2021年11月18日
米国SPAC・DeSPACの最新動向と監査・会計・税務上の留意点とは

米国SPAC・DeSPACの最新動向と監査・会計・税務上の留意点とは

執筆者 善方 正義

EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター 副センター長 シニアパートナー

明るく、元気に、前向きに、プロフェショナルとして社会の発展に貢献。

2021年11月18日

SPAC(特別買収目的会社)の2021年度における米国上場件数は、既に300件超に増加しており、またSPACによる買収(DeSPAC)は、数千億円超の案件も発生し活発な状況です(2021年8月時点)。

このような環境の中、今般、証券会社、弁護士、税理士、会計士といったさまざまな分野の専門家が、SPACの仕組みやそのライフサイクルを解説します。

※本記事は、2021年8月25日実施ウェビナー「SPAC上場 Webinar ~米国の最新動向と日本企業による活用のポイント~」を記事化したものです。

要点

  • 米国では、SPACがIPO手法として確立されており、今後もIPOの有用な手段として活用されると考えられる。
  • SPACのメリットとデメリット、および伝統的なIPOとの相違点とは何か。また、日本企業がDeSPACの対象企業となった場合どのような対応が必要か。
  • SPAC・DeSPACにおける提出書類と監査・会計・税務上の留意点とは。

米国SPAC・DeSPACの最新動向

1つ目のセッションでは、シティグループ証券株式会社の安久芳伸氏と、島村泰久己氏をお招きし、米国SPAC・DeSPACの最新動向、米国SPAC上場企業・DeSPAC企業の特徴・事例のほか、投資銀行からみたDeSPAC上場の利点・ポイント等についてお話しいただきました。

まず、SPAC(Special Purpose Acquisition Company)の概要と主要プレーヤーの特徴・役割が説明されました。

① SPACスポンサー(設立者)は、SPACの運営、ターゲット企業の選定、買収の実行を通じたリターンの獲得に関する権限と責任を有する発起人であり、プライベートエクイティ、ヘッジファンド、事業会社の元マネジメントが担うケースが多くあります。

② 一般株主は、SPACのIPO時に株式を購入する機関・個人投資家です。スポンサーのクオリティ、買収ターゲットに係るセクターなどに基づいた投資判断を行います。一定の期間内(一般的には24カ月)に買収・合併などが実現されない場合には、出資金および経過利息が返還されることに加え、買収・合併などが実現される場合であっても出資金の償還を請求できます。

③ 被買収企業は、スポンサーによってセクターなどに関する投資基準に基づいて選定される買収先企業です。米国における通常のIPOでは、公表された将来予測を価格に織り込ませることはできませんが、SPACの場合には買収・合併などの交渉の過程で価格が決まることに加え、将来予測を提示することも可能な状況にあります。また、通常のIPOより所要期間が短くなることもあります。

画像1 SPACの一般的なストラクチャー


続いて、SPACに関わる主要プレーヤーのメリットが述べられました。

① SPACスポンサーは、高い投資効率を得られる可能性がある。スポンサーの知名度と投資戦略が重要になる。

② 一般株主にとっては、SPACはリスク・フリーの投資といえ、IPO時に付与されるワラントにも魅力がある。

③ 被買収企業である事業会社は、DeSPACの際には事業計画をしっかり伝えることができる。DeSPACに適した企業の特徴としては、業界全体の後押しも期待できる高成長事業であること、また将来の新たな経済環境を見据えた独自性やテーマを持っていることが挙げられる。

また、直近のSPAC動向に関して、SPACによるIPO調達額とDeSPAC公表額、およびセクター別動向が紹介されました。

以下のSPACによるIPO調達額とDeSPAC公表額は、2020年と2021年の第1四半期と第2四半期を表しています。2021年の第2四半期においては、米国証券取引委員会(SEC)による注意喚起などが影響して、SPACによるIPO調達額が減少したと考えられる一方で、DeSPAC公表額は依然として堅調なことが分かります。このことから、SPACがIPO手法として確立されたといえます。

画像2 SPACによるIPO調達額とDeSPAC公表額(2021年vs2020年上半期)

一方でSPACの買収先であるターゲット企業に関する業種としては、テクノロジー、ヘルスケア、フィンテックが比較的多くありますが、それ以外にも以下のように幅広い業種にわたっています。また、ターゲットを特定しないオポチェニステックも多く存在しています。

画像3 米国SPAC IPO 発行状況

以上のようにマーケットの視点からは、SPACは今後もIPOの有用な手段として活用されていくと考えられます。

SPACによる米国上場の法務

2つ目のセッションでは、GT東京法律事務所(Greenberg Traurig LLP)の石川耕治氏をお招きし、SPACのメリットとデメリット、伝統的なIPOとの相違、日本企業がDeSPACの対象企業となった場合について以下のようにお話しいただきました。

買収対象会社にとってのSPACのメリットは、伝統的なIPOと比べて以下のように、短期間かつ低コストでの上場が可能になることが挙げられます。

  • SPACが既に上場しているため、上場審査などにかかる費用と対象会社による追加のロードショーが不要になる。
  • PIPE(Private Investment in Public Equity)は、デットファイナンスに加えて、SPAC上場からの資金を超える資金調達を可能にする。

一方で、SPACのデメリットは、以下が挙げられました。

  • SPAC上場、その後の買収までの期間が短いことは、対象会社にとってはデメリットになり得る。これには、必要な財務関係書類の準備期間が短く、投資家との関係構築や内部統制確立の時間が不十分になる可能性が挙げられる。
  • SPACが既に上場しているため対象会社の引受証券会社が存在せず、ダブルチェック機能が弱まる。

また、日本企業がターゲット企業となった場合には、会社法上、日本の株式会社は外国の会社と直接合併できないことから、日本企業がDeSPACの対象となる場合には、三角合併を実施することが必要となるなど、今後の実務において想定される論点が挙げられました。

SPAC・DeSPACにおける提出書類と監査上・会計上の留意点

3つ目のセッションでは、EY新日本有限責任監査法人の小山智弘が、SPAC・DeSPACで必要となる提出書類、米国公開会社会計監視委員会(PCAOB)監査対応について、また山本聡一郎が、SPAC・DeSPACの会計上の留意点を以下のように解説しました。

SPACは一般的には以下のようなライフサイクルをたどり、SPACのIPOからターゲットの選定、合併(DeSPAC)までを2年以内に完了します。

画像4 SPACのライフサイクル

現状におけるSPACによる上場は、ほぼナスダックやニューヨーク証券取引所への上場を意味し、日本の国内上場やグローバルオファリングと比較して、海外の現地レギュレーションへの対応や、英文書類の作成などが必要となり難易度が高くなります。

SPACの実務上の書類では、事業会社である被買収企業が初めて含まれることになるS-4が特にポイントになります。このS-4(日本における有価証券届出書に相当)は、米国における買収・統合の登録届出書であり、事業の状況、リスク情報、MD&Aの他に、事業計画やプロフォーマ情報も含まれます。

そしてこのS-4は、ターゲット企業が決まって買収を完了するまでの間に作成する必要があり、その期間は5~6カ月と比較的短いことが想定されます。この書類には、被買収企業の3期分、または2期分の監査済みの財務諸表を含める必要があり、場合によっては四半期財務諸表を含める必要も生じます。このため、数カ月で適時にこれらの書類を用意するためには、実務的には相当前からの準備が必要であることが考えられます。ただし、財務諸表に含まれる監査済みの財務諸表の期間は、以下のEGC(Emerging Growth Company)の要件を満たすのであれば2期分で足りることになります。

またこの他にも上場企業であれば、US SOX法404条に基づいて通常は、内部統制の有効性に関する経営者の評価(404(a))と、内部統制の外部監査(404(b))が必要になります。ただし、こちらも以下のEGCの要件を満たすのであれば、その期間については内部統制の外部監査は免除されます。

画像5 EGCの要件

S-4のファイリング時にターゲット企業が適用する会計基準については、米国会計基準の他に、SPAC自体が以下のFPI(Foreign Private Issuer)の要件に該当するのであれば、ターゲット企業は(この場合S-4の代わりにファイリングする)F-4において国際会計基準(IFRS)を使用することも選択できます。一方で会計上の論点としては、SPACとターゲット企業のうちどちらが取得企業になるかによって、会計処理に大きな違いが生じることが挙げられます。また、SPACとターゲット企業間のアーンアウト条項として、統合後に一定の条件を満たすとターゲット企業の株主に対して追加の支払いが行われる契約が締結されることがありますが、このような場合には状況に応じて、個別に会計処理するか、企業結合会計の一部として買収対価として処理するという説明がありました。

画像6 FPIの要件

SPAC・DeSPACのストラクチャーと税務上の留意点

最後のセッションでは、EY税理士法人の上田憲治が、以下のようなSPAC・DeSPACのストラクチャー、SPAC・DeSPACの税務上の留意点について解説しました。

 

以下は米国におけるDeSPACの一般的なストラクチャーであり、SPACが買収子会社を設立し、対象会社を合併法人、買収子会社を被合併法人とする逆三角合併が行われます。この場合、最終形は図の右側のように、対象会社がSPACの子会社になります。

画像7 DeSPACの基本ストラクチャー(US)

ただし日本の会社法では、上記に示した米国でのDeSPACの一般的なストラクチャーをそのまま実行することができないため、別のストラクチャーなどを検討することが必要です。

なお、代替ストラクチャーにおいては、買収子会社における親会社株式の取得方法もポイントになります。

以下の代替ストラクチャーなど(1)では、三角株式交換が税制非適格となる可能性が高く、対象会社の税務上の取り扱いに留意が必要です。

具体的には、当該三角株式交換は、買収子会社(JP)と対象会社(JP)の間に支配関係がないことから、税制適格の判定では共同事業を営むための要件を充足する必要がありますが、その充足は難しいと思われ、一般的に非適格株式交換となる可能性が高いと考えられます。

当該三角株式交換が非適格株式交換となる場合、対象会社(JP)において時価評価課税が生じることとなりますが、簿外のIP(Intellectual Property)やのれんは評価対象ではないため、対象会社(JP)の貸借対照表がスリムな場合には、その影響が限定的である可能性があります。

当該三角株式交換後の買収子会社(JP)と対象会社(JP)の逆さ合併は、税制適格合併となると考えられますが、この場合、繰越欠損金および特定資産譲渡など損失の利用が制限される可能性があるため、留意が必要と考えられます。

画像8 日本でのDeSPACの代替ストラクチャー等①

一方で、以下の代替ストラクチャーなど(2)では、対象会社において、株主課税の観点から留意が必要です。

具体的には、米国で実施される逆三角合併について、日本では会社法において実行できないため、取引を以下の2つの取引に分けて整理することになります。

  • SPACを合併法人、買収子会社(US)を被合併法人とする合併(対価:SPAC株式)を実施
  • SPACによるSPAC株主からの自己株式の取得(対価:対象会社(JP)株式)を実施

当該合併については、SPACと買収子会社 (US)との間に支配関係がないことから、税制適格の判定上は共同事業を営むための要件を充足する必要がありますが、その充足は難しいと思われ、一般的に非適格合併となる可能性が高いと考えられます。

当該合併が非適格合併となる場合、対象会社(JP)において、みなし配当についての検討が必要となりますが、通常、買収子会社(JP)には利益が留保されているとは想定されないため、その影響は限定的である可能性があります。

また、当該合併の対価がSPAC株式であれば、株式譲渡益課税も生じないため、その影響は限定的である可能性があります。

代替ストラクチャーなど(2)の場合、対象会社(JP)から見ると、米国において子会社の非適格組織再編が行われることから、日本の課税上、タックスヘイブン対策税制の適用を意識する必要があります。

画像9 DeSPACの日本での代替ストラクチャー等②

税務に関しては、案件ごとに税法に照らして詳細に検討する必要がある点に留意が必要です。

【お問い合わせ】

EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター シニアマネージャー
小山 智弘

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サマリー

現状、SPACの実務は米国が中心ですが、今後は香港やシンガポール、ロンドンの証券取引所でもSPACに関する規制が緩和されることが想定され、その利用は世界中に広がる可能性があります。また、わが国においてもSPAC解禁に関する議論がされており、今後も目が離せない状況です。

この記事について

執筆者 善方 正義

EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター 副センター長 シニアパートナー

明るく、元気に、前向きに、プロフェショナルとして社会の発展に貢献。