
第1章
コロナ禍に直面する中でのオルタナティブファンドマネージャーのレジリエンス
何年も前からテクノロジーとアウトソーシングに投資をしてきたことで、 途切れることなく業務を続けることができました。
コロナ禍でのオルタナティブ投資のパフォーマンスは期待以上
投資家の間では、コロナ禍におけるファンドマネージャーのパフォーマンスは期待以上だったとの見方がほとんどです。特にプライベートエクイティに関しては、約8割が期待を上回るパフォーマンスだったと感じています。ヘッジファンドのパフォーマンスは戦略によりばらつきがありますが、平均して、ほぼ全てが主要なベンチマークを大幅に上回りました。主要な指数が15%~20%も低下した2020年初めでも、多くのヘッジファンドが1桁台の下げにとどまっています。ファンドは、機会をうかがいながら市場の混乱に乗じて動き、下降局面では資金を維持して自らの価値を示しました。
コロナ禍で市場が大混乱に陥る中でも、顧客にはおおむねオルタナティブ投資業界の「通常通り」のサービスを提供
投資家は全般的に、混乱の真っただ中でもファンドマネージャーは自分たちの問題に答える以上の対応をし、ビジネスとパフォーマンスに関する最新情報をより頻繁に提供してくれたと感じています。実際、この期間にファンドマネージャーがクライアントサービスのニーズを満たさなかったと感じた投資家はごく一部です。
自動化が最も進んでいない分野はマーケティングとIR
ファンドマネージャー(特にプライベートエクイティのファンドマネージャー)は、ほとんどの部門で、恐らくは必要以上に手作業が行われていることを認めています。ファンド会計とミドルオフィスは最も先進的な部門です。ファンドマネージャーは何年も前から、合理化によりタイムリーで正確な報告を実現するために資金を投じてきました。一方、マーケティングやIR部門は、手作業中心の体制のまま、ほとんど変わっていません。人間的な交流を図る対面での経験は必要ですが、その経験を充実させることができるのはテクノロジーと有意義な投資家向けの報告書です。
オルタナティブファンドマネージャーにとっては、テクノロジーに投資してクライアントのニーズをより一層満たす機会
ファンドマネージャーがマーケティングやIR部門の自動化は不十分だと指摘していることを踏まえると、投資家の大半が、ファンドマネージャーはデジタルインフラの拡充を図る必要があると述べていることも驚くに値しません。投資家の3分の2近くが、同分野への投資は今後の関係にとって有益であると考えています。投資家は、ヘッジファンドについては前進がみられると感じており、39%が非常に高度なデジタルインフラを備えていると回答しています。一方、プライベートエクイティファンドに関して同様の回答をした投資家は34%にとどまりました。

第2章
資産配分と運用商品の提案
業界では引き続き商品・サービスのコンバージェンスと多様化がテーマであり、単一の戦略を提案するのは中小または ブティック(専門特化)型ファンドのマネージャーに限られています。
オルタナティブファンドマネージャーにとって資産の拡大は依然として最優先事項
プライベートエクイティのファンドマネージャー、ヘッジファンドマネージャーともに、最優先事項は3年連続で今回も資産の拡大でした。コストの上昇と手数料に対する圧力に対応するためには資産の拡大が不可欠であり、これは当然のことといえます。
投資家は大規模なオルタナティブ資産のポートフォリオを維持しているが、アセットクラス内でシフトが起きつつある
投資家によるオルタナティブ資産全体への配分はここ数年あまり変わっていません。オルタナティブ資産に配分される割合は、ポートフォリオ全体の20%から25%で推移していますが、その内訳は常に変化しています。
コロナ禍で、アクティブ運用への関心が高まる
変化が起きているのは、オルタナティブ商品内でのシフトだけではありません。ヘッジファンドマネージャーは、コロナ禍に端を発する市場のボラティリティーによりアクティブ運用への関心が著しく高まると予想しています。コロナ禍と、それに伴う市場のボラティリティーの影響で、アクティブ運用への投資家の関心が高まると予想するヘッジファンドマネージャーは、調査対象者の半数以上に上りました。この傾向は運用資産が100億ドルを超える大規模ヘッジファンドマネージャーでより顕著に表われ、75%以上が、コロナ禍によってアクティブ運用への関心が高まると回答しました。
オルタナティブファンドマネージャーは引き続きさまざまな商品を提供
EYのこれまでの調査結果では、中核分野以外にも提案内容を拡大したいという意欲をファンドマネージャーが持っていることが明らかになっていました。2020年の調査でも同様の結果が得られ、依然として、ヘッジファンドマネージャーとプライベートエクイティ・ファンドマネージャーの境界線があいまいになっている様子がうかがえます。

第3章
環境・社会・ガバナンス(ESG)
2020年は、ビジネス・経済界でESGが大きな注目を集めた年としても記憶されることになるでしょう。
オルタナティブファンドマネージャーはESG商品の需要に追いついていない
今回も社会的責任投資が有望な成長分野であることが分かりました。現在、投資家の半数近くがESG商品に投資しています。ポートフォリオにESG商品を組み込んでいる投資家の数が、2019年からほぼ倍増した計算です。投資家はファンドマネージャーに委託するかどうかを決める際に、そのファンドマネージャーのESG方針を特に重視しています。ほぼ全ての投資家(88%)が、投資判断にどのようにESGを組み込んでいるかをファンドマネージャーに尋ねています。
ESG商品への投資を必要としている投資家が増加
ESG商品への投資を必要としている投資家の割合がこの1年で2倍近くに増えました。この数字は今後2年間でさらに倍増する見込みです。

第4章
人材
人材の優先事項についての話は、もっぱらファンドマネージャーがトップクラスの金融プロフェッショナルを呼び込み、つなぎ止める方法についてでした。
ヘッジファンドマネージャーとプライベートエクイティ・ファンドマネージャーでは、人材管理のアプローチが大きく異なる
優秀な人材の雇用とつなぎ止めに関しては、直面する問題に共通点は多いものの、ヘッジファンドマネージャーとプライベートエクイティ・ファンドマネージャーでは、人材管理戦略に対するアプローチが大きく異なります。
調査対象のプライベートエクイティ・ファンドマネージャーの半数以上が、性的マイノリティと少数民族の登用を増やすことが最優先事項だと回答しました。一方、ヘッジファンドマネージャーにとっての最優先事項は、2020年も引き続き従業員の生産性向上です。
部分的なリモートワークがニューノーマルに
オルタナティブファンドマネージャーは、コロナ禍が収束して正常化した後でも、従業員の約3分の1がリモートワークを行うと予想しています。多くのファンドマネージャーがオフィススペースを縮小しており、リモートワーク専門のスタッフを置く計画だと回答した一方、今後ずっと交代出勤制にすることを決めたとの声も聞かれました。

第5章
引き続きデータ、テクノロジー、自動化に注力
オルタナティブファンドマネージャーの成否を決めるのは、データとテクノロジーをうまく活用できるかどうかです。
投資家はヘッジファンドマネージャーの方がテクノロジーに精通していると評価
テクノロジーが進化し続け、コロナ禍で一段と不可欠な存在になる中、投資家はテクノロジーとデータを活用するファンドマネージャーの取り組みにまずまず満足しています。特にヘッジファンドには好意的な評価が示され、調査対象の投資家の半数以上が、ヘッジファンド業界は他の金融サービスと比べてテクノロジー面で優位に立っていると感じていました。この背景には、ヘッジファンドがデータとテクノロジーを迅速に導入していることがあります。主にポートフォリオの運用を支えるためですが、最近では、業務全体と投資家のエンゲージメントを評価するメカニズムとして導入されています。
業務における自動化の度合いに開きが見られる
投資家はファンドマネージャーのテクノロジーの導入に満足しているかもしれませんが、さまざまな部門の自動化となると、改善の余地があることは間違いありません。投資家やその他の関係者は、手作業は段階的になくすことができる、また、なくすべきだと考えています。社内で開発したものであれ、サービス事業者が提供するものであれ、テクノロジーの提案の進化によって、あらゆる戦略のファンドマネージャーがあらゆる業務分野を自動化できるようになりました。そのため、投資家から期待されるようになってきたデジタルインフラの整備に適切に取り組んでいる姿勢を示しながら、より効率的でタイムリーな処理と報告を実現できるようになります。
サマリー
いつ「通常の状態」が戻るのかは、時が経たないと分かりません。2020年の混乱で、レジリエンスと迅速な適応が、持続的な価値創造を推進する手段として変化を受け入れるという姿勢を強める上で絶大な効果を発揮することが証明されました。今では、そのいずれも定着しています。かつてはあまりにトリッキー、あるいはあまりに実験的だと見られていたものが、今では機会をつかむための新たな切り口とみなされるようになっています。