6 分 2021年10月7日
金融庁が発表した「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について(令和2事務年度)」から見た資産運用業界に求められるポイントとは

金融庁が公表した「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について(令和2事務年度)」から見た資産運用業界に求められるポイントとは

執筆者 EY Japan

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

6 分 2021年10月7日

投資信託等の販売状況のモニタリング等を通じて把握した事実や示唆される内容、課題等を分析し、資産運用業界にとって有用なポイントを整理しています。

また、顧客意識調査結果についても、公表された詳細データを含め、更なる分析や議論の活発化につながるようまとめています。

要点
  • 金融庁が6月30日に公表した「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について(令和2事務年度)」を基に役立つ情報を整理した。
  • 本報告書では、リスク性金融商品販売の状況、顧客意識調査、販売会社の販売戦略と体制の動向及び課題、取り組みの「見える化」や情報発信等の動向と課題などを解説する。

金融庁は2021年6月30日に「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について(令和2事務年度)」を公表し、投資信託等の販売状況のモニタリング等を通じて把握した事実や示唆される内容や課題等について分析を行ったものをとりまとめています。また、顧客意識調査結果についても、関係者の活用による更なる分析や議論の活発化につながるよう詳細データとともに明らかにしており、EYは資産運用業界にとって重要な4つのポイントについて解説します。

1. リスク性金融商品販売の状況

リスク性⾦融商品の預り資産残高及び販売額の推移
  • 各業態とも、足下残高は増加しているが、評価益の増加の影響が大きく、販売額は横ばい
投資信託(除くETF)の販売状況
  • 販売額を上回る解約・償還額の発生、毎月分配による投資元本の減少等により、投資信託残高は伸び悩み
  • 他方、積立については積立投資信託の保有顧客数及び積立投資信託の販売額とも増加傾向であり、投信販売全体の1〜3割の占有割合
  • ネット系証券会社が、若年層や初心者を中心に顧客数を伸ばしており、大手証券会社等にも迫る勢い
  • 一方、他業態は伸び悩み
  • 日米における残高上位の投資信託の推移を比較すると、日本では上位銘柄が一定期間で入れ替わりが多い
  • 一方、米国では入れ替わりが少ない

外貨建一時払い保険の販売状況

  • 主要行等・地域銀行いずれも販売額は足下減少傾向
  • 販売における外貨建比率は、地域銀行では比較的高い
図1 リスク性金融商品の残高推移 リスク性金融商品の販売額推移
図2 投資信託の保有顧客数の推移 外貨建一時払い保険の販売額推移

出典:金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について(概要版)」

2. 顧客意識調査

金融庁の今後の取り組みを考える際の参考とするために、インターネットを通じて、金融機関等の顧客に対して資産運用に関する意識調査が実施されました。

顧客の資産運⽤に関する行動
  • 投資経験者は、10年以上の長期的な資産運用をイメージしているものの、実際の運用では、保有商品に含み益が発生すると、短期的に売却してしまう傾向
顧客による情報収集
  • 資産規模・世代を問わず必要な情報はインターネットで入手する傾向が強く(特に、若者ではSNSの情報が顕著)、また、いわゆるインフルエンサーの影響が大きい
  • 対面中心とした銀行・証券会社の顧客においては、金融機関の営業担当から情報提供を受けている
  • 一方、金融庁によって「見える化」された、各金融機関の顧客本位の業務運営に関する取り組み方針・KPIは、顧客には活用されていない
⾦融機関と顧客との関係
  • 直近2~3年で金融機関の取り組みに変化があったとする者は1割程度
  • 金融機関の選定理由として、証券会社は資産運用に関するサービス、銀行は既存取引の有無や立地で選ばれる傾向
図3 当初、長期間保有するつもりが、保有商品に評価益が出た際、思いがけず売却した経験

出典:金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について(全体版)」

3. 販売会社の販売戦略と体制の動向及び課題

顧客本位の業務運営と事業実績

  • 過去5年間の推移を見たところ、平均保有期間が長期化し平均販売手数料率が低下している先であるほど、投資信託の預り資産残高と販売額が減少している
  • 取組方針に基づく取り組みの中で業務の持続可能性を確保するための事業戦略についての検討が今後の課題
リスク性⾦融商品の提供に関する経営戦略
  • 業務規模の大きな事業者においては、富裕層への対面対応に経営資源を傾斜する一方、資産形成層には非対面対応を中心に、より効率的なアプローチを目指す取り組みが見られる
  • また、一部の事業者においては、顧客ターゲットを明確化した上で、顧客ニーズに即した商品・サービスにより、差別化を図る取り組みも見られる
提案プロセス
  • 提案ツールを利用し、ライフプランに基づいた顧客への最適なポートフォリオの分析と、それに基づく長期分散投資の提案が十分に営業現場に浸透していない
  • 「重要情報シート」等を活用した適切かつ丁寧な顧客説明。ライフプランに基づいた顧客への最適なポートフォリオの分析とそれに基づく長期分散投資の提案について営業現場における浸透が今後の課題
フォローアップ
  • 新型コロナ感染症による市場変動時のフォローアップの中で、長期分散投資の効果や必要性を説明する取り組みは一部にとどまった
業績評価
  • 主要行を中心に顧客本位の業務運営の浸透と経営目標を両立させるための業績評価体系を試行錯誤中
  • 地域銀行を中心に、収益の実額による評価体系を採用する先があり、これが営業員の手数料の高い商品を選好して販売する行動を促している可能性
図4 投資信託の残高の推移 投資信託の販売額の推移

出典:金融庁「投資信託等の販売会社による顧客本位の業務運営のモニタリング結果について(全体版)」

4. 金融庁の取り組みの「見える化」や情報発信等の動向と課題

更なる「⾒える化」の進展に向けた⾦融庁の取り組み
  • 金融審議会市場ワーキング・グループの報告書を踏まえ、
    ① 各事業者の取り組みの比較可能性を高める観点から、「原則」の内容ごとに、対応した形で取組方針等を明示している事業者のみ「金融事業者リスト」に掲載
    ② 今後、金融庁が公表していく好事例について、その分析に当たってのポイントを公表
  • 今後の課題として、各事業者の取組方針やKPI等の進捗状況等の情報が、顧客にとって有用で事業者選択に活用される形で提供されるよう改善の上、更なる浸透を目指す
重要情報シート
  • 商品カテゴリーを越えた比較説明等顧客に対する説明・提案プロセスの改善を図る目的で導入

サマリー

本報告書の中で、販売額は横ばいと分析されており、顧客本位の業務運営の取り組みの成果がまだ十分現れていない面も見られ、運用商品が多様化する中、販売会社や運用会社には、顧客に対してさらに分かりやすい情報提供を行うことが求められてくるものと考えられます。

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執筆者 EY Japan

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