8 分 2017年12月20日
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デジタルテクノロジーでいかに資産管理を変革するか

企業は、デジタルケイパビリティを構築し、デジタル時代に備えて組織を変革することによって、技術の変化についていかなければなりません。

デジタルトランスフォーメーションが起こす戦略と経営への影響は速さを増しつつあります。資産管理においても影響が及ばない分野はありません。私たちの最近の調査で、資産管理分野の技術の状況に関する総合的な調査結果が明らかになりました。そこで明らかになったのは、資産管理会社が構築しなければならないデジタルケイパビリティと、デジタル時代に備えて資産管理会社はいつ、どのように組織を変革できるのか、デジタルの焦点をどこに向けるべきか、ということです。

経営環境は変化しています。技術は市場参入の障壁を押し下げ、全く新しい、侮りがたいデジタルコンペティターに向かって参入の門を開きました。これらのコンペティターは、画期的なケイパビリティと、遠大なディスラプションの計画で武装しています。シリコンバレーの大手や敏しょう性を備えたフィンテック企業が、多くのインタラクションの場で顧客体験を高めることによって、戦いの場を造り変えようとしています。

クライアントの行動もまた、あらゆるセグメントで変化しつつあります。今日の資産管理のクライアントはすでにシームレスな顧客体験を期待しています。それは、迅速で便利で直観的な顧客体験です。そして、明日の顧客は、オンラインツールとスマートフォンベースの機能を標準と考えるでしょう。

資産管理会社は、イノベーションとデジタル化へ投資することで、フロントオフィスからバックオフィスまでの自動化とリーンなプロセスを通じた効率性の向上が得られるだけでなく、クライアントのタッチポイントをアップグレードし、クライアントに提案する価値を全面的に変革することによって、ビジネスの将来的な耐性を高めることができます。

ヘッドセットを付けてコンピュータに向かう男性
(Chapter breaker)
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第1章

資産管理におけるデジタル - 新しいケイパビリティと新たな疑問

速やかに、かつ効果的にイノベーションを推進する能力がコアアセットに変わりつつあります。

速やかに、かつ効果的にイノベーションを推進する能力がコアアセットに変わりつつあります。資産管理におけるデジタルトランスフォーメーションの事例は、クライアントオンボーディングからフルフィルメント、トレーディングまでバリューチェーン全体にわたります。例えば、

クライアントオンボーディング:欧州で、クライアントがビデオカンファレンスを使って口座を開くことができるサービスを、ある資産管理会社が開始しました。他社もこれに続き、電子署名やオンラインID検証から生体認証に至る画期的な技術を使って、オンボーディング・プロセスをデジタル化しました。

アドバイス:アジアで、ある資産管理会社が、タブレットやスマートフォン用のデジタルバンキングツールを導入しました。このアプリは、パーソナライズされたコンテンツ、トレーディングツール、マルチチャンネル・コラボレーションの機会を提供します。これは、デジタルテクノロジーによる資産管理分野のトランスフォーメーションの一部です。

オンライン販売/顧客サポート:セールスサポートプロバイダーは、クライアントとのミーティングでリレーションシップマネジャーをサポートするためのタブレットアプリをデザインしています。スマートで、アダプティブで、インタラクティブなセールスプロセスを通じてリレーションシップマネジャーを導き、関連する全てのセールス機能を単一のプラットフォームに統合するという方法です。

投資助言:あるグローバルな大手資産管理会社が、パーソナライズされた「ヘルスチェック」を導入しました。クライアントが保有する各ポートフォリオの潜在的な問題を発見し、カスタムメイドの対策を提供して、ポートフォリオの健全性を望ましいレベルに戻すというサービスです。

フルフィルメントとトレーディング:多数の資産管理会社がデジタルソリューションを構築しています。これらのソリューションは、顧客がオンラインで株式やファンドを取引できるソーシャル型マーケットプレイスを提供します。

デジタルは資産管理を変化させています。こうした背景のもとで、シニアエグゼクティブの皆さまは、三つの重要な問いを自らに投げかける必要があります。

  1.  デジタルケイパビリティに関してクライアントは何を期待しているのか
    従来、資産管理会社は、クライアントとのやり取りを、ほぼ全て電話、Eメール、あるいは面談で行っていました。しかし、今、大多数のクライアントは、より優れたデジタルケイパビリティを求めて資産管理会社を切り替えることをためらいません。
  2.  資産管理会社は新たなデジタル新興企業から何を学べるか
    デジタルトレンドの大部分をけん引するのはロボアドバイザーです。ロボアドバイザーは、資産管理のバリューチェーンの一部をすでに捉えています。従来型の資産管理会社は、これらのデジタル新興企業のアプローチに学ぶ機会をつかむべきです。
  3.  資産管理会社はフィンテックプロバイダーの新しいエコシステムからどのような恩恵を受けられるのか
    フィンテックは画期的なB2Bソリューションを普及させ、実現させています。多くの資産管理会社が新しいデジタルケイパビリティの構築にあたってフィンテックと協力するチャンスをつかんでいます。

これらの疑問に答えるためには、デジタル時代に対応するために、クライアント、コンペティター、サービスプロバイダーの主な役割を新たに概念化する必要があります。

ピンク色のブレザーを着てスマートフォンを持つ女性
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第2章

新しいデジタルクライアントとの出会い

今後2~3年の間、資産管理会社のクライアントの多くは、アドバイスを求めるチャンネルとしてデジタルが最適だと考えるでしょう。

私たちが調査した資産管理会社のクライアントの過半数(59%)は、今後2~3年の間、アドバイスを受けるとしたら望ましいチャンネルはデジタルだと答えています。

全世界の資産管理クライアント2,000人以上を対象に私たちが実施した2016年の調査では、エンゲージメント、運用成果、信頼の三つの分野で彼らの選好が明らかになりました。エンゲージメントに関してクライアントが評価するのは正確な情報、セルフサービス、デジタルチャンネル・ケイパビリティです。運用成果に関しては、クライアントの運用目標をしっかりと理解していること、自由に使える商品・ツールを幅広くそろえていることが評価されています。信頼に関して、クライアントは手数料の透明性、取引のセキュリティ、データの秘密保持を最も評価しています。

また、多くのクライアントはロボアドバイザー商品に関する知識が豊富です。当然のことですが、若い世代のほうが高齢層よりもロボ商品を検討する傾向にあります。調査対象のクライアントのうち18~34歳の層はロボアドバイザーを検討する可能性が61%と高くなっています。これに対し、35~50歳では51%、51~71歳では24%にとどまっています。

さらに、ロボアドバイザーの認知度と選好度が高いのは基本的に富裕層(HNW)セグメントであり、一般に考えられているようなマス富裕層や新興富裕層ではありません。マス富裕層の37%に対し、HNWクライアントの70%以上がロボアドバイザーを検討するとしています。

電車内で座って話す男性と女性
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第3章

新しいデジタルコンペティターとの出会い

ロボアドバイザーは急速に成長し、運用資産を数カ月ごとに倍増させています。

「自動資産管理ツール」、別名ロボアドバイザーは、いまだかつてない大きな力を持つようになりました。実在のクライアントアドバイザーの何分の1かの料金で、アルゴリズムを用いて財務アドバイスを提供するロボアドバイザーは急速に成長し、運用資産は数カ月ごとに倍増しています。

資産管理会社は少数の基本的な質問でクライアントを評価して彼らの投資意欲を判断し、お勧めのポートフォリオを導き出します。ガイド付きアドバイスの場合、電話やビデオ通信で遠隔的にアドバイスが提供されます。人間のクライアントアドバイザーは投資アドバイスの責任を負い、一般には総合的な戦略に焦点を絞ります。全てのケースにおいて、ロボアドバイザーモデルは次の3本柱で構築されます。

  1. ハイペースな技術変革サイクル
    ロボアドバイザーは、特にモバイルアプリ・インターフェースの改良や、クライアントとのコミュニケーションにおける人工知能(AI)の利用等の分野で新技術を速やかに取り入れ、活用します。
  2. セルフサービスと自動化
    ロボアドバイザーは、ハイレベルの自動化とセルフサービスによってコストベースを低く抑えられます。
  3. パッシブな投資戦略
    ロボアドバイザーは、自由裁量による判断よりもパッシブな投資戦略に重点を置きます。このため、人間のポートフォリオマネジャーを置くとしても、必要な人数は少なくなります。

ロボアドバイザーが現時点で獲得しているのは世界市場の1%未満に過ぎません。とはいえ、ロボアドバイス・プロバイダーは世界中で勢いを増しています。今後はそのケイパビリティを伸ばし、拡大していくでしょう。

駅のプラットフォームにいる男性と女性
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第4章

新しいデジタルサービスプロバイダーとの出会い

資産管理会社は、誰と協力すべきなのか、どのように協力すべきなのかを慎重に判断しなければなりません。

成長著しいフィンテックサービスプロバイダーのエコシステムとの協力は、コストを削減し、規制をたやすく効果的に順守して、最終的にクライアントにより良いサービスを提供する機会を資産管理会社にもたらす可能性があります。資産管理会社にとっての最重要課題は、どうすれば自らを構造的に「開き」、フィンテックプロバイダーのエコシステムを活用できるかです。資産管理会社は新しいコンセプトを試し、社外のプロバイダーのソリューションで社内のテクニカル・ケイパビリティを補完しようとしているところです。その過程で誰とどのように組むかが鍵になるでしょう。

競争優位性をつかむための協力の形態がいくつか浮上しています。フィンテック企業の買収は、ノウハウへの独占的アクセスをもたらし、資産管理会社が社内のケイパビリティをグレードアップすることを可能にします。フィンテックと提携すれば、資産管理会社は規格外のソリューションを共同開発することによって社内のケイパビリティをグレードアップできます。また、フィンテックへの投資は、資産投資会社が関係者しか得られない知見の恩恵を受け、ある程度の意思決定に加わることを可能にします。

暗い部屋で光るサーバーパネルの光
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第5章

時代を先取りするための五つの戦術

資産管理会社は、劇的な変化の時代にあって、他社に地盤を奪われないように行動しなければなりません。

劇的な変化の時代にあって、資産管理会社が他社に地盤を奪われないように行動しなければならないことは明らかです。これらの「悔いを残さない」五つの段階を踏めば、上記の課題に正面から対処することができます。

  1. デジタル目標と成功の基準を明確にする
    追求する価値のある目標と「デジタル化の成功」をどう定義するかを正確に説明する。例としては、リレーションシップマネジャー1人当たりのクライアント負荷を10%増やす、営業経費を15%削減する、あるいは、デジタルオファリングでクライアント満足度90%を達成する、などが考えられます。
  2. ビジネスおよび経営モデル全体で、より幅広い影響を判断する
    成功するデジタル戦略は、プロセスとテクノロジーを超えた変革を必要とします。留意すべきその他の領域は、クライアントのセグメンテーション、デジタルチャンネルのガバナンス、業務上の即応体制、デジタルプロダクトおよびサービスコンテンツ、組織の青写真です。
  3. 必要なデジタルケイパビリティを評価し、導入の優先順位をつける
    デジタルケイパビリティをその影響に基づき評価する(例:クライアントの需要を評価するなどによって)。また、デジタルケイパビリティを導入するために必要な取り組みを評価する。短期・中期・長期の影響に基づいて、追求する価値のあるデジタル化の機会を評価する。主要なステークホルダーの優先順位付けは、それがリレーションシップマネジャーのビデオ機能なのか、シンプルなトレーディングのためのセルフサービスなのかを問わず、費用便益比が最も高い分野を明らかにする。
  4. 全体的なデジタル化のロードマップを作成する
    デジタルトランスフォーメーションへのロードマップは多数の目的に寄与します。例えば、デジタルケイパビリティを構築するための実施プランを作成する、デジタルを中心にリソースとノウハウを整えるために組織を活性化させる、長期にわたって必要とされる投資の要点をまとめるなどの目的です。
  5. 俯瞰(ふかん)的なソリューションの設計を開発し、主要のアーキテクチャ原則を明確にする
    俯瞰(ふかん)的なソリューション設計と、デジタル・ロードマップの背後にある基礎的アーキテクチャについてコンセンサスの成立を目指す。主な疑問点としては次のことが考えられます。モバイルデバイスのためのユーザーインターフェースを第一にデザインすべきか。「作らずに買う」ポリシーを導入すべきか、それとも統合のみを目的とした社内開発と並行すべきか。

適正なデジタルオファリングは、増益と顧客浸透から営業経費の削減までの魅力的な恩恵を生み出す可能性があります。テクノロジーの重要性が高まっていることを踏まえ、ITエグゼクティブとテクノロジー・リーダーは、デジタルへのトランスフォーメーションを後押しするという独自の任務を課されています。

サマリー

デジタルは貴社のクライアントからコンペティター、さらにはサービスプロバイダーまで、資産管理業界のあらゆる側面を変化させつつあります。幸いなことに、適正なデジタル戦略の実施は、増益、営業経費の削減、顧客満足度という点で成果を上げることが可能です。

この記事について

執筆者 EY Global

複数の強みや専門性を兼ね備えるプロフェッショナル集団