5 分 2021年11月26日

            港の上空から見た石油タンカーの船積み風景

第2四半期の決算説明会で財務上のトレードオフに質問が集中した理由とは

執筆者 Andy Brogan

EY Parthenon Energy Sector Leader

Speaker and industry advocate, optimist, music addict and avid traveler.

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EY Japan 石油・天然ガスセクターリーダー EY新日本有限責任監査法人 パートナー

子どもは3人。趣味は料理すること、食べること、犬と遊ぶこと。

5 分 2021年11月26日

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企業のキャッシュフローは過去10四半期で最⼤となり、追加の株主還元と新たな投資を巡る議論が起こっています。

この記事は、石油・天然ガス業界の四半期トレンドシリーズの一部です。

要点
  • 第2四半期の石油・ガス企業の決算発表は2020年の同四半期から一転して回復し、おおむね良好な結果となった。
  • 株主還元を配当と自社株買いに分けて実施する企業案に対し、アナリストから疑問の声が上がった。
  • 炭素排出と石油・ガスの新規プロジェクトの経済的リターンについて、企業がどのようにバランスを取っていくのかが問われた。

石油・ガス商品市場および企業業績の回復基調は2021年第2四半期も継続し、石油需要とOPECプラスの規律により在庫は着実に減少し、原油価格も上昇しました。

第2四半期のブレント原油の平均価格は1バレル69⽶ドルで、前四半期から13%上昇、前年同期の平均価格の2倍になりました。ヘンリーハブ(天然ガス)の平均価格は2.95⽶ドル/MMBtu(英国熱量単位)で、寒波の後に価格が正常化したため、第1四半期の3.50⽶ドル/MMBtuからは下落しましたが、第2四半期初から第2四半期末にかけて50%上昇し、第3四半期もその傾向が続いています。国際的なガス市場も強含みであり、中国の電⼒需要の堅調な伸び、欧州の在庫回復、ブラジルの⽔⼒発電出⼒の減少にけん引され、北アジアのLNG価格は平均で10⽶ドル/MMBtu近辺となりました。

下流事業では、保健当局が新型コロナウイルスの変異株への対応に追われていることから海外旅⾏や航空燃料の需要は依然低迷しており、まだ出⼝が⾒えません。⽯油化学部⾨では世界的なGDPの回復、特に⾃動⾞産業からの旺盛なプラスチック需要によって業績が⼤きく向上しました。

良いニュースと厳しい質問  

2021年第2四半期の石油・ガス企業の決算発表は、おおむね良好な結果となりました。メジャー各社の合算純利益は188億米ドルとなり、前四半期比では9%の減少となったものの、580億米ドルの純損失となった2020年の同四半期から一転して回復しました。各社の合算キャッシュフロー額は521億米ドルと、過去10四半期で最大となり、前四半期比で27%増、前年同期比では4倍を超えました。企業は株主への現金還元の実施、コアである石油・ガス事業への投資、台頭しつつある新たな代替エネルギー事業の育成のうちどれを選択するかという課題に直面しており、改善したキャッシュフローをどのように使うかについて激しい議論が起こることは確実です。

当四半期決算説明会で従来以上に多く出たのが財務に関する質問で、全体の65%を占めました。アナリストからは経営陣に対し、追加の株主還元と、コアビジネス・新規ビジネスへの新たな投資との間のトレードオフに関する質問が多数寄せられました。こうした状況は、企業が設備投資や配当を削減し、⾃社株買いプログラムを中⽌していたこれまでの四半期とは対照的です。

企業は株主還元の実施、コアである石油・ガス事業への投資、台頭しつつある新たな代替エネルギー事業の育成のうちどれを選択するかという課題に直面しており、改善したキャッシュフローをどのように使うかについて激しい議論が起こることは確実です。

⼀部のアナリストからは、株主への還元を配当と⾃社株買いに分けて実施する企業案を疑問視する問い掛けがありました。市場は⾃社株買いよりも配当を重視していると指摘する声も上がり、この市場観測と⾃社の株主還元戦略を積極的に整合させていく意欲があるかという質問がありました。アナリストは過去2四半期で多くの企業が純負債を⼤幅に削減できたことを把握しており、どこまで負債水準が下がれば自社の財務レバレッジが低いと認識して株主へさらなる現金還元を始めるのか企業の⾒解を求めました。企業は再⽣可能エネルギー投資について、⽯油・ガスプロジェクトに⽐べるとレバレッジ考慮前の収益性が低いという問題を抱えており、ギアリング(収益性向上のための負債利用)の問題が再浮上する可能性があります。

マクロ環境への考慮

設備投資に関しては、アナリストの関⼼はマクロ環境の改善に対する企業の対応に集まり、商品価格が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡⼤前の⽔準に回復しつつある中で、特に企業が上流事業への追加投資を検討しているかどうかが焦点となりました。サプライチェーンの⼨断、労働⼒の不⾜、インフレ懸念が経済ニュースで⼤きく取り上げられるようになり、⽯油・ガス業界でも上流事業の材料・サービス市場における価格圧⼒の兆候がないか、その影響を企業がどのように相殺しようとしているかがアナリストの確認の対象となりました。下流事業の業績が数四半期連続で低調だったことを受け、⽯油製品の需要⾒通しの改善や⽯油精製マージンの回復について、どの程度の確信があるかも問われました。新たな再⽣可能エネルギー事業に関してアナリストが共通して求めたのは、業績や設備投資、財務構造についてのさらなる情報でした。未経験の分野で⽯油・ガス企業が競争⼒を発揮できるかどうかについては、明らかに懐疑的な⾒⽅が残っています。

脱炭素化の問題

戦略的な観点では、脱炭素化と、さまざまな地域や技術にまたがる一連の再⽣可能プロジェクトが焦点となりました。地域間で異なる政策の枠組みが再⽣可能エネルギー事業の成⻑を妨げる要因になり得るとの認識をアナリストは持っており、各社がどのようにその課題を克服しようとしているのかが追及の的となりました。また、⽯油・ガスの新規プロジェクトの経済的リターンと炭素排出のバランスをどう保つかについても企業の姿勢を問う声が上がりました。

地域間で異なる政策の枠組みが再⽣可能エネルギー事業の成⻑を妨げる要因になり得るとの認識をアナリストは持っており、各社がどのようにその課題を克服しようとしているのかが追及の的となりました。

アナリストからは、最近発表されたEUのFit for 55プログラムと⾃社ビジネスへの潜在的影響について、企業がどのような認識を持っているかという点にも⾼い関⼼が寄せられました。さらに(EUのFit for 55プログラムやサウジアラビアのShareekプログラムのような)多様化を促進するプログラムにIOC(国際⽯油会社)やNOC(国営⽯油会社)がどのように対応しているかについても鋭い⽬が向けられました。ポートフォリオの最適化については、企業がM&Aや上流事業の資産のダイベストメント計画の再考を検討しているかどうかがアナリストの確認の対象となりました。⽯油・ガス価格が再び上昇したことは、明らかに石油・ガス企業が⾃社のポートフォリオにおける⽯油・ガス事業の位置付けを見直す契機となっています。

オペレーションに関する質問

アナリストは各社の中⻑期的な⽣産の⾒通しに興味を持っており、オペレーションに関する質問はこの点に沿っていましたが、ここではIOCとNOCの上流事業への資本コミットメントの違いが鮮明になりました。その他の事項では、これまでどおり一連のプロジェクトについて関⼼が⽰され、メキシコ湾での活動状況や⽶国のシェール油⽥に関する⻑期計画について、複数の企業が質問を受けました。


            2021年第2四半期の上位3テーマ

今後の見通し

需要の回復には依然として疑問符がつきますが、OPECプラスの規律は依然として保たれ、原油価格の堅調な推移が予想されていることから、世界のガス市場における過剰供給のリスクは低いと考えられます。⽯油精製マージンについては、需要の⾒通しは改善しているものの精製能⼒の拡⼤によって相殺されるため、その圧⼒に直⾯することになるでしょう。

キャッシュの分配、脱炭素化戦略、再⽣可能プロジェクトの成果、コアビジネスの寿命、これらは今後も投資家が注視し続ける分野となると考えられます。

  • 分析の対象範囲および手法

    本レビューの⽬的は、世界の⽯油・ガス企業11社を対象に、2021年第2四半期の決算報告シーズン中にアナリストが質問した内容から、主要テーマを分析するものです。上位3テーマの特定は、決算報告の電話会議の記録を分析した内容のみに基づきます。今回の分析は以下の企業を対象としています。

    • BP plc
    • Chevron Corporation
    • ConocoPhillips
    • Eni SpA
    • Equinor ASA
    • Exxon Mobil Corporation
    • Repsol SA
    • Royal Dutch Shell plc
    • Saudi Aramco
    • Suncor Energy Inc
    • TotalEnergies SE

サマリー

2021年第2四半期の⽯油・ガスの商品市場は回復基調が続きましたが、改善したキャッシュフローを企業がどのように活⽤するかについては依然として見えていません。

この記事について

執筆者 Andy Brogan

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