6 分 2024年3月11日
宇宙・衛星データを活用した新しい資産管理とは?

宇宙・衛星データを活用した新しい資産管理とは?

執筆者 Anthony Jones

Space Tech Leader & Oceania Assurance Innovation Leader

Anthony is leading the development of EY’s strategy and business capabilities across the domain of Space and Space technology managing internal capability development, go to market initiatives.

EY Japanの窓口

EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 パートナー

未来を見据え仲間と共に日々挑戦する。

6 分 2024年3月11日

スペーステックチームは、遠隔地を含む電力・エネルギー設備の監視を支援するソリューションを構築しており、エネルギー供給の安全性および信頼性を向上させるサービスを提供しています。

Local Perspective IconEY Japanの視点

衛星コンステレーションの進展により、衛星データがカバーするエリアの拡大と、更新頻度や解像度の向上が見られます。それに伴い、民間事業における衛星データの活用の 機会が増大してまいりました。広域に展開する設備や立ち入りが困難な現場であっても、衛星データを活用すれば、本社からの概況把握が容易になります。また、AI技術等を用いた画像解析や時系列の差異分析等を組み合わせることで、周辺環境を含む状況の変化や予兆を把握することができ、リスクマネジメントや経営判断に有用な情報を効率的かつ効果的に入手できる可能性があります。EYでは、スペーステックの活用をはじめとした衛星データ利活用に向けた支援サービスを提供しており、また会計監査およびサステナビリティ領域の保証業務への衛星データ活用に向けて取り組んでいます。衛星データの効果的な活用により、クライアントのビジネスの効率化と高度化を推進し、またガバナンス強化に寄与してまいります。

EY Japanの窓口

成行 浩史
EY新日本有限責任監査法人 アシュアランスイノベーション本部 パートナー

私たちのエネルギー・エコシステムは多種多様であり、広範囲にわたって展開する多数の設備によって構成されています。電力供給設備の管理業務は複雑で労働集約的であるばかりでなく、コストと危険を伴うことがあります。このような重要なインフラ設備の管理方法が、スペーステックの登場により大きく変わろうとしています。

オーストラリアの電力は、大陸全域に広がるさまざまな電力源から供給されています。石炭火力発電所、ガスタービン発電所、風力・太陽光発電設備、水力発電所などです。そして、エネルギーは全長数千キロメートルに及ぶガス輸送パイプラインや高圧送電網によって運ばれ、最終的に各地域へと届けられます。

このインフラは広範囲にわたり、管理上の多くのリスクを伴い、設備状況や生息地の継続的なモニタリング、および規制遵守が必要です。スペーステックの適用により、こうしたエネルギー配電網の分野における業界変革が期待されています。

宇宙・衛星データを活用した保守点検

高圧送電網について考えてみましょう。電力会社はこの送電網のために広大な土地を管理しています。送電網には森林地帯を横切っているものもあれば公有地に敷設されているものもあります。そして大部分は遠隔地にあり、人が近づくには困難を伴います。

森林火災を防止するためには、植生管理が非常に重要です。されに、断線している送電線や送電鉄塔に傾きなど、設備状況のモニタリングも必要です。この高圧送電網という重要なインフラの維持と安定した電力供給の確保にかかるコストは、電力会社の全コストの中で大きな部分を占めています。

天然ガスの輸送網のモニタリングと保守も、同様の課題を抱えています。オーストラリアには全長約4万キロにわたるガス輸送パイプラインが存在し、使用されるガスは全てこの遠隔地からのパイプラインを経由して運ばれています。このネットワークを手作業で検査する場合、通常人間による実地調査とドローンで撮影した映像の確認を組み合わせて行われます。しかし、この方法は立ち入りにくい場所へ向かう危険性と、実地調査による検査品質の一貫性を確保することが難しいという問題を抱えています。さらに、全輸送網を点検には数年を要することもあります。

こうした課題を解決するのが、スペーステックです。高コストで多くの人手を必要とする輸送網の点検作業を、衛星を使って撮影した15cmから30cmの地上解像度の画像分析で代替します。衛星から送られる観測画像から一貫性、再現性のあるデータが得られます。その結果、送電塔や送電線の構造上の問題の確認から、制御システムで異常が検知された際の状況確認まで、多くの事象の継続的なモニタリングが可能となります。また、ガス輸送パイプラインの安全性を脅かす腐食について、問題になる前に警告を出すことができます。

スペーステックでは常時モニタリングを行うため、遠隔地にある資産の状況把握および対応のために、次の定期的な実地点検まで待つ必要はありません。画像データを解析し、リアルタイムで警告を発信します。


テクノロジー+想像力=トランスフォーメーション

EYでは、スペーステックのパワーを活用した製品やセクター別のソリューションを開発しています。この取り組みの20%はテクノロジー、80%は想像力と言っていいでしょう。機械学習(ML)、人工知能(AI)、コンピュータビジョンは、私たちのミッションに不可欠な要素ですが、さらに重要なのはスペーステックの可能性を探求することです。宇宙から何が見えれば地球上の生活を改善できるのか、あるいは人間の活動をより安全で効率的にするために、どのようにこの技術を活用できるか?私たちは、私たちのチームとクライアントに対し、大きな夢を持つことを求めています。

歴史的にみると、衛星データの利用はこれまで防衛や政府によって行われ、石油やガスの探査、地質調査にも使用されてきました。地球観測の重要な部分は、LiDAR装置を搭載する航空機を格子状に飛行させることによって行われてきました。 すでに、航空機と同じように地表を観測することができるよう、衛星にもLiDAR装置が搭載され始めています。衛星による地球観測は、一貫性が高く、より低いコストで大きな付加価値をもたらすと期待されています。

また政府や産業界はスペーステックを、重要インフラに対するサイバーセキュリティから物理的なセキュリティまでの包括的なリスク管理における重要なテクノロジーと認識しています。この技術がガス輸送パイプラインや高圧送配電網の点検、保守の領域で極めて重要な役割を担うことになるのは明らかです。

力強い軌道

スペーステックは、エネルギー業界の資産管理領域に新しいパラダイムを切り開きつつあります。エネルギー企業は現在も設備管理を適切に行っていますが、スペーステックは各企業の設備管理の効率性、正確性、生産性をさらに高め、大幅なコスト削減を可能にします。

EYでは、チームの拡充を図りつつ、AI、ML、地理空間の画像を組み合わせて、10年前には解決不可能と思われていた問題を解決するためスペーステック製品の開発ロードマップを策定しています。

サマリー

スペーステックのソリューションを活用することによって、送電塔、配電網、ガス輸送パイプラインなどの重要なエネルギーインフラのモニタリングをより効率的かつ正確に実施できるようになります。ツールを使うことで、遠隔地の資産であっても常時監視し、継続的に衛星画像データを一貫して分析できます。それにより、従来の人の手によるモニタリングを補完または強化することが可能となります。

この記事について

執筆者 Anthony Jones

Space Tech Leader & Oceania Assurance Innovation Leader

Anthony is leading the development of EY’s strategy and business capabilities across the domain of Space and Space technology managing internal capability development, go to market initiatives.

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