パンデミック2年目の最後の四半期が終わろうとしていますが、依然として医療面からの視点と経済面からの視点とのコントラストが際立っています。新型コロナウイルス感染症の感染者数が過去最高に近づいている一方、株価についても同様に上昇し、ある大手投資銀行は「2022年が活気ある年となる可能性について楽観的である」と発表しました。(南アフリカでオミクロン株の流行後、2021年12月2日に発表)
バイデン政権は米国が保有する石油戦略備蓄から5,000万バレルを市場に放出すると発表しましたが、11月下旬のオミクロン株拡大のニュースで、またもや地域移動制限・国際移動の平常化への阻害となる見込みから市場が揺れました。しかし今までのところ、OPECが段階的に正常生産に戻していく計画を保持していることから、石油価格は11月中旬の価格水準を下回るものの安定しています。
ヘンリーハブの価格は常に天候の影響を受けており、米国の初冬が通常より暖かいことに反応して10月上旬のMMBtu(英国熱量単位)当たり6.60米ドルから12月中旬までに4.00米ドルに下がりました。欧州およびアジアでは、第4四半期の初め頃は天然ガス価格が落ち着いていましたが、ウクライナ国境におけるロシア軍の増強と、ノルドストリーム2(ロシアからドイツへ天然ガスを運ぶことになる新パイプライン) をめぐる不確実性についての懸念が引き金となり、天然ガス価格が再び急騰しています。
将来予測に関しては、OPECと米国エネルギー情報局(EIA)はいずれも2021年の最終予測において、2022年の石油需要は2019年を上回ると見込んでいます。こうした予測が現実となるかは時のみぞ知ることであり、他の出来事が介入してくる可能性もありますが、新たなウイルス感染に対する対応は経験済みであり、公衆衛生と経済の現実との間のトレードオフは、慎重ながらも楽観的な見方へと傾いています。
2022年第1四半期のテーマは「ダイバージェンス (分岐)」です。2021年第4四半期の間に石油・ガス市場は下方へ動きましたが、それぞれまったく異なる理由によるものでした。液化天然ガス(LNG)市場はオミクロン株の出現や中央銀行がインフレをコントロールするため金融引締めを実施する可能性にも影響を受けませんでした。石油の将来に関する疑念と、現在の石油ガスの良好な経済性および需要の状況は全く正反対な動きとなっています。
12月に発表された経済協力開発機構(OECD)の経済見通しでは、インフレは落ち着いたものの、パンデミック前と比較して高いインフレ率となっており「強いが不均衡な」成長と述べています。経済成長と石油需要は密接な関係がありますが、EIAによる、最新の世界のエネルギー見通し(International Energy Outlook)では、現在見通せる限りの長期において需要の伸び率は1%未満としています。マクロ経済環境は常にリスクを抱えており、これまで 中央銀行は新型コロナウイルス感染症への対応として金融緩和策をとってきましたが、インフレ高への対応のためテーパリング(国債などの資産買い入れを減らし金融緩和を縮小すること)を実施することは避けられません。直近における米国の消費者物価指数は1980年代初め以来の上昇率を示しており、ユーロ圏のインフレ率は現在のところユーロ史上最高の上昇を見せています。
石油の将来に関する一般的な見方はさておき、経済が成長し石油需要の伸びが予測されるということは、石油、天然ガス、LNG の中長期的なファンダメンタルズがポジティブであることを意味します。第3四半期の国際石油企業(IOC)の財務結果は堅調であり、株価は広域市場の2倍の水準で上昇しました。それにもかかわらず、石油・LNGの上流プロジェクトの資金調達は依然として困難です。石油・ガスメジャーの2022年の資本的支出は2021年比で21%増加すると予測されていますが、2014年と比較すると半分を超える程度にしかなりません。