2021年11月2日
Reframe your future city circuit board

資産運用の新たな未来を自ら形作るか、変化に流されるか

資産運用を変革する必要があることはもはや言うまでもなく、重要なのは、どう変革すべきかということです。  

要点
  • ここ数年、資産運用業界の構造的な転換への圧力が強まる中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による危機で深刻な混乱が引き起こされた。
  • 今後5年間で変化のスピードは加速し、コストを削減して成果を拡大することが各社に求められるようになるだろう。
  • この期間、各社がパフォーマンスを強化し、目標をさらに高く設定することによって、資産運用の新たな未来を形作る好機となる。

2020年が始まった時点で、世界の資産運用業界では目覚ましい躍進が10年続いていましたが、その好況は終わりに近づきつつありました。長期預金の責任が個人に移転されたこと、非財務面での成果がますます重視されるようになったこと、より安価な商品や戦略に資本が流れるようになったこと、販売・業務・投資管理へのテクノロジー導入が及ぼした影響など、さまざまな構造的変化が組み合わさり、資産運用業界は転換期を迎えつつあったのです。そのためEYは、多くの企業はこの好況期が終わる前にテクノロジーやイノベーションに投資する必要があると考えました。

そのような中で発生した新型コロナウイルス感染症の拡大は、金融市場を混乱させただけでなく、資産運用業界の弱点を明らかにして構造的転換を加速させ、新たな問題も生み出しました。これに対し、資産運用会社は業務面でのレジリエンスを維持し、クライアントを安心させ、在宅ワークへの切り替えを進めるために迅速に行動しました。市場が乱高下し、流動性や評価に関する問題が生じたにもかかわらず、上場投資信託(ETF)をはじめとする信託運用の仕組みの多くは問題なく機能し続け、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資、債券投資、オルタナティブ投資への資金流入も純増を記録しました。

その結果、EYの調査によると業界大手企業の運用資産残高(AUM)は2020年に総額で14.6%増加しました。しかし、詳細を見てみると、増加したAUMの75%以上が相場の変動によるもので、大幅な資金流入を記録した資産運用会社は一握りにすぎないことが分かります。収益の増加率は3.6%で、AUMの増加率に比して大幅に低く、支出が6.1%増加したことから、営業利益率は平均で1.7ポイント減少しました。

2021~2025年:厳しい見通し、断固たる措置が必要

過去5年間に比べ、今後5年間は資産運用会社にとって厳しいものとなるでしょう。

新型コロナウイルス感染症によって地政学的な不確実性が高まり、多くの国では失われた生産力を回復するために何年もの年月が必要となります。現在は金融刺激策によって金利が低く抑えられていますが、インフレの進展と金利の上昇は避けられません。2020年には実体経済から乖離(かいり)していた金融市場も、今後は修正が起こる可能性が高く、運用成績の停滞が長期化する可能性もあります。

結果として、資産運用会社に対する投資家の要求がこれまで以上に複雑になることが見込まれます。機関投資家は、元本の安全性と高利回りを両立させ、さらにESGパフォーマンスも高い運用を求めるようになるでしょう。一方、個人投資家は、アドバイスや教育の機会を求めるとともに、状況に応じたソリューションやESG投資を要求することが多くなります。資産運用会社は、ファクター投資やエンハンストベータ指数などの安価なオプションの活用度合いを増やしつつ、オルタナティブ投資を利用してリターンを押し上げるなど、多様化を加速させなければならなくなると考えられます。

資産運用会社は利幅のさらなる縮小にも直面するでしょう。競争や規制によってどの資産クラスでも報酬が減少し、薄利戦略への移行を余儀なくされて収入自体が減少することになります。加えて、3~4%と歴史的なレベルを保っていた純資金流入も、経済的、人口動態的要因により、年率約2%まで落ち込むことが予想されます。同時に、新たな商品やテクノロジーへの投資も必要となり、支出は増加するでしょう。

EYのモデリングでは、こうした傾向は収益性に大きな影響を与えることが分かっています。EYが想定する2021~2025年のベースシナリオ(5年間のAUM成長率を15%と想定)では、営業利益率が平均0.8ポイント減少すると予測されます。「勝者総取り」現象が加速していることから、ほとんどの企業ではさらに急速に収益性が下がるでしょう。そのため、明確な差別化ができない中小規模の資産運用会社をはじめ、現状のままでは生き残りが難しい企業が数多く存在することになると考えられます。さらに、EYのモデリングでは、より悲観的なシナリオ(市場の反発により、今後5年間AUMが横ばいのままと想定)の場合、平均営業利益率が2025年までに7.3ポイント減少するという予測も出ています。

このように流動性が高く厳しい環境において資産運用会社が成功するには、戦略やビジネスモデルの大幅な転換が求められるでしょう。データやテクノロジーへの投資の拡大、連携・協力・合併に対して柔軟なアプローチを取るなど、成長の道を複数用意しておく必要があります。一方、戦略的なコスト変革を行うなど、薄利化を相殺する機会もあります。

一般的な中規模資産運用会社であれば、コストを15%削減し、テクノロジーやイノベーションへの投資を加速させることができるかもしれません。

変革に必要な要素

資産運用会社が変革を成功させるには、まず初めに今後の業界における各社の役割を明確に理解する必要があります。対象となるクライアントは誰か、どのようにクライアントにアプローチするか、どのような投資ソリューションをどのように提供するかを考えなければなりません。

その上で、コロナ禍で実施した改革を土台としつつ、6つの重要な戦略的要素に沿ってマルチトラックの成長戦略を策定する必要があります。さらに、テクノロジーを利用してその戦略を実行し、戦略的なコスト変革によってそのための資金を捻出します。この際、同時に多元的な変化を管理する能力が非常に重要になります。

資産運用会社に求められる対応

戦略的なコスト変革によってオーガニックおよびインオーガニックな成長戦略への投資を促すことが重要です。資産運用会社のCEOは、以下の6つの要素に基づいて今後5年間の計画を見直すことが必要です。

2025年の先を見る

資産運用会社としては、中期的なパフォーマンス変革に取り組むだけでは不十分です。コロナ禍の混乱を踏み台としてさらに発展するため、現在の業界パラダイムの終わりに備えて積極的な対策を採る必要があります。まだ時間のあるうちに抜本的かつ現実的なシナリオを想定し、戦略的影響を把握しつつ、対策の立案に着手しなければなりません。

EYでは、今後10年のうちに業界で生じ得る実現要因と制度的特性に応じて、2030年までに資産運用を新たな視点から見直すための10の対策を考案しました。例えば、以下の状況にどう対応できるかを各社で検討してみてください。

  1. 世界中の全ての成人に資本市場の成長分野に参加する知識と機会を提供することが資産運用業界の目的になった場合
  2. 資産運用会社が全てのステークホルダーのために創出した長期的価値で評価されるようになった場合
  3. 全ての投資家が所有資産の社会的インパクトを理解するようになった場合
  4. インデックスプロバイダーがテクノロジー企業と提携し、最大手の資産運用会社となった場合
  5. 「仕事」の概念が変化し、資産運用会社の人材と働く場所の多様化が進んだ場合
  6. 「勝者総取り」現象により、多極化していた資産運用業界の一極化が進んだ場合
  7. 部分所有によってファンドのニーズがなくなった場合
  8. ポートフォリオ運用の主体が人間からAIと量子コンピューターを組み合わせたプラットフォームに移行した場合
  9. 資産運用の報酬が長期的価値の創出に基づいて決定されるようになった場合
  10. D2C(直販)関係が例外的な手法ではなく、標準的な手法となった場合

資産運用を新たな視点から見直す

世界の繁栄には、ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)の促進とそれによる資産運用効果の向上が必要となります。

EYは、資産運用会社が長期的価値を創出することによって業界の未来を見直し、さらに高い目標に向かうことができると考えています。そのためには以下の4つの視点から成功基準を設定することが重要です。

  1. クライアント:クライアントのニーズに対応したソリューションの提供、透明性と倫理性を確保した受託者義務の遂行と金銭的価値の提供
  2. 人材:多様な資源プールの開発、包摂性と平等性を重視する文化の醸成、適切な行動を推奨するインセンティブ制度の確立
  3. 社会:投資利益の幅広い共有、利用可能な投資教育の提供、持続可能性と気候変動に関するリスク管理を標準とした投資
  4. 株主:EYの6つの戦略的要素に沿った財務パフォーマンスの最適化、投資バリューチェーン全体の長期的な構造改革への備え

世界の資産運用業界は今、またとない進化の時を迎えています。漸進的な改革ではもはや対応できません。断固たる措置を取ることによって、これまでの進化を土台としつつ、コロナ禍を、積極的な変化に向けた契機として活用する必要があります。

世界はコロナ禍から回復するでしょう。しかし、その後のニーズは以前とは異なるものになります。資産運用会社にとっても、そのステークホルダーにとっても、長期的価値の提供は以前にも増して重要になります。資産運用業界が全体として目指す目的を新たな視点から見直すべきときがあるとすれば、それは今です。

資産運用会社は、変革を成功させる第一歩として、今後業界でどのような役割を担いたいのかを明確にする必要があります。そのためには、対象とするクライアントを特定し、アプローチする方法や提供すべき投資成果、その提供方法を見つけなければなりません。

サマリー

変革を成功させる第一歩として、各社は今後資産運用業界でどのような役割を担いたいのかを明確にする必要があります。そのためには、対象とするクライアントを特定し、アプローチする方法や提供すべき投資成果、その提供方法を見つけなければなりません。

CEOは、それらの方法を実行する段階で、コロナ禍で加速したプラスの変化を根付かせるだけでなく、収入増加やコスト管理につながる6つの重要な戦略的要素を適宜組み合わせて活用することも求められます。資産運用会社として成功するには、マルチトラックの成長戦略を策定し、戦略的なコスト変革によって資金を捻出するとともにテクノロジーを利用して戦略を実行する必要があります。

この記事について

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム