適材の配置を誤っていませんか?

執筆者

Charles Davis

EY Global Tax Knowledge Leader

Experienced, commercially-focused economist and research professional.

12 分 2018.04.15

企業は人材を適所に配置できていません。適材適所が実現すれば何百万ドルもの経済効果をもたらす可能性があります。

あなたがロンドンに本社を構える大手多国籍サービス企業のCEOだと仮定します。ビジネスは過去数年にわたり、最も成果を挙げられる市場で急成長を続けています。ところが、バランスシートには予想したような成果が表れていません。そこで、本社勤務の全経営幹部を集めた会議を開き、何が間違っているのか尋ねました。しかし、誰も分かっていないようです。これは恐らく、競合他社の売上や純利益に追いつくことが思っていたよりもほんの少し難しかったのでしょう。

実際、質問の答えはまさにこの会議室が示しているのかもしれません。つまり、最も成果を挙げられる市場で生産性の向上・けん引を目指しているにもかかわらず、人材をこうした有望な市場の最前線に配置せず、本社で待機させているのはなぜかという話なのです。

これが人材と市場のマッチングギャップです。企業が自社にとって最大の市場で業績を伸ばそうとする場合、ビジネスに最も精通した人材を採用または任命し、その市場をよく知る人材とチームを組ませて競争力のある市場実績を達成しようとします。そうしなければ、生産性を高める重要なチャンスを逃す恐れがあります。

このギャップを縮めることは、あらゆる人に大きなメリットをもたらすかもしれません。EYの想定では、イギリスに本社を置く企業が人材と市場のマッチングを米国の標準的な水準まで高めることができれば、生産性が向上し、イギリス経済は9千億ドルも押し上げられる可能性があります。人材マッチングを真剣に検討すべきときが来たのです。

従業員のグループがテーブルで協力して話し合っている写真
(Chapter breaker)
1

第1章

コラボレーション

EYとLinkedInによる新研究

標準的な製薬会社が人材と市場のマッチングをほんの10%向上させれば、7700万ドルの追加的利益が生まれる可能性があります。同様のトレンドは産業内、地域内でも見られます。

ところで、このような結果は何を根拠にしているのでしょうか。また、企業が人材と市場機会のギャップを埋めるうえでどのような支援ができるのでしょうか。

これらの質問に答えるために、EYはLinkedInとタッグを組んで、人材配置と業績の有望な接点を見いだすための画期的な研究を実施しました。

人材と市場のマッチングによる生産性の違い

LinkedInは世界の5億3000人以上で構成されているプロフェッショナルコミュニティの公開プロフィールデータを集計し、労働市場における包括的な見方を提供してくれました。

この2種類の知見を組み合わせることによって、チームは企業が最高の人材を市場機会にどの程度マッチさせているか — 0から1までの数値で評価 — そしてこれが業績にどのような影響を与えているか突きとめました。

チームが採用した手順は以下のとおりです:

  1. EY独自のインサイトと、世界銀行・国際通貨基金・経済協力開発機構(OECD)を含むサードパーティの情報源のデータを用いて、各セクターおよびサブセクターの市場機会の規模を特定
  2. 各サブセクターについて、主要な競合企業のリストを作成
  3. LinkedInのデータで各企業の従業員が世界中のさまざまな市場に何人配置されているか調査。LinkedInのデータは従業員のシニオリティと職務の確定にも使用
  4. 人材の地理的配置と市場の相対的な規模の相関を調査。これによって、チームは企業が適材を最重要市場に配置できているかどうか評価
  5. 人材と市場機会の相関を主要な業績指標と相互参照し、優れた人材配置の効果を調査

この調査は11の主要セクターに属する659社を対象に実施しました。結果は以下のとおりです:

  • 企業には人材と市場機会のマッチングを改善する大きなチャンスがある
  • 人材と市場のマッチングスコアが高い企業ほど、好業績を達成する傾向がある
  • 人材マッチングに優れた企業を持つ国ほど、経済の生産性は高い傾向がある
聴衆の前で話をする女性の写真
(Chapter breaker)
2

第2章

優れた人材マッチングはビジネスの向上をもたらす

人材マッチングとビジネスの向上

企業が人材を機会にマッチさせる能力を0~1までの1つの数値として算出しました。これは「人材と市場のマッチング相関係数」として知られています。

  • スコアが1の場合、企業の人材配置は市場機会に完全にマッチしていることになります
  • スコアが0の場合、企業の人材配置の仕方と市場機会のあり方には全く関連性がないことを示します

平均スコアは0.48でした。

他のセクターに比べ大幅に高い数値を示すセクターもありました。最高スコアは医療機器業界の平均0.829でした。最低スコアはアルコール飲料業界の平均0.273でした。

産業におけるマッチングの差異を表すグラフ

成功をけん引

レポートではこれらのスコアが業績とどの程度、整合性があるかについても分析しています。以下の3つの重要業績指標に着目した手法を採用しました:

  1. 従業員1人当たりのEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)から算出した生産性
  2. 全体利益(EBITDAを使用)
  3. 売上成長(2012年~2016年の売上から算出)

研究ではこれらの各指標について、企業のスコアと業績に強い相関があることが判明しました。

優れた人材マッチングは生産性の向上をもたらす:非アルコール飲料業界は、スコアが最も高い企業グループと最も低い企業グループの生産性の格差が最も際立っていたセクターのひとつです。スコアが上位4分の1の企業の生産性は、従業員1人当たりのEBITDAが132,068ドルでした。これは従業員1人当たりのEBITDAが30,397ドルだった下位4分の1の企業の平均的な生産性と比較すると、約4.3倍も高い数値となりました。

各セクターの人材と市場のマッチングおよび生産性の差異を比較するグラフ

優れた人材マッチングは全体利益の向上をもたらす:人材と市場のマッチングスコアが高い企業ほど、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の絶対水準は高くなっていました。コンシューマー向け健康関連業界はこの結果を最も顕著に示す好例です。人材と市場のマッチングスコアが上位4分の1の企業の全体利益は68億ドルを超え、下位4分の1の企業の平均利益の2億7300万ドルを約25倍も上回りました。

マッチングスコアが最上位の企業グループと最下位の企業グループの売上成長の差異をセクター別に表すグラフ

優れた人材マッチングは売上成長の向上をもたらす:マッチングスコアが最上位の企業グループと最下位の企業グループの売上成長に最も際立った違いが見られたのは自動車業界でした。上位4分の1の企業は2012年~2016年に9.8%の成長を達成しました。それに対し、下位4分の1の企業の同期間の売上成長が4.3%減少しました。人材を市場機会にマッチさせると、売上成長は14.1ポイントもの大幅な伸びを示しました。

セクター別に見た人材と市場のマッチングの長期的変化と利益成長の関係を表すグラフ

これは相関に限った話ではありません。人材と市場のマッチングスコアが長期的に改善した企業と悪化した企業について、それぞれの対応している収益性のレベルに着目してみると、明確な関係性が浮き彫りとなりました。

2012年~2016年、市場マッチングを最も向上させた上位4分の1の企業のEBITDAは平均6.6%増加しました。下位4分の1の企業のEBITDAは平均1.2%減少しました。これらの数値は企業にとって決して軽視できるものではありません。保険業界では、下位4分の1の企業のEBITDA成長率は9.1%と大幅に減少しました。

マッチングを大きく向上させた企業が高い利益成長を達成していることを表すグラフ

別の言い方をすれば:食品業界のスコアが中央値の企業が人材と市場のマッチングをほんの10%向上させた場合、利益は9,100万ドル増加する可能性があります。人材と市場のマッチングを業界最高水準まで向上させた場合は、純利益を12ドル増加させることができるかもしれません。

インタラクティブマップを見つめる2人の女性の写真
(Chapter breaker)
3

第3章

グローバルな全体像

グローバル本社の所在地が大きな違いをもたらす

人材と市場機会を最適にマッチさせられる企業が、そうでない企業に比べ優れた業績を挙げているのは意外なことではありません。特定の市場向けに製品を開発している企業が製品ポートフォリオを市場にうまくマッチさせ — そして主要スタッフを配置替えするか、地域スタッフを雇うかして、顧客ニーズの変化に、より俊敏に対応できる営業チームを実現すれば、業績向上を達成するでしょう。

研究ではこの他にも、ある特定の国に本社を設置する企業はそれ以外の国に本社を置く企業よりも、グローバルな人材と市場のマッチングが高く、業績も優れているため、より良い影響を国民経済にもたらしていることも判明しました。なお、他の国に本社を置く企業もマッチングギャップを縮めれば、それぞれの国や市場経済に大きく貢献できる可能性があります。

北米に本社のある企業は人材と市場のマッチングに長けている傾向を示すグラフ

これに関しては北米が先行しており — 米国に本社を構える企業は他国に本社を置く企業に比べ、全般的に人材と市場のマッチングに長けています。北米に本社がある企業の人材マッチングの相関係数は平均0.77でした。また、日本に本社がある企業の相関係数の平均も0.55と、世界平均より高い数値となっています。一方、欧州は大きく後れを取っており、マッチングの相関係数は平均0.29でしたが、アイルランドは突出して高い数値を示しました。

2008年の金融危機以降、世界は生産性の停滞局面に入っています。国際通貨基金の報告によると、生産性成長率が金融危機前の上昇傾向を継続していた場合、世界の経済生産は現在の数値より5%程度高かったことが判明し — これは世界経済に日本の歳入規模と同等の金額を上乗せすることに匹敵します。この成長が実現されなかったことは、生活水準に圧力がかかったり、不平等な格差が拡大したり、途上国経済の安定性が危険にさらされたりしたことを示しています。

人材と市場の優れたマッチングと従業員1人当たりの利益、すなわち生産性成長率との間で確認された相関を考慮すると、最も優秀な人材と市場機会のマッチングに精通することは、こうしたトレンドを転換させ、より健全で力強い世界経済を牽引するうえで重要な役割を果たす可能性を秘めています。

オフィスフロアで書類を眺める男女の写真
(Chapter breaker)
4

第4章

より適切に人材と市場をマッチさせるには

成功に向けた3つの重要ステップ

こうしたことを背景に、自社が人材と市場機会をマッチさせることに本腰を入れることを決めたとします。では、どのように進めれば良いのでしょうか。あらゆる戦略で活用できる3つの重要なステップを以下に掲載します:

自社の市場を把握する:企業が自社の主要市場で適切な人材マッピングを実現しようとする場合、最初のステップは最も有望な機会のある市場を特定することです。これは社内データを用いた予備分析によって、現在の市場がある場所、他の市場が提供する機会、人材を現在配置している場所を認識することから始まります。その後、マッチングの向上を目指す企業は、人口統計データや多様性データ、人材のシニオリティ、サブセクター分析による結果など、他の種類のデータも加味します。

人材の配置:企業は市場機会を特定後、その機会を活用するための適材を配置しなければなりません。人材は該当する市場での現地雇用を通じて、外部で発掘することも可能です。獲得した人材は内部で配置転換することになりますが、これには転勤の手配、海外住宅補助、学校などの家族向けサービス、個人と企業のための移民コンプライアンスと税務コンプライアンスを管理するための厳格な枠組みを含む、長期的な人材マッチングと人材流動化のための戦略が求められます。

質問事項

ステークホルダーは独自の手法に常に疑問を呈すことで、市場マッチング戦略に対するアプローチを改良することができます。企業が人材マッチングの推進を検討する際に考慮すべき質問を以下に掲載します:

  1. 自社では主要な市場機会に実績のある人材を、より適切にマッチさせることが競争力のある強みであることを理解しているでしょうか
  2. Cレベル幹部やビジネスリーダーはこの問題の重要性を認識しているでしょうか
  3. 自社ではどの程度の頻度でグローバル市場の機会の変化について確認し、それを人材戦略にどのようにつなげているでしょうか
  4. 自社では人材戦略を策定する際、サブサブセクターの変化、職種、シニオリティ、自動化、オフショアリングや賃金の格差を利用した裁定取引機会、多様性の考察の重要性を理解しているでしょうか
  5. 自社の人材戦略では、グローバルな人材を順番に本社に配置することや、後継者の育成、エンゲージメントと業績管理の連携の重要性を考慮しているでしょうか
  6. 組織内で人材流動化のテーマに責任を負っているのは誰でしょうか。このテーマを戦略的なものと捉えているでしょうか、それともその場限りのものと捉えているでしょうか。このテーマは、より大規模な人材戦略に対応して連携・行動できるものとなっているでしょうか

企業に加え政策立案者や投資家も、こうした変化が実現されることになる規制・法律・金融環境を形成するうえで重要な役割を果たしています。企業以外の2種類のステークホルダーが、より適切な人材マッピングを推進する戦略を策定する際に考慮すべき質問を以下に掲載します:

政策立案者

  1. 国の政策は国内企業の海外進出の成功を支えるものとなっているでしょうか
  2. より適切な人材と市場のマッチングを妨げる恐れのある障壁にはどのようなものがあるでしょうか
  3. 政策立案者は、海外市場への進出を成功させている国内企業を擁する国民経済に対する価値とチャンスについて理解しているでしょうか

投資家と株主

  1. 投資をグローバルな機会に、より適切(かつ早期)にマッチさせるうえでまだ活用していない機会はあるでしょうか
  2. あなたの投資戦略は、グローバル市場の機会・規模の経済・範囲の経済へ到達するために、より重視しているのはグローバルな実績を持つ個別企業でしょうか、それとも特定の市場の企業で構成されたポートフォリオでしょうか

組織はこれらの疑問を呈し、迅速に対応することによってはじめて、自社の人材、市場、目的の可能性を最大限に引き出すことができます。人材と機会をマッチさせるべきときがやって来たのです。

PDF形式のレポートはこちらからダウンロードできます。

サマリー

人材と市場機会をマッチさせると、生産性や利益を向上させ、持続的成長を促進することができます。

この記事について

執筆者

Charles Davis

EY Global Tax Knowledge Leader

Experienced, commercially-focused economist and research professional.