7 分 2021年2月25日

            雪景色の中をスノーモービルで走る2人

新型コロナウイルス感染症対応に伴う税負担軽減から執行強化への移行を企業が予想する理由

執筆者 Luis Coronado

EY Global Tax Controversy and Transfer Pricing Leader

Vast cross-border experience. Well-versed in international tax. Thought leader in tax policy and controversy and transfer pricing.

EY Japanの窓口

EY Japan メディア・エンターテインメントセクター・タックスリーダー 兼 タックス・ポリシーリーダー EY税理士法人 パートナー

2人の娘の父。趣味はドライブ、スキー、クルージング。好きなお酒はワイン。

7 分 2021年2月25日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの状況下、各国税務当局は企業の救済処置を講じましたが、現在は税収確保に動いており、新たな分野で税務係争が発⽣する可能性が浮上しています。

要点
  • パンデミックの状況下、税務当局は行政による大規模な救済措置を講じた。
  • 財政赤字を削減するため、各国政府がより大きな税負担を課し、断固たる税務執行を再開することが予想される。
  • 2021年EY税務リスクと税務係争に関する調査の回答では、移転価格、人材の移動問題、損失処理、刺激策の利用が大きな懸念事項と指摘されている。
Local Perspective IconEY Japanの視点

今回の調査により、世界のグローバル企業は、税務調査が今後さらに厳しくなり、世界各国の税務当局との係争が増加することを強く懸念していることが明らかになりました。また、このような税務リスクの高まりに対応するために税務部門を強化する必要性を感じていることも明らかになりました。税務リスクに対する日本企業の危機感はグローバルの平均と比較すると相対的に低く、過去の調査においても同様でした。これは、日本企業が保守的な税務ポジションを採用していたからではなく、世界各国の厳しい状況が日本の親会社まで十分に報告されていなかったからだと思われます。一方、日本企業の73%が、経営幹部が以前よりも税務問題により強い関心を示していると回答しており、この割合はグローバルの66%を上回りました。今回の調査では、日本企業においてもグローバル税務ガバナンスの確立が喫緊の課題であるとの認識が急速に広がり、世界のグローバル企業以上に、税務部門強化の必要性を感じていることが明らかになりました。

 

EY Japan の窓口

関谷 浩一
EY Japan メディア・エンターテインメントセクター・タックスリーダー 兼 タックス・ポリシーリーダー EY税理士法人 パートナー

税務・財務責任者1,265名を対象とした2021年EY税務リスクと税務係争に関する調査によると、新型コロナウイルス感染症によって⽣じた税務問題に絡み、企業は間もなくより厳しい新たな税務調査を受ける可能性があります。

税務当局は、政府が新型コロナウイルス感染症の世界的流行による経済的影響に対応する中で、中心的役割を果たしました。EYのCOVID-19 税務係争対応トラッカーによると、140近くの国・地域で申告期限の延⻑、納税猶予、調査・争訟活動の⼀時停⽌などの救済策が講じられました。また、政策立案者が制定した大規模な経済支援・刺激策の実施にあたったのも税務当局でした。

しかし、パンデミックの発生から1年がたち、行政による救済措置は、ほとんどの国・地域で打ち切られるようになってきました。調査の回答からは、政府が新たに⽣じた財政⾚字を補填するために税収拡⼤へと⽅向転換しており、そのためにこれから執⾏と調査の強化が⾒込まれる税務分野が明らかになっています。EYの調査では執⾏の強化に加えて税負担も重くなるとの回答が多く、半数以上が今後3年間で直接税の負担が⼤きくなると予想しています。「一部政府はすでに焦点を歳入増加にシフトさせています」とEY Global Transfer Pricing and Tax Controversy LeaderのLuis Coronadoも、この点を認めています。「つまり、税務リスク・税務係争管理の観点から、企業は今後まったく新しい問題を評価し、管理することになるでしょう」

一部政府はすでに焦点を歳入増加にシフトさせています
Luis Coronado
EY Global Tax Controversy and Transfer Pricing Leader

税務当局による厳しい調査

2020年の行政による救済は歓迎できるものでしたが、企業は税務行政から受ける影響に引き続き立ち向かっていかなければなりません。

EYの調査では、回答者の48%(日本企業:33%)が税務当局対応で全般的に遅延があったと答えています。意外なことに、このような遅延は成熟市場で多く起きる傾向が見られました。例えば北米では、この数字が65%に上っています。

税務当局からの問い合わせは減ったものの、税務業務の多くはいつもと変わらないと答えた回答者は28%(日本企業:30%)にとどまる⼀⽅、税務調査・争訟活動も同時に減ったと述べた回答者は35%(日本企業:28%)でした。さらに、テクノロジーの利用拡大がプラスの効果をもたらしている可能性を示す兆候も見られます。26%(アジア太平洋では38%、中南⽶では44%、日本企業は35%)がバーチャル会議プラットフォームなどのツールの利⽤により、税務当局との関わり⽅が改善したと回答しました。

パンデミックに関連する問題の税務上の取り扱い

パンデミックにより、財務上の課題と税務係争が多数生じることが予想されます。人材の移動、パンデミック関連の損失、税⾦の還付請求を巡る問題のほか、刺激策での補助⾦などの受給⾃体に関わる問題も、主な懸念事項に挙げられました。

移動制限と⼊国管理の強化に伴い、海外の⼈材が⾜⽌めを受けている状況による税務問題については、回答者の45%が最も切迫している点だと指摘しています。経済協力開発機構(OECD)のほか、一部諸国もこの問題に関連するガイダンスを公表しました。また多くの国が⼀部の税法規定を⼀時的に緩和して問題の軽減を図っており、雇用者の税⾦と社会保障、そして恒久的施設に係るより広範なリスクの双⽅に影響を与えています。

税務リスク

53%

の回答者(日本企業:38%)が、パンデミック後に税務執行が強化されると予想しています。

新型コロナウイルス感染症関連の税務問題(損失など)に関して、税務上の取り扱いが変わると予想する回答者は39%でした(アジア太平洋では48%、中南⽶では52%、日本企業は40%)。EYトラッカーには、2020年には少なくとも10カ国で損失処理の変更(⼀部は⼀時的)があると記載されており、これを考慮すると驚くことではありません。納税にあたっては、損失を繰延税⾦資産として計上したいという意向に駆られるかもしれませんが、これについては税務リスクの観点から慎重に評価、管理する必要があります。

回答者が挙げた懸念事項としてはほかに、支援や刺激策で補助金などを受けたことに伴って税務調査が行われる可能性などがあります。例えば英国では、歳入関税庁(HMRC)が新型コロナウイルス感染症雇用維持制度(Coronavirus Job Retention Scheme)への誤った申請(不正申請を含む)は金額にして17億5,000万ポンド~35億ポンドに上ると推計しています。HMRCは単なる誤りは追求しないと表明していますが、多国籍企業は類似プログラムへの申請について、システマチックなチェックの実施を検討する必要があります。調査回答者の28%(日本企業:23%)が、この分野で新たな税務調査が行われる可能性があると答えています。

また回答者の約35%(日本企業:40%)が、パンデミックによりクロスボーダー事業で移転価格の解釈が変わると予想しています。この懸念を受けて、OECDはすでに2020年末に新たなガイダンスを公表し、独立企業原則をパンデミックの間とその後に生じる特別な事例と課題に実際にどのように適用するかについて、明確な見解と解説を提示しています1

税務執行

執行分野については、回答では取り締まりの強化が広く予想されたものの、この点は国により大きく異なる可能性が高いと考えられます。多くの税務当局が新たなデジタルデータの提出要件と、より幅広い透明性・情報開示に関する法律の導入を進める可能性が高く、問題を抱えている国・地域では引き続き課題が突き付けられることになるでしょう。イタリア、メキシコ、ポーランド、英国では最近、情報開示で新たな進展が見られました。

多くの国で、⼤⼿多国籍企業に対し、税務上の不確実性がないかをこれまで以上に綿密に調査していることがすでに明らかになっていますが、これにより新たな税務調査が⾏われ、その後に和解が発⽣する可能性があります。このような国の⼀部はすでに数億米ドル、場合によっては数⼗億米ドルに上る税務上の和解を発表しており、その動向や経緯はマスコミで広く取り上げられています。状況を⾒て、今後追随する国が増えるかもしれません。

新たな「フォレンジック」税務調査と文書化要件

回答者の懸念は、現実の動向を踏まえたものとなっています。日本では調査が10月から再開され、多国籍企業のクロスボーダー取引が新たに精査されるようになったほか、ほぼフォレンジックレベルの裏付文書の提出を求める要件が新たに設けられました。

また日本の税務当局は、移転価格調査による更正所得金額が過去3年間で22億から66億ドルへと3倍に増えたと報告していますが2、これはおそらく日本だけに限らないでしょう。

「日本では関税の観点から移転価格の文書化も精査されています」と、EYのAsia-Pacific Indirect Tax リーダーである大平洋一は述べていますが、これはこうした方向への大きな動きを反映しています。アジア太平洋地域では多くの税務当局が、移転価格の設定方法についてこれまでよりはるかに詳細な説明を輸入業者に要求するようになっていますが、自由貿易協定で付与される免税資格の申請にあたって提出される原産地証明書の審査の強化が予想されると大平は述べています。

間接税の引き上げ

パンデミックの初期、多くの国でVATが引き下げられました(一部の国では一時的な措置であり、ほとんどの国では対象を限定して引き下げられ、恩恵を受けたのは旅⾏・エンターテインメントセクターや個⼈向け衛生用品・⽇常⾷料品の購⼊だけでした)。ところが、変更の方向性は一様ではなく、例えば、サウジアラビアは2020年5月、VAT税率を5%から15%へと3倍に引き上げると発表し、VATを低水準で導入してから徐々に引き上げるという長期的な計画を実質的に断念しました3。コロンビア、オマーン、カタール、ウクライナも同様に、2021年にVAT税率を引き上げることが確実視されています。

「2021年には、欧州でも間接税の負担が重くなる見込みです」とEYのGlobal Indirect Tax LeaderのGijsbert Bulkは述べています。「政府や税務当局は、軽減税率や課税免除を撤廃してVAT課税対象を拡⼤させ、納税者から提出される書類などの精査の厳格化も図るでしょう」

政府や税務当局は、軽減税率や課税免除を撤廃してVAT課税対象を拡⼤させ、納税者から提出される書類などの精査の厳格化も図るでしょう
Gijsbert C. Bulk
EY Global Director of Indirect Tax

今とるべき対応

多くの多国籍企業は、新型コロナウイルス感染症収束後の税務当局による取り締まり、新たな⽂書化要件、国際的な税制規定が⼤きく変更される可能性など、既存の課題に直⾯しており、税務係争を管理するより良い⽅法を模索しています。

今後に備えて、多くの企業は税務リスク・係争管理のための広範かつ全社的アプローチに投資しています。今回の調査から、回答企業の50%(日本企業:43%)がTax Control Framework(TCF)を利用していることが分かりました。TCFとは、全ての税務関連の意思決定プロセスと全社的なプロセス全体に税務リスク管理プロセスを組み込むモデルです。EYの調査では、TCFを利用している企業は、利用していない企業より税務リスク管理で良い成果を上げている傾向が見られました。例えば、76%の企業が全世界で実施中の税務監査において完全な可視化または大幅な可視化を実現していると回答しており、TCFを利用していない企業の65%を上回りました。

効果的なTCFは、将来の税務係争対応部署を創設するにあたり有益な出発点となり得ます。またTCFは、全ての税務係争を税務リスク評価、税務リスク管理、税務監査管理という3つの特徴的なソリューションで管理するフレームワークアプローチです。

各ソリューションは多数の細かいプロセスで構成されているため、多くのリーディングプラクティスから個別に選択することができます。3つのソリューションはさらに、組織モデルと関連性の分野における内外のリーディングプラクティスに裏付けされています。また、適正なツールとテクノロジーを使用しており、係争のトラッキングと管理に役立ちます。リーディングプラクティスにより、全ての税務データを一元的に検証した後、データアナリティクス、機械学習、人工知能を活用して、今後どこで係争が起きる恐れがあるか、予測を試みることも可能になるかもしれません。

税務環境はかつてないほどのスピードで変化しており、前述した重要なトレンドが一度に押し寄せるまで、準備を整える期間はわずかしかありません。企業はそのタイミングを逃さないよう注意を払う必要があります。

許可を得て複製。2021年2月24日に掲載。Copyright R 2021 The Bureau of National Affairs, Inc. 800-372-1033. ご利用にあたっての詳細はhttps://www.bloombergindustry.com/copyright-and-usage-guidelines-copyright/をご覧ください。

サマリー

税務当局は、政府がパンデミック関連の支援を行うにあたって中心的役割を果たし、申告期限の延長や執行活動の一時停止などの救済措置も講じました。2021年EY税務リスクと税務係争に関する調査によると、政府が財政赤字を補填するために再び歳入増加と税務執行の強化に方向転換すること、そのために移転価格や労働移動などの問題が課題となるとの予想が広がっています。

この記事について

執筆者 Luis Coronado

EY Global Tax Controversy and Transfer Pricing Leader

Vast cross-border experience. Well-versed in international tax. Thought leader in tax policy and controversy and transfer pricing.

EY Japanの窓口

EY Japan メディア・エンターテインメントセクター・タックスリーダー 兼 タックス・ポリシーリーダー EY税理士法人 パートナー

2人の娘の父。趣味はドライブ、スキー、クルージング。好きなお酒はワイン。