6 分 2020年1月13日
冬、家の窓から外を眺める少年

長期的価値を現実のものとするための4つの方法

執筆者

Ruchi Bhowmik

EY Global Public Policy Vice Chair

Action-oriented public policy strategist. Seeks to earn and maintain EY’s seat at the policy discussion table. Geopolitical and macroeconomic junkie. Will Ferrell fan. Buoyed by family and friends.

6 分 2020年1月13日

今こそ、株主価値を重視する経営から、ステークホルダーにとっての価値を重視する経営へと舵を切るときです。ここでは、その方法について考察します。

2019年8月、米国の有力な経済団体であるビジネス・ラウンドテーブルが力強い声明を発表して話題を呼びました。同団体は「Statement on the Purpose of a Corporation(企業の目的に関する声明)」において、株主第一主義からの決別を公式に宣言し、企業はより幅広いステークホルダーのために存在するとの見解を示しました。ここで言うステークホルダーには、株主だけでなく、顧客、従業員、サプライヤー、地域社会も含まれます。

ビジネス・ラウンドテーブルによる今回の発表は、広くメディアに取り上げられたものの、実際のところ企業側に大きな変化は見られませんでした。なぜなら、世界的な企業のガバナンスに関するムーブメントにより、すでに実際の企業経営では、株主重視からステークホルダー重視への移行が起こり始めているからです。

ステークホルダー重視とは、株主だけではなく顧客や従業員、サプライヤー、地域社会、環境をはじめとする、より広範な利害関係者集団にとっての長期的価値を創造することが企業の目的だと認識することです。つまり企業は、他のステークホルダーを一切考慮することなく、四半期ごとの利益だけを追求して株主に価値を提供するという、短期的な価値の偏重から脱却しなくてはならないのです。ステークホルダーに対する意識の向上は新しいテーマではありませんが、持てる者と持たざる者の差が大きく開いている現状においては、より平等でまとまりがある、持続可能な世界を創出するための大前提と見なされており、ビジネスや社会における注目度は高まりつつあります。

ステークホルダー重視への移行は、一見簡単なことのように思えますが、実践する企業にとっては困難なことかもしれません。そのため、社会からのよりインクルーシブ(包括的)で持続可能な成長という期待に応えるという点では、企業が実現したいことと、実践できることとの間には大きな差があります。

長期的価値の創造を現実のものとするには、まずは話し合いから始めなくてはなりません。ただし、すぐに実際の行動に移すことも必要です。ステークホルダーに対する責任を果たしながら、その信念を現実のものに変えていくために、企業ができることは何でしょうか?

1. 長期的な行動に報いる文化を創出する

まず、これは企業における文化的転換に関わる話だという点について理解しておくべきでしょう。長期的価値の創造こそが企業戦略の中核でありビジネスの成功の大前提であることを、従業員が認め、真に受け止める必要があります。経営陣には、率先してふさわしい雰囲気を醸成するという重要な役割があります。あらゆるレベルの従業員に影響を与えるために、経営陣は長期的な価値の創造を当然のこととして支持する職場のミレニアル世代やZ世代の若者たちからのサポートを活用することができます。

また企業においては、従来より広いさまざまなステークホルダーとどう関わっていくべきか、従業員や管理職を再教育することも必要になります。従業員や管理職の大部分は、顧客やサプライヤーとの関わり方を熟知していますが、長期的な価値を創造するためには、従業員がより幅広いステークホルダーとうまく連携できるようになる必要があります。つまり、政策立案者、メディア、地域社会などのステークホルダーと関わるためのスキルの習得が必要です。

2. 現在の価値を維持しつつ、未来の価値を創造する

ステークホルダー重視に移行する上でもう1つ忘れてはならない、かつ相当の困難を伴うことが予想されるのが、売り上げを維持しながら移行を進めなくてはならない点です。つまるところ、短期的な価値を無視すれば事業そのものが立ち行かなくなる可能性があるため、長期的価値の創造だけに集中するわけにもいきません。もはや時代遅れの短期的な指標に基づいて企業の価値が評価され続ける中で、長期的価値への移行が進んでいます。従って、企業目的と長期的な事業目標を見据えつつ、これまでと同様に短期的な成長を実現する新しい手法を、企業は導入しなくてはなりません。

3. 生活と仕事の場である地域社会に価値を届ける

地域社会との関わりの必然性は、一見認識しづらいかもしれません。多くの企業が、時間の経過とともに、事業を行う地域社会と交流する習慣を失いました。交流があっても、地域社会との交流を、事業運営にとって不可欠なものとしてではなく付帯費用のようなもの、つまり企業の社会的責任を果たすための「取り組み」と見なす企業が多くなっています。これは、戦略上の大きな誤りです。地域社会における利害関係を見落としてしまうと、市場機会を逸する恐れがあります。さらには、ソーシャルライセンス(地域社会の信頼)も失いかねません。

4. 非財務的な業績に評価と透明性を取り入れる

最後に、評価と報告が鍵となります。この2つの活動によって、企業は説明責任能力があるものとステークホルダーに認められるようになり、翻って信頼の構築につながります。評価と報告は、企業がその信念を現実のものとするために実践していることを公的に証明するものです。残念ながら、企業が生み出す長期的価値を評価するためのフレームワークが数多くあるにもかかわらず、企業はそれらを十分に活用できているとは言えません。利用していたとしても、フレームワークが多いがために混乱を招き、統一的な評価方法が存在しないことも相まって、企業もステークホルダーも何が最善の選択肢であるかの判断に頭を悩ませています。

課題は残っているものの、企業、投資家、従業員、地域社会の間で長期的価値の創造を支持する動きが強まっています。資本市場における信頼を確立するためにEYが果たしている役割と、報告に関する深いノウハウを活用することで、この動きを十分に支援できることを喜ばしく思います。Coalition for Inclusive Capitalismおよび30社を超えるグローバル企業(運用資産総額約30兆米ドル)とともに、EYのチームは「Embankment Project for Inclusive Capitalism(以下、EPIC)」の立ち上げを支援しました。EYは、資産運用会社、アセットオーナー、多国籍企業を代表する同グループと協働し、全てのステークホルダーに向けて企業が創造する真の価値を測り、報告できるようにする画期的な手法の確立をサポートしました。

この他、世界経済フォーラム(WEF)と国際ビジネス評議会(IBC)が進めているプロジェクトに対して、長期的価値の測定に関するEYの知識を適用しているところです。同プロジェクトは、環境、社会、ガバナンスに関する企業向けのスコアカードの導入を目指すものです。

長期的価値の測定は、全てのステークホルダーに向けて企業がどのように長期的価値を創造しているかを示す上で、不可欠なものです。その一方で、消費者、従業員、投資家、規制当局に測定プロセスへ参加してもらうことも必要です。そしてステークホルダーが最終的に求めるものは、利用しやすくタイムリーで、透明性の高い、他と比較可能な報告です。

私たちは、株主価値の重視からステークホルダー価値の重視へと舵を切ったばかりです。企業が地域社会と再び関わり合い、企業文化を変え、短期的な目標と長期的な目標とのバランスをうまく図ることができるようになるまでには、まだ時間がかかるでしょう。重要な点は、この取り組みを成功させるには、投資家が短期的なリターンへのこだわりを捨て、長期的価値を重視する必要があるということです。このムーブメントは始まったばかりだといってただ見ているだけで、企業が長期的価値について考えることを先送りにしてよい理由にはなりません。長期的価値の創造に向けて、短期間のうちに最大限の取り組みを行う企業こそが、今後数年のうちに全てのステークホルダーに最高の成果をもたらすことができると私は考えます。

サマリー

長期的価値の創造に取り組む目的志向の企業は、株主価値の重視からステークホルダー価値の重視へと軸足を移し始めています。 言うのは簡単ですが、実行には困難が伴います。事業を存続させるためには短期的な利益を維持しなくてはなりません。ステークホルダーに価値を提供するという企業の信念を実現する上で鍵を握るのが説明責任です。それはすなわち、長期的価値を創造する活動を奨励するために行動を起こすこと、そして企業がステークホルダーに与える影響についてあらゆる側面から測り、公にすることを意味します。

この記事について

執筆者

Ruchi Bhowmik

EY Global Public Policy Vice Chair

Action-oriented public policy strategist. Seeks to earn and maintain EY’s seat at the policy discussion table. Geopolitical and macroeconomic junkie. Will Ferrell fan. Buoyed by family and friends.