5 分 2020年5月25日
Oil and gas industrial platform walk way

2020年第1四半期決算説明会で明らかになった石油・ガス需要激減の影響

執筆者 Andy Brogan

EY Parthenon Energy Sector Leader

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5 分 2020年5月25日
関連トピック 石油・天然ガス 戦略

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2020年第1四半期は、石油・ガス業界のあらゆるセグメントが影響を受けました。これまで需要低迷時に石油メジャーを救ってきた精製セクターも例外ではありません。

本稿は、石油・ガス業界の四半期トレンドに関するシリーズ記事です。

2020年第1四半期は、⽯油・ガス業界にとって異例の事態となりました。背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡⼤に伴う需要の激減、多くのセクターにおける事実上の経済活動停⽌、国内外でヒトやモノの動きが⽌まったことがあります。平均原油価格も、2019年第4四半期に⽐べ20%下落しました。

2020年第1四半期は原油価格が乱⾼下、第1四半期期末には期首の3分の1にまで落ち込みました。WTI原油先物5⽉物の決済⽇の前⽇にはWTIが⼤きく下振れし、マイナスの価格を付けています。⽯油貯蔵施設がないか、施設内の在庫が飽和した状態で現物を受け取ることはできない、という現実にトレーダーが気付いたためです。

業界全体に影響

この影響は⽯油・ガス業界のあらゆるセグメントに及び、これまで需要低迷時に⽯油メジャーを救ってきた精製セクターも例外ではありませんでした。精製マージン(原油価格と⽯油製品価格の価格差)が27%低下する中、製油所は稼働を停⽌しました。LNG価格は今回の危機が起きる前から持ちこたえられない⽔準だったのが⼀段と下落し、天然ガス指標価格と欧州・アジア産LNGの陸揚げ価格との差が縮まり、実質的にゼロになりました。これに加え、上流での設備投資が⼤幅に削減されたことにより、⽯油サービス部⾨の存続を脅かす事態となりました。

当然のことながら、こうした市場環境の悪化は企業の業績に反映され、全体の純利益は2019年第4四半期⽐で38% 減、2019年第1四半期⽐で148%減となりました。営業キャッシュフローも弱く、2019年第4四半期に⽐べ24%、前年⽐で13%減少しています。

資本利益率か、設備投資か?

アナリストの間では財務⾯を喫緊の問題とする⾒⽅が強まっていましたが、今四半期に⼊り、焦点は資本利益率から企業の回復能⼒と、それまで誰も想定していなかった市場環境で⽣き残れるかどうかに移っています。

⾔うまでもなく、アナリストからの質問は現在の危機に関連するものが⼤半を占めました。⼤幅な⽀出削減の発表を受け、設備投資が危機前の⽔準に戻るのはいつなのか、⽯油・ガスの⻑期的需要パターンに構造的変化が⽣じると企業側がみているのか、また、そうした変化が資本配分にどのような影響を与える可能性があるのか。これらの点にアナリストの関⼼は集まりました。

企業には⾃社の配当政策や、設備投資と配当の引き上げのどちらを優先するのかについて核⼼をついた質問がいくつも突き付けられました。「配当を維持しながら設備投資を削減することは財務的に賢明な判断なのか」。このような具体的な質問を受けた企業もあります。アナリストからは「原油価格の低迷が続いた場合、配当を⻑期的に維持することはできるのか」「⾼配当性向に戻る⽇は来るのか」といった質問も挙がりました。

直近の数四半期とは違い、アナリストは明らかに企業の信⽤格付けに注⽬しており、その維持が重要となっていることは間違いありません。

今四半期は、バランスシートの強固さに⾃信があるかについて単⼑直⼊な質問も複数挙がっています。具体的には現在のギアリング⽐率(⾃⼰資本に対する有利⼦負債の割合)と、設備投資や配当に回すために借り⼊れを増やすつもりがあるかどうかが問われました。直近の数四半期とは違い、アナリストは明らかに企業の信⽤格付けに注⽬しており、その維持が重要となっていることは間違いありません。

構造的損害と長期戦略の評価

事業運営に関して最も多かった質問は、営業⾃粛要請に基づく⾃粛や⾃主的な営業⾃粛に関する内容と、⾃粛により資産に構造的損害が発⽣し、価格回復後に危機前の⽣産⽔準に戻す場合に⽀障が⽣じるかどうかです。また、どのように減産予測を導き出したのか、⽣産調整を⾏う資産をどうやって選別したのかという点にも関⼼が寄せられました。

ほかにも、上流での設備投資削減が2020年以降の⽣産能⼒にどう影響するか、ポートフォリオのどの部分が影響を受けると予想されるかという⽅⾯にもアナリストの⽬が向けられました。現状を詳細に把握すべく、主要な資本投資計画の進捗に関する具体的な質問が⾏われ、設備投資の削減によって増産スケジュールに影響が出ることはないかについても問われました。

戦略⾯では、今回の危機が企業の⻑期戦略や競合他社との位置関係に与える影響に注⽬が集まり、企業が⻑期的なポートフォリオをどのように展開しようとしているのか、それによって⽯油とガスの⽐率がどう変わるのかについて企業は問われています。

アナリストの質問に占める財務・事業運営・戦略分野のテーマの割合

低炭素社会を⾒据え、アナリストの関⼼は、エネルギー転換を⽬指す動きに関する企業の⽴ち位置や原油価格の下落や価格ボラティリティの急上昇を受け、エネルギー転換の取り組みを加速させる計画があるかどうかに向けられました。特に注⽬されたのは、化⽯燃料への投資と再⽣可能エネルギーへの投資におけるリスク・リターンプロファイルの変化と、この2つの事業の資本配分計画をどのように変更するかです。

またアナリストの間では、2020年第2四半期は第1四半期からさらに業績が悪化するとの⾒⽅が強まっています。アジアでの需要回復の⾜取りを踏まえた第2四半期の業績について企業の⾒解を求める質問が⽬⽴ちまし た。そこには第2四半期の決算が受ける段階的な影響と収益に影響を及ぼす可能性のある⼤きな要因に関して企業の考えを知りたいというアナリストの思惑があります。原油価格回復の時期を巡るアナリストの⾒⽅が懐疑的であったことは明らかです。

今後の展望

需要の回復と在庫の減少がどの程度の早さでもたらされるかについてはさまざまな憶測が⾶び交っており、投資家の間では緊張状態が続くでしょう。減産によって在庫状況についての懸念は弱まってきたように⾒受けられます。今後は経済再開のスピードと、経済に対する信頼感や投資意欲が⻑期的ダメージをどの程度受けているかがますます注⽬を集めていくでしょう。業界の統合は避けられず、その規模やどの企業が経営統合を実⾏するのがベストなのか、市場の判断が下されようとしています。

  • 分析の対象範囲、制限、手法

    この記事は、2020年第1四半期決算発表シーズン中に⽯油・ガス業界のグローバル企業12社がアナリストから受けた質問を基に、重要なテーマを選んで考察したものです。3つの主要テーマは、決算説明会の議事録を精査した結果のみを踏まえて選定しました。分析の対象とした企業は以下の通りです。

    BP plc
    Chevron Corporation
    ConocoPhillips
    Eni SpA
    Exxon Mobil Corporation
    Husky Energy Inc.
    Repsol SA
    Royal Dutch Shell plc
    Equinor ASA
    Suncor Energy Inc.
    TOTAL S.A.
    Woodside Petroleum Ltd

サマリー

2020年第1四半期決算説明会では、⽯油・ガス業界で減産が続く中、需要の回復にどの程度時間がかかるのか、経済に対する信頼感が⻑期的ダメージをどの程度受けているのかに焦点が移っていく⾒通しであることが明らかになっています。

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