2020年11月11日
水素エネルギーの灯が照らす未来

米国大統領選挙を受けて:日本企業が留意しておくべきこと(速報)

執筆者 上田 倫生

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY ストラテジー・アンド・トランザクション EYパルテノン ジオストラテジック・ビジネス・グループ ヴァイス プレジデント

地政学観点を取り入れた戦略構築が専門。日課はジム通い。無類のヒップホップとレゲエ好き。

2020年11月11日

2020年11月3日(現地時間)に実施された米国大統領選挙では、民主党のバイデン前副大統領が共和党の現職トランプ大統領を破り、当選を確実にしました。政権交代によって、米国や国際情勢はどう変化するのでしょうか?日本企業が留意しておくべきことは何でしょうか?

要点
  • 政権交代後も、米国の内向き志向や米中対立に大きな変化は生じないものと思われます。
  • 日本企業にとって、サプライチェーンの見直しは引き続き課題となります。安全保障やテクノロジーにかかわる領域での投資規制への留意も必要です。
  • 次期政権下においては、環境にかかわる領域での新たな規制動向、それに伴う自動車やエネルギーなど関連業界への影響に留意する必要があると思われます。

2020年11月3日(現地時間)に実施された米国大統領選挙では、共和党の現職トランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領の獲得票が拮抗(きっこう)した激戦州を中心に、開票結果の趨勢判明までに数日かかる展開となりました。バイデン候補が当選に必要な選挙人を確保する見込みであることが明らかとなったのは、7日になってからでした。同日時点で、トランプ大統領は敗北を認めておらず、不正があったと主張、法廷闘争の構えをみせています。短期的には不安定な政局が続く可能性がありますが、2021年1月にバイデン新政権が誕生するとの前提で、想定されるトレンドと日本企業が留意しておくべきことを、速報としてまとめます。

なお、同時に実施された上下両院の選挙について、下院は民主党が多数派となることが確実な情勢である一方、上院は2021年1月に実施されるジョージア州の決選投票まで、多数派が確定しない状況です。上院で共和党が多数派となる「ねじれ」が生じる可能性も念頭に置く必要があります。

1.米国の内向き志向は続く

政権交代を経ても、米国の内向き志向に大きな変化は起きないと思われます。4年前、米国第一主義を掲げるトランプ政権が誕生したことは、まさに内向き志向の象徴でした。ただ、対する民主党内においても、国内問題を優先し、対外関係にさほど関心を示さない勢力が影響力を増しています。事実、同党の予備選挙を含め、今回の選挙戦では対外関係が主要な争点とはなりませんでした。次期政権下でも、国内問題を起点とした政治の展開が予想されることから、引き続き国内の政治動向を注視していく必要があります。

ただし、上院との「ねじれ」が生じた場合、次期政権は国内での政策推進に行き詰まることが予想されます。反射的な効果として、大統領に比較的広範な権限が認められる外交領域での政策推進を活発化させる可能性があります。

2.米中対立はニューノーマルに

次期政権において、米中関係に大きな改善は見込めないと思われます。両国間の対立は、対中貿易赤字を問題視したトランプ政権による追加関税措置から始まり、今日までエスカレートしてきました。しかし、厳しい対中姿勢は、今や党派を超えて共通する政策的方向性となっています。民主党においても、知的財産の取り扱い、安全保障やテクノロジー領域での投資などについて、中国への警戒感は強く、さらに人権状況をめぐる懸念が表明されてきました。米中対立は、トランプ政権下での一過性の事象と捉えるべきではなく、中長期的に継続する「前提」と捉えるのが適切です。

3.サプライチェーンの見直しは引き続き課題に

米中間での追加関税措置や輸出規制の応酬、さらに新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の拡大で浮上したサプライチェーンの見直しは、今後も企業にとっての課題となるでしょう。貿易赤字を特に問題視するのはトランプ政権の特徴であり、次期政権において、さらなる追加関税措置などが取られる可能性は低いと思われます。ただし、バイデン次期大統領は国内サプライチェーンの再建を公約として掲げており、半導体や通信などのテクノロジー関連を含む主要領域では、中国からのデカップリング(サプライチェーンの切り離し)を推進するとみられます。また、既存の対中輸出制限についても大きな方針転換はないでしょう。日本企業にとっても、米中両国を含むグローバルなサプライチェーンの見直しは、継続的な検討課題となります。

4.投資規制にも引き続き留意を

安全保障やテクノロジーにかかわる領域での投資規制の動向についても、引き続き留意が必要です。トランプ政権は、外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)の新規則を施行し、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化、米国への直接投資に対する規制を強めてきました。次期政権においても、投資規制に大きな変更はないと思われます。これらの規制は、中国を念頭に置いたものではありますが、現状、日本に審査免除(いわゆる「ホワイト国」認定)が与えられていないため、日本企業による対米投資活動には引き続き影響が出ると予想されます。特に、米中の双方で活動する企業においては、事業および投資戦略の検討に、安全保障やテクノロジーの観点を取り入れることが不可欠となります。

5.環境にかかわる領域では変化も

政権交代により、比較的大きな変化が見込まれるのが環境にかかわる領域です。トランプ政権は、パリ協定の脱退、オバマ政権時に制定された環境関連の規則類の廃止など、国内外で「後ろ向き」な姿勢が顕著でした。バイデン次期大統領は、米国のパリ協定への復帰意向を示しており、廃止された規則類を復活させることも見込まれます。また、税制優遇などを通した電気自動車の普及を推進することも予想され、既存の自動車市場に影響を与えるでしょう。これらの変化は、米国内のみならず、国際的な潮流も大きく変えうることになります。日本企業は、米国での関連規制動向、それに対する適合性などに留意すべきです。併せて、既存事業へのリスクと新たな事業機会について、政策分析を通して検討することも必要となるでしょう。

6.「若い」米国、「多様な」米国

「分断」の側面が強調されがちな米国ですが、その「若さ」や「多様さ」についても改めて目を向ける必要があります。今回の選挙は、両候補の間で接戦となるなど、同国内の根深い「分断」を再び明らかにしました。一方、世代間での選好の違い、人種バランスの変化も、同時に明らかになりました。若い世代ほどバイデン候補に投票した割合が高かったこと、また、共和党の地盤とされてきたアリゾナ州やジョージア州で「マイノリティ」層の人口増加がバイデン候補の得票を押し上げた可能性など、さまざまな指摘がなされています。米国の人口構成は、他の先進諸国に比べると若年層が比較的多く、また、従来の「マイノリティ」が多数派に転じる傾向にあります。長期的には、世代の観点でも、人種バランスの観点でも、米国は大きく変質していきます。このような視点を取り入れると、米国の異なる側面も見ることができるでしょう。

7.リスクを特定し、チャンスに変える戦略を

新型コロナウイルス感染症の収束も見えないなか、政権交代を経ても、世界の不確実性が大きく低減するわけではありません。そして、不確実性に伴うリスクは、全ての業界や企業にとって一様なわけでもありません。サプライチェーンの見直しを例にとっても、業界や個別企業の事業構造によって、現状維持、国内回帰、多様化のうち最適な選択肢は変わってきます。不確実性の高い世界が続くなか、いかにリスクを特定し、チャンスに変えていくか?EYがグローバルに展開するGeostrategic Business Groupは、海外を拠点とするエキスパートと、日本企業の状況をよく理解した東京を拠点とするエキスパートが協働し、最新の地政学観点を取り入れたビジネス戦略の構築をサポートします。

* 本記事は、2020年11月10日までに判明していた情勢を踏まえて書かれたものです。

サマリー

2020年11月3日(現地時間)に実施された米国大統領選挙では、民主党のバイデン前副大統領が当選を確実としましたが、政権交代後も米国の内向き志向や米中対立に大きな変化は生じないと思われます。日本企業にとって、サプライチェーンの見直しは引き続き課題となり、安全保障やテクノロジー領域での投資規制への留意も必要です。次期政権下では、環境領域での新たな規制動向、それに伴う自動車やエネルギーなど関連業界への影響にも留意する必要があると思われます。

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執筆者 上田 倫生

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY ストラテジー・アンド・トランザクション EYパルテノン ジオストラテジック・ビジネス・グループ ヴァイス プレジデント

地政学観点を取り入れた戦略構築が専門。日課はジム通い。無類のヒップホップとレゲエ好き。