第1章
5大調査結果
調査結果に基づき、デジタルトランスフォーメーションと先進的技術の導入が最も共鳴する分野を特定しました。
1. AI、5G、自動化は、デジタルトランスフォーメーションを推進する重要な技術である
今後5年間で企業がデジタルトランスフォーメーションの取り組みを推進する上で最も重要な先進的技術とプロセスは何か、という問いに対する回答は、IoT、5Gネットワーク、自動化、AIでした。回答者の過半数が、これらのいずれかを、トランスフォーメーション推進要因のトップ3内にランク付けしました。
5Gネットワークへの移行がゲームチェンジャーとなる、との回答が顕著であり、自動化とAIがそれに続きます。自動化は、カスタマースペリエンスとバックオフィスの双方に根本的な影響を与えます。
5Gによって、IoTはデータネットワークから制御ネットワークへと移行しています。ネットワーク環境の予測可能性が高まり、人はモノを制御できるようになります。5Gは、こうした制御をクラウドへと移行させてゆきます。つながるということに対する価値観をリセットすることが重要です。
ただし、その他の先進的技術の多くは初期段階にあり、ブロックチェーンについては10の回答のうち1未満、エッジコンピューティングや量子コンピューティングは20の回答のうち1未満にとどまっています。
通信事業会社がより垂直的な業界パートナーシップを形成するにつれ、データと資産の所有権に関する課題の解決にブロックチェーンが役立つ可能性があると期待されていますが、ブロックチェーンの適用性はまだ明確ではないというのが一般的な見方です。5Gの世界でデータ処理とストレージを強化するという役割を考えると、エッジコンピューティングに対する期待値の低さは懸念材料となるかもしれません。
EY Japan TMTセクターアドバイザリーリーダーの尾山哲夫は次のように述べています。
「日本においても5Gに対する注目と期待が強まっています。企業はこの潮流を逃すことなく、5Gを使って顧客が革新的で魅力的な体験ができるようなサービスを開発する必要があります。今後、カスタマーエクスペリエンスの視点から5Gを活用したサービス開発が企業にとっての競争優位創出のポイントになると考えます」
現地の窓口
EY Japan
複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム2. AI導入の最大の理由はカスタマーエクスペリエンスの向上であり、自動化を進める主要因はアジリティーである
通信事業会社の長期的なデジタルトランスフォーメーションの課題に対し、AIとアナリティクスが持つ重要性に焦点を当て、これらの能力開発が最重要と考えられる理論的根拠を尋ねました。その結果、回答者のほぼ5分の4が、AIを採用する主な理由として、カスタマーエクスペリエンスの最適化を挙げました。
回答者の半数以上が、AIを推進するトップ3の理由としてビジネス効率の加速化を挙げ、10名中4名が新規のビジネスモデルおよびサービスと回答しました。
インタビュー形式のコメントでは、通信業界におけるAIへの投資の高まりと共に、カスタマーエクスペリエンスを改善する取り組みにおいてAIが果たすべき極めて重要な役割を強調した結果となっています。
販売やマーケティングを含むカスタマーエクスペリエンスが、今後5年間にわたるAIのユースケースとして重要視されます。これは、通信事業会社がNPS(ネットプロモータースコア)で生み出している業績を考えると十分に理解できます。ネットワークパフォーマンス管理は、ほぼ半数の回答者が挙げるAIのもう1つの重要な領域です。
しかしながら、AIがサービスの創造を改善できるかどうかについて十分な確信は持たれておらず、長期的にユースケースとして重要視していると回答したのは5名中1名にとどまりました。顧客の信頼に対する懸念が潜在的な阻害要因であることを示しています。
自動化を導入する理由について、大手通信事業会社はアジリティーとスケーラビリティ―の向上がその決定要因であると考えています。社内生産性の向上、カスタマーサポートの向上は、それぞれ2位と3位にランクインしました。
デジタルトランスフォーメーションを漸進的に起こす触媒としての自動化の役割は若干下がり、これを導入の理由として挙げた回答者は全体の3分の1未満にとどまりました。
どのような理論的根拠であれ、営業経費と設備投資から得られる利益が重要なポイントであることが、自由回答欄で明らかとなりました。同時に、回答者が生産性とカスタマーエクスペリエンスによる利益を重視しているということは、顧客であれ従業員であれ、自動化が人間に何をもたらすかも、大きな懸念事項の1つであることを示しています。 「自動化の推進についてはやや後れを取っており、追い付く必要性を感じています。まずは、基本を正すことが重要です」
3. 適切なデジタルスキルを備えた人材の不足、データ品質の問題、長期的計画の欠如がトランスフォーメーションの足かせとなっている
大手通信業者は、カスタマーエクスペリエンスなどの分野でAIと自動化が持つ可能性に期待を膨らませています。一方で、戦略や運用上の障害に直面し、こうしたテクノロジーの潜在能力を十分に発揮できていない点も認識しています。
67%の回答者が示しているとおり、アナリティクスとAIの展開に影響を与える主要な問題点は、才能やスキルが圧倒的に不足していることです。さらに、アナリティクスやAIに対する取り組みとビジネス戦略の間に整合性が無い、データやメタデータの品質が低い、部門間のコラボレーションが無い、といった状況のすべてが大きな障害となっています。
これらの障害はすべて自由回答コメントに反映されており、多くの事業者で長年にわたって課題となっている「縦割りの行動様式」がもたらす問題が浮き彫りとなりました。
自動化を阻む障害は多種多様であり、1つの要因にとどまらない回答が半数以上から寄せられました。最も多く言及されていた問題は長期計画の欠如、次いで自動化と人材に関わるアジェンダの連携不足が挙がりました。
際立っていたのは、多くの通信会社が自動化に対する包括的なアプローチを欠いているという意見、そして企業が自動化を進める上で従業員と足並みを揃えなくてはならないという意見です。こうした意見はいずれも、自由回答コメントから得たものです。
4. 顧客やテクノロジーに関わる部門は、今後5年間にわたりAIや自動化から最大の恩恵を受けると考えられている
通信事業会社の部門の中で、今後5年間のうちにAIや自動化から恩恵を受ける可能性が最も高いとされるのは顧客関連部門とテクノロジー部門です。マーケティング部門は自動化よりもむしろAIから多くの恩恵を受けると考えられています。つまり、財務や人事といった部門とは逆に、AIがもたらす影響がより大きくなることが予想されます。
自由回答コメントと合わせ、こうした調査結果は、販売やマーケティング部門においてAIの及ぼす影響がまだ十分にあること、またネットワークチームが自動化とAIの双方を活用するうえで有利な立場にあることを示唆しています。回答者の4分の3が、今後5年間にわたりITやネットワークチームがAIから最大の恩恵を得ると見ている一方で、同じ期間中、ネットワーク関連の使用事例を重要な要素だと考える回答者は半数未満にとどまっている点は興味深い結果です。
5. 先進的技術が持つ課題に対する事業者の見解は、市場の成熟度によって異なる
テクノロジーの推進要因とAIおよび自動化の課題についての回答を地域別に分析した結果、通信事業会社の見解が大きく異なることが示されています。どの先進的技術がトランスフォーメーションを促進するかという問いに対し、新興市場の事業者は、AI、自動化、5Gを同等に考える傾向があります。
先進市場の事業者は、トランスフォーメーションの触媒として5GやIoTネットワークに特に注目しています。
さらに、AIやアナリティクスについて認知されている課題は地域によって異なります。データやメタデータの品質が低いという課題は、先進市場でスキルのある人材が見つからない問題と共に主な懸案事項であり、アナリティクスの使用が成熟段階となってもなお、基本的な課題が未解決のままだということが明示されています。
一方で、スキル、リーダーシップの賛同、コラボレーションの不足といった問題は、新興市場が抱える障害としていずれも上位にランクインし、組織連携を改善する必要性が浮き彫りになっています。
第2章
通信事業会社が取るべき次の4ステップ
アナリティクスやAI、自動化から生み出される価値を最大化するために、優先順位を付けることが求められます。
ステップ1:情報に基づく総合的な観点から、先進的技術がもたらす相互推進の効果に優先順位を付ける
先進的技術の影響はITにとどまらず、組織全体に広がっています。さらに、各テクノロジーが価値創造する能力を相互に推進、増幅、強化しています。
これらを踏まえると、多様なテクノロジーの最適なシナジーと段階的導入を定義し、成長とプロセスにおける目標効率とのバランスをとった、総合的な展開手法をとることが重要です。また、先進的技術の展開について長期的な視点を持つことも重要です。自動化はすでに多くの利点をもたらしているものの、長期的な計画の欠如がしばしば見受けられます。
先進的技術とプロセスの評価
先進的技術とプロセスが広がり続けている中、社内でナレッジを積みあげ、教育を向上させるための活動が不可欠です。大多数の通信事業会社が、この点においてさらに努力する必要があると回答しています。
ステップ2:チェンジエージェント(変革の触媒役)として従業員を関与させ権限を与える
通信事業会社がデジタルトランスフォーメーションを成功させるには、チェンジエージェントとして従業員を活用することが求められます。つまり、トランスフォーメーションに参画させ、ITと業務の間にある壁だけでなく、長年にわたる部署間の壁をも乗り越えて協力できるような、団結力のある組織を作り上げるのです。
こうした活動をすべて達成し、トランスフォーメーションを推進するには、プロセスオーナーの関与が不可欠です。デジタル化に伴う役割と責任をより明確に規定し、プロセスの中で起こる変化に対する責任の所在について、意識を高めることが重要です。
プロセスオーナー間で目的意識が刷新されることで、Chief Digital Officer(最高デジタル責任者)といった比較的新しいリーダーの役割も明確になり、トランスフォーメーションに対する組織のコミットメントが広がりやすくなります。
同時に、縦割り構造の解消に向けた努力も求められます。部門間では十分な信頼が得難いのが実態であり、製品開発、マーケティング、IT間でのコラボレーションを維持することは依然として難しい課題です。
また、集中化戦略も流動的なままで、地域をまたぐ一貫したトランスフォーメーション行動計画の策定や運用は一層困難になっています。こうした社内的な障害には、考え方、役割、働き方を刷新して取り組むことが求められます。
ステップ3:AIと自動化の取り組みは顧客を超えて拡がる
現状、通信事業会社におけるAIやアナリティクス、自動化の活用は、カスタマーエクスペリエンスの最適化に重点を置いています。しかし、ネットワークやセキュリティなど、現在はさほど注力していない分野におけるAIの使用事例についても、今後さらに焦点を絞ることでメリットが得られます。
そのためには投資の優先順位を変えることが求められます。企業顧客向けのネットワークスライシングなどの機能を通じて、新しいビジネスモデルをサポートする上で、AIと機械学習が重要な役割を果たすという点も考慮するべきでしょう。
ステップ4:自社におけるデジタルトランスフォーメーションの基盤を再確認・刷新する
上述のように、進化し続ける環境の中で長期的な価値創造を最大化させるためには、アジャイルなトランフォーメーションロードマップを準備することが不可欠です。それは、開発のスピードに遅れることなく、競合の一歩先を進むために、継続的に再検討、刷新を重ねる必要のあるファンダメンタルズに基づいたロードマップでなくてはなりません。本調査に参加したほぼすべての事業者が、デジタルトランスフォーメーションを最大限に活用するためには、アジリティーレベルの向上が必要であることに賛同しています。
これには、特定の4原則を当てはめることができます。1つは、イノベーションと効率アップを尊重することです。業界リーダーを対象に行った以前の調査と比較して、2019年の調査では、通信事業会社のイノベーションの比率に関する懸念の高まりが際立っています。
AI、アナリティクス、自動化は、新サービスの構築に役立つ顧客レベル、製品レベルでの知見をより高次元で提供することで、この課題の克服に向けた重要な役割を果たします。
2点目は、実験と実行の間のバランスを改善することです。実験とは今も昔も、新たな学習、新しい能力への重要な道筋です。この調査では、圧倒的多数の回答者が、アナリティクスや自動化がもたらす価値を最大限に享受するためには、実験的精神に富んだ独創性溢れる思い切ったアプローチへと軸足を移していくことが欠かせないと回答しています。
AIやアナリティクス、自動化の価値を最大化するための3番目の原則は、改善されたガバナンスとメトリクスを適用することです。通信業界でデジタル化が成熟するにつれ、戦略の可視性、管理、整合性を維持するうえで、新しい測定や監視が欠かせません。
つまり、デジタル化が持つ可能性だけでなく、その限界についても認識することが極めて重要です。トランスフォーメーションは人間中心のプロセスです。AIや自動化は重要な役割を担っていますが、企業はあくまでも人間という面を見失わないようにし、デジタルを推進する中で人間を置き去りにしないようにすることが不可欠です。
サマリー
「Accelerating the intelligent enterprise」は、通信事業会社にとって不可欠なトランスフォーメーションを取り上げ、AI、アナリティクス、自動化からもたらされる機会と課題を掘り下げていくつかの主要課題を導き出しました。