5 分 2021年10月5日
グローバル課税の新秩序:BEPS1 2.0による保険業界へ与える影響

グローバル課税の新秩序:BEPS 2.0による保険業界へ与える影響

執筆者
須藤 一郎

EY Japan International Tax and Transaction Services Leader

独立企業原則のフィロソファー(PhALP)であり、タレントプロデューサー(TP)。スキーに夢中だが、全く上達しない。温泉愛好家。

関谷 浩一

EY Japan Tax Policy and Controversy Leader

2人の娘の父。趣味はドライブ、スキー、クルージング。好きなお酒はワイン。

5 分 2021年10月5日

OECD1は2019年初め、『経済のデジタル化に伴う課税上の課題への対処』と題した市中協議文書を公表し、意見を募集しました。 

要点
  • OECD事務局は、BEPS2 2.0プログラムの包摂的枠組みについて、2021年中に全加盟国からの合意を得ることを目指している
  • 第1の柱、第2の柱が発効しルールが詳細化されるまでにはまだ時間がかかるが、現時点で示されている大枠からも保険会社にとっての技術的な課題が見えてくる
Local Perspective IconEY Japanの視点

本記事では、米国の保険会社にみられるように、一般の会計基準であるGAAP(財務決算)と保険監督のための法定会計の報告値との乖離がある場合に、BEPS2.0第2の柱導入は保険会社にとって、グローバルな課税インパクトと不安定をもたらす可能性があることを示唆しています。

日本の保険会社においては、日本の会計基準と規制上求められる報告値は一体となっているため乖離はなく、財務決算と税務申告の間の調整をするのみであり、BEPS2.0第2の柱導入に際して実効税率計算にもたらす影響は比較的軽微と考えられています。

しかし、海外子会社において同様の財務決算と税務申告の基礎となる数字の乖離が起きていないかどうか、連結決算における各社からの報告値を精査する必要があります。また、保険会社は多くの投資不動産を保有していますが、国別の実効税率がグローバルミニマム税率を下回った場合に、投資不動産が有形資産の一部として実態性を伴う所得の適用除外に含めることができるのか、OECDの最終報告における定義を確認し、試算をすることが重要と考えられます。

 

EY Japanの窓口

須藤 一郎
EY Japan International Tax and Transaction Services Leader
関谷 浩一
EY Japan Tax Policy and Controversy Leader

提案は2つの柱にまとめられており、第1の柱はデジタル経済の要素、具体的には財やサービスの販売に関わったバリューチェーンの一部に対する課税権を、エンドユーザーや消費者が居住する市場国(market jurisdiction)へ移転する必要性に対処するものです。この提案が広く採用されれば、個別の国又は一定の経済圏がデジタル売上税を課す必要性が解消されることになります。

一方、第2の柱における提案は経済のデジタル化とは異なり、「BEPSの残る課題」に対処するための内容となっています。初期のBEPSプログラムがすでに15の行動計画にて税源浸食と利益移転に関する懸念において対処していましたが、それら措置の多くはまだ実行されていません。さらに、第2の柱はグローバルミニマム課税(global minimum tax)の制度を設けており、税源浸食以上の範疇に対処しています。規模が大きく資源が豊富で(経済的に)多様性のある国は、低法人税率の不公正な性質について不満を持っており、そうした低税率は不平等と訴えています。他方、経済の規模が小さくかつ多様性でも劣る、資源がより少ない国は、それと反対の主張をしています。

BEPS 2.0プログラムの2つの柱に関するブループリントでは、さまざまな作業部会が詳細内容を検証し、市中協議等も通じて、徹底的な検討と見直しがなされてきました。OECD事務局は、各国が第2の柱を法制化し施行するための枠組みとして基本ルールを2021年中に示すことを視野に、年内にOECD包摂的枠組み(the Inclusive Framework on OECD)の全139のメンバーから合意を得ることを目指しています。2021年6月の会合にてG7の財務大臣らは、2つの柱に関する提案について大枠で合意したと発表しました。OECD包摂的枠組みは2021年7月、139のうち132のメンバーが支持を表明しているとの声明を公表しました。

保険業界への影響

デジタル手段を通じて行なわれる特定の取引に関して市場国へより充実した課税権を割り当てるという第1の柱は当初、企業・消費者間の取引に特化したものだと受け止められていました。米国は、第1の柱は米国に本拠を置くハイテク企業に過度に重点を置いていると捉え、このプロセスに対して他より慎重な態度をとっていました。バイデン政権は、売上高と利益が世界的に極めて規模の大きい企業を対象とし、それら企業の利益率が10%を超える部分の一定額(例えば20%~30%)を、所定の配分キーを用いて市場国へ再配分するというアプローチを提案しました。

金融サービス全般、特に保険会社は、国境を超えて顧客と直接関わり合うことは通常ありません。規制上の制約やリスクの引き受けに見合った資本を確保する必要があり、大半の場合、子会社や支店の営業活動に対する課税、もしくは市場国にあるブローカー(仲介会社)への報酬を通じてそれに見合った税金が支払われています。例えばオーストラリアのように、国外の保険会社又は再保険会社に支払われた保険料の一部をオーストラリア源泉所得とみなし、オーストラリアの法人税率で課税するという特別ルールを設けている国もあります。したがって、金融サービスを対象となる収入から除外するこのようなアプローチが検討されています。規制対象の特定の金融サービスは対象となる収入から除外される公算が大きい模様です。

しかし、第2の柱は技術的にもっと重要な難題をはらんでおり、懸念すべき理由がいくつかあります。第2の柱は基本的に、多国籍企業が事業を営んでいる国ごとに、課せられている実効税率を計算するよう求めています。その率がグローバルミニマム税率(現時点では未定ですが、15%以上になる見通し)を下回るときは、その不足分を次の二つある仕組みのうち一つを用いて徴収しなければなりません。主たる仕組みは所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)であり、IIRが適用される企業グループの親会社は、実効税率がミニマム税率よりも低い子会社所在地国について不足分を徴収することになります。しかしながら、親会社がこのルールを適用しないときは、二次的な仕組みである「軽課税支払ルール(UTPR:Undertaxed Payment Rule)」が子会社所在地国にて適用され、グループ内で軽課税国へなされた税源を浸食する支払いについて、損金算入が否認される可能性もあります。いずれの場合も、軽課税国で追加課税されるのではなく、不足額は他のグループ会社に対して課されます。

この点に関する最大の懸念は、グローバルミニマム税率と比較する国別の実効税率に関する計算方法です。現状の検討では、繰延税金は一部分の、減価償却、無形資産の償却、原価回収に関係する比較的短期間で解消される期間差異のみが考慮されています。保険会社は、製薬会社や資源採掘会社と同様に、期間差異が長期間に及ぶ傾向があります。保険事由を担保するための保険料の受領後、かなりの期間を経過してから保険事故が発生するからです。国によって異なりますが、例として、繰延新契約費の取扱いや、実際の潜在的保険金支払に対する保険契約責任準備金として税務上認められる額、異常危険準備金、規制上のプーリング規定などが挙げられます。投資についても同様の懸念が存在します。繰延税金が適切に反映されない場合、長期の保険を引き受ける保険会社は、実効税率が人為的に押し下げられる又は押し上げられることにより、第2の柱において追加の税金負担が生じ、恒久的に回収できない可能性があります。例えば、(繰延税金負債の発生要因である)未実現利益は、第2の柱における実効税率を押し下げ、追加の税金負担を生じ、市場の推移によっては最終的にその利益が実現しない場合、保険会社は追加負担を回収することができません。あるいは、一部の米生命保険会社は一定の保険契約に対して非常に保守的な水準の準備金を積み立て、その超過準備金を保険契約期間にわたり保有するよう求められています。しかし、これは規制上の規定に過ぎないため、規制上の申告には反映されますが、一般会計原則(GAAP)のもとでは準備金としては計上されません。

税務申告が規制上の数値に基づく場合、GAAPに基づく財務諸表で低い実効税率として表示される可能性があります。さらに、通常は繰延税金を通して調整される時価評価アプローチにおいて、投資収益が前倒しで認識されかねません。OECDにおいて、税金が最終的支払われないときに税額を控除し、主観的性質を持つ税効果会計と保険会社の扱いを整合させる適切な仕組みが導入されることが期待されています。さらに、既存のポジションを新ルールに移行させるための適切な(期間差異の)解消期間及び経過措置も考えると、複雑性は一層増します。

二つ目に、大量の有形資産や人的資本を有する会社は、それらの資産について一定の利益を適用除外とすることが認められていますが、資産基盤が金融資本である保険会社について同等の軽減措置が認められていません。知的財産の仕組みを介した過度な租税回避に対処するために、第2の柱のもとではすべての無形資産が不適切なバリュードライバーとみなされています。

三つ目は、徴税義務の配分は未定ですが、見積りの予測が困難であり、最悪の場合は裁量的になりかねないことが挙げられます。年度末に剰余金の減額が必要となる場合、困難に直面しかねない規制対象の保険会社にとっては、これは当然ながら懸念材料となります。例えば特定の関連会社の実効税率が適切な水準を下回るとみなされたという理由だけで、追加資本が必要となり、将来のフローにも影響しかねません。

最後に、国と国の間におけるルールの相互作用及び適用に関する優先順位について基本ルールや明確な原則が定められないと、大きな混乱を招いたり二重課税が生じたりする恐れがあります。例えば、実効税率の正確な計算について2つの国の意見が一致せず、一方が当該の第三国を軽課税国と考えるが、他方はグローバルミニマム税率を上回る税率とみなすといったような単純な事態も考えられます。ルールの厳密な調整がなされない限り、第2の柱を採用している国とそうでない国との間で不一致が生じかねません。例えば、第2の柱を全面的には採用してないが国内において税源浸食防止規定を定めている国は、同柱を採用している親会社による所得合算ルールや課税繰延防止ルールの運用にかかわらず、その規定を適用する可能性があります。OECDは多国間協定等による協調に注意を払うと予想されていますが、そうした措置が普遍的に採用されるかはいまだ不透明です。

保険会社を待ち受けている今後の展開

第1の柱及び第2の柱によるグローバル課税を向こう2~3年で円滑に実行に移し運用するためには、数多くの実現すべき課題あると言っても過言ではありません。ただし、今後の展開についてはいくつかの不確定要素があります。

一つ目は、米国が米国外軽課税無形資産所得(Global Intangible Low-Taxed Income、「GILTI」)を第2の柱に適合させるべく、国内法の改正を実現できるか否かという点です。先に述べた通り、第2の柱のもと適用する実効税率は国ごとに算出され、グローバルブレンディングは、軽課税国が他の場所で払われる超過税の恩恵を受けることを可能にすると受け止められるため不採用となりました。しかし、現行のGILTIはグローバルブレンディングに基づいて運用されており、修正されない限り第2の柱に適合しません。さらに、軽課税関連会社への支払いの損金算入を否認する米国SHIELD3案も、第2の柱に適合する形で成立させる必要があります。つまり、他の国が当該の軽課税関連会社に関係して税金の不足分を徴収した場合には、SHIELDは適用されないということになります。現在の米国の政権は、議会において十分な決定数を占めておらず、この問題は審議の過程で多くの抵抗に遭いかねないと考えられています。

次の問題は、第1の柱に照らしたときのEUの立ち位置です。EUは、第1の柱が実行に移されたときは既存のデジタル課税を撤廃することに同意すると考えられます。しかしながら、第1の柱が行き詰まったときには、EU全域におけるデジタル課税案の導入の可能性が考えられます。同様に、EUは第2の柱により求められる変更を「指令」を通じて実施すると考えられますが、第2の柱に関する協議が難航したときは、国際合意無しに指令のみに基づいて実施する可能性があります。

実施に向けたスケジュールにおいては、法案と指針の策定のみならず、包摂的枠組みメンバーの協議と法制化プロセスも考慮に入れる必要があります。国によっては、協議と法案作成に少なくとも1年を要し、法律の制定と施行にさらに時間を要することが考えられます。また、二次的な徴収の仕組みであるUTPRの適用など一部の複雑な設計要素について合意がなされないときは、IIRをUTPRより先に実施するという段階的導入アプローチがとられる可能性もあります。

保険会社がとるべき主な行動

仮にOECDがこの秋にルールの公開草案を公表できれば、各保険会社グループが同ルールの潜在的影響を測るのに十分な材料が揃うと考えられます。そうしたモデル化はさまざまな要素を伴うものの、現段階では影響を大枠で評価することが可能であり、各保険会社グループにおいて分析作業に取り掛かることを強く推奨しています。ルールの詳細化にしたがって、モデルも同様に調整することができ、変則的な事情が生じたときは、業界団体や政府機関を通じて、OECDに報告することも考えられます。両柱が発効するまでにはまだ長い道のりがありますが、それら規定の影響を軽減するためにどのような策を講じられるか、時間的な余裕がある今だからこそ取り掛かるべきと考えられます。各保険会社グループにおいては、G20およびOECDの動向を注視し、適宜、立法府や業界団体と対話を行うことが推奨されます。

各保険会社グループが検討すべき項目は以下の通りです:

  1. 現在わかる範囲で、組織に対するルールに伴う影響のモデル化プロセスを開始する
  2. その当初の結果をもとに、仕組みや価格設定への潜在的影響を、関係する規制及び資本上の意味合いとともに検討する
  3. ルールや指針のさらなる詳細が明らかになるにしたがい、モデルを見直し更新するプロセスを構築することで、経営陣や利害関係者が常に状況を十分把握できるようにする
  4. データアクセスやIFRS第17号の適用などすでに進められているプロジェクトや取り組みに対するルールの潜在的影響を検討する
  5. 既存の国別報告用(CbCR)のデータとの関係を含め、ルールの適用に必要な新たなデータを収集するために、内部ガバナンスと報告に関する仕組みの変更について検討する

巻末注

  1. 経済協⼒開発機構(OECD︓Organisation for Economic Co-operation and Development)
  2. 税源浸⾷と利益移転(BEPS︓Base Erosion and Profit Shifting)
  3. Stopping Harmful Inversions and Ending Low-Tax Developments

サマリー

BEPS2.0の2つの柱が発効するまでは長い道のりがありますが、各保険会社グループにおいては、今後のG20およびOECDの動向に注視しつつ、現在示されている大枠の中でルールに伴う影響と対策を検討していくことが推奨されます。

この記事について

執筆者
須藤 一郎

EY Japan International Tax and Transaction Services Leader

独立企業原則のフィロソファー(PhALP)であり、タレントプロデューサー(TP)。スキーに夢中だが、全く上達しない。温泉愛好家。

関谷 浩一

EY Japan Tax Policy and Controversy Leader

2人の娘の父。趣味はドライブ、スキー、クルージング。好きなお酒はワイン。