6 分 2021年10月29日

            フィニーストンの橋のアーチ

気候情報開示の国際基準を巡る注視すべき3つの動向

執筆者 Ruchi Bhowmik

EY Global Public Policy Vice Chair

Action-oriented public policy strategist. Seeks to earn and maintain EY’s seat at the policy discussion table. Geopolitical and macroeconomic junkie. Will Ferrell fan. Buoyed by family and friends.

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6 分 2021年10月29日

11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)開催を前に、気候情報開示のベースラインとなる国際基準を巡る動きが勢いを増しています。

要点
  • ベースラインとなる気候情報開示基準の必要性について、コンセンサスが高まっている。
  • 情報開示は、気候変動の緩和を目指す包括的政策の一部である。
  • 将来の開示要件は不確実であるが方向性は明確になっており、企業が組織力を増強すべき時が訪れている。
Local Perspective IconEY Japanの視点

国際財務報告基準(IFRS)財団が、COP26のタイミングに合わせて国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立すると発表しました。日本においても、2022年に始動する東京証券取引所の上場区分見直しにあたり、プライム市場に上場する企業は、改訂版コーポレートガバナンス・コードを通じて気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)または同等の枠組みに基づく気候情報開示の質と量の充実が求められます。これまで自由演技(任意開示)とされていた気候関連情報が、規定演技(制度開示)化する動きが加速しそうです。こうした気候情報を含むESG情報開示の基準化には、多様な団体や政策主体が参画し、主導権争いを繰り広げています。

そのような状況の中、多くの日本企業が今後の標準化の行方を見守っているのだろうと思います。ただ、どの基準も目的においては同じです。基準は多様なステークホルダーとのコミュニケーションツールの一つ。今後は、指標や数字から経営の本質を比較されます。その指標や数字が語るメッセージと、それに対する経営の向き合い方が、より重要になります。

 

 

EY Japanの窓口

牛島 慶一
EY Japan 気候変動・サステナビリティ・サービス(CCaSS)リーダー EY新日本有限責任監査法人 プリンシパル

気候とサステナビリティに関する報告活動はもともと市民の中から始まったもので、社会的責任投資を行う少数のアクティビストの間で注目を集めてきました。ところが近年そうした活動を取り巻く状況は劇的に変化しており、環境・社会・企業統治(ESG)リスクへの理解を深めようと、一貫性のある比較可能な方法で報告を求める機関投資家が増加しています。

EY Global Public Policyによる最近のレポートサステナビリティ報告基準の未来(PDF)で示したように、11月に予定されている国際財務報告基準(IFRS)財団の国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)設立は、一貫性があり比較可能なESGおよびサステナビリティ報告基準に向けた動きの中で、特に重要なものであり大きな期待が寄せられています。ISSBによる包括的なESG基準の発表が期待される一方で、気候危機は喫緊の課題であるため、基準設定に際し財団は「気候優先」のアプローチを取ることを余儀なくされています。政策環境が急速に進化していく中、今後の義務化への対応に必要な組織力の増強がすべての企業にとって急務となっています。

2021年11月に英国グラスゴーで開催されるCOP26では、ISSBの潜在力と気候に関する報告・開示基準の今後が重要な焦点になると予想されます。COP26開催まで100日を切った先日、EYは気候関連情報の開示と報告に関して世界の第一線で活躍する方々による座談会を開催(英語版のみ)しました。パネリストは、欧州委員会の金融安定・金融サービス・資本市場同盟総局(DG FISMA)企業報告・監査・信用格付け機関担当ユニット長のAlain Deckers氏、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)事務局メンバーであり、COP26ファイナンス担当国連特使Mark Carney氏のシニアアドバイザーも務めるCurtis Ravenel氏、米国投資信託協会(ICI)証券規制担当次席法務顧問のDorothy Donohue氏の3人です。EYの最新レポートの内容とこの先数カ月間に注目すべき動向について議論し、今回の議論を通して3つのテーマが浮かび上がりました。

1. コンバージェンス vs アライメント:「ビルディング・ブロック」アプローチによる基準設定

「ベースラインとなる国際基準づくりについては主導権を争う激しい議論がなされています」とRavenel氏は言います。「それは確かです。しかし問題は誰がその基準を設定するかです。私はこの状況を米国証券取引委員会(SEC)と欧州とIFRSの『コーペティション』(協調と競争を合わせた造語)と呼んでいます。(中略)しかし目指す先はみな同じです。そこへたどり着く方法が少し違うのだと思います」

「細部に落とし穴があるのです」とRavenel氏は続けます。例えば、情報開示の枠組みは必須の部分と任意の部分があるのか。小規模の非上場企業を考慮してどの程度の柔軟性を持たせるべきなのか。スコープ3(間接)排出量は、特定のセクターに限って義務化するのか。そういった細かな部分においても建設的な対話が求められますが、それに関してRavenel氏は楽観視しています。その理由として、関係者のほとんどは長年協力し合ってきたこと、基準設定に向けた「ビルディング・ブロック」アプローチはアライメント(整合性)と柔軟性のバランスを取れる柔軟な方法であることを挙げています。

ESGとサステナビリティ報告の基準設定についてはビルディング・ブロック・アプローチ(下記参照)への支持が高まっています。ISSBはこの方法を用い、あらゆる国と地域で採用可能なベースラインとなる国際基準を作成しています(グローバルに比較できるレベルを達成)。同時に一部の国と地域では、その地域のステークホルダーのニーズや期待に応える現地の基準や規則を策定することで、ISSBのベースラインを基盤とすることができます。


            サステナビリティ報告のビルディング・ブロック

2. 基準は手段となるが、それだけでは不十分である

報告・開示するESG情報を増やすと、開示内容の細部やその信頼性、リスクエクスポージャー、レジリエンス、さらにはいわゆる「グリーンウォッシング」への懸念など、企業に投げかけられる質問も増えることになります。最近の調査によると、サステナビリティ情報を報告する企業のおよそ半数が、開示情報について一定レベルの保証を与えています。EYのレポートで示した5つの提言の1つは、サステナビリティ情報に対する保証の確保です。企業はサステナビリティ報告においても、財務報告の場合と同様に、監査証跡に対応する強固なプロセスと統制体制の確立を徹底する必要があります。

サステナビリティ情報に対する保証

51%

報告するサステナビリティ情報について一定レベルの保証を与えている企業の割合

基準は必要不可欠だが考慮すべき規制の枠組みの一部にすぎないとDeckers氏は述べ、欧州連合の企業サステナビリティ情報開示指令(CSRD)案で取り上げられている保証と監査の必要性を引き合いに出して説明しました。基準は「目的達成の手段」であり、それを順守させ監督することも必要だと同氏は語ります。

Donohue氏は、その点については米国投信協会のメンバーも思索しているが一番の疑問はタイミングだとして次のように述べています。「協会では報告に関わる内部統制の確立を企業に求めており、それによって一定の保証を提供できるでしょう。一方、監査機関やその他の第三者機関については、基準が実際に少しまとまってから徐々に対応が進んでいくものです」。つまり、保証が必要となるかどうかの話ではなく、いつ必要になるかが問題となっています。

Ravenel氏はこう付け加えています。「以前私はこんなことを言ったことがあります。『私たちが住んでいるのは極めて透明性の高い世界です。質の悪い情報を発信する企業はどうかしています』と。(中略)情報の質の高さを確保するためのリスク管理は内部的にはかなり行われているように思いますが、それを確実にする保証基準のようなものがないのです」

3. 企業にとってはこのトピックに取り組む組織力の増強が急務となる

サステナビリティ報告が進化しているこの時期に企業側は「どの基準や指標に備えたらいいのか?」「何を待つべきなのか?」という疑問を抱いたままです。自社の管轄地域でサステナビリティ報告が義務化されるまで静観を決めた企業もあります。しかし、それは間違ったアプローチです。

気候とサステナビリティに関する報告基準の策定が進むのに合わせて、企業は将来の情報開示に備え、今すぐにでも透明性と説明責任に取り組むことができます。サステナビリティ報告基準の未来(PDF)ではESGを組織全体に浸透させることを推奨しています。とりわけ、取締役会の監督のもとでESGを最も重要と位置付けられる戦略に確実に組み込むこと、またサステナビリティとESG報告のプロセス、管理、提供するデータの妥当性と信頼性を企業の財務部門が確認することを推奨しています。

この点についてパネリストからも強い賛同の声が寄せられました。「組織の上層部にも現場にも、組織全体に話を広げていってください。サステナビリティチームや報告作成部署だけに関係する話ではありません。戦略にインパクトを与えるもの、つまりリスクであり、あらゆることに関わってくることなのです」(Ravenel氏)

気候関連の情報開示についてのウェビナーを再生

気候およびサステナビリティ報告に関して、ベースラインとなる国際基準の展望を語る座談会です。モデレーターはRuchi Bhowmikです。

詳しく知る(英語版のみ)

またDeckers氏は、通常のロビー活動にとどまることなく、ルール作りに参加する必要性を強調しました。例えば今後、設置されるワーキンググループへの参加者が募集されることになりますが、そうした場への参加は個々の意見を届ける現実的な方法です。規制当局との協議を次から次に求められて疲れている経営層もいるかもしれません。しかし、米国会計基準(GAAP)やIFRSが導入されたときのように変革をもたらすであろう取り組みの中で、自身の視点を伝えることは非常に重要です。「静観しておいて最後になって結果が気に入らないと文句を言ったところで、それが何になるでしょうか」とDeckers氏は述べています。

さまざまな動きがある中、一歩下がってこうした取り組みの最終的な目標、つまり質の良い情報とは何なのかよく考えてみては、とRavenel氏はアドバイスしています。「質の良い情報は適切な意思決定の生命線です。これまではあまり質の良くない情報もありました。そうした問題を解決するため私たちは尽力しており、より公正で持続可能な未来への移行を加速化させようとしています。その未来にたどり着くには、こうした地道な作業が必要です。そのことを忘れないでください。これは、表面の周辺部分を整えるだけの作業ではなく、基盤の構築なのです」

サマリー

気候に関する情報開示に関して、ベースラインとなる国際基準は長いこと懸案でした。その実現に向けた機運が高まる中、企業が今するべきなのは組織力を増強すること、さらには報告の義務化が近づいていることを認識し、こうした基準は気候変動対策に必要な政策変更の一部にすぎないのだと理解しておくことです。

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執筆者 Ruchi Bhowmik

EY Global Public Policy Vice Chair

Action-oriented public policy strategist. Seeks to earn and maintain EY’s seat at the policy discussion table. Geopolitical and macroeconomic junkie. Will Ferrell fan. Buoyed by family and friends.

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