5 分 2021年9月27日

            北海に立ち並ぶドイツの風力タービン

会計士が気候変動対策をけん引するための3つの方法

会計のプロフェッショナルにとって今は、前世紀に得た経験を気候変動対策に生かす機会です。

要点

  • 会計士のスキルは、グローバルに一貫性のある気候変動指標の確立に役立つ。
  • 共通の指標を確立することで、気候関連の報告と情報開示に対する独立した第三者の保証が可能になる。
  • 会計と財務のプロフェッショナルは、取締役会と経営管理における自らの役割を通して、気候とサステナビリティ関連の報告に規律をもたらすことができる。

全世界で排出される温室効果ガスの総排出量は現在、年間およそ510億トンに上ります。気候科学の研究結果によると、気候の大変動を回避するためには、二酸化炭素排出量が特に多い国や企業が2050年までにネットゼロ(実質ゼロ)を実現しなければなりません。ネットゼロを実現するには、政府や企業による本格的な取り組みが必要です。排出の原因となる人間の活動を正確に記録し、それが環境にどのような悪影響を及ぼすかをきちんと記録に反映しなければ、ネットゼロを達成することはできません。

G7(7カ国財務大臣・中央銀行総裁会議)は 6月のコミュニケで、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づく気候に関する財務情報の開示義務化を求めました。このコミュニケでは以下のように強調されています。「財務上の意思決定において気候が考慮に含まれるよう、グローバル金融システムをグリーン化する必要性を強調する。これは、必要とされる何兆ドルもの民間部門の資金を動員し、ネットゼロへの我々のコミットメントを達成するための政府の政策を強化することに役立つ」

今のような公認会計士は19世紀後半に誕生し、報告書作成サービスと監査サービスを提供し、公共の利益に貢献してきました。今では世界各地の資本市場に信頼、透明性、信用をもたらす存在にまで成長しています。会計士は現在、課題と機会の両方に直面しています。評価・情報開示・保証の各分野における100余年にわたる経験を結集させ、政府、企業、そして市民社会と力を合わせて気候危機に対処しなければなりません。ここでは、どのように対処すべきかを考察します。


1. グローバルに一貫性のある指標づくりに貢献する

国際会計基準委員会(現国際会計基準審議会(IASB))が1973年に設立されて以来、グローバルな会計基準の策定に向けた取り組みは目覚ましい進展を遂げました。現在ではグローバル企業のほとんどが報告に米国会計基準(US GAAP)か国際財務報告基準(IFRS)のいずれかを採用しており、特にIFRSは160を超える国や地域で用いられています。

米国会計基準とIFRSでは気候変動について明確に言及していませんが、米国証券取引委員会(SEC)とIASBは近年、気候変動に関わる情報開示要件についてのガイダンスを出しています。SECは2010年、株式公開企業向けに、気候変動に関わる既存の情報開示要件に関するガイダンス(PDF)を発表しました。なお、SECのトップが先ごろ見直しを指示しています。IFRS財団も2020年11月に啓発資料を公表し、気候関連問題が財務諸表に重要な影響を与える場合、IFRS基準の要件が企業に気候関連事項を考慮するよう義務付けていることを強調しました。

同時に、気候関連や、より幅広いサステナビリティ関連の報告の明確な基準の設定に向けた取り組みも飛躍的進展を遂げてきました。具体的には、SECによる気候変動の開示に関する意見募集の実施、欧州委員会の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)案、IFRS財団のサステナビリティ基準審議会創設案などです。

気候関連の報告と情報開示のグローバルな基準を設定するプロセスが進化を続ける中、多くの疑問が残されたままです。例えば、どの情報を自主的開示と義務的開示の対象にするか、どのような情報を重要なものとみなすか、気候関連の報告は経営報告書に組み入れるべきか、これまで通りサステナビリティ報告書に別途盛り込むべきか。グローバルに一貫性のある指標を確立し、信頼性・比較可能性・妥当性のある情報開示を実現させるためには、このプロセスに対する会計士の貢献が不可欠です。

関連資料を表示

  • ESGとサステナビリティに関する報告の基準設定の進化について詳しくは、EYのレポートをダウンロードしてご覧ください。

2. 気候関連の報告と情報開示の保証を提供する

気候変動への取り組みとその影響について、ステークホルダーに報告・開示する情報の対象を広げる企業が増えるにつれ、開示情報の奥行き、リスクエクスポージャー(リスクの影響度)、回復力、「グリーンウォッシング」(装った環境配慮)の懸念などに関する疑問が増すと予想されます。企業は、ステークホルダーの信頼を維持するために開示情報の検証を望むようになる、あるいは検証結果の提出を求められるようになるかもしれません。

気候関連の報告と情報開示を独立した第三者が保証することにより、報告の信頼性、企業の回復力、金融市場における信頼を高めます。これにより経営報告、モデル、開示情報(例:基本的な前提、モデルの感応度、確かな情報を支える内部統制)の精査と検証などを通し、気候関連と、より幅広いESG(環境・社会・ガバナンス)関連の監査証跡を強化することが可能になります。

企業は、ステークホルダーの信頼感を高め、今後の規制義務を遵守する手段として、監査への対応に力を入れる必要があります。例えば、欧州委員会のCSRDでは、報告するサステナビリティ情報に関して、監査人または独立した保証サービスプロバイダーによる限定的保証を求めるよう大企業に要請しています。


3. 会計部門と財務部門を融合させる 

企業がすべてのステークホルダーに企業価値を配分できるのは、経営指導部によるビジョン共有の下で、組織全体のスキルや持てる能力を活用した場合のみです。会計部門と財務部門はこの集団的努力の中で重要な役割を果たします。特に投資家などのステークホルダーの要求を聞き入れ、理解し、関連付け、妥当かつ重要な指標や開示に変換します。

報告はステークホルダーに信頼され、信用され、妥当なものであり、財務情報と非財務情報の間に明確な関連性がなければなりません。CFOと財務責任者は、サステナビリティとESGの報告実践を指導してきた経験や知識に基づき、非財務報告のプロセスと制御に規律を加えることができます。財務部門は効果的なガバナンスを確立し、財務以外のプロセス、管理、データ公表に関して独立した保証を取得する手助けができます。これはステークホルダーとの信頼と透明性を築くのに欠かせません。

EYがOxford Analytica社と共同で新たにまとめたレポート『The future of sustainability reporting standards』でも述べているように、今後12~18カ月間は、ここ数十年の間で最も重要なイノベーションを企業会計とコーポレートレポーティングにもたらす大きな転換期となるかもしれません。

各国・地域の基準やグローバル基準の策定が進められていますが、気候関連の報告や情報開示がネットゼロ社会を実現させる万能の解決策でないことを忘れてはなりません。一方で、排出量を削減し、気候変動対策に取り組むという世界的な課題に対応するためには、これらの基準づくりが不可欠です。

 

サマリー

会計のプロフェッショナルは、政府、企業、市民社会と力を合わせて気候危機に対処する上で、非常に重要な役割を担っています。