Social insurance and labor update vol. 1 ― 過半数代表選出に潜む大きなリスク

人事労務で過半数代表はさまざまな役割を果たします。例えば下記のような役割です。

  • 就業規則作成・変更につき意見を言う
  • 労使協定の締結相手になる

この過半数代表の選び方は法令で決まっています。法令違反の選び方をしたとき、選ばれた方は法的には過半数代表とはいえません。そのような問題ある過半数代表を正式なものとして扱ってしまうと、大きなリスクにつながります。

例えば、会社は、従業員に時間外労働をしてもらうためには時間外労働に関する労使協定を締結し、これを労働基準監督署長に届け出る必要があります(いわゆる三六協定)。過半数代表ではない方と締結した三六協定は、無効です。その意味することは、会社で行っている時間外労働がすべて違法となるということです。違法な残業には、会社と会社担当者個人への罰則があり得ます(現実には直ちに刑事手続が始まるということはなく、労働基準監督官から是正勧告や指導を受けることになります)。

また、残業命令に従わない従業員を懲戒解雇したとしても、そのような解雇は無効になってしまいます。なぜなら、三六協定が無効である以上、会社はそもそも有効な残業命令を出すことができないからです。残業命令が有効でない以上、それに従わないことを問題視することはできません。

もう一例挙げましょう。専門業務型裁量労働制度という制度があります。これは、一定の専門的業務について、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ決めた時間労働したものとみなすという制度です。この制度を導入するためには、労使協定の締結が必要になります。この協定を結んだつもりが、過半数代表の選出手続に問題があって無効だったとしましょう。そうすると、労働時間をみなすという効果もなかったということになります。その意味することは、実際に働いた時間に従った残業代を計算し支給し直す必要が出てくるということです。対象者が多くて実際の労働時間が長い場合、会社の責任は大きな金額になり得ます。

このように、過半数代表は、労務上重要な制度の有効性を支えている存在なのです。その選出手続に問題があるときには、制度が土台から崩れてしまいます。

以下、問題がありそうな場合を列挙しますので、いずれかに心当たりがあるときは、対応をご検討ください。

  • 会社が過半数代表を指名して決めている。
  • 数年前に最初に決めた過半数代表の方をそのまま何もせず代表としている。
  • 管理監督者が過半数代表となっている。

どのように過半数代表を選べば良いかは、厚生労働省がパンフレットを出していますので、簡単に調べることが可能です(注1)。細かいように思えるかもしれませんが、上記のとおり大きなリスクにつながりますので、確実な実施が望まれます。

(注1)厚生労働省「『36協定』を締結する際は、労働者の過半数で組織する労働組合 その労働組合がない場合は労働者の過半数を代表するものとの、書面による協定をしてください。」、https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187490.pdf(2022年9月14日アクセス)

 

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