EYの政治的そして経済的な観点での長期的展望は以下の通りです。
- グローバルシステムのリバランス
世界は多極化しつつあり、私たちはその初期段階にいます。多極化した世界とは、さまざまなルール、規範、機関、ネットワーク、支配力によって統治される世界です。
- 社会契約(守るべき規範)の刷新
デジタルによるディスラプションと所得格差の時代が到来し、新たな社会契約によって市民と政府、労働者と雇用者、そして個人と組織のニーズのバランスを取ることで、社会の安定化を図ることになります。
- 超流動市場
企業やマーケットを支配する規則は、マーケットの摩擦を取り除く方向へと変化し、すべてのもののためのマーケットを創出し、高度に効率化された企業社会の出現をもたらします。
人工知能(AI)、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)、仮想現実・拡張現実(VR・AR)が社会をつくり変えていきます。AIやRPA、ARやVRがまるで生き物のように自動的に人間の代わりをするという、人間拡張の新しい時代が勃興しつつあります。今まで想像すらしなかった働き方が生まれ、消費者の行動様式や規制の再構築を促します。AIやRPAの利用度合いが高まると、経済的格差が高まり、社会契約、教育政策といったあらゆることを再定義することや、新しい働き方が必要になります。
また、消費者はテクノロジーの利用によって、質の高い意思決定ができ、十分な情報と豊かな顧客体験を享受できるスーパーコンシューマーとなります。本レポートでは、消費者にはAIや自動運転車がまるで生き物のようになることに対して抵抗感があることを指摘しています。しかし、これらの受入れを促進するために、企業は心理学的・行動学的な経済を活用した新たなデザインでスーパーコンシューマーにアプローチしていくことになるでしょう。AIや自動運転車のような新しいテクノロジーは既存の規制における課題です。変化にとんだ市場環境に適応力のある規制のポイントとして「オープン」「リアルタイム」「動的(ダイナミック)」を提案しています。
より効率的かつ安定的な生産活動では、さまざまなテクノロジーによって農業や製造業の効率的で持続的な高いレベルの向上が見込まれます。農業・畜産業の分野では野菜由来の肉類代用品や食肉や乳製品などを研究室で育てるといったことが、人口の増加によるタンパク質に対する需要増加を持続的に満たすためのアプローチとして採用されています。また、スマート・バーティカル・ファーミング(垂直農法)が都市の消費者が求める、新鮮で健康的な食品の地産地消を可能にします。製造業でもあらゆる面で大きな転換点を迎えています。ナノレベルのテクノロジーはスマートで整然とした素材をもたらし、AIやRPAは製造現場の生産性を向上させ、3Dプリントにより消費地近くでの製造を可能としサプライチェーンの短縮をもたらします。
また、メガトレンドが都市と健康問題に与える影響として、気候変動や高齢化、モビリティや働き方の変化が想定される未来の都市化について、どこにどのような都市を形成すべきかにつき、いくつかの提案をしています。過去に発展した時代があった古い都市や中堅都市が、ディスラプションの力によって低コストで高いクオリティの生活拠点となり得るのです。このような都市は3Dプリント、AR、VRやIoTといったいの革新的なテクノロジーのハブ機能を果たし、AIのさらなる利用により分散型のイノベーションや製造の拠点となるのです。予防重視、パーソナル化に向けた健康に対するビジネスモデルの転換やテクノロジーの進展による健康の再定義が見込まれます。AIを活用した新薬の研究開発から、高齢者の自立的な活動を可能にする介護ロボットや自動運転車に至るまで、健康問題についても大きな変革が生じることになります。
EY Japan アカウンツリーダーの瀧澤徳也は次のように述べています。
「今日では、企業経営者はほぼ例外なく、ディスラプションを『チャンスであると同時に企業に存続の危機をもたらすもの』と捉えています。機会を捉えて価値創造につなげるためには、ディスラプションがどこから来てどこに向かっているか、そして企業にどのような影響があるのかをリーダーたちが十分に理解していることが重要です。」