運営・報酬体系の最近のトレンドには不動産ファンドのグローバルなベスト・プラクティスがより適切に反映されるものですが、そこから判断すると、外部運営REITの競争力がこれまで以上に高まる可能性が高いと言えるでしょう。
外部運営REITビークルのメリットとデメリット
外部運営REITビークルはこれまで、報酬体系、利益相反、流動性をめぐる課題に直面してきましたが、体制がしっかりとした外部運営ビークルが存在するのも事実です。優秀な運営チーム、後払い型の報酬体系、強力なコーポレート・ガバナンスが、優れた外部運営ビークルの特徴となっています。そのメリット、デメリットについて考えてみましょう。
メリット:
- 外部の運営会社はその規模によって、初日から他の追随を許さないリソース、人材(担当者)、影響力を提供できます。しかも、必要に応じて上位のプラットフォーム全体から追加のスキルやリソースを集めることができます。個人取引や個人保有の資産を中心に構成されている産業では、最高クラスの人材にアクセスできることは非常に重要です。新しいか、または小規模なREITビークルにとっては、このことがより迅速な体制構築を可能にする他にはない特性になる可能性があります。
- 既存のプラットフォームを利用しながら市場機会を活用することで、運営会社は進化する市場動向に対応したREIT商品を立ち上げることができます。
デメリット:
- 外部運営REITは手数料が高いことが往々にしてあります。内部運営REITの年間費用は通常、総資産の50bps未満ですが、外部運営REITでは純資産価値の100bpsを超えることが多くなっています。報酬体系には販売手数料や主幹事手数料、不動産取得費や不動産への投資に要する費用が含まれる場合があります。
- 報酬にインセンティブが設定されている場合、パフォーマンスを犠牲にし、また出資持ち分を希薄化することによってより高い運営報酬が得られるため、運営会社と株主の利害が一致しないことも多々あります。
- 高いパフォーマンス目標が行き過ぎたレバレッジにつながり、過度のリスクを取ることにつながる可能性があります。
内部運営REITと外部運営REITのパフォーマンス比較
EYでは、内部運営REITと外部運営REITとで、パフォーマンスや資金調達活動を比較、調査しました。分析からは、外部運営体制への反対意見にも根拠があるかもしれないことが示唆されていますが、それは決定的なものではまったくなく、また小規模事業体にはあまり当てはまらないことが分かりました。
パフォーマンスを見ると、米国では過去5年間で内部運営REITが外部運営REITを年率で240bps程度上回りました。しかしこの差は、時価総額が20億米ドル未満の小規模なREITでは逆転し、外部運営REITが内部運営REITを145bps上回りました。
米国以外では、外部運営ビークルは最近パフォーマンスを上げており、カナダや英国などの確立されたREIT市場における内部運営ビークルさえも上回っています。
外部運営REITはとりわけ資本調達を頻繁に行う傾向があると考えられていることにも根拠があるようです。米国の外部運営ビークルは過去5年で現在の時価総額の30%を2回目以降の資本調達(主に追加募集)で調達している一方で、内部運営ビークルでは13%となっています。
パフォーマンスと資金調達
外部運営REITの過去3年のパフォーマンスは良好で、とりわけカナダ、英国、香港で力強いリターンを達成しています。一方で、世界で最も成熟したREIT市場である米国では、パフォーマンスは圧倒的に内部運営ビークルに軍配が上がります。
米国は、内部運営REITと外部運営REITの両方で5年の運用実績を有するREITが相当数存在する唯一の市場です。内部運営REITはトータル・リターン・ベースで外部運営REITを240bps上回りました。しかし現在、時価総額が20億米ドル未満のREITでは、外部運営REITが内部運営REITをわずかに上回っています。
規模が小さく、あまり確立されていないREITでは、外部のプラットフォームを利用することがメリットになるようです。
資金調達—エクイティ
米国に上場する外部運営REITは、過去5年間で内部運営REITよりも多くの資金調達をしています。過去5年間で現在の時価総額の30%を投資証券の売り出しによって調達しており、REITの中核機能である、エクイティの段階的な調達とその慎重な配分が極めて重要になっています。
外部運営REIT(5年の上場実績があるとは限りません)にとって、エクイティ調達の主な手段は投資証券の追加売り出しであり、また規模は小さいものの、優先株式も利用されています。
外部運営REITの2017年の動向 - 体制や連携の改善とガバナンスの強化
連携、報酬、ガバナンスについて生じた過去の問題の多くをうまく軽減する体制が取られた結果、米国においても世界においても外部運営体制を取る新しい上場事業体が徐々に増えています。現在の上場REITは、あらゆる規模の個人投資家および機関投資家に最高クラスのファンド・プラットフォームへのアクセスを提供しています。
外部運営REITにとっては、それがどれほど事実無根だとしても、企業活動が株主の利益を無視して行われているとの懸念に対してメッセージを送り、その懸念を具体的に軽減することが主な課題の一つになります。運用チームが関連会社と取引する際は、数多くのステークホルダーから監視の目が向けられることを予想すべきです。
したがって、外部運営ビークルが成功するには、運営関係を作り上げる際に、構造上の細かな問題にも対処しておくことが非常に重要になります。運用会社を利すると考えられるあらゆるものに疑いの目が向けられるため、関連会社と取引をせざるを得ないような事態は避けることが必要不可欠です。主要条件が記載された当初の契約書を詳細に作り上げることが極めて重要であり、REITが成功するか否かを決定づけることになります。
一方で投資家は、REIT設定時に示された戦略が遂行されるかどうかを確認する必要があります。これには、役員の再選を通して役員会に説明責任を持たせることが強力なツールになります。当初のコーポレート・ガバナンス戦略の一環として、期間を限定した期差任期制や最多得票制で妥協してもいいでしょう。これによって運用会社が指名した役員は特定の期間(3~5年)、再選や交代の対象とならずに初期の戦略を遂行することが可能になります。
ここでも、どの費用が払い戻し可能で、どの業務を外部委託すべきかを事前に具体的に決めることがより優れたアプローチになります。
結論
REIT商品を設定する運用会社が増えるにつれ、外部運営体制が許容されるようになることは、REITの概念のグローバルな成長を促す重要なステップになります。外部運営REITが内部運営REITと時価総額で肩を並べるのはまだ先の話です。一方で、運営・報酬体系の最近のトレンドには不動産ファンドのグローバルなベスト・プラクティスがより適切に反映されるものですが、そこから判断すると、外部運営REITの競争力がこれまで以上に高まる可能性が高いと言えるでしょう。
外部運営関係がどれほど単純であっても、運営報酬とインセンティブの関係がその後の運営上の判断に影響するか、または影響すると判断される環境が生まれる可能性があるのであれば、外部運営REITを適切な体制にすることはいまだ難しい課題であるということになります。
サマリー
外部運営体制を取る不動産投資信託(REIT)が内部運営REITと時価総額で肩を並べるのはまだ先の話です。一方で、運営・報酬体系のトレンドには不動産ファンドのグローバルなベスト・プラクティスがより適切に反映されるものですが、そこから判断すると、外部運営REITの競争力がこれまで以上に高まる可能性が高いと言えるでしょう。