ファミリービジネス(非上場企業)の事業承継を適切に⾏うための選択肢とは︖ ファミリービジネス(非上場企業)の事業承継を適切に⾏うための選択肢とは︖

執筆者 Steven Shultz

Global EY Private Tax Leader

Service mindset. Passionate supporter of perfect careers. Builder.

11 分 2020年11月19日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により、家族の価値、事業、財産の移転を、これまで以上に慎重に検討する必要があることが明確になりました。

要点
  • 世界はかつてないスピードで変化しており、来るべき将来において移転計画を通用させるためには、柔軟性と機敏性を取り入れる必要がある。
  • 効果的な移転計画を立てる上で、事業資産と家族の資産の詳細な内訳を今すぐに把握することが必要不可欠である。
  • 家族の話に耳を傾け、確固としたファミリーガバナンスを確立させることが、次世代への承継の鍵となる。

絶賛を浴びているHBOのTV番組『Succession』は、2020年1月にゴールデングローブ賞(テレビドラマシリーズ部門の作品賞)を、2020年9月にはエミー賞(ドラマシリーズ部門の作品賞)を受賞しました1。このヒットシリーズには家族の対立や裏切りなどのドラマが盛り込まれており、世代交代のただ中にあるロイ家の生活が描かれ、今後家長が複合メディア企業から引退する展開が予想されています。

当然のことながら『Succession』は、ファミリービジネスと財産の移転を巡って親子間の対立が発生する際に起こる出来事と、成功したファミリー企業から恩恵を受けているコミュニティーや従業員がこうした移転によって被る影響を誇張して描いた架空のストーリーです。とはいえ、これを上回るほどではないとしても、同程度の事例が現実の⽣活でも起こることがあります。

ゴールデングローブ賞から2カ⽉後、世界は新型コロナウイルス感染症の世界的流⾏を受けてすっかり様変わりしました。複数の国でロックダウンが実施され、市場は混乱し、ファミリー企業を含む多くの企業が⾃社の事業計画や事業運営を再考する必要に迫られました。 9カ⽉が過ぎても、変化する環境に適応するため、こうした事業計画や事業運営の再考の必要性は続いています。

「対立するようになって初めて、あるいは家長が亡くなって初めて、家族で財産の移転を検討するのが一般的です」とシンガポールを拠点とするEY Asia-Pacific Family Enterpriseリーダー、Desmond Teoは述べています。「しかし、パンデミックで分かったことの1つとして、移転計画を今すぐ整理することが切実に必要です。そうすれば、収拾のつかない不可避の出来事が起きた際にうまく対処できるでしょう」

Knight Frank社のThe Wealth Report 2018によると、全財産について移転計画を⽴てている家族はわずか26%でした2。レジリエンスの⾼い家族と企業は好機をつかみ、世代交代の意向に沿って再編成や刷新を進めています。

家族の財産と事業の承継に関して万能の解決策はありませんが、移転計画をゼロから始める場合でも、新型コロナウイルス感染症を受けて既存の計画を再検討する場合でも、移転計画を、また⾃⾝の⽬標と遺産を守れるようにする実際に有効な⼿順があります。

(Chapter breaker)
1

第1章

計画と遺産の現状把握

現状を知ることが、効果的で確かな計画を立てるための土台となります。

どのような状況でも事業と財産の現状を把握することは至極当然ですが、今はさらにそうしなければならない理由があります。

EY英国、Private TaxのTom Evennettは次のように強調しています。「保有する不動産や資産、投資ポートフォリオ、信託、財団などを考慮すると、個⼈資産は複雑な状況を⽰すことになるかもしれません。これはファミリービジネスの価値創造と維持を考慮に入れる前の話であり、この点を考慮した場合、別の重要な側面が加わる可能性もあります」

何らかの形でパンデミックが保有資産に影響を及ぼす可能性は十分に考えられます。投資価値やリスクプロファイルが変わったか、あるいは事業が深刻な混乱に直⾯している可能性があります。全体像を理解して初めて計画を立て始めることができますが、これに新しい機会の模索を盛り込むことも可能でしょう。

EY Americas(北・中・南⽶)、Private TaxのMarianne Kayanは次のように述べています。「家族が適切な移転計画を⽴てていない理由は多数あります。家長として、実権を放棄することに対して何らかの懸念があったり、事業を立ち上げた経験からそれを譲りたくないという思いが働くかもしれません。同様に、引退する準備ができて初めて移転計画は意味を持つと思うかもしれません。こうしたことは無理もないことですが、計画を立てていないことで自身が窮地に立たされる可能性があります」

財産の移転計画を作成して実施することにより、短・中・長期のさまざまな目標に確実に対処することが可能になります。この場合、計画の作成、展開、実⾏にあたって、家族のメンバーとアドバイザー双⽅を任命する必要もあるでしょう。その際は、以下の章で取り上げるさまざまな要因を考慮する必要があります。

(Chapter breaker)
2

第2章

家族と事業を別個のものと考える

家族の財産のうち、家族財産と事業財産を区別して理解することが、包括的な承継計画の策定に役⽴ちます。

家族に関する検討事項と事業に関する検討事項には本質的に重なる部分がありますが、事業承継のニーズをサポートする独自の承継計画が極めて重要です。

現在のオーナー、創業者、リーダーが存命で活動している間にも、最重要となる事業承継問題は頻繁に発⽣します。重要な検討事項の1つに、事業そのものをどうするかについて、選択と意向を明確にするということがあります。事業は売却するのでしょうか、それとも次世代がリーダーシップ、経営、所有権を引き継ぐのでしょうか︖ 今こうした対話を⾏うことは実際に価値があります。

資産基盤の⼀部として1つ以上の事業を保有している家族は、そうした事業業績を家族財産の移転計画の重要な要素として考慮する必要もあります。家族は、業績を測る主要業績指標が意図した通りに機能することで、世代を超えて価値を下⽀えし、保護することを望むでしょう。

ファミリーオフィスは、次世代への円滑な財産の移転を促進する上で、ますます戦略的な役割を担うようになっています。従来のウェルスマネジメントの検討事項だけでなく、家族の存続、遺産、慈善活動、インパクト投資、その他家族全体にとって重要な取り組みをサポートする上でも、重要な役割を果たすことができます。

(Chapter breaker)
3

第3章

変わりつつある税務環境を見失わない

税制改正を常に把握しておくことで、全ての国・地域で法令を順守することができます。

どのような経歴の家族にとっても、世界の税務環境はますます複雑かつ重要になっています。租税政策は政府、社会、経済における主要な検討事項であることが多く、事業を所有する家族とその事業利益に影響を与えます。複数の管轄区域に拠点を置き、複数の国や地域で事業利益と個人的利益を得ている家族にとって、こうした戦略的な税務上の検討事項は増大する一方です。

自身と家族が居住して事業を展開する国・地域の税務環境は、財産の移転を綿密に計画する上で重要な役割を持っています。相続税、法人税等、譲渡課税、個⼈課税等、各国の税体系など、従来からの税務に懸念事項があり、それら全てを考慮する必要があります。

「裕福な家族はますます国際⼈になりつつあり、それに伴う複雑さを考慮する必要が⽣じるでしょう。さもなければ、その影響を過⼩評価してしまうリスクがあります」とEYドイツ、Private TaxのDr. Christian Stegerは説明しています。「複数の国・地域における双方居住、出国税、⼀般的な税務コンプライアンスを巡る問題を早期に、また定期的に考慮する必要があることは間違いありません」

新型コロナウイルス感染症のパンデミックを受け、多くの国が税制を改正しています。いかに強固な承継計画であっても、個人と事業の税務上の立場を中心に考えることがこれまで以上に重要になっています。

租税政策は政府、社会、経済における主要な検討事項であることが多く、複数の管轄区域に拠点を置き、複数の国や地域で事業利益と個人的利益を得ている家族にとって、その影響は増大する一方です。

(Chapter breaker)
4

第4章

利害関係のある家族全員を把握して検討する

家族の希望、計画、期待を認識することが、将来の計画の推進につながります。

家族は複雑です。計画において実際に誰を「家族」とみなすかを定義することが、財産の移転計画で重要な部分です。端的に言えば、受益者が誰なのかを明確にし、正式な遺言手続きや適切な信託・財団の設立を確実に行うなど、財産相続あるいは承継計画の実務的な面に要約できるかもしれません。とはいえ、財務的な影響と同じく、財務以外の面で対処が必要な問題もあります。

目標と優先順位は世代間で大きく異なる可能性があります。次世代はより国際的な展望を持っていることが多く、複数の国で暮らしたり教育を受けたりしているかもしれません。そうした世代は、さまざまな方法で社会的・環境的な優先順位を決める可能性があります。また、以前の世代とは明らかに異なる家族構成やライフスタイルを持っていることも考えられます。

「ファミリービジネスや慈善活動への参加という点では、家族資本を考慮することが⾮常に重要です」とEYオーストラリア、Private TaxのHeather Greatrexは述べています。「この概念は、Lee Hausner博士の著書『The Legacy Family』(Douglas K. Freemanとの共著)で議論されており、人的資本、知的資本、社会資本、金融資本が関係しています。言い換えれば、次世代の家族はどのようなスキルを提示できるでしょうか?」

子がファミリービジネスに参加するという前提はもはや通用しません。それどころか、子を参加させることはビジネスとして健全であると言えない可能性すらあります。同様に、もはや家族の問題についても次世代の役割を指図することはできません。そのため、優れた家族は以下のような問いかけを自らに対して行っています。

  • 次世代は事業や家族問題の処理に積極的に関わりたいと思っているか? 何か優先するものがあるか?
  • 家族は期待や個人的な目標を抱いているか?
  • 家族は未来について同じビジョンを共有しているか?
  • 子は将来のリーダーになり得る資質、そのための準備、その意志があるか?

今まさに次世代とじっくり対話し、耳を傾けることが非常に重要になっています。次世代の考え方や優先順位がパンデミックを受けて変わった可能性があるからです。次世代が今何を考えているかを把握することは、将来の対立を避ける上で重要になるでしょう。

(Chapter breaker)
5

第5章

次世代を教育する

家族の将来のリーダーに事業とウェルスマネジメントを伝授することが重要な礎となります。

家族の財産や事業の承継を行う際に直面する課題の1つに、次世代が引き受けようとしている、あるいは今後引き受けることになる役割と責任を担う準備が実際にできているかどうかがあります。

「調査によると、相続⼈の準備不⾜のために多くの承継は成功していません」とEY Americas(北・中・南⽶)、Private TaxのTodd Angkatavanichは述べています。「次世代はビジネス感覚が不足している可能性があるだけでなく、一般的に財産管理についても十分に理解していない場合があります」

だからこそ、移転を円滑に行うための教育が不可欠です。リーダーシップスキルや事業運営の基礎の習得であれ、投資市場の運営方法の基礎であれ、教育は非常に早い段階で実施できます。現在の状況においては、危機管理は将来のリーダーのために取り入れておきたい要素かもしれません。

(Chapter breaker)
6

第6章

着実に機能するガバナンス体制を構築して維持する

団結したファミリー、ウェルス(財産)、ビジネスのガバナンスを実行することで、将来に向けた強固なフレームワークを構築できます。

事業において適切なポリシーと手順を実施することは極めて重要ですが、ファミリーガバナンスについても同じことが言えます。家族が拡大して地理的にも分散され、多様化が進めば進むほど、適切な取り決めの必要性が高まります。家族とのコミュニケーション、共通の利益、相反する利益を管理するためのプロセスを確保するには、ファミリーガバナンスがガバナンス体制全体の3つの領域のどこに当てはまるかを理解することが必要です。

  1. ファミリーガバナンス:ファミリー共通のビジョンと価値の管理(ファミリーの一員や家族評議会、家族集会などの正式な体制の下で実行される)
  2. ウェルスガバナンス:財産の分配の管理(信託の受託者、投資会社のマネージャー、財団の理事などにより実行し得る)
  3. ビジネスガバナンス:投資や事業会社、投資会社、正式な取締役会、諮問委員会、経営幹部選任の監督など

ガバナンス体制は、幅広い分野をカバーすることが求められます。複数のガバナンス体制が並行して相互に機能すること、そして、起こり得る混乱やその後の対立を回避できるよう、事業と家族の間に境界を設定することが重要です。

ファミリーガバナンスの出発点は、家族評議会の創設です。家族評議会は家族に代わり全体としての決定を下し、主要なファミリーガバナンスの問題について家族の投票を監督し、家族の意⾒の相違を調整して解決することができます。事業面に懸念がある家族は、ファミリーガバナンスを既存のコーポレートガバナンス体制やウェルスガバナンス体制に組み込む方法を検討する必要があります。

「ガバナンス体制を整えることは、ガバナンス向上や家族の団結を強める上で役⽴ちます」とEY スイス、Private TaxのJean-Marie Hainautは述べています。「これは家族としての決定事項であるとして、家族における共通の指針となることから、家族間の対話は⾄って円滑になります」

対⽴は、教育の⽋如、コミュニケーション不足、明確なビジョンの⽋如から⽣じる可能性があります。「家族内での信頼やコミュニケーション不足によって、⾼い確率で承継が失敗してしまうことを考えると、ファミリー、ビジネス、ウェルスに対する適切なガバナンスの重要性を強調し過ぎることはないでしょう」とEY Americas(北・中・南⽶)、Private TaxのBobby Stoverは述べています。

家族とのコミュニケーション、共有利益、相反する利益を管理するプロセスを確保するためには、ファミリーガバナンスがガバナンス体制全体の3つの領域のどこに当てはまるかを理解することが必要です。

(Chapter breaker)
7

第7章

計画が臨機応変で、状況に即しており、持続可能であること

柔軟性を取り入れることで、時代や社会の変化に合わせて承継計画を変更できます。

承継計画は生き物です。税制や業法は改正が続き、家族の関係は変化し、出⽣、死亡、結婚などのライフイベントは家族のダイナミクスを変えていくことでしょう。さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや、それ以前の2008年の金融危機で経験したように、世界的なイベントは予期せず現れ、綿密に立てた計画に影響を与える可能性があります。

先を予測して行動することが、家族の移転計画を管理する最善の方法です。EYの経験では、承継の責任を正式に明文化して合意し、世代交代と財産の移転計画を定期的に更新・再考する家族が最良の結果を得ています。計画を定期的に(理想的には毎年)確認するプロセスを確立することが極めて重要です。

サマリー

正式な承継計画がない場合や再検討を最近行っていない場合、今がまさにその時です。綿密な計画立案により、事業、家族、個人の遺産が十分に保護されるだけでなく、将来の繁栄に向けた態勢が整っているという安心感を得ることができます。

この記事について

執筆者 Steven Shultz

Global EY Private Tax Leader

Service mindset. Passionate supporter of perfect careers. Builder.