの魅⼒⽋如により、業界の変化に対応できるスキルを備えた⼈材を確保することが難しくなり、鉱⼭事業者は⼈材危機に直⾯しています。争奪戦が激化する中で⼈材を確保するためには、より多様な働き⼿にとって魅⼒のある職場づくりが必要です。現場における安全⽂化の浸透を優先課題にしなければなりません。鉱山事業者には、パンデミックを受けて始めたメンタルヘルス・プログラムの継続も求められます。今やダイバーシティ&インクルージョンは投資家が重視する項⽬として定着しており、鉱業・⾦属企業では取締役レベルの指⽰が必要です。

鉱業・⾦属セクターではデジタルリテラシー格差が広がっています。この格差を埋めることができるかどうかの鍵を握るのは、質の⾼いオンライン学習への投資拡大、業界内やサードパーティとの連携です。

人材関連の表

トレンド9:新しいビジネスモデル

より変化の激しい環境下で鉱業・⾦属企業が事業運営する際の⼀助となる6つのモデルがあります。

不確実性が続く中、現在のビジネスモデルが⽬的に適しているかどうかを評価する⽅法があります。ボラティリティの中にありながら鉱⼭事業者が価値を獲得する上で役⽴つ6つのモデルは以下の通りです。

  • 価値共有モデル:ホストコミュニティーと政府に直接大きなリターンをもたらす
  • 循環型ビジネスモデル︓廃棄物を最⼩限に抑え、炭素排出量を削減する
  • 垂直統合︓⾃動⾞メーカーなど下流企業を買収または統合する
  • ⽔平⽅向の市場統合︓例えばテクノロジープロバイダーなど周辺事業に参⼊してイノベーションを推進する
  • ジョイントベンチャー︓ステークホルダーに⼤きな価値を提供し、埋蔵資源や能力へのアクセスを向上させる可能性がある
  • オフテイク契約︓低リスクでの資本調達が可能になる

どのモデルが最適であるかを判断するためにはまず、現在のモデルのどこに価値、リスク、機会があるかを⾒極め、綿密なシナリオプランニングと将来の市場評価を⾏う必要があります。

トレンド10:生産性とコスト上昇

短期的な利益と⻑期的価値のバランスをとることで、持続可能なコスト削減を推し進めることができます。

今回のパンデミックで需要が⾼まった⼀⽅で、投⼊資金、輸送費、⼈件費、脱炭素化プログラムのコストも上昇しています。鉱⼭事業者にとってコスト削減と⽣産性向上の両⽴は難しい課題です。短期的な利益を上げながら、⻑期的価値をも創造しなければなりません。

鉱⼭事業者の⽣産性が受ける主な影響は変動性です。変動性の管理には以下が必要です。

  • 不確実性を軽減するための地質モデリングの改善
  • 予測的なメンテナンスを実現し、信頼性を⾼めるための資産パフォーマンス関連の解析
  • 一貫した結果を導くためのオペレーションの規律
  • 変化に迅速に対応するための市場動向に沿って統合されたオペレーティングモデル

⼈を中⼼に据え、テクノロジーを活⽤した⽣産性向上に資する取り組みは、操業許可に悪影響を及ぼすことなく持続可能かつエンド・ツー・エンドに改善を図る⼀助となり得ます。

「鉱業・金属セクターのビジネスリスク&オポチュニティトップ10—2022」

サマリー

グローバルな鉱業・⾦属セクターが直⾯するリスクと機会はディスラプションによって劇的に変化しています。本年度のEY調査では、「環境・社会」がリスクの第1位となり、新たに「需要の不確実性」と「新しいビジネスモデル」がランクインしました。調査の結果からボラティリティが継続していることが浮き彫りとなりましたが、変⾰を進め、⻑期的価値をもたらし、持続可能な未来を構築することに前向きな企業にとっては機会がリスクを上回ると私たちはみています。

この記事について

執筆者 Paul Mitchell

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