2022年7月13日
サステナブル戦略策定における対話の重要性 企業が取るべきTCFDとTNFDへの対応

サステナブル戦略策定における対話の重要性 ー  企業が取るべきTCFDとTNFDへの対応

執筆者 尾山 耕一

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト パートナー

平日はひたむきに持続可能な社会づくりに向き合う修行僧。休日はひたむきに波に向き合うサーファー。

2022年7月13日

気候変動への対応やサステナビリティに対する社会的要請は必然的に高まっています。そうしたことを背景に、企業にもサステナブル戦略を策定する必要性が生じており、これを進める上でのポイントについて考察します。

要点

  • 検討のコアとなる人材を選定し、自然に意識の醸成が進むようなプロセスで議論を進める。
  • TCFDのフレームワークは、議論を深めるためのファシリテーションツールとしても有用である。
  • 環境課題への対応は、検討プロセスにおける対話こそに価値である。


サステナブル戦略を進めるための3つのポイント

気候変動対応やサステナビリティに対する社会的要請が高まっていますが、「何から始めるべきか分からない」という企業も多いのではないでしょうか。ここでは、サステナブル戦略を進めるための3つのポイントをお伝えします。

1つ目のポイントは、トップの本気度を社内に浸透させることです。トップメッセージとして社内外に発信していくことはもちろん、中期経営計画への組み込みを通して、各部門が自部門でできること、取り組まなければならないことを認識できるよう、落とし込みが必要です。

必要に応じて、組織再編も検討します。サステナブル戦略の推進には、環境部門が適切な意思決定権限を有することが不可欠です。これまでの支援の経験から、もともと環境部門が単なる報告のための部門ではなく、経営と連携した意思決定を行えるような位置付けにある企業では、比較的スムーズに取り組みを進められることが分かってきました。したがって、現状そうでない企業においては、環境部門を社長直轄の経営戦略部門の中に位置付けることで、推進を加速できる可能性があります。環境を軸とした経営を行うに当たって、環境部門が必要に応じた意思決定ができるようにするとともに、こうした組織再編が経営層の本気度を伝えるための有力なメッセージともなり得るためです。

2つ目のポイントは、議論のコアとなる人材選びです。検討時においては、経営層・環境部門・IR部門など部門横断型の検討チームを立ち上げ、ブレインストーミング型での検討方法をお勧めしています。この検討チームは、部門という切り口だけでなく、長くその企業のことを知っているシニア層やリスク・機会へ敏感な感覚を持つミドル層、世代的に環境への関心が高い若手層など世代の組み合わせも考慮します。これらの人材は検討が終わった後、元の組織で戦略を実現するコアメンバーです。よって、経営層や企業の推進担当者と相談しながら、運用プロセスにおいても中心的な役割を担えるような人材を選定することが重要です。

3つ目のポイントは、ブレインストーミングの中で、自然に意識の醸成が進むようなプロセスを活用するということです。2022年4月に東京証券取引所の市場再編に伴い、プライム市場上場企業にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)またはそれと同等の枠組みに基づく情報開示が求められるようになりました。多くの企業が、この動きを制度変更により課せられた義務としか捉えていませんが、実は企業がどのように気候変動と関わっていくのかを考えさせる仕組みとして非常に有効なフレームワークなのです。そこで私はこのフレームワークを、議論を深めるためのファシリテーションツールとして活用することを提案しています。

 

TCFDフレームワークとの照らし合わせ

ではここから、具体的にTCFDのフレームワークについてご説明しましょう。このフレームワークでは、まず自社の事業に照らして、気候変動やそれに伴う市場変化がどのようなリスク、または機会となるのかの洗い出しから始めます。これを先述した部門横断型のチームでブレインストーミングを通じて検討していくのですが、消費者、投資家、サプライチェーン上のステークホルダーなど事業環境を取り巻くプレーヤーを考察し、それらのリスク、機会を考慮しながら起こり得るシナリオを描いていくことになります。これらは現在の事業を再定義した上で、あらゆる角度から想像力を働かせるプロセスと言えるでしょう。そういった意味で、こうした取り組みの狙いは、環境に関するアジェンダのようで、レジリエントな経営の姿を描くことに他なりません。

このブレインストーミングを通じ、自社の事業を環境課題にどのようにつながるのか、何をしなければならないか、何もしなければどうなるのかを共有することで、環境課題への意識が自然に醸成されるようになっているのです。検討の初期段階では、「ただでさえ通常業務が忙しいのに時間を割きたくない」というような消極的な意見を頂くこともありました。しかしチーム内での対話が進むと、初めはネガティブな意見だった方も、徐々に意識が変わってきます。そして結果的には、一時的に負担が生じたとしても、長期的には企業にとって必要な投資であることを理解してもらえます。

計画策定はあくまで始まりで、それをどう運用し、根付かせていくか、常に時代を見据えた更新をしていかなければなりません。私たちはサポートが終わった後も、自社での自律的で継続可能な運用を目標としていますが、ご要望があれば、その後の計画浸透・運用・更新といったプロセスまでしっかりとサポートしていくことを大切にしています。

気候変動から生物多様性へ

ここまでTCFDについて説明してきましたが、この先、企業は気候変動だけではなく、複合的な課題に対応することが求められます。次に見えているのは生物多様性への対応です。2021年に複数の国際機関が設立母体となってTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足し、2022年からTNFDのフレームワークに基づいた情報開示が試験的に始まります。

基本的にはTCFDの枠組みへの対応と同様に、まず自分たちの事業との生物多様性の関係を整理することから始めることになります。ただし、より広範なプレーヤーや影響範囲に対し想像力を働かせることが求められます。今はまだ一部の企業しか生物多様性の検討までは進められていないような状況ですが、TCFDのプロセスをしっかりと踏んだ企業にとっては、その議論の延長線上で進めることができる内容です。

TCFDやTNFDのフレームワークを、単なる制度対応としてではなく、議論を深めるためのツールとして利用することで、プロアクティブな姿勢でリ経営全体に関わる意識変革にもつなげることができます。

つまり、環境課題への対応は、計画策定そのものではなく、検討プロセスにおける対話こそに価値があるのです。同様に、EYのコンサルティング・サービスも、単にシナリオや計画作りを代行することではありません。お客さま自身による検討のプロセスを一緒に作り上げ、実のある対話となるようサポートすることがもっとも重要な提供価値だと考えています。お客さまの伴走者として、新しい時代を構築するお手伝いができるとしたら、これ以上の喜びはありません。

サマリー

サステナビリティ戦略立案においては、社内の対話が重要な鍵となります。トップの意識を浸透させる仕組み、適切な人材選び、フレームワークの活用といったポイントを押さえることで、効果的な対話が可能となります。TCFDは対話のツールとしても非常に有用であり、ファシリテーションツールとして活用することで、より本質的な議論につなげることができます。

この記事について

執筆者 尾山 耕一

EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ストラテジック インパクト パートナー

平日はひたむきに持続可能な社会づくりに向き合う修行僧。休日はひたむきに波に向き合うサーファー。