信頼される企業文化の報告を行うには

7 分 2020年3月11日
執筆者 EY Reporting

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7 分 2020年3月11日

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  • Financial Accounting Advisory Services (FAAS) global corporate reporting survey 2019 (pdf)

先般EYが実施した調査では、企業文化の報告をめぐる隔たりを埋めるために、データアナリティクスと人工知能をどのように活用できるかに着目しました。

近年、コーポレートレポーティングの開⽰の拡充と透明性の向上を求めるステークホルダーの声が強まっています。特に非財務情報の開示は、コーポレートレポーティングの妥当性を維持する上で重要です。第6回EYグローバルコーポレートレポーティング調査「コーポレートレポーティングにカルチャーショックが必要ですか?」に参加した財務部門リーダーのうち、74%は投資家が投資判断に非財務情報を利用する機会が増えていると回答し、72%は財務報告だけに焦点を当てた場合、その企業の価値創造の枠組みの一部しか把握できないと回答しています。企業が長期的価値をどのように創造しているかを知りたいステークホルダーが増えているのです。

最も重要な非財務指標の1つが企業文化です。今回の調査結果から、財務部門のリーダーは企業文化を組織の価値にほとんど関係のない「ソフト面」の問題とは捉えていないことが分かりました。それどころか、企業価値を高め、守る要だとみているのです。回答者の83%が「信頼の構築には価値観や行動がぶれない健全な企業文化が不可欠」だと思うと答え、81%がこのような文化がリスク軽減につながると答えています。また、不健全な企業文化について、77%が持続可能な価値を脅かす最大の脅威の1つだとし、これがもたらすリスクをはっきりと認識していました。

企業文化の報告をめぐる隔たり

79%

投資家が企業⽂化に関してより多くの開示を求めていると回答した財務部門リーダーの割合。一方で、企業文化⾯の取り組みについて継続的に報告していると回答したのはわずか37%。

ところが、財務部門リーダーの79%が、投資家は企業⽂化に関してより多くの開示を求めていると述べ、同じく79%はステークホルダーが求めている企業文化に関する情報を提供できるだけのデータが揃っていると答えた一方で、企業⽂化⾯の取り組みについての報告やKPIの発表を継続的に⾏っていると回答したのは37%にとどまりました。

では、企業はなぜ企業文化の報告に消極的なのでしょうか?最大の懸念事項は、下図が示すとおり管理対策とデータの質です。

FAAS survey animation graph

企業文化の報告をめぐる、このような隔たりの解消に必要なのは、自社の文化を構成する行動、価値観、信念を明確にし、その⽂化の中で評価すべき要素を決め、業績を評価・報告するための数値化できる指標を作ることです。

データアナリティクスの役割

特に企業文化を評価する指標の合意形成と、業務の向上との相関を実証するにあたり、極めて重要な役割を担うのが財務チームです。しかし、これはリソースに限りのある財務チームの作業を増やし、技術的な財務会計基準の業務に慣れている人材に、非財務分野での業務への注力を求めることになります。

言い換えれば、非財務指標を作り、その報告をする場合、財務チーム自体の文化を変える必要が生じるかもしれないのです。財務チームが非財務情報の報告業務全体を担い、情報の収集、解析、確認に大きく関与していると述べた回答者は35%にとどまりました。

財務部門の文化の変革

35%

財務チームが非財務情報の報告業務全体を担っていると回答した割合。

こうした文化の変革を後押しできる実用的な方法の1つが、データを収集・解析する先進テクノロジーの導入です。特にロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)の利⽤は、⼈⼯知能(AI)で報告業務の質をさらに高めながら、データ収集など時間がかかるタスクの効率化を図ることができます。

しかし、財務部門ではこのようなテクノロジーがまだ浸透しつつある段階にすぎないことが、調査結果からはうかがえます。調査対象となったファイナンシャルコントローラーのうち、コーポレートレポーティングのデータ収集を自動化するソリューションを適切な規模で導入していると回答としたのは30%にとどまり、AIの使用が一般的に有益とされているタスクにAIを活用していると答えた割合は、これをさらに下回りました。

また、こうしたテクノロジーが生成したデータを評価し、それが信頼できるものであることの確認を要するといった問題もあります。例えば、調査対象となったCFOの60%が、AIが生成するデータの質を通常の財務システムのデータと同じように信頼することはできないと回答し、66%は世界の規制環境はまだAIの進化に追いついていないと答え、75%はAIのガバナンス、管理対策、倫理的枠組みを整備し充実させる必要がまだあるとしています。

このような懸念に対処し、AIシステムへの信頼を築くため、今回の調査報告書では、財務部門のリーダーに以下4点の省察を提言しています。

1. コーポレートレポーティングに利用される非財務データ・情報関連を中心に、組織内のどこでAIテクノロジーが活用されているか知っているか?

2. 信頼・倫理⾯の問題を含めたAI関連プロジェクトのチームを率いて管理するスキルを持つ⼈材を採⽤し、そのような人材をつなぎとめるための⼈材戦略はあるか?

3. AIの導入が財務部門のインテグリティとその財務・非財務情報の開示にどのような影響を与えているかについての評価を行ってきたか?

4. 財務チームは倫理問題を適切に管理する態勢を整えるとともに、アルゴリズムバイアスにどのように対処すべきかを把握しているか?

企業文化の報告:今後の展望

調査報告書では、コーポレートレポーティングで企業文化が担う重要な役割を全うさせるために取るべきアクションとして、以下の3つを提言しています。

1. 企業文化の報告に向け、包括的なアプローチを検討する

特に重要なステップが4つあります。まず、文化に関連する一連のリスクに着目するとともに、従業員が抱く信念の相関図を作成して全体を把握します。次に、現在の文化と望ましい文化の特性を根付かせるために従業員が守っている行動、価値観、信念を明らかにし、文化的規範や文化の微妙な違いを評価します。3番目に、その行動、価値観、信念が組織の業績にどのような影響を与えているかを評価します。最後に、その結果と洞察から、リーダーが取ったアクションに関する情報を正確に伝えることができ、報告の根拠となる指標とダッシュボードを選別します。

2. 人材構成を変えて、財務部門の文化変革を促し、抵抗に打ち勝つ

財務部門の文化は、長い年月をかけて深く根付く傾向にあります。変革への抵抗に打ち勝ち、持続的な文化変革を推し進めるには、財務部門のリーダーが新たなアイデアと勢いをチームに注入する必要があります。財務と報告業務の人材構成を変えることで、文化変革を大きく推進させることができるかもしれません。

3. AIに倫理的なアルゴリズムを組み込み、信頼性を確保する

ガバナンス・倫理基準を設けて、AIに対する信頼を育まなければ、AIテクノロジーが持つ可能性を財務と報告業務で最大限に活用できなくなる恐れがあります。AIシステムの導入にあたっては、あらゆる面での信頼性の確保に事前に取り組まなければなりません。このような信頼性の確保は、システムの戦略的目的、データの収集・管理の完全性、モデル研修のガバナンス、システムとアルゴリズムのパフォーマンスの監視に⽤いる技術の厳格性といった面にまで及びます。

EY Global and EY EMEIA Financial Accounting Advisory LeaderのPeter Wollmertは、次のように結論づけています。「コーポレートレポーティングにおいて文化が果たす役割を認めることにより、財務部門のリーダーは投資家などのステークホルダーが求める透明性を提供することができます。同時に、本当に信用ができて責任ある開かれたコーポレートレポーティングを基盤とした、新時代の信頼を築くことができるのです」

サマリー

第6回EYグローバルコーポレートレポーティング調査では、非財務指標の報告を求める投資家の声の高まりに着目しました。中でも企業文化は最重視されている項目ですが、現状ではこの報告に対する需要はまだ十分ではありません。

こうした状況を変えるには、財務チーム自体の文化を変革する必要があるかもしれません。先進データ解析テクノロジーは有用かもしれませんが、それには、得られるデータの信頼性の確保が必要です。

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