まず始めてみるのであればサービスプロバイダーを利用するのも良いですが、自身のモデルを持っている必要があります。デジタル化は最終的に売上の最重要課題となるのです。

第1章
炭化水素からどのように知見を得ますか?
多くの回答者が、少しでも早くコストを取り返し、資産へ多くの還元をもたらせるよう、デジタルにより多くを投資したいと考えています。
石油・ガス業界が掲げる成長目標に対する一つの鍵は、テクノロジーにおける資本支出を解き放つことにあります。われわれの調査がこの事実を反映しています。すなわち、私たちの多くの回答者が、少しでも早くコストを取り返し、資産への多くの還元をもたらせるよう、デジタルにより多くを投資したいと考えているのです。
当社の調査に回答した10名のうち9名近く(89%)が、自身のデジタルツールへの投資が次の2年で増加すると予想し、4分の1(25%)は大きく跳ね上がることを予想しています。投資が横ばいであると回答したのは11%にとどまり、意義深いことに、減少するという回答者はゼロでした。
「結局のところ、より効率的になるには、という話になるのは驚くことではありません」と、ノルウェーに拠点を置くEYパートナーのIoana-Andreea Eneは言います。「効率は最重要課題です。なぜならそれによって投資や市場にアクセスできるようになるからです」
デジタルツール投資
89%当社の調査に回答した10名のうち9名近くが、自身のデジタルツールへの投資が次の2年で増加すると予想し、4分の1(25%)は大きく跳ね上がることを予想しています。
さらに、回答者の半数近く(48%)が、利用可能な資本があった場合には会社はよりデジタルイノベーションに多くを投資するだろう、と回答しています。近年、エネルギーの価格が高くなっていることを鑑みると、回答者が示した、これからの時代において投資を増加させたいという意図を説明しやすくなるかもしれません。

人工知能に関するEY Global and Americas AdvisoryリーダーであるKeith Strierによれば、デジタルテクノロジーは効率化アップよりもずっと多くの提供可能性を持っていると言います。そしてより野心的な目標を達成するには、企業はより高い目標を望まなければなりません。「目標が単に効率化を引き出すだけであれば、その目標を設定するだけでよいのです」と彼は言います。「旅の初めに誤った質問を尋ねてしまったら、誤った目標を設定することになってしまいます」
会社の中では、人材を増やすかデジタルツールを増やすかという議論が避けられないものとなってきている、という認識が生まれています。米国E&Pのある幹部は、これまでにないほどの詳細な情報を得る能力が明確な競争優位性を表している、と言っています。これまでに前例のない粒度での視点を業務に取り入れるという力を得ることで、デジタルテクノロジーは戦略的な意思決定についてより良い支援情報へのアクセスを提供できるのです。
ビジネスマシンのあらゆるパーツを整合させる
しかしながら、新たな高みへと上ろうとする多くの会社は、デジタル戦略に関する社内のあつれきを解決する必要があります。これは、多かれ少なかれ、デジタル戦略に関し幹部の中にはいくらかの反対がある、ということを意味しています。

EYのシニアマネジャーであるKanishka Banerjiによれば、経営幹部の視点からデジタルを利用する主な利点は、過去には可能ではなかったような方法で能力を紹介し価値を示すことです。「デジタルは一般的に、わずか数年のうちに30%以上の価値を可能にすることができます。正しく行えば、会社はデジタルのおかげで他社がやっていることを鮮やかに飛び越えることができるでしょう」と彼は言います。「デジタル化は新たな能力を生み、新しい働き方を可能にし、従来の業務での優位性や継続的な改善の取り組みを通じて得ていた価値よりも圧倒的に多くの価値を解き放つことができるのです」

新たなテクノロジーがもたらす利点は貸借対照表に収まらない広がりを見せています。例えば安全に対する改善も、低い事故率による作業員への補償費用の支払い低減や、装置のより良いモニタリングによる修理コストの低減など、その他の施策同様、財務面への良い影響を与えることが多くあります。

第2章
テクノロジーは貴社の戦略ですか、それとも出発点ですか?
どのようなデジタル技術が回答者の業務に対し最も良い影響を与えると期待されるのか見ていきましょう。
石油・ガス業界はデジタル技術を、生産性を活性化させ競争的優位性を得るための手段として考える傾向が増しています。こうしたテクノロジーに関し企業の戦略の全体感を得るため、私たちは企業が現在実行プロセスにあるのはどういったテクノロジーなのか、またどういったテクノロジーを近い将来に実行する予定なのかを尋ねました。私たちはまた、企業に対し、こうしたツールについて認識しているプラスの影響、マイナスのリスクについても問い合わせました。
未来は自動化される
次の5年間を通じ、回答企業に最も好ましい影響を持つと予想されるデジタルテクノロジーについては、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)が最多のものと並んで1位となりました。さらに、どのテクノロジーを現在導入中かという問いについては回答者の75%がRPAであると答えました。
EYのStrierは、ロボティクステクノロジーの導入スコアが比較的高いのは、幹部がもともとこれに親しんでいることに起因している、と考えています。すでにロボティクスを活用している多くの企業の中で、石油関連サービスの大手であるSchlumbergerは、工数を30%カットでき、また油田を完成させるために必要となる時間についても同じだけの割合を削減できると思われる、ロボットによる掘削リグを試験中です。3
しかしStrierは、タスクがより困難になるにつれて複雑性も急激に増す可能性がある、と強調します。「さらに進化したAIやコンピューター・ビジョン、自然言語を利用したオートメーションを積み重ねていくと、もはや決まったルールを使用するというよりは、人間のような認知を期待し始めることになるでしょう。そしてその先には、従来の企業ITなどとは全く異なる道が広がっているのです」と彼は言います。

価値は個別のビジネス課題を解決するため複数のツールを併用することで生まれます。当然ながら、正しい答えはロボットかアルゴリズムかという問題ではなく、その両方の組み合わせである、というものとなるでしょう。
リターン、そしてリスクをもたらすコネクテッドシステム
極めて多くの回答者が、テクノロジーの中で最もリスクが高いものはIIoT、すなわち、ビッグデータを活用した予測的ソリューションを利用し、企業が資産管理の変革が行えるようになるIIoTである、と回答しました。EYのEneは、IIoTは、1980年代、1990年代にさかのぼったシステムと新しいシステムとを連携させるという事実によって、潜在的な「パンドラの箱」であると考えられる場合がある、と言います。
より古いシステムは自律的に運用されていたために当初はセキュリティが守られていたかもしれません。しかしそのデータに現在アクセスするとなるとデータパイプを開くこととなるため、サイバーセキュリティの問題を提起することになる、とEneは言います。「昔のように全く隔絶された環境で作業している分にはよかったのでしょうが、プラットフォーム全体を脅かさずにその周りに壁を築くのはどうすればよいのでしょうか」と彼女は言います。

クラウドが持つ無限の可能性
回答者の20%が、この先5年間でビジネスに最も好ましい影響を与えると予想されるものとしてクラウドを挙げました。クラウドはまた、企業が現在実施しているテクノロジーとして全体の中で最も優勢であり、98%がすでに利用しているツールであると回答しています。
クラウドアプリケーションは、GoogleやMicrosoftなどのテクノロジーの大手企業が過去、石油企業とパートナーシップを築き、石油・ガス業界へのクラウドソリューションを提供してきたなど、非常に大きな関心を集めてきた経緯があります。例えば、ノルウェーの石油企業Equinorは、以前はStatoilという社名で知られた企業ですが、2018年6月にMicrosoftとの提携を発表しました。その目的は「目的別の」ITサービスの開発を促進する、というものです。4
つまり、企業はテクノロジーについて総合的に考え始める必要があるのです、とEYのStrierは言います。「価値は個別のビジネス課題を解決するため複数のツールを併用することで生まれます」と彼は言います。「当然ながら、正しい答えはロボットかアルゴリズムかという問題ではなく、その両方の組み合わせである、というものとなるでしょう。いくつかのボットを持っているとします。マシンラーニングのアルゴリズム用のものもあれば、データモデル用のものもあり、またマシン用のものもあるでしょう。しかし皆、共に動いていくのです。
「物語はツールを越えていくのです」とStrierは続けます。「つまりテクノロジーの全基軸をどう統合していくか、という問題なのです」
EY CanadaのNational Oil & Gas Strategy ServicesリーダーであるLance Mortlock もこの意見に賛同しています。「問題は、どのテクノロジーを使用するかということよりむしろ、どのようにテクノロジーを利用してビジネスプロセスや人間の能力を実現できるか、ということです」
バリューチェーンにおける主なリンクのアップグレード
調査回答者の過半数(55%)にとって、バリューチェーンにおいて投資すべき主要な優先事項は業務運営です。この業界における企業のメインフォーカスが業務運営である、というのは意外なことでした。回答者は最大のコストセンターを代表する業界にあるため、何よりも効率を求めるのではないかと思われたからです。実際、多くの石油・ガス企業にとってデジタルテクノロジーが持つ主要な魅力とは、金額や時間を消費する手作業への依存を削減する機会、となっています。
慣習にとらわれない石油業界を見てみましょう。米国の伝統的な地上掘削作業では、作業員は油井場所で膨大な工数を使います。こうした手作業に伴う時間や経費のため、油井の作業についてセンサーを活用してデータを提示するリモート・オペレーション・センター(ROC)を利用している作業員もいます。ROCによって作業上のリスクも劇的に削減されています。ROCは油井や設備が生産上の問題や漏れがなく円滑に稼働できるよう全作業場を継続的にモニタリングすることが可能です。
ノルウェーの石油会社Equinorは近年多くのROCを立ち上げ、2017年11月に、北海にあるValemonプラットフォームである海上掘削リグの完全な遠隔作業について初のコントロールルームを開設しました。「新たな開発領域では、石油やガスの生産はますます人間が関与せずロボット化、標準化が進み、遠隔制御で立ち上げられるようになるでしょう」と、EquinorのCOO、JannickeNilssonは、2018年3月にベルゲンで行われた統合型事業サポートセンターの開設発表時に言っています。5
最終的には、戦略的アプローチはバリューチェーンにおける投資戦略を検討する際に取るのが最も良いでしょう。変化時点での取り組みはビジネスの多くの部分に影響を与えるからです。例えばこうしたROCは、石油やガスの企業にとって、現場の労働力を削減した場合には一方で人材開発を改善する機会を与えることができます。リグを操作する作業員が少なくなるいうことは、付加価値の高い最適化作業に注入できる人材の利用度が上がるということと同義です。
業務運営のその先へ
バリューチェーンにおける2番目の優先事項は、メンテナンスと信頼性(25%)であり、ロジスティクスとサプライチェーン(19%)がそれに続きました。しかし回答者の96%は、これら2つに同様に投資する計画だとしています。財務や人材にはこれほどの関心は向けられていませんが、大多数が、これらについても少なくともいくらかの資本は投じると答えています。

EYのEneによれば、ブロックチェーンは国営の石油会社(NOC)に商品の真のトレーサビリティを与える可能性があるとのことです。「NOCは自国の発展を望んでいるため、ローカルコンテントが重要となります。そしてブロックチェーンを使用することで、すべてが皆に明らかになるのです」と彼女は言います。
生産から精製まで
上流側のバリューチェーンにおいて、回答者が平均的に最も多くデジタルテクノロジーに費やしているのは探査と評価(38%)でした。生産がその次に高い内容で、回答者の総消費の平均26%、その次に掘削の完了(19%)となりました。

カナダの総合石油会社のある幹部は、これまで歴史的に多くの資本を受け取っていなかったアップグレード分野に注力している、と言っています。「トレーディングやマーケティング、小売といった活動は常に、自動化されたデータ解析のように、デジタルツールによって支援されています。今やわれわれは精製、処理、保管や輸出といった活動についての投資を優先する必要がありますが、こうした分野ではテクノロジーがもたらす恩恵で主要な問題に対応できるのです」

第3章
プロジェクトはボット工数、人的工数のどちらで評価されるのか。
回答者が新しいテクノロジーにアクセスするために使用している方法とは何か、考えてみましょう。
石油・ガス業界においてデジタルロードマップを作成する重要ポイントは、輸送手段の選択、つまり、先進的な未来に向けどのくらい正確に道を歩むことができるのか、ということです。企業が選択した投資の種類が、この道をナビゲートするうえで重要な役割を演じます。

「私は、企業がすべてを自社内で開発する必要が無いと認識することは健全性のサインである、と考えています」とEYのEneは言います。「新たなデジタルウェーブの魅力とは、皆がプロジェクトに何らかのテクノロジーを試したからといって誰も自分の仕事を失わない、というものです。ツールは以前に比べてずっと安くなっています。だから、試してみて失敗しても問題はありません。単に次のビッグプロジェクトへ進んでいけばよいだけです」
この新たな環境においては、より大きなチャレンジの一つに、与えられた領域でより重大な投資をいつ行うかを決定する、ということが挙げられます。調査回答者の41%は、幹部チームと役員会からデジタルロードマップについて意見の整合を得る、というのは彼らが直面する別の主要戦略問題である、と言っています。
「私は、どのテクノロジーに最も注力が値するか、について、さまざまな幹部レベルはまだ確信が持てていないように思います」とEYのStrierは言います。「先頭に立つのが好きな初期の導入者は思い切ってやってみるのでしょうが、貴社がより慎重な会社で、この業界に何十年も居たとなると、経営層は与えられた投資できちんと価値を手にすることができるのか明確にしたいと思うことでしょう」
最初はアウトソーシングでも良いかもしれませんが、最終的には、企業は社内の能力を育てていかなくてはなりません。まず始めてみるのであればサービスプロバイダーを利用するのも良いですが、自身のモデルを持っている必要があります。デジタル化は最終的に売上の最重要課題となるのです。
統合に対するバリア
36%EYの調査によれば、最大の障壁は新たなツールを既存のソリューションやシステムと統合する難しさにある、と、回答者の36%が言っています。
急こう配の学習曲線上で速度を維持する
一方、社外のプロバイダーにも大きなハードルがもたらされます。調査によれば、最大の障壁は新たなツールを既存のソリューションやシステムと統合する難しさにある、と、36%が回答しています。



新しいテクノロジーの「アグリゲーター」
新たなテクノロジーを採用する場合、サービスプロバイダーばかりが重要なわけではありません。そして投資というパイを分割することは簡単な仕事ではありません。当社の回答者の多く(50%)が、異なる種類の投資間の正しいバランスは、新しいテクノロジーを採用する際に直面する戦略的課題の上位2つのうち1つだ、と言っています。
平均として、当社の調査の回答者は、その技術投資の25%を買収にささげていると言い、いくつかの会社、とりわけ大手の企業は、当然ながらM&Aを利用して自身の能力を拡大している、と答えています。とりわけ、Halliburton、Schlumberger、ABB Groupといった石油サービス業界の大手企業は、台頭するテクノロジーの「アグリゲーターー」として活動し、確固たるバイヤーとしての地位を不動にしています。
最近の取引として、Schlumbergerは2018年7月、ノルウェーに拠点を置き、特許取得したツールを使用して油田バリアのイラスト作成を行うソフトウェアの株式非公開企業、Wellbarrierを金額非公開で取得しました。統合型の石油・ガス企業は商取引活動も活発に行っています。例えば、フランスの大手Total社は2018年6月にフランスのフリート・マネジメント・ソフトウェアのデベロッパー、WayKonectの取得を発表しました。
大手企業にとって、社内能力の開発もまた現実的な取り組みであり、多くの配当支払いとなり得るものです。大手企業にとって、社内能力の開発もまた現実的な取り組みであり、多くの配当支払いとなり得るものです。回答者が、社内でのテクノロジー開発をするにあたり最大の利点だと答えたのは、社内のイノベーション・カルチャーの促進(39%)でした。
例えば、イギリス―オランダの大手企業Shellは、世界の人口増加に対し、より広範囲に、サステナブルな混合エネルギー資源を供給するうえで、イノベーションとテクノロジーが重要である、と考えています。 Shellは現在、アイデアを商業的に実現可能なテクノロジーへと転換するための開発に、1年ごとに10億米ドル程度を費やしています。Shellの研究の多くは短期的なものに集中しており、その既存のビジネスから資本や運営にかかる資本を削減できるよう、また顧客製品やサービスを促進し、将来の低炭素エネルギーへの移行に向けたテクノロジーを商業化することを目指しています。 Shellはテクノロジーセンターのグローバルネットワークを運営し、ヒューストンやアムステルダム、バンガロールに主要ハブ拠点を有しています。6
しかし場合によっては、新たなツールを社内で作成するコストが潜在的な利益よりも大きくなってしまうこともあります。特に、納期タイムラインが長引く(24%)、や、投資コストが桁違いにかかる(22%)、といったマイナス面を挙げた回答者もありました。
人的要因が最重要
企業がサービスプロバイダーとの関係性を構築する、一から社内でのテクノロジーを作り上げることのいずれに注力するかにかかわらず、人的資源の問題が鍵であることには変わりありません。

「これら素晴らしいテクノロジーすべてについて、貴社の既存の従業員をどう関わらせ、どのようにしてこれからやってくる新しい世代にとって自身を魅力的にするか、それが真に重要なのです」と、EYのEneは言います。「平たく言えば、石油やガスを、卒業したての学生にとってどう魅力的にするか、若い世代をどうやってリクルーティングに巻き込むか、ということです」
EYのWilliamsもこれに同意します。「デジタル企業は人との関わりを開始しています。彼らはデジタルであるだけではなく、デジタルに働く必要もあるのです」
このことは、オートメーションの台頭にもかかわらず、業界のデジタル化にとっては人的要因があいかわらず重要であり続けるという事実を裏付けています。
結論
石油・ガス業界が熱心に効率化を求めるのは、商品価格を上げてマーケットで後退しようという意味ではありません。コストへの注視は、3年以上の間低価格となったことで幹部が消費コミットメントに乗り出さざるを得なくなったという企業DNAと強く結びついたものです。効率化のアジェンダは、この業界がテクノロジーへの投資をどのように考え、どのような可能な用途を持っているかということを形作っています。
サマリー
デジタルの目的は、意思決定を改善し、より効率化・迅速化することです。そのためには、テクノロジー、コネクティビティー、データを効率的に使用する必要があります。バリューチェーン全体でサイロの壁を壊すことで、これまでより統合化され、情報に基づいた、付加価値の高い意思決定につながります。