2023年3月20日
BEPS2.0対策シリーズ5 BEPS2.0とサステナビリティの観点からの税情報開示

BEPS2.0対策シリーズ5 BEPS2.0とサステナビリティの観点からの税情報開示

執筆者 EY 税理士法人

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Ernst & Young Tax Co.

2023年3月20日

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SDGsに沿った成長戦略の策定と実行が求められる中、日本企業ではBEPS2.0によるグローバル課税の枠組みの変化とサステナビリティの観点を合わせた税情報の開示の動きが本格化しています。

今後どのようにサステナビリティを意識した税情報開示が必要なのか。今回はBEPS2.0導入以降における企業の税情報開示の在り方について解説します。

要点
  • 企業自らの判断によりCbCRにおける税情報の開示が求められている。
  • BEPS2.0のPillar2グローバル最低税率課税の内容についても開示要求が高まる。
  • 税という「額」を通して、非財務価値を“見える化”し、ステークホルダーに訴求する。

サステナビリティの観点から高まる税情報開示要請

これまで企業の税務は2つの指標で評価されてきました。1つは、税務申告を適正に行い、税務調査に応じるための税務コンプライアンスの遵守であり、追徴による税務リスクを防止すること。そして、もう1つが税務プランニングによる実効税率の削減です。

しかし、グローバル企業の過度な税務プランニングに対するステークホルダーからの批判が高まり、税務ガバナンスや税情報の透明性が求められるようになりました。

こうした企業とステークホルダーの関係において重視されるようになったのが、ESG(環境・社会・ガバナンス)です。現在では、一定のESG格付けを得た企業を投資適格とする社会的責任投資の運用スタイルが定着しています。このESG格付けでは、税務ガバナンスと税情報の開示に関する評価項目が加わるようになりました。

こうした中、企業ではESGへの取り組みを進めるため、グローバル・サステナビリティ基準審議会(GSSB)のGRIサステナビリティ・レポーティング・スタンダード(GRIスタンダード)の対照表に基づき、サステナビリティ報告書を作成しています。2021年からは、GRIスタンダードの経済に関する項目別スタンダードとして「GRI207:税金」が公開されており、日本企業にもGRI207との参照関係が一覧表に示されるようになりました。

このGRI207では税務ガバナンスやリスク管理などに加え、国別報告書(CbCR)の開示が要求されています。現在、CbCRは税務当局間での情報共有を目的としており、一般への開示は想定されていませんが、サステナビリティの観点から、企業自らの判断によりCbCRにおける税情報の開示をすることが求められるようになっています。日本企業でも将来の義務化を見据え、ここ数年のうちにCbCRレベルの開示を進める企業が着実に増えることが予想されます。

また、サステナビリティ情報の開示では、IFRS(国際財務報告基準)財団が、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立し、気候変動などの優先検討項目について、非財務開示基準の検討が始まっています。2022年にはIFRS財団とGRIが提携したことで、今後ISSBとGRIスタンダードが整理統合されていくことも想定されています。

こうしてサステナビリティの観点から、税情報に関する開示要請が高まる中、日本企業でも税情報の開示範囲について戦略的に検討する時期が来ているのです。

BEPS2.0における財務開示に関する動向

一方、BEPS2.0のPillar2のグローバル最低税率課税は、日本では2024年4月1日以降に開始する事業年度から適用が開始されます。このグローバル最低税率課税に対応するために企業が集計している国・地域別の実効税率について、ステークホルダーから開示を求める声が高まることが予想されます。国・地域別の開示ではグローバル最低税率の15%が基準となり、それを下回る場合は、実体性を伴わない過度な所得移転をしていないかという疑問について企業は説明を求められることになるでしょう。

国際会計基準審議会(IASB)におけるBEPS2.0のPillar2の導入にあたってのIAS第12号法人所得税に関する公開草案では、Pillar2の制定後発効までの期間において、企業は国・地域別の実効税率を計算し、15%を下回った国・地域の税引前利益と税金費用を集計して開示し、加重平均の実効税率を開示することが検討されています。企業においては、Pillar2の税務申告をする前に、IAS第12号の改訂に関する動向を注視し、財務開示ついて監査法人と対応を協議する必要があるでしょう。

税情報の開示範囲はどうなるのか

では、企業はサステナビリティの観点からどのような税情報の開示を期待されているのでしょうか。税情報は、財務情報とは異なり、指標の定義や開示範囲が義務化されていません。こうした中、日本企業では納税情報のみ開示している事例も見られ、ESGの観点からは一定の成果はあると考えられます。

しかし、ステークホルダーは、ガバナンスの観点から企業が過度な租税回避や所得移転を行わず、実体を伴った納税をしているかどうかを問うています。その意味では、納税情報だけでなく、企業の所得と発生税額ほか、収入、資本、従業員数や有形資産などCbCRの主要指標を開示し、実体に関する数値を表示することが重要と考えられます。

一方、社会にとっての税額は、地域社会への貢献という尺度から、法人税に限らず、税金ならびに社会保障への拠出など、政府公共部門への総合的な貢献額として測ることが求められます。

今後さらにサステナビリティが重要視されていく中、税務部門は従来の「税金」の枠を超えて、環境という非財務価値を金額として“見える化”し、ステークホルダーに遡及することに貢献できる分野になるはずです。各国・地域の税制対応にとどまらず、税はサステナビリティ経営の重要な役割を担っているのです。

日本企業においては、税務コンプライアンスのみを重視する発想を改め、サステナビリティの観点から、税情報の説明責任と透明性をもって開示する時代が到来していることを認識すべきです。ただし、その情報開示の根底には、税務ガバナンスの構築や運用、そして企業の持続的成長が求められていることは言うまでもありません。

これからは税務部門だけでなく、CFOを始め、IR、人事、各事業部と協力した対応が求められます。まさに税務を超えた国・地域別情報の開示が求められる時代となるでしょう。その意味でも、税務部門に期待される役割は今後大きな変容を遂げようとしているのです。

【執筆者】
EY税理士法人 ディレクター
大堀 秀樹

※所属・役職は記事公開当時のものです

サマリー

ESGへの取り組みを進める一環として、企業はCbCRによる税情報の開示を自らの判断で行うことが求められるようになっています。また、導入を控えたBEPS2.0 Pillar2グローバル最低税率課税の内容についても、開示要求が高まるでしょう。税務コンプライアンスのみを重視する発想を改め、税情報の説明責任と透明性をもって開示する時代に向け備えるべきです。

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執筆者 EY 税理士法人

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