12 分 2020年8月28日
オーストラリアのグレートバリアリーフの空からの眺め

ビジネスがエコシステムについて自然から学べることとは

執筆者
Gil Forer

EY Global Markets Digital and Business Disruption Leader

Leads digital go-to-market strategy and EYQ. Focused on the impact of disruption and what’s after what’s next. Founder and producer of Innovation Realized.

EYQ

EYQはEYのシンクタンクです。

EYQは「来たる未来の先に何があるのか」を考察することによって、リーダーたちが未来を形づくるフォース(要因)を予期するサポートをし、ディスラプション(創造的破壊)のチャンスをつかみ、より良い社会の構築していくための力を与えます。

12 分 2020年8月28日

自然の生態系の回復力(レジリエンス)は、多様性、共生、適応、補完的な生態的地位(ニッチ)など、ビジネスにさまざまな教訓を与えてくれます。

カワセミと日本の新幹線の共通点は何でしょうか?
バイオミミクリーとは、生物の構造や機能を模倣して、技術開発を行うことであり、⾃然の戦略を学ぶことで人間の課題を解決するアプローチです。時速320km以上で走行する日本の新幹線が、トンネルの出口で環境基準を上回る衝撃音を発生させたとき、技術責任者は自然へと目を向けました。最小限の抵抗と水しぶきで水中に飛び込むカワセミの、流線形のくちばしの形にインスピレーションを得たのです。車両の新しいデザインは騒音問題を解決しただけでなく、15%の節電と10%の高速化にもつながりました。

自然から学ぶ、という考え方は新しいものではありませんが、現在広まりつつあります。ピュリツァー賞受賞作家のトーマス・フリードマン氏によれば、気候変動の中で回復力と推進力を手に入れるために、母なる自然の戦略を最もよく反映できる企業こそが、急速に変化するこの時代に繁栄できます。

今日のビジネスに自然が与える教訓にはさまざまなものがあります。特に、経済をこれまで以上に密に結び付けながら自然の生態系を学ぶにつれ、生物学的に回復力に富む生態系を作る要素が、経済分野にも当てはまることが分かってきました。

自然の生態系とビジネスエコシステムの類似点

潮だまりから大洋までさまざまな規模がある自然の生態系は生態学的なコミュニティーであり、この中には、ある特定のエリアに生息する生物と、その局地環境の非生物の特性(太陽、気温、酸素など)全てが含まれています。生物と物質は養分循環やエネルギーの流れを通じてつながっており、独特の生命体や生活環(ライフサイクル)などを支えています。ある生態系の種や環境要素を知ることから始め、それらが互いに及ぼす影響や、生態系の進化をどのように促進するかを理解することが、生態学的思考の本質です。

エコシステムの考え方がますます重要視されています。企業のビジネスリーダーの68%が、エコシステムとパートナーシップは市場で成功するための唯一の方法だと答えています。

1993年にジェームス・ムーア氏がビジネスエコシステムという用語を定義しましたが、これは組織と個人のネットワークであり、互いの能力と役割を共に進化させ、各自が投下した資本を調整して付加価値の創造や効率化につなげるものです。エコシステムという結びつきは、アライアンス、知的財産・データ共有、共同ブランディング・イニシアチブ、その他のコラボレーション関係など、さまざまな形態をとります。こうした結びつきを作る目的は、参加メンバーが単独では実現できない価値を創出することです。エコシステムをリードしてほかの組織と力を合わせると、能力の調整、リソースの共有、コラボレーションの推進、知識の拡大、拡張性の向上が可能になります。よって、ディスラプションへの対応、イノベーションの加速、変化する顧客ニーズへの対応、機動力の向上、新しい価値の源の開拓、成長の促進において、ビジネスエコシステムは成功の重要な要因となります。

ジェームス・ムーア氏が1997年に著したThe Death of Competitionおよびアダム・ブランデンバーガー教授とバリー・ネイルバフ教授が著したCoopetitionは、ビジネス戦略の思考のパラダイムシフトを示唆しました。当時はマイケル・ポーター教授が提唱したバリューチェーンモデル、すなわち原材料から生産プロセスや顧客にいたるまで、固定化した線形の関係が続くという考えが支配的でしたが、学者の間では「バリューネットワーク」が唱えられ始めていました。ムーア氏、ブランデンバーガー氏、ネイルバフ氏はこの考えをさらに一歩進め、ビジネス関係を顧客とサプライヤーの間のゼロサム交渉ではなく、当事者同士が協力すると同時に、イノベーションの加速や成長の促進で競争するような共生関係ととらえました。

ビジネスをエコシステムとしてとらえる考え方は、グローバルなサプライチェーン、スキルや商品のオンラインマーケットプレイス、リモートワークが世界経済のインフラとなる中で、欠かせないものとなっています。政治的変化、脆弱(ぜいじゃく)すぎるサプライチェーンの崩壊、自然災害など、供給への打撃のきっかけが何であれ、それに対する回復力向上のためサプライチェーンを多様化するという喫緊の必要性が新たに出ている中で、時代に即した考え方といえます。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が明らかにしたように、ビジネスが危機とその後の状況に適応し生き延びるには、強固なレジリエンス・プログラムが重要な役割を果たします。

ダイナミックで、コネクテッドで、また変わりやすい今日のビジネスの世界では、エコシステムの考え方がますます重要視されています。最近のEYの調査では、企業のビジネスリーダーの68%が、エコシステムとパートナーシップは市場で成功するための唯一の方法だと答えています。

回復力の重要性

自然界では多くの生態系が、石油の流出や森林火災から干ばつ、洪水まで、壊滅的な出来事を乗り越えてきました。どのような特性がそれを可能にしたのでしょうか?

ビジネスの世界では近頃のパンデミック下で一部の企業が短期間のうちに方向転換を図り、事業を構成し直しています。食料や商品を直接消費者に販売するようになったレストランや、公共の場所を消毒するために農業用ドローンを転用した企業などです。どのような特性がそれを可能にしたのでしょうか?

近頃の新型コロナウイルス感染症のパンデミック下で、短期間のうちに方向転換を図り、事業を構成し直すことができた企業は、ほかと何が違うのでしょうか?

答えは回復力、つまり困難な出来事から復帰し立ち直る力です。回復力はどこから生まれ、どうすればこの特性をビジネスエコシステムに組み込めるのでしょうか?

回復力のあるエコシステムの設計、構築、形成、管理について自然から学ぶことはたくさんあります。強調したい4つの点を次に紹介します。

  1. 多様性の育成
  2. 相互依存性のマッピングによる相利共生の確保
  3. 継続的な適応
  4. 補完的な生態的地位の特定

1. 多様性の育成

生物多様性は健全な自然生態系の大切な要因です。生態系内の遺伝的多様性と種の数により、生産性が向上し持続可能性を確保できるほか、自然災害への耐性が高まります。例えば、ある種が病気の犠牲になるとしても、別の種がそれに代わるか同様の役割を果たすことができれば、リスクを相殺できます。

多様性は、生態系の生産性および複数の機能やサービスを提供する能力と大きな関係があります。例えば生態系内の種の数が増えると、生産性や安定性などのメリットが得られるという確かな証拠があります。

回復力を生み出し維持するもう1つの要因は、生態系間のつながりです。全体的に見て、生態系間のつながりを維持または強化することは、各生態系の回復力のレベルに良い影響を与えます。例えば米国農務省は、各種のトウモロコシのライブラリをいつでも使えるよう維持しており、米国で栽培されている非常に少数の種のいずれかに新種の葉枯病が影響を与える場合に備えています。

これをビジネスエコシステムに当てはめる場合、次の点を検討する必要があります。


  • メンバーの多様性:スタートアップ企業から大企業まで、各メンバーには果たすべき役割があります。さまざまな業界や地域の出身者であることも大切です。
  • エコシステムの基本構造:エコシステムの設計の原則、複雑さ、メンバーの数、エコシステム内のさまざまな役割、メンバーの適切なポートフォリオ、エコシステムが共有する価値観など。
  • プロセス:エコシステムのガバナンスとは何か、それがどの程度開示または秘匿されているか、メンバーがどのようなコミットメントを期待しているか、どのような取引契約が締結されているか、データ共有とデータフローに関してどのような合意が締結されているか、プロセスがエコシステムの1つのセグメントに特に有利に働くのか、それとも平等か、こうしたプロセスがどのように価値を生み出すかなど。
 

2. 相互依存性のマッピングによる相利共生の確保

生態系内の全ての生物は、互いに依存しています。1種類の生物の個体数が増加または減少すると、生態系のほかの部分に影響を与えます。理想的なのは、2つ以上の種が意図をもって互いに直接接触し、全体の利益のために生存しているという相利共生の状態です。ミツバチと受粉を例に挙げましょう。ミツバチは花から蜜を集めることで食料を得られますが、他方、植物はミツバチの体毛を経由した受粉により確実に生殖できるというメリットがあります。

エコシステムの目標は、すべてのメンバーの価値を念頭に置いたウィンウィンのシナリオを作ることです。このシナリオでは、エコシステム全体にもたらされる利益が、各メンバーにもたらされる個別の利益よりも大きくなります。

そうした相互利益を生み出すために、エコシステムのリーダーは、エコシステム内の相互依存性をマッピングし、何らかの変化があったときエコシステムのメンバーに与え得る影響を把握する必要があります。目標は、すべてのメンバーの価値を念頭に置いたウィンウィンのシナリオを作ることです。このシナリオの成果では、エコシステム全体にもたらされる利益が、各メンバーにもたらされる個別の利益よりも大きくなります(例えば、1+1=2ではなく1+1=4)。よくある例では、エレクトロニクスサプライヤー、電話マーケティング担当者、アプリストア、開発者の間の関係は、緊密につながったエコシステムの一例であり、テクノロジー、機会、消費者の嗜好(しこう)の変化に合わせて絶えず調整が行われています。

3. 継続的な適応

自然の生態系は常に変動状態にあり、静止しているものはありません。これはビジネスの世界でも同様です。エコシステムは回復力と他との継続的な関係性を確保するために、いつでも適応できる状態を維持する必要があります。適切なエコシステム設計は長期的な成功に欠かせない要因です。しかし、どのエコシステムでも考慮しなければならないものは、継続的な創造力とイノベーションに対するニーズ、常に変化するステークホルダーの行動と嗜好(しこう)、そしてメガトレンドがエコシステムの寿命に与える影響です。全体で見れば、エコシステムとして適応できる能力が、強さの重要な尺度となります。逆に、自分が所属するエコシステムの進化を足止めするようなメンバーは、希少な資源を無駄にしています。

例えばパンデミック下でのサプライチェーンの大きな課題の1つに、普段と異なる商品需要がありました。衣類の需要が減少し、清掃用品の需要が急増したのです。通常ではない需要の急増や激しい落ち込みによって、従来のモデリング手法にひずみが生じました。サプライヤーや顧客のデータ、財務指標や商品指数、政府のデータベース、ソーシャルメディアに流れる情報など、より多くの情報源からデータや指標を収集してインプットを広げた企業は、供給と需要の有効なシグナルを見定め、迅速にふさわしい対応を取ることができたのです。

4. 補完的な生態的地位の特定

自然界には、同一の生態的地位を持つ2つの種がいつまでも共存することはできないという「競争排除則」があります。例えば英国では、絶滅の危機にひんしている在来種のキタリスが、生息地を失ったり病気にかかったりして、その多くがハイイロリスに駆逐されています。1つの種が絶滅を避けるには、その種が生を営み生存できる独自の生態的地位を作り上げる必要があります。生態的地位を持つことは、生態系における共存の促進につながるのです。

広大な生態系の中で多くの種が共存できるということは、それぞれの種が作り上げた生態的地位が異なることを意味します。競争排除を避け、共存を可能にするには、そうした生態的地位の分化が不可欠です。生態的地位の分化とは、生理機能、形態、習性、資源利用、条件の許容範囲が、種の間で異なることを指します。

自然界では、微気候が変動したり、建造環境が自然の生息地に侵入してきたりすると、生物が何とかしてあらゆる生態的地位に入り込み生息する方法を見つけます。同様にイノベーターは、新しい市場やテクノロジーが登場すれば、新しいニッチを生み出します。

では、これはビジネスエコシステムにとってどのような意味があるのでしょうか? 長期的な成功は、各メンバーの共存とニッチの位置付けに基づくエコシステムの関係構築にかかっています。これは企業や競合でも同様です。エコシステム内で潜在的なニッチを見つけることができれば、全体を補完する役割を確保できます。企業がエコシステムに参加するには、自身の強みと弱みを把握し説明できなくてはなりません。それによりニッチ戦略を協力して築くことができます。エコシステムに共存モデルを構築することで、エコシステム内の複数のメンバーで、より迅速かつ優れたイノベーションを促進できます。自然界では、微気候が変動したり、建造環境が自然の生息地に侵入してきたりすると、生物が何とかしてあらゆる生態的地位に入り込み、生息する方法を見つけます。同様にイノベーターは、新しい市場やテクノロジーが登場すれば、新しいニッチを生み出します。

また、ニッチの必要性を認識することで、エコシステムは主要メンバーから恩恵を受けることができます。主要メンバーは、サブエコシステムをプライマリーエコシステムに取り入れ、これによりメンバーや利点を拡大しています。ヨーゼフ・シュンペーター氏が「創造的破壊の嵐」と呼んだものは、ビジネスエコシステムの絶え間ない進化と言い換えることができます。

成功を築き、測定する

最近の経験から、企業はどのような事態にも備える必要があることを学びました。意図をもって強力なエコシステムを構築することで、組織の適応性と回復力を高めることができます。自然からビジネスに全てを当てはめられるわけではありませんが、自然は約40億年にわたる絶え間ない進化、成長、革新から得られた教訓の宝庫であり、そこから学ぶことができる繰り返しのパターンや原則があります。

そこから導かれるのは、エコシステムの健全性を測るための問いかけです。エコシステムが、自分だけでなく全てのメンバーにとってうまく機能しているか、どうすれば確かめられるのでしょうか? エコシステムは全てのメンバーに長期的価値を提供できているのでしょうか? エコシステムのリーダーが考慮すべき尺度には、エコシステムの規模や、エコシステムのメンバーの参加または離脱の状況、新しい製品・サービスの拡充や新市場への拡大の能力、競合するエコシステムのイノベーションを上回る能力など、さまざまなものがあります。

コラボレーションが増加し、より多くの企業がエコシステムに参加するようになると、価値や全体的な健全性を測る、より洗練された尺度が登場します。将来的に健全性の指標として利用できるものには、エコシステムの構成要素の状態、回復力のレベル、機能レベルなどがあります。最終的にこれをグループとして検討し、全員にとって生産的かつ有益な関係にする必要があります。

無限につながると同時にディスラプションが加速する時代に、エコシステムをリードし、そのメンバーであることが競争上の優位性につながることは明らかです。企業は単独では生き残れないのです。エコシステムには新しい産業を創出したり、これまでの産業の形を変えたりする力があります。企業間の競争はおそらく、エコシステム間の競争、あるいは協力へと変化を遂げるでしょう。CEOや企業が将来を再構築し、変革しようとする中で、経営幹部や取締役会が考えるべき問題がいくつかあります。

経営陣にとっての問題

  • 新型コロナウイルス感染症にどの程度適応できているか。また、次の危機に機敏に対応できるよう、どのような改善ができるか。
  • ビジネスエコシステムを明確にモデル化する必要があるか。それによりシナリオを描きやすくなるか。
  • エコシステムの多様性はどの程度か。企業の規模(スタートアップ企業から大企業まで)、メンバーの役割、業界、地域に十分なバリエーションがあるか。
  • エコシステム、回復力のレベル、潜在的リスクの軽減方法がリスクフレームワークで考慮されているか。
  • 互いに有益な結果を生むために連携できるエコシステムがほかにあるか。
  • パフォーマンスを測るさまざまな尺度や指標をどのようにエコシステムのメンバーに伝えるか。
  • エコシステムの生産性と価値を、全体および各メンバーについてどのように測定すればいいのか。

サマリー

ビジネスエコシステムを理解することは、成功への重要な要因です。この枠組みがうまく機能すれば、イノベーションの加速、変化する顧客ニーズへの対応、機動力の向上、新しい価値の源の開拓、成長の促進につながります。自然の生態系には、ビジネスに当てはまる多くの教訓があります。特に、多様性、共生、継続的な適応、補完的な生態的地位の特定という重要な4つの要因が、回復力に富み、正常に機能するエコシステムの構築に役立ちます。

この記事について

執筆者
Gil Forer

EY Global Markets Digital and Business Disruption Leader

Leads digital go-to-market strategy and EYQ. Focused on the impact of disruption and what’s after what’s next. Founder and producer of Innovation Realized.

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