今日実現させた価値を通じて明日を築くには?

EY Value Realized 2023は、私たちのステークホルダー、つまり、EYのメンバー、クライアント、そして社会にEYがもたらしている長期的価値についてまとめた年次報告書です。

EYのグローバル会長兼CEOに就任して以来、私はパーパス(存在意義)と長期的価値を組織戦略の中心に据えることの影響力を目の当たりにしてきました。 

過去4年間で、私たちは多くの難題に直⾯してきました。世界的なパンデミック、ウクライナ情勢、異常気象、地政学的な不確実性、急激な技術革新。これ以外にもさまざまな圧力にさらされる中、「Building a better working world ~より良い社会の構築を目指して」というパーパスに根ざした、全てのステークホルダーのために長期的価値を創造するという「EY NextWave戦略」は、絶えず変化する世界において1つの錨(アンカー)となってきました。

2019年に、EYはNextWave戦略で長期的価値アプローチを正式に打ち出しました。その結果、年平均成長率9.5%(2019~23年度)を達成し、2023年度の業務収入(以下、売上)は、現地通貨ベースで前期比14.2%増の約500億米ドルに達しました。長期的価値の創造は今やEYのDNAの一部となっており、本レポート「Value Realized 2023」でも示されているように、EYに進歩をもたらしていることを私は誇りに思います。

本年も、世界経済フォーラム国際ビジネス会議(WEF-IBC)のステークホルダー資本主義指標を使用して、引き続きその進捗状況を報告します。また、EYは国連グローバル・コンパクトにも参加しており、人権、労働、環境、腐敗防止の分野における10原則への支持を再確認しています。

クライアント、EYのメンバー、そして社会のために長期的価値を創造するという目指すべき姿(Ambition)の実現に向け、私たちは昨年、EYの組織体制を大きく2つに分割する「Everest」プロジェクトという大胆なプランを打ち出しました。クライアントや業界、その他のステークホルダーの変化するニーズに対応できる体制整備がその目的でした。プロジェクトは中止となりましたが、イノベーションを促進し、いくつもの強みを特定する契機となり、クライアントや規制当局との重要な対話を生むきっかけにもなりました。

また、同プロジェクトを通して、組織をより良い方向に転換し、ゲームチェンジャーとなるテクノロジーを取り入れる方法も明確になりました。その一例として、EYでは最近、人工知能(AI)のイノベーションと開発に関する取り組みをすべて、1つのプラットフォーム「EY.ai」に統合しました。この統合プラットフォームによって、クライアントはAIのメリットに効率よくアクセスできるようになります。また、EYではAIの新しい能力を社会の利益に幅広く役立て、未来がよりインクルーシブで公正なものになるよう貢献することを目指しており、AIに対する透明性や信用、信頼を高める意図もあります。

新しいテクノロジーの新たな道筋を描き、信頼を構築する

私たちは10年以上にわたり、数多くのEYのグローバル・テクノロジー・ソリューションにAIを組み込んできましたが、2021年には100億米ドル規模の3カ年投資計画を打ち出し、その動きを一気に加速させました。この投資計画によって新たなAIの能力と商品・サービス展開に弾みがつき、クライアント対応が向上しています。監査品質の継続的向上というEYのコミットメントにおいても、AIは重要な役割を果たしています。監査プラットフォームであるEY CanvasにAIを組み込んでリスク評価を支援するとともに、AIを幅広く活用して監査戦略の有効性を吟味し、監査への信頼性や信用の向上に役立てています。

また、EYのエコシステムの構築にも積極的に取り組み、現在では100を超えるエコシステムが形成されています。こうしたエコシステムを通じて、EYは変化の最先端に立ち続け、イノベーションの推進と迅速な実行、進化し続けるサービスの提供に努めています。

AIへの信頼性は、AI導入における現在の障壁の1つです。このため、EYでは2022年にEY AI原則を定めました。原則の中には、説明責任、セキュリティとプライバシー、透明性と「説明可能性」、公平性と包摂性、職業上の責任などが盛り込まれています。これらの原則が、EYのメンバー、クライアント、政府やその他の外部ステークホルダーと協働する際の指針となります。現在、原則をEY.ai エコシステムに統合する作業を進めており、政府、国際標準化団体、業界団体、市民社会組織とも積極的に連携しています。 

EYでは、責任あるAI活用・信頼できるAI活用のベストプラクティス構築を主導していく考えです。この規模の変化に対して、安全かつスピーディーに、しかも協力を得ることなく単独で対応できる組織はありません。EYは、利益の実現とリスク対応を重視し、積極的に取り組むいちステークホルダーとして、全社を挙げて、来る技術革命へと進んでまいります。

EYの人材の重要性を理解する  

技術が大きく変化する時代においては、EYの成功にとって最も重要な要因に意識を向けることが、今まで以上に重要です。それはEYの人材です。EYのメンバーのために長期的価値を創造することは、EY NextWave戦略の中心的柱であり、市場の優秀な人材を支援し獲得していく上で、引き続き力を注いでいる分野です。EYは、フォーチュン誌による「働きがいのある会社」に25年連続でランクインしています。

EYのグローバル組織は成長を続け、私のCEO就任以降11万6,000人以上の雇用を創出し、現在では40万人近くの従業員を抱えるまでになりました。 多様な考え方や経歴を持つ者が組織全体に存在することがEYの誇りとするところであり、今年は、障害者インクルージョンなどの新しいDE&I指標を採用するとともに、社会的公正性の重要性を高めることに重点を置くグローバル・ストーリーテリング・キャンペーン(英語版)も展開しています。

EYのメンバーのために長期的価値を創造する方法の1つが、生涯学習への取り組みです。このため、2023年度は学習と能力開発の機会に 3 億8,500 万米ドル以上を投資しました。EY Badgeと呼ばれるデジタル認定の新規取得数は、2017年の認定プログラム開始以来、41万個以上に上ります。また、ハルト・インターナショナル・ビジネススクールとの提携による認定プログラムを通じて、累計274名のメンバーが修士号を取得しました(EYが資金援助)。

加えて2024年度には、EYの全メンバーを対象に、生成AIの責任ある使用に関する研修を順次実施するほか、生産性と従業員体験の向上を通してEYのプロフェッショナル業務の強化を目指す、コパイロット・モデルの試験運用も行います。  

また、EYのメンバーが生活する場所、働く場所の地域社会にも投資しています。広く社会に向けて長期的価値を創造することも、EY NextWave戦略の中核をなすからです。EYのメンバーからのフィードバックも取り入れながら、科学的根拠に基づき、2025年度までにグローバル全体で二酸化炭素の絶対排出量を2019年度の基準値に対して40%削減するというグローバル目標を設定しました。排出を上回る量を相殺し、ネットゼロ(実質ゼロ)実現に向けて移行を加速させており、目標達成への道のりは順調です。

EYの企業としての責任(CR)プログラムであるEY Ripplesは、2030年までに10億人の生活にポジティブな影響をもたらすことを目標とする、EYを象徴するといえるコミュニティ投資です。EYのメンバーが費やした時間は数百万時間にも及び、2018年のEY Ripplesの立ち上げ以来、1億2,700万人以上の人々の生活に影響を与え、目標達成に向け順調に進んでいます。

NextWave(次の波)に乗る

EYでの私の任期も残すところ1年となりましたが、これまでのEYという組織の成長ぶりには驚嘆するばかりです。そして、世界の変わりようについても同様です。20年前、EYの従業員数は8万5,000人、売上は90億米ドルでした。現在では、従業員数はおよそ5倍の40万人弱となり、売上は500億米ドルに迫っています。それに伴い、クライアントや地域社会に与える影響が増すだけでなく、社会の豊かな未来に貢献する責任も増しています。

過去10年間、デジタル経済は世界経済の2倍以上の速度で成長しました。2019年にリリースされたChatGPT 2.0の語彙数は15億語でしたが、最新版では、1万4,000倍の計算能力を使用し、語彙は1,750億語を超えます。グローバリゼーションの変化、消費者や社会からの需要の変化、気候変動がもたらすさまざまな影響など、どれもが今まで以上の投資やレジリエンス、民間とパブリックセクターの双方との連携を必要とします。こうしたダイナミックな変革に満ちた時代において、組織が持続的に成長し、成功し続けるためには、最高のテクノロジーと最高の人材が不可欠であり、さらには信頼の醸成を特に重視する取り組みが必要です。

だからこそ、私はEYの将来が非常に楽しみですし、楽観的でもあります。機会とリスクが表裏一体で急速に広がる世界の中で、EYは、成長のための強固な基盤の構築に取り組んできました。それはすべてのステークホルダーのためです。EYは日々、最も信頼されるプロフェッショナル・サービス・ファームになるという目標と、EYのメンバー、クライアント、社会のために、より良い社会を構築するというパーパスの実現に努めています。そして毎年、「より良い」組織へと成長し、掲げる目標に責任を持ち、できることはまだまだあるのだという意識を持つこと。それこそが実現させた価値(value realized)です。

Carmineの署名
メキシコのセノーテに一人で立つ女性

すべてのステークホルダーに長期的価値をもたらすために

EYでは、成功を測る指標は財務業績だけではありません。EYのメンバー、クライアント、社会のために創出する価値も指標です。

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