7 分 2022年9月16日
中国雲南省の元陽梯田

ESGにおいて信頼関係を築くための5つの優先課題

執筆者 Kyle Lawless

Associate Director, Global Public Policy, EY Japan Co., Ltd

Helping EY navigate the complexity of operating across the globe. Innovator. Intrapreneur. Believer in the power of business, governments and societies to solve global challenges. CrossFitter.

EY Japanの窓口

EY Japan 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダー EY新日本有限責任監査法人 プリンシパル

サステナビリティの分野で活躍。多様性に配慮し、プロフェッショナルとしての品位を持ちつつ、実務重視の姿勢を貫く。

7 分 2022年9月16日

ESG推進の取り組みは重大な局面を迎えています。過去最高水準の資金がESGの優先課題への解決に向け流入する中、重要な疑問が浮上しています。

要点
  • ESGへの関心が増すとともに、ESGデータの信頼性・有用性を高めることが必要となっている。
  • 信頼を築くために、業界には独立した保証の導入と共に、サステナビリティ情報基準の強化が求められる。
  • さらに、タクソノミー(分類)により、サステナビリティ報告を、新興諸国での報告を含め、実際に比較可能で透明性を備えたものにする必要がある。
Local Perspective IconEY Japanの視点

ここ最近、ESGの懐疑論が再び台頭し始めています。理由は、経済的リターンを犠牲にしているからだといいます。一方、ESGブームは無くなるという論調もあります。なぜなら、ESGが当たり前になるためといいます。本レポートでも言及されていますが、ESGと一言で言っても、長期的な財務への影響を測るのか、あるいは社会的な影響を評価するのかなど、多様な視点やさまざまなアプローチがあります。従って、それぞれを混同して同じ土俵で論じることが混乱のもとになっています。

ここ最近の開示を巡る標準化の議論では、まずは長期的な経済的価値との関係から整理が始まっています。ESG情報開示の促進や標準化は、こうした混乱の収拾や、信頼できるデータの蓄積による新たなモデル構築に役立ちます。

ESGデータについては、見る時間軸や評価目的によってデータの解釈が異なります。企業とって重要なことは、数字作りの裏にあるストーリーや目的です。ストーリーや目的無き数字は単なる数字で、活用のされ方いかんでさまざまな解釈が成り立ちます。企業の持つパーパスやストーリーと統合されてこそ、意味あるESGデータ開示となります。

 

Local contact

牛島 慶一
EY Japan 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダー EY新日本有限責任監査法人 プリンシパル

環境・社会・ガバナンス(ESG)推進の取り組みは、将来の成否が決まる、重大な局面を迎えています。投資家のESGへの関心は、過去最高の水準にまで高まっています。これは、ミレニアル世代とZ世代という新世代の投資家が寄せる期待が一因となっています。

しかし、ESGはまだ確立したトピックではありません。ESGの適切な定義だけでなく、さらに重要なことには、資本配分に最も有益な情報は何かという点についても、現在もさまざま考え方が存在しています。この情報には、ESGに関する報告と開示、タクソノミー(分類)、ESG格付け、ならびに基礎となる科学、データ、モデリング機能が含まれます。

私たちが「サステナビリティ情報のエコシステム」と定義するものを構成する関係者は、投資家、取締役、経営陣、従業員、一般市民を始め、格付け機関、監査人、規制当局、政策立案者まで、多岐にわたります。現在、これらの関係者の見解では、ESGには何が含まれるのか、合意された指標の適用方法や利用可能なデータの最適な活用方法について、一致した意見はほとんど見られません。

そのような中で、幅広い支持を得ているのは、サステナビリティ報告に関するグローバルスタンダードの策定、および財務報告(financials)の「F」とESGとの間の関連性の強化「FESG」です。直近のEY Global Institutional Investor Surveyによると、調査対象の投資家の圧倒的多数(89%)は、世界共通の基準に照らしたESGパフォーマンス指標の報告が義務化されることを望んでいます。

また、さまざまな社会的・政治的背景に加えて法制度の違いも、サステナビリティ情報を統制する基準と規制を決定する原則に影響を与えます。当然のことながら、ESG報告規則の策定と実施を進めるスピードと方法は、各国・地域によって異なります。

本稿では、意思決定に有用で、信頼性の高いESG情報の報告を実現するために、サステナビリティ情報のエコシステム全体で取り組むべき5つの重点分野に焦点を当てています。

新たなサステナビリティ情報のエコシステムの定義

財務情報とサステナビリティ情報では、双方のエコシステム間のつながりは強まりつつありますが、サステナビリティ情報のエコシステムには、ほとんど規制されていないESG評価機関やデータプロバイダー、アクティビスト投資家を含む一般社会、従業員など、多様な見解をもつ関係者からの意見なども含まれます。

サステナビリティ情報のエコシステムは、2つの主要投資家グループに有益な情報を提供することを目指しています。

  1. 財務リスクを重視する投資家。サステナビリティに関連する要因が企業に及ぼす財務的影響についての重要な情報を求めている
  2. 社会的影響を重視する投資家。企業が外部環境(人、コミュニティ、環境、社会など)に及ぼす影響に関する情報を求めている
サステナビリティのエコシステムの図解

有用なESGデータを求める投資家のニーズに適切に応えるためには、サステナビリティ情報のエコシステム内の関係者が信頼を築き、協働関係を向上させる必要があります。EYの直近の調査 The emerging sustainability information ecosystem (PDF)では、この目的の達成に向けて取り組むべき5つの重点分野を明らかにしました。

1. 総合指標の透明性の向上

総合指標では、幅広いESG課題について企業をスコアリングし、課題ごとに加重することで全体的なESG評価を算出します。これらの課題には、気候変動から公害や廃棄物、製造物責任から税の透明性まで、あらゆるものが含まれます。

対処すべき問題の1つに、ESG格付けは財務上の重要性を重視しており、社会的影響に関心のある投資家には有用ではないことが挙げられます。大手ESG格付け機関はESG格付けの開発にあたり、財務上の重要性(つまり、財務リスクに基づく)アプローチを採用しています。さらに、投資家が財務リスクを重視する場合、ESGトピックの加重方法には透明性が不足しており、明確性と意思決定に対する有用性に欠けるとみなすこともあり得ます。

総合指標アプローチには、他にも多くの課題があります。例えば、定義と算出方法に関する見解の不一致により、企業が環境面で実施した取り組みの成果を厳密に分析できない可能性があります。また、人権、労働基準、民族・人種・ジェンダーの平等などの社会問題は、各国・地域間の社会的・政治的差異のために、合意されたベンチマークに照らして定量化することが困難な場合があります。

投資家は、このような差異や測定の限界、相違に留意しなければなりません。

2. サステナビリティ情報の多様な活用方法について理解を深める

サステナビリティ情報は、財務リスクの評価と社会的影響の評価という2つの目的に活用できます。これらの2つの活用方法は、どちらも一方の活用方法を妨げるわけではありませんが、よく混同されます。

今日まで、サステナビリティ情報のエコシステムは、主に財務リスクの評価に関心のあるステークホルダーの期待に沿って進展してきました。例えば、ESG報告制度の多くは、すべての大手ESG格付け機関と同様に、企業が社会に与える影響を評価していません。これらの測定対象は、社内外のさまざまな財務リスクや機会に対する相対的なエクスポージャーです。

しかし、最近のESG投資の成長は、社会的・道徳的配慮を優先するミレニアル世代を含む投資家によってけん引されています。2020年の調査によると、世界の個人投資家の4分の3近く(71%)が、社会にプラスの影響を与えることも投資目標の一部だと回答しています。ミレニアル世代では、その割合はさらに高くなっています(75%)。1

投資家は社会的影響に関連するサステナビリティ情報を求めている

71%

社会にプラスの影響を与えることも投資目標の一部だと回答した個人投資家の割合

ここで、次のような疑問が生じます。 現在のサステナビリティ情報のエコシステムは、財務的影響の評価と社会的影響の評価の双方にとって有益なものになっているでしょうか。

ESGに取り組む主要な動機には重複するものもありますが、サステナビリティ情報の個々のユースケース(使用事例)は明確性を高める必要があります。同様に、基準設定機関やESG格付け機関を含むエコシステム内のステークホルダーが、サステナビリティ情報を活用する全ユーザーのニーズにどのように応えていくかを考慮する機会でもあります。

3. 保証可能な条件を整備する

独立した保証は、サステナビリティ情報とサステナビリティ情報のエコシステムを構成する多数の関係者との信頼構築につながります。

市場からの圧力を背景に、今後数年間のうちに、サステナビリティ情報に対して独立した第三者による確固とした外部保証を求める動きが高まるでしょう。米国と欧州連合は既に、サステナビリティ開示規則への義務的保証要件の適用を検討しています。
 

  • サステナビリティ情報に対して保証が果たす役割

    EY Global Vice Chair – AssuranceのMarie-Laure DelarueとのQ&A

    保証は、サステナビリティ情報のエコシステムにおいて、どのような役割を担っていますか?

    保証は、広範なエコシステムの重要な構成要素です。これには、経営陣・取締役と監督当局が含まれます。経営陣・取締役は、内部統制とガバナンスの設計、導入、監視を担います。監督当局は、専門的基準を開発し、信頼の構築や「グリーンウォッシング」などの問題に断固たる姿勢で対応措置を執ります。2

    サステナビリティ報告に対して、どのような類型の保証が現在提供されているのでしょうか?

    世界の大企業の約半数は、自社のサステナビリティ開示に対する保証を取得していますが、その大半は(財務報告と同等の)「合理的」保証ではなく、「限定的」保証です。 

    投資家や規制当局がサステナビリティ開示に高度な保証水準を求めるにつれ、このような状況は急速に変化すると予想されます。例えば、米国証券取引委員会の気候関連情報開示規則の草案では、合理的保証への移行に先立ち、まず、限定的保証が義務化されるでしょう。EUの規則も、同様に進展するとみられます。ステークホルダーは、提供される保証の類型、および各類型の保証にどの程度の信頼を置くことができるかについて理解することが必要です。

    Q&Aの詳細は、レポート全文(PDF)をご覧ください。

保証の必要性が増すにつれ、「3つの防衛線」と呼ばれるリスク管理概念を認識し、順守することが、サステナビリティ情報のエコシステムの関係者にとって極めて重要になるでしょう。3つの防衛線は、信頼の構築と、正確で偏りのない情報を提供する厳格な報告システムの維持には不可欠であると広く認識されています。以下は各防衛線の説明です。

  • 第1の防衛線:コーポレートガバナンス。経営陣、取締役会、監査委員会、内部監査の役割を担う強固な内部統制システムを含む
  • 第2の防衛線:独立した外部保証
  • 第3の防衛線:規制監督

4. 比較可能で、相互運用可能なタクソノミーの開発

サステナビリティ情報の透明性と比較可能性を実現するためには、各国・地域が補完的な原則に基づくタクソノミーを整備する必要があります。タクソノミーとは、どの経済活動をサステナブルとみなすべきかを決定するシステムです。特定の活動がそのタクソノミーにおけるサステナビリティの定義に該当する(または、該当しない)理由について、明確でデータに基づく根拠を提示することにより、何がサステナブルであるとみなされ、何がそうではないのかを判断する際に、混乱の解消に役立ちます。

一部の地域や国では、既にタクソノミーの開発がかなり進展しています。例えば、EUタクソノミーの目的は、EUのサステナブル投資の拡大や、欧州グリーンディール(2050年までに欧州の気候中立達成を目指す欧州委員会の計画)の実行を支えることです。

またEUは中国と共同で、コモングランドタクソノミーの取り組みを進めています。これは、エネルギー移行経路の違いと現実の政治状況を反映しつつ、各タクソノミー間に共通点を見いだそうとするものです。

5. 新興諸国の市場参加者が直面している障壁への対処

2050年までに、世界の温室効果ガス排出量の大半は新興諸国が占めていることになるでしょう。しかし、新興諸国には、気候変動の影響に適応するレジリエンスが、他の市場ほど十分には備わっていません。また、新興諸国の地理的な位置も、深刻な気候関連事象のリスクが高い地域です。

新興諸国にサステナビリティに関する包括的なデータが存在しないという事実は、新興国の市場参加者がサステナビリティ情報を開示する際の障壁を軽減する必要があることを示唆しています。これは異なる基準の導入を提唱するものではなく、異なる基準の導入は、むしろ逆効果となる恐れがあります。そうではなく、サステナビリティ情報のエコシステムにおいては、新興諸国との関与を深め、より高度な技術支援を行うべきです。

国際サステナビリティ基準審議会では、国際基準設定の取り組みを進めています。これを契機として新興諸国が自国の法的枠組みにその基準を導入すれば、新興諸国にもメリットが生じる可能性があります。

 

企業、政策立案者、投資家の次のステップ

ESG推進の取り組みはまだ初期段階にあります。開かれた協働関係と信頼の構築を促すために、なすべきことは数多くあります。しかし、政策立案者、基準設定機関、規制当局が、投資家が求める情報の定義や規制に向けて、既に重要な措置を講じていることは明るい兆候です。同時に、市場参加者は新たな形で協力し、報告の刷新や革新的なデータモデリングソリューションの開発に取り組んでいます。

これらの取り組みの進展に伴い、すべてのステークホルダーが政策プロセスと市場主導のイニシアチブの両方に関与し、意見を伝えることが極めて重要になっています。私たちが行ってきたことは、これらの努力に貢献するものであり、連携の確立と協働関係の形成にすべての人が関与すべき理由を明確に示しています。

サマリー

これまでESGは、驚くべき成長を遂げてきました。ESG推進の取り組みや、さまざまな水準の影響力や意図をもつ多数の関係者が現在直面している種々の課題は、活動が初期段階にあるために生じています。

サステナビリティ情報に対する信頼と意思決定における有用性を高めることで投資家のニーズに応えようとするには、サステナビリティのエコシステム全体が連携し、協働関係を形成する必要があります。 

この記事について

執筆者 Kyle Lawless

Associate Director, Global Public Policy, EY Japan Co., Ltd

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