5 分 2021年12月1日
空から見た工業地帯の石油精製プラント

2021年第3四半期の石油・ガス業界動向をアナリストはどう見たか

執筆者 Andy Brogan

EY Parthenon Energy Sector Leader

Speaker and industry advocate, optimist, music addict and avid traveler.

EY Japanの窓口

EY Japan 石油・天然ガスセクターリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー

子どもは3人。趣味は料理すること、食べること、犬と遊ぶこと。

5 分 2021年12月1日

関連資料を表示

石油、天然ガス、LNG生産者の2021年第3四半期の業績は、価格が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック発生以前の水準を上回ったため、総じて好調に推移しました。

この記事は、石油・天然ガス業界の四半期トレンドシリーズの一部です。

要点
  • 急激な価格上昇から消費者を救済するために増産を求める政府首脳の要求に、OPECプラスは一貫して抵抗している。
  • 収益の実績から、使用資本利益率が、シェール革命のピーク時以来の水準にまで上昇した。
  • COP26で有意義な合意が得られなかった場合、温室効果ガスの排出削減に取り組む生産者が競争上不利になる可能性があるかどうかをアナリストは注視している。

2021年第3四半期の石油・ガス事業は好況を示しました。原油、天然ガス、LNG(液化天然ガス)の価格がパンデミック前以上の水準になり、特にLNG価格は大きく上昇しました。増産により消費者価格を抑えたい政府首脳に対し、OPECプラスは一貫して供給方針を変えませんでした。また年末に向けて市場は力強く推移し、石油・ガス業界が短・中期的に好調を維持することが確実視されています。高収益により、使用資本利益率がシェール革命のピーク時以来の水準にまで上昇しました。ある石油会社のCEOは、会社がまるで打ち出の小づちのようだと発言しています。

価格の上昇

ブレント原油の2021年第3四半期の平均価格は74米ドルで、前四半期比で7%、前年同期比で71%上昇しました。これは、良好な需給バランスに加え、在庫がパンデミック前の水準を下回ったことを反映しています。ガス価格は今四半期を通じて急騰しました。ヘンリーハブ(天然ガス先物)の平均価格は4.30米ドル/MMBtu(英国熱量単位)で、前四半期の2.90米ドル/MMBtuから上昇しています。これは、ハリケーン「アイダ」の影響による減産が米国内外の需要の高まりと重なったためです。米国の生産者はガス上流事業への大規模な投資には消極的、もしくは余力がないとみられています。また、米国のガス生産者は投資規律を優先し、増産を抑えています。国際価格は、アジアでの需要拡大によるLNG市場のひっ迫、欧州における風力発電の不調、供給不足を反映して前四半期比で85%上昇しました。下流事業では、需要の増加とハリケーン「アイダ」関連の混乱により、精製マージンが上昇しました。

相変わらず、配当、自社株買い、デレバレッジ(資産売却による債務圧縮)によるバランスシートの調整、既存のビジネスと新たな代替エネルギーのどちらに投資するかに関して、今後企業が何を優先するのかが最も注目されました。前四半期に引き続き、アナリストが最も注目したのは株主への分配金で、質問全体の13%を占めました。

市況や収益、キャッシュフローの改善により、いつものように矢継ぎ早に出される財務関連の質問(今四半期の決算説明会では全体の62%)のトーンに変化がありました。相変わらず、配当、自社株買い、デレバレッジ(資産売却による債務圧縮)によるバランスシートの調整、既存のビジネスと新たな代替エネルギーのどちらに投資するかに関して、今後企業が何を優先するのかが最も注目されました。前四半期に引き続き、アナリストが最も注目したのは株主への分配金で、質問全体の13%を占めました。柔軟な配当戦略を取る企業はすでに高い利回りを実現しているというのがアナリストの認識であり、彼らアナリストは、そうした企業が増配をする意向か、自社株買いにシフトして増配を見送る方針なのかを探っていました。一方、配当金を据え置いた企業に対する質問の内容は、その企業の配当に魅力があるのかということや、EPS(1株当たり利益)の増大を優先することを意図して自社株買いをするか否かでした。

短期的支出

株主への還元や負債の削減に充てられなかったキャッシュフローが事業への再投資に向けられていることから、またこの時期の通例として、設備投資計画が注目されました。市況と石油・ガスの長期的な先行きについての不確実性を踏まえ、関心が向かったのは短期的な支出です。石油代替燃料に割り当てられる投資額と、そこから得られるリターンの金額が引き続き重要視されています。インフレは今後もマクロ経済の主要なテーマであり、企業が自社のポートフォリオの中でどのようなコスト圧力を認識しているのか、またより重要な点として、そうしたコスト圧力を相殺できる余地があるのかに注目が集まりました。このテーマは今後も取り上げられるでしょう。

第3四半期のグラフ

ガス価格は重質油の精製コストに影響を与えるため、ガス市場の状況が下流事業のマージンにどう影響したかをアナリストは見極めようとしました。概して現在の需要回復と今後の見通し、およびこの需要回復による2022年におけるマージンの回復への潜在的な影響について各社の見解が問われました。LNG事業では、高収益をもたらした要因、つまり契約再交渉などの内部要因と比して、どの程度が市場要因によるものであったのか、また今後も同水準の収益を維持できるのかについて質問が出されました。

その他の質問

現代において、石油・ガスメジャーの戦略的意思決定は、その存亡を左右する可能性があります。戦略上のさまざまな選択肢についての質問は、アナリストが考える石油・ガス業界の方向性と、本来はどこを目指すべきなのかを知る貴重な手がかりとなります。代替エネルギー事業に関する質問は18項目、LNG市場は7項目、米国における陸上での事業は4項目で、深海の海洋油田に関する質問は1つも出ませんでした。COP26の成果と企業のエネルギー転換戦略との関連については、指摘があがりました。アナリストが把握しようとしていたのは、COP26で有意義な合意が得られなかった場合、排出削減への取り組みを宣言している企業が、そうでない企業と比べて競争上不利になる可能性があるかどうかです。一部の企業は、新エネルギー事業をどの程度自ら推進していて、どの程度を提携企業に依存しているのか、また新エネルギー事業の拡大推進にふさわしいテクノロジーについても質問を受けました。こうした質問は脱炭素化が注目される限り続くものと思われます。

今四半期も事業面に関する質問は多くは出ませんでした。主要プロジェクトの最新情報、生産見通し、米国における陸上での事業の業績に関する質問が過半数を占めました。パーミアン盆地(米国最大のシェールオイル生産地、テキサス州西部からニューメキシコ州にまたがる)に大きな関心が寄せられており、パーミアンやその他の短期案件で動きを加速させる計画があるかどうかが問われました。アナリストはまた、上流事業の縮小とそれに伴う生産見通しへの影響にも懸念を示しました。

今後の見通し

原油在庫は低水準にあり、年末に向けて価格は維持されるとみられています。欧州はガス在庫が近年の水準を下回ったまま暖房シーズンを迎えていて、LNG市場もタイトに推移すると見込まれます。こうした状況を踏まえると、さまざまな資金の使い方を企業は選択できます。証券アナリストにとっては引き続き脱炭素化戦略、代替エネルギー計画、既存ビジネスを維持するための資金活用が注目分野となるでしょう。

  • 分析の対象範囲および手法

    本レビューの目的は、世界の石油・ガス企業10社を対象に、2021年第3四半期の決算報告シーズン中にアナリストが質問した内容から主要テーマを分析するものです。上位3テーマの特定は、決算報告の電話会議の記録を分析した内容のみに基づきます。今回の分析は以下の企業を対象としています。

    • bp plc
    • Chevron Corporation 
    • ConocoPhillips
    • Eni SpA
    • Equinor ASA
    • Exxon Mobil Corporation
    • Repsol SA
    • Royal Dutch Shell plc 
    • Suncor Energy Inc
    • TotalEnergies SE

サマリー

財務関連の質問は引き続きアナリスト業界における最大の関心事であり、企業の配当や自社株買いの戦略、キャッシュフローの優先順位に大きな注目が集まりました。また、アクティビスト(物言う株主)が増える中、脱炭素化戦略や代替エネルギーへの投資に関する質問が今四半期も重視されました。

この記事について

執筆者 Andy Brogan

EY Parthenon Energy Sector Leader

Speaker and industry advocate, optimist, music addict and avid traveler.

EY Japanの窓口

EY Japan 石油・天然ガスセクターリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー

子どもは3人。趣味は料理すること、食べること、犬と遊ぶこと。

  • Facebook
  • LinkedIn
  • X (formerly Twitter)