企業は株主還元の実施、コアである石油・ガス事業への投資、台頭しつつある新たな代替エネルギー事業の育成のうちどれを選択するかという課題に直面しており、改善したキャッシュフローをどのように使うかについて激しい議論が起こることは確実です。
⼀部のアナリストからは、株主への還元を配当と⾃社株買いに分けて実施する企業案を疑問視する問い掛けがありました。市場は⾃社株買いよりも配当を重視していると指摘する声も上がり、この市場観測と⾃社の株主還元戦略を積極的に整合させていく意欲があるかという質問がありました。アナリストは過去2四半期で多くの企業が純負債を⼤幅に削減できたことを把握しており、どこまで負債水準が下がれば自社の財務レバレッジが低いと認識して株主へさらなる現金還元を始めるのか企業の⾒解を求めました。企業は再⽣可能エネルギー投資について、⽯油・ガスプロジェクトに⽐べるとレバレッジ考慮前の収益性が低いという問題を抱えており、ギアリング(収益性向上のための負債利用)の問題が再浮上する可能性があります。
マクロ環境への考慮
設備投資に関しては、アナリストの関⼼はマクロ環境の改善に対する企業の対応に集まり、商品価格が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡⼤前の⽔準に回復しつつある中で、特に企業が上流事業への追加投資を検討しているかどうかが焦点となりました。サプライチェーンの⼨断、労働⼒の不⾜、インフレ懸念が経済ニュースで⼤きく取り上げられるようになり、⽯油・ガス業界でも上流事業の材料・サービス市場における価格圧⼒の兆候がないか、その影響を企業がどのように相殺しようとしているかがアナリストの確認の対象となりました。下流事業の業績が数四半期連続で低調だったことを受け、⽯油製品の需要⾒通しの改善や⽯油精製マージンの回復について、どの程度の確信があるかも問われました。新たな再⽣可能エネルギー事業に関してアナリストが共通して求めたのは、業績や設備投資、財務構造についてのさらなる情報でした。未経験の分野で⽯油・ガス企業が競争⼒を発揮できるかどうかについては、明らかに懐疑的な⾒⽅が残っています。
脱炭素化の問題
戦略的な観点では、脱炭素化と、さまざまな地域や技術にまたがる一連の再⽣可能プロジェクトが焦点となりました。地域間で異なる政策の枠組みが再⽣可能エネルギー事業の成⻑を妨げる要因になり得るとの認識をアナリストは持っており、各社がどのようにその課題を克服しようとしているのかが追及の的となりました。また、⽯油・ガスの新規プロジェクトの経済的リターンと炭素排出のバランスをどう保つかについても企業の姿勢を問う声が上がりました。
地域間で異なる政策の枠組みが再⽣可能エネルギー事業の成⻑を妨げる要因になり得るとの認識をアナリストは持っており、各社がどのようにその課題を克服しようとしているのかが追及の的となりました。
アナリストからは、最近発表されたEUのFit for 55プログラムと⾃社ビジネスへの潜在的影響について、企業がどのような認識を持っているかという点にも⾼い関⼼が寄せられました。さらに(EUのFit for 55プログラムやサウジアラビアのShareekプログラムのような)多様化を促進するプログラムにIOC(国際⽯油会社)やNOC(国営⽯油会社)がどのように対応しているかについても鋭い⽬が向けられました。ポートフォリオの最適化については、企業がM&Aや上流事業の資産のダイベストメント計画の再考を検討しているかどうかがアナリストの確認の対象となりました。⽯油・ガス価格が再び上昇したことは、明らかに石油・ガス企業が⾃社のポートフォリオにおける⽯油・ガス事業の位置付けを見直す契機となっています。
オペレーションに関する質問
アナリストは各社の中⻑期的な⽣産の⾒通しに興味を持っており、オペレーションに関する質問はこの点に沿っていましたが、ここではIOCとNOCの上流事業への資本コミットメントの違いが鮮明になりました。その他の事項では、これまでどおり一連のプロジェクトについて関⼼が⽰され、メキシコ湾での活動状況や⽶国のシェール油⽥に関する⻑期計画について、複数の企業が質問を受けました。
今後の見通し
需要の回復には依然として疑問符がつきますが、OPECプラスの規律は依然として保たれ、原油価格の堅調な推移が予想されていることから、世界のガス市場における過剰供給のリスクは低いと考えられます。⽯油精製マージンについては、需要の⾒通しは改善しているものの精製能⼒の拡⼤によって相殺されるため、その圧⼒に直⾯することになるでしょう。
キャッシュの分配、脱炭素化戦略、再⽣可能プロジェクトの成果、コアビジネスの寿命、これらは今後も投資家が注視し続ける分野となると考えられます。
サマリー
2021年第2四半期の⽯油・ガスの商品市場は回復基調が続きましたが、改善したキャッシュフローを企業がどのように活⽤するかについては依然として見えていません。