2022年12月8日、欧州委員会(EC)はデジタル時代のVAT(VAT in the Digital Age、以下「ViDA」)に対する提案を公開しました。この提案には、主にデジタル化によってVAT(付加価値税)制度を近代化して不正行為を防止する措置が含まれています。また、プラットフォーム経済の成長によって生じているVATの問題への対処も目的としています。
ViDAによるVAT関連の一連の包括的措置は、930億ユーロにもなるEUのVATギャップの削減を目指すとともに、企業のためにVAT制度の一層の効率化を図るものであり、電子インボイスとデジタル報告、EU域内での取引における単一のVAT登録の導入、プラットフォーム経済、という3本の柱を軸とします。特に鍵となる提案の1つに、EU域内で国境を超えて事業展開する企業を対象とした、電子インボイスに基づくリアルタイムのデジタル報告への移行があります。
ViDAは「欧州全体にとって、まぎれもなくゲームチェンジャー」であると、フランスのErnst & Young Société d'AvocatsのInternational Tax PartnerであるGwenaëlle Bernierは言います。
ViDAは、組織内の根本的な変化を促すものです。税務部門が重要な役割を果たすことになるのはもちろんですが、部門の枠を超えた影響も大きく、またそれによって生まれる機会も相当大きなものです。ViDAは大きな可能性を秘めた強力なテコであり、税務部門がこれをプロセスやデータ、品質の問題の改善に活用しない手はありません。「電子インボイスのメリットの1つは、影響が企業全体に及ぶことです。税務主導でもIT主導でもありません。財務、オペレーション、調達、IT、そして税務にも関わってくるものです。電子インボイスは税務プロセスである前に、ビジネスプロセスなため、企業の大部分が影響を受けるのです」と、EY Global Tax SaaS Go-to-Market LeaderのPierre Armanは説明します。
こうしたデジタルインボイスへの移行は、イタリアとフランスによって数年前から進められてきており、いずれ全てのEU加盟国で標準になると見られています。つまり、EUで事業展開する企業は全て、デジタルインボイスへの移行を迫られることを意味します。
電子インボイス制度とリアルタイムのVATデータが税務当局にもたらすメリットは明白です。VATギャップの解消、意図せぬエラーの防止、リスク管理機能の強化、不正スキームの早期検出に役立ちます。ほぼリアルタイムのやり取りができるということは、経済動向や予測を、今までよりも迅速かつ詳細に分析できるようになる可能性も秘めています。企業は高い導入費用を負担することになりますが、時間の経過とともに、電子インボイスは企業の支出を削減し、税務関連プロセスのデジタル化の普及を一層進めるとみられます。